Episode 025
守りたい気持ち…そして決意(中編)

music:[pain]


前回までの『L.D.C.』

 由依がミストスと共に天界へ旅立った。由依は立ち去る前に、一枚の絵を残していた。画用紙にクレヨンで朱里達が手を繋いで輪になっているイラストだった。そして、その輪の中に、『ありがとう』と添え書きしてあったのだった。
 
 すぐに由依を探すも見つからず、朱里達は困惑する。そして彼らの出した答えは、天界へ由依を探しに行こう、というものだった。
 
 しかし、光だけは自分に力が無いために、アル抹消の事件の様に足手まといになって龍助達に負担をかけたくないと考え、断腸の思いで断念したのだった...。

 遥のマンションを出て、光は近くの公園にあるブランコに一人座って揺れていた。
「また、俺だけが役立たずかよ!!畜生―!!」
 悔しさのあまり夜空に向かって光が叫ぶ。朱里や遥の様に魔法を使える訳でも無く、龍助の様にre-writeできる訳でもない光は自分の無力さに打ちのめされていた。守りたい者を守りたい気持ちがあっても、唯でさえキメラの攻撃による利き腕の負傷で得意だったテニスですら出来なくなってしまった自分では、万が一、天界での戦闘になった時に足手まといになるのが分かっていた。それ以上に、自分の我儘で花火大会の日にアルと遥に付いて行ったために、アルがセルの罠にかかって犠牲になってしまった事を思い出すと、自分が付いていく事で今度は龍助達をも失ってしまうのではないかと不安になった。
「どうして、俺には力が無いんだよ…。兄貴…。兄貴が生きていたらどうしてた…?」
 星に向かって問いかけるが、答えは返ってこなかった。ただ、ブランコが揺れる度にギーギーとチェーンがきしむ音がまるで光の心がきしむ様な音に感じられたのだった。
 
 

イラスト:hata_hataさん

「光、やっぱりここにいたのか?」
 ふと気が付くと、龍助が光の後ろに立っていた。そして、光の横のブランコに座る。
「昔、ここの公園のブランコで良く遊んだよね?誰が一番高く漕げるかって。いつも光が一番だった。で、毎日、僕が練習して光の高さぐらいまで漕げるようになった時に、うれしさのあまり思わず手を放してしまって落っこちてしまったっけ。たんこぶが出来てとっても痛かったんだ。」
 頭の後頭部の辺りを右手でさすりながら龍助が苦笑いをする。
「あの時は、ずっと泣いてたもんな。でも、お前は、幼い頃からおっとりしている様で、結構コツコツと努力してたんだよな。」
「すごく地味だけど。光と違って、運動神経があまり良くないからね。何をやるにも一番にはなれないから、光がうらやましかった。」
 龍助がにっこり笑いながら、少しブランコを漕ぐ。軽く風を切りながら、ブランコに乗っている龍助を感じながら光が話す。
「うらやましかった…か。俺は、お前達がうらやましいよ。」
 
「何で?」
「だって、お前達には力があるだろう?でも、俺には何もない。それどころか、利き腕すらリハビリ中だ。何もお前達の力にもなれない…。これから天界へ向かうお前達と比べて、悔しいくらい俺は役立たずで駄目な奴だ。」
 光がうつむいてブランコを漕ぐ。それを見て、龍助が自分のブランコを止めて光に尋ねた。
「どうして駄目な奴って、決め付けるんだい?」
「だって、そうだろう?朱里や遥は魔族で魔法が使える。龍助はre-write出来るじゃないか?俺には何も無いんだぜ。守りたい者は一杯あるのに、守れない自分がここにいる。お前達の様に力のある者には当たり前かもしれないけど、力を持た無い俺みたいな無力な奴には諦めるしかないんだ!」
 龍助が光の話を聞きながら、諭す様に前を向いて話す。
「何でもかんでも無いから諦めるか、投げ出すか。それじゃぁ、何も成し得ないよ。」
「分かっているさ!…だが、能力的に出来ない時だってある。潔く諦めて無駄に時間を使わないのも一つさ。ストレスだって少なくて済むし。」
 光がブランコを強く一漕ぎして苦笑いすると、龍助が寂しそうにした。
「それで、光が後悔しないんだったら良いんだけど…。」
「どっちにしても後悔はするさ。だって、数学の様に答えが一つの事ばかりじゃないし、リセットしてやり直して人生を比べる事も出来ないからな…。」
 龍助の方を向いているのが辛くて、光は目をそらす様に前を向いて呟いた。
「そう言われると…。確かに。後悔しない選択をするって事は難しいものだね。」
「まぁ、人生は後悔が少なさそうな方を選ぶべきなのかな?それとも、直感を信じるべきか?駄目だと思ったら、投げ出さざるを得ない場合もあるのかもな。」
 光は自分に言い聞かせる様に言ってため息をつく。すると、龍助が少し考えた後で光の方に視線を移して言った。
 
「でも、僕は…。僕は、諦めたくないんだ。だって、麻宮さんが魔界へ連れ去られた時に、僕を殴って何もしないで諦めるなって、目を覚まさせてくれたのは光だよ。そして、一緒に修行してくれて、僕を魔界へ送り出してくれた。信じて待ってくれていた。おかげで僕は麻宮さんや遥ちゃんや光達との今があるんだ。それを身をもって体験したから。」
 光が龍助の言葉に、はっ、としてブランコを止める。そして、龍助の方を見た。
「龍助…。」
「確かに、麻宮さんや遥ちゃん達は魔法が使えて、僕はリラのおかげでre-write出来るかもしれない。でも、光にだって君だから出来る事があるんだよ。それは、僕や麻宮さんには出来ない事かもしれない。それが、光のやりたい事だと後悔が少なくて良いのにね。」
「俺にしか出来ない事か…。そして、俺がやりたい事か…。」
 二人はゆっくりとブランコをまた漕ぎ始める。光は、龍助の言葉の意味を噛みしめながら、自分に出来る事を探せると良いなぁ、と感じていた。そして、改めて、遥や龍助達を守る事、支える事が自分のやりたい事だと感じたのだった。しかし、まだそれをどうすれば良いのかすら分からず黙ってブランコを漕ぐしか出来なかった。

イラスト:hata_hataさん

 幼い頃の様に二人でブランコに揺られ、少し懐かしい気分を味わいながら、天界へ向かうために準備時間の無い龍助がわざわざ自分のために公園まで様子を見に来てくれた事に光は黙って感謝したのだった。その姿をリコが遠くから見つめていたのだった。
「ありがとうございます。龍助様…。素敵なお友達がいて良かったですの。」
 そして、リコは遥のマンションへ向かって飛んで行った。龍助と光は、しばらくブランコに揺られた後で、それぞれの家に帰宅したのだった。
 
 
 その頃、魔界ではディアブロ王へシーズ博士が報告を行っていた。
「セルの人間界捜索はJ.の班によって続行されておりますが、依然手がかりが掴めぬままです。尚、詳細は資料を参照して下さい。」
「うむ。人間界では魔界と違ってよの力も届きにくい。そもそも魔界の事は魔界の中で治めるべきで、他の異世界へ被害を出して世界のバランスを壊してしまうのを避けたかったが…。」

イラスト:hata_hataさん

 ディアブロ王が資料をチェックしながら言う。
「セルの一味に加担している連中に関しては、まだ調査中とあるが…。」
「はっ。誠に申し上げ難いのですが、上級魔族の中にも紛れ込んでいる様で、情報漏えいを少しでも避けるために用心しながら現在調査中です。」
 デバイスの資料の画面を閉じて、ディアブロが書類にサインする。
「頼むぞ。シーズ。二つ目の『L.D.C.』までが眠りから覚めた今、言い伝えの通り事は動き始めているのかもしれん。あくまで古文書に書かれている一説の一つの解釈ではあるが、天界とも無用な争いは避けたい。我々は魔界の民の幸せを一番に考えて動かねばならん。」
「はい、おっしゃる通りです。全力で現在対策にあたっております。もうしばらくお待ちください。」
 サインされたデバイスをシーズ博士が受け取って頭を下げる。シーズ博士が部屋を出る時に、ディアブロ王が小さくつぶやいた。
「いつもすまん。よの力が足らんために…。頼む。」
 
 
 龍助達が天界へ旅立つ前日の午後4時頃、光が家に帰ってきて部屋に戻ってくる。自分の左腕を枕に部屋の床に寝転がり、天井を見つめる。
「龍助達は明日旅立つのか…。俺は、見送りにだけは行くかな…。」
 右腕を天井の方に向かって伸ばしながら、何か空を掴むようなしぐさをする。しかし、何も掴めず、額の上に下ろしてため息をついた。彼らを信じて待っているのも仲間なのかもしれない。しかし、それが光にとってやりたい事なのか、と自問自答するが、自分がやりたい事と出来る事とは違い、自分の力で出来る制約の中で消去法的に考えるとただ待つしかないんだと無力感を感じた。
 
 しばらく光はゴロゴロしていたが、窓から風が吹いてきた時に何かカサカサと音がするのに気づく。起き上がってみて、音のする机の端の方を見ると何か紙が貼り付けてあった。
「光。仲間を犠牲にしたくなければ黙って夜の浜辺の岬へ一人で来い。誰にも話すな。」と書かれていた。何者からのメッセージなのか光は悩んだが、今の遥達に話して心配を増やしたくないと考え、一人で浜辺に向かった。
 
 
 浜辺を抜けて、人影のない真っ暗な岬の方へ着くと、光は辺りを見渡す。遥から預かって着けていたピアスがうっすらと輝き、魔力を持っている魔族が近くにいる事に気付く。光は緊張してゴクリと唾を飲み込んだ。
「ひ、一人で来たぞ。誰だか知らないが、姿を現せ!何処かにいるんだろう!」
 すると、風が吹き雲間から月明かりが射してきて、辺りが少し見えるようになる。
「よく来たな。」
 そこにはセルの罠にはまって洞穴に生き埋めになり帰らぬ人となったはずのアルらしき男が立っていた。光は自分の目を疑い、その男に向かって叫んだ。
「お、お前は、アルの幽霊か?それとも、俺を惑わすためにセルとかいう魔族の一味が変装しているのか!」
「いや、外れだ。正真正銘、俺はアル・レインだ。」
 そう言うと、アルが花火大会の日に洞穴で光達と別れ離れになった後の事を話し出したのだった。
 
 
 光と遥をチェーンを使って出口の方へ投げた直後に、アルの立っていた地面が崩れ、そして天井が降ってきた。洞窟の崩壊を防ぐために既に魔力を使い切っていたアルはもうろうとしながら、落ちてくる岩であちこち打撃を受け、痛みに苦しみながら岩と共に落ちて行った。
 その瞬間、洞窟内に何者かが特殊なゲートの魔法陣を開いた。そして落下する大きな岩を次々と飛び移りながら落ちていくアルの元まで行くと、アルを抱えてまだ崩れていない出口と反対側の端へとすばやく非難する。アルは落ちてくる岩等で大怪我を負って視界が薄れていく。薄れゆく意識の中で目の前にいるその恩人の顔を見つめる。
「少しは女の子らしくなったな…ジャ…ン…ヌ……。」
 
 アルを助けたのは魔界の『レジェンド』であるJ.だった。
 J.はミストスに敗れた後で一度魔界へ報告に戻り、情報を集めた後ですぐに人間界へ戻って来ていた。
 そして、再び人間界に潜伏している涼と会い、アルをフォローする様に頼まれたのだった。涼は謎の天使,ミストスの人間界での動きが、何か嫌な予感がすると感じていた様だった。また、魔界の反逆者であるセルが人間界へ逃げ出したのでそれを追って何度かセルの魔獣と戦うも、あと一歩の所で逃げられてしまっていたという事だった。現代の魔界の魔法道具や魔法技術だけでなく、古の時代の道具を使った戦略には涼も手こずっていた。
 それに、シーズ博士が放っている隠密の情報筋によると、アルを抹消しようとする勢力が存在するという噂を入手していた。シーズ博士は、念のために防衛手段として新型の道具をいくつか届けさせようとJ.に持たせていたのだった。
 J.は涼から聞いたアルの持っているデバイスの位置を頼りに、トレジャー・ハンターで研究者でもあるアルに直接会ってセルの使う道具の話を聞こうと思っていたのだった。偶然、シーズ博士が最近開発した新型のゲートを開く道具を持って来たのだが、それを使って洞窟へ潜入したのだった。
「アル、しっかりしろ。お前が、こんなにボロボロになるとは。まずは、すぐに脱出しなくては…。」
 洞窟への出口は崩れて埋もれてしまったが、数匹の魔獣がJ.達を発見して襲いかかろうとする。しかし、J.が大釜の武器で真っ二つに切り裂く。切り裂かれた魔獣はそれぞれが分裂して、半分の大きさになった。数は増えたものの魔力が半分に減ってしまった分、脅威は薄れる。J.を追い詰めるように一匹の魔獣が吠えると、後の魔獣も吠える。
 大鎌を構え直してJ.が魔獣の出方を見ていると、辺りが光り輝いて微かに魔法陣の姿が浮かび上がった。
「いかん、ここを遠隔操作で爆破するつもりか。悪いが、お前達だけで楽しめ。私は付き合えない。」
 瞬時に道具を使って新型のゲートを開き、アルを肩に抱えたまま危機一髪で飛び込んだ。
 その直後、空地に大きな魔法陣が浮かび上がり空地が陥没したのだった。
 
 その後、J.の判断でアルは極秘裏に第一研究所へ運ばれてシーズ博士によって一命を取り留めたのだった。しかし、傷が思ったよりも酷く、アルは右腕と左目を失ってしまった。左目に眼帯を着け、失った右腕には義手を取り付けて復活する事が出来た。
 アルを抹殺すべく動いている勢力の実態について分からない状況なので、彼が生きていることを伏せておく事になった。魔界でこの事実を知っているのは、ディアブロ王,シーズ博士,J.だけである。
 遥に自分の生存を知らせて安心させたかったが、魔界の住民である遥がアルの生存を知ってしまうと彼女の仕草等で情報がばれる可能性があり、アルの居所を知るために遥自身にも危険が迫る事をアルは避けたかった。ぐっと我慢して、龍助よりもマークされていない可能性が高い人間の光に自分の分も遥を支えてやって欲しいと伝えたいと思ったのだった。そして、アル自身は裏で彼らを見守りつつ、魔界に反逆を起こそうとしている勢力の解明に努めようと心に決めたということだった。
 
 
 アルが説明を終えると、光が悔しそうにアルの右腕と左目の眼帯を見つめて言った。
「俺にもっと力があれば…。アルに辛い思いをさせなくて済んだかもしれないのに…。」
「気にするな。確かに、左目と右腕を失った事は俺にとっても結構ショッキングだった。はぁ~。でもな?まだ、俺はこうして生きてるんだ。シーズ博士が作ってくれた義手を使えば両手だって使えるし。」
 義手の手を掴んでアルが笑顔で話す。

イラスト:hata_hataさん

「正直、洞窟で罠にはまったと気付いた時、俺の計算ではお前と遥の二人だけでも助けられればラッキーと思っていたんだ。俺は、遥に遥達を守るって約束したからな。大人の約束だし。」
 少し空を見上げながらアルが言うと、光が呆れた感じで突っ込む。
「大人って…?一色や俺達と見かけは対して変わらないじゃないか!人間界だったら、数歳上ぐらいだろう?服装で若干歳を取って見えるけど。一人でかっこつけすぎなんだよ…。」
「まぁ、聞けよ、光。あの時、確かに俺は落ちていく瓦礫の中で終わるんだろうと思った。でも、お前が遥の側にいるんだったら、俺の代わりに心の支えになってくれるだろうからある意味安心して任せようと思ったんだ。」
 その言葉に、光が息をのむ。洞窟でアルが力を持たない光にこのような事を考えていたとは予想だにしていなかったからだ。
「アル…。」
「でも、俺は運命に生かされた。しかし、まだ今の俺は魔界の反逆者を追わなければならない事情があるから遥に会えない。それまで、遥や龍助達の支えになって欲しいんだ。」
 光の肩に左手を載せてアルが願う。
「でも、俺はただの人間で魔法も使えない上に、龍助の様にre-writeも出来ないし、その上、右腕も…。」
 すると、途中で遮る様にすぐにアルは光の話に続けた。
「右腕は負傷で、使えないんだろう?本当は。こないだのバトルで確信した。右手でミスった後でわざわざ左手を使っていたからな。見せてみろ。」
 念入りにアルが光の腕を診て、手帳を開いてメモを取る。
「これは、今の魔界の医学や魔法では治せない。最近増えた暴走して人間界へ迷い込む魔獣やキメラ達からの攻撃を受けて負傷すると、何か悪いエネルギーが傷口を悪化させてしまうというケースの報告があったから。それに近い症状だな。」
「そうか…。結局、普通の人間よりも更に役立たずかよ、俺は?」
 光がため息をつく。アルがそれを見て、少し鼻で笑う。
「なんだ?悲劇のヒーローごっこか?だったら、お前よりも俺の方が向いているぜ。でも、俺はまだ足があるから立ち上がるぜ。例え義足になっても這い上がって見せる。お前にもまだ足があるだろう?」
「アル…。」
 自分よりも屈強な立場のアルが自分よりも前向きな姿勢に、光が自分の不甲斐なさに打ちのめされる。
 
 
「…失った右腕は魔法で修復出来ないのかよ?あんた頭良いんだろう?」
 光がアルに尋ねると、アルは首を振って応える。
「出来たら便利なんだけどな…。ある程度の傷なら、水属性の魔法や道具で回復可能なんだけど、どうやら、俺のこの傷も特殊みたいで不可能だったんだ。」
「特殊?」
 アルの言葉に引っ掛かりを感じて光が思わず聞き返した。
「あぁ。セルの部下の魔獣やキメラには、魔法や道具や薬等の様々な方法を施して強化してあるみたいなんだが、どうやらそれが影響しているのか、奴らから傷を負った時に魔法回復が難しいみたいなんだ。細胞に直接危害が加わる様に細工されているのか、奴の研究が不完全でそうなってしまっているのか分かんないんだが…。」
 義手の部分をさすりながらアルが説明すると、光ががっかりしながら座り込む。
「そ、そうか…。実は、俺も学園に迷い込んできたキメラから右腕に傷を負ったんだけど、朱里の魔法では治癒できなかった。まぁ、俺の場合、日常生活は普通に右手を使えるんだけど、テニスは出来なくなってしまったんだ。リハビリしながら、左手を利き腕にしようかと訓練しているけど、なかなか利き腕の右手の様にはならないんだよな。」
「何?お前のその傷もキメラの攻撃だと?と、いう事は、人間界へ迷い込む魔獣やキメラなんかも、ひょっとしてセル達の企ての一環なのか…?まさかな…。」
 ぶつぶつとアルが考え事をしながら独り言を言う。
 
「おい、何ぶつぶつ独り言を言っているんだ?」
「あ、いや、お前の腕の傷をもう一回、見せてみろ。」
 アルが傷を見る。そして、道具で診察しながら、魔法をかけてみる。傷口がうっすら光り輝くがすぐに消える。
「なるほど。お前の傷も俺と同じ症状かもしれないな。だけど、希望を捨てるなよ。」
「え?」
 光がアルの自信ありげな言葉に思わず聞き返した。
「俺が研究をして治療方法を見つけるからさ。まぁ、いつになるかも分からないが、俺には魔法だけでなく、医学や医療的な面や、道具なんかの面からのアプローチも研究を試みることが出来るからさ。それから、トレジャー・ハンターとして、古代文明の文献なんかで何か参考になるかもしれないし。魔法だけだったら駄目でも、総合的な視野から治療法が見つかるかもしれない。天才の俺だけじゃなくて、シーズ博士も研究をしてくれてるから鬼に金棒だぜ。」
 義手でガッツポーズをするアルを見ながら、どんな逆境でもそれを受け入れながら笑って見せる姿に光が少しだけ勇気をもらう。
「期待しないで待ってる。気が付いたら、左手が利き手より器用になってしまっているかもしれないけど。それで治れば両利きだぜ。」
「だから、お前は、俺の失った右腕や左目の事は気にするな。」
 光の肩に腕を置いて優しくアルがほほ笑んだ。アルが自分が傷ついた事を光に背負わせまいと気遣ってくれている事が光にはよく分かった。
「あぁ。ありがとう…。本当は一色にもあんたが生きている事を教えて安心させてあげたいんだけど…。俺や龍助達もアルがいなくなってしまってショックを受けたけど、あいつは…あいつは、すごく悲しんでいたんだぜ。」
 それを聞いて、アルが少し口をこもらせるが、ゆっくりと話す。
「そうか…。それだけでもうれしいよ。俺なんかのために悲しんでくれる仲間がいる事だけで俺は生きる勇気をもらえるから…。」
「当り前だろう。龍助や朱里達も、俺もみんなもあんたの仲間だから。」
 浜風を受けながら二人は暗くなった水平線を見つめる。
 
「仲間か…。そうだな。なぁ、光。お前を見ていて思う事があるんだけど、お前と俺との違いは何だ?」
「それは…。」
 光が「人間と魔族かな?歳かな?」と考えているとアルが言う。
「人間と魔族ってことは確かにあるが、そういうのと違って、お前にしか出来ない事だってあるだろう?お前だから出来る事。」
「俺だから出来る事か…?それって?」
 龍助にも同じ様な事を言われて、答えが見つからないでいた光はアルに聞いてみようと思った。しかし、あっさりとアルは言葉を返す。
「それは、自分で考えろ。俺は俺に出来る事を考えながら今を生きている。お前もせっかく生きているんだから考えてみろ。お前の頭は帽子を被るためだけにあるんじゃないぞ。」
 光の頭を人差し指で軽くつんと突いてウィンクする。
「うるさいなぁ。あんた、良い事言うのに一言余分なんだよ。」
「あぁ、遥やリコに一言多いって怒られる事がたま~にアルもある。」
 アルの『たまに』は「少なく見積もりすぎだろう」と思い、さりげなくくだらないダジャレ崩れの『アルもある』に苦笑いをする。
「俺に出来る事を探してみるよ。」
 
「まぁ、頑張れ。お前なぁ?魔力を持っている奴やre-writeが使える奴が強いんじゃないんだぜ。戦いに生き残った奴が強いんだ。それに、俺は魔力では『レジェンド』レベルでは無いんだ。それでも昔『レジェンド』を任されたんだ。俺が考えるに、『冴えてる頭』と『勇気』と『守りたいもの』があれば、きっと乗り越えられる。お前には、それがある。」
 近くに落ちていた棒切れで地面に描きながらアルは続けて説明を始めた。

イラスト:hata_hataさん

「龍助は勇気があるが魔法は使えずre-writeは出来るが性格的に戦いに向いていない。朱里は優しく時に強さがありナイスバディーだし、魔法とre-writeと『L.D.C.』を扱えるがどれか一つに長けている訳でもない。それなりに使いこなせるバランスタイプだ。遥は魔法のセンスはあの歳にしちゃぁかなり良いが体術には向いておらず、頭は良いがプライドが高くて負けず嫌いだから突っ走ってしまうところがある。ツンデレでじゃじゃ馬タイプ。光は、確かに魔法を使えない上に利き腕の右腕も負傷してる。だが、人一倍思いやりがあって、全体を見渡す事が出来る心の視野を持っている。それに、実際にも目が良い。三人を支えてやれるのはお前じゃないかって、俺は思ってるんだ。戦いだけが全てじゃないし、むしろ心の支えという方が戦士として訓練を受けていない遥達には重要なんだよ。」
 
 アルが鞄から道具を出して光に渡す。小さくコンパクトな形態だが、手に持ってボタンを押すとカシャンカシャーンと変形してすぐにボウガンの様な弓の形に展開した。
「これは?」
「俺とシーズ博士で開発した道具だ。元々、長期戦で魔力を消耗してしまった魔族が魔力が乏しい状態でも大切なものを守るために戦える様、考案して研究中だった代物だ。と、いうことは、勿論、魔力の無い人間でも使いこなせるって訳。」
 その道具は、魔法効果の詰まった特殊なカートリッジを装着する事で、カートリッジ内の魔力を使って魔法の矢で中距離から遠距離の攻撃を行う事が出来るという物であった。まだ研究中でプロトタイプなので微調整まで出来ていないために射程の精度が甘く、カートリッジ内の魔力が切れるとカートリッジを交換しないと使い物にならないという弱点はあったが、視力が良く戦いに慣れていない光には後方からの援護射撃が向いていると判断してアルが用意してきたのだった。
「俺からのプレゼントだ。これでお前への貸しは3つ目だな。本来なら、光の学校の可愛い女の子や綺麗な女先生を紹介して欲しいところなんだが…、これで、俺の分も遥や龍助達を守ってやって欲しいんだ。頼む。」
 深々とアルが光に頭を下げる。
「頭を上げてくれよ。アルさん。俺の方が感謝しないといけない。俺に大切なものを守る力を授けてくれて。おかげで決意を固めることが出来る。ありがとう…。」
 アルの頭を胸に抱きしめて光が心からお礼を言ったのだった。そして、アルは、光に大切な仲間を託して、暗闇に消えていったのだった。
 光は海に向かって、アルから預かった武器を構えた。星に照らされたその姿は、悩みから何か吹っ切れた様子だった。
 
 
 危険を冒して光に接触した後でアルが身を隠していたアジトへ戻るために人通りの少ない一本道へ入った。その道には後ろを向いた女性が立っている。
「こりゃぁ、俺も一杯食わされたな。用心してたのに見つかっちまうとは。」
 アルの言葉に女性は振り返りかえった。
「ここへ何しに来たの?やっぱり、私に倒されに来たって事?」
「こんな可愛い女の子に押し倒されるなんて幸せかもな。お兄さん、ちょうど大怪我がまだ治ってないから、看護婦さんの様に優~しく介抱してもらいたいぐらいなんだけどな。」
 アルがそういった瞬間、女性が剣を構えて切り込んできて、アルが鞭で流しながら返す。
「この剣の使い手の噂はトレジャーハントの情報を集めていた時に聞いた事があるぜ。確か…その名はフィー。剣さばきもなかなかだが、剣だけじゃなくて…。」
 すると、フィーは高く飛んで一回転するとアルめがけて蹴りの体勢に入る。
 寸前でアルが避けるとフィーの蹴りが地面に食い込む。すると辺りの地面が陥没する。
「何というモンスターなんだよ、こいつはー!!!素手でこれかよ…。」
 数メートル離れて、武器の鞭を握り直す。
「break through!」
 あまりの攻撃力の差にアルが武器の鞭をチェーンへbreak throughさせられる。片目で視野が以前より狭くなっているので、少し距離を置いて間を取って構える。
「あの方のお力で私はこうして正義を貫けるのです。そして、あなたはあの方には邪魔な存在。」
「あの方…?セ、セルのことか?いや、違うな、例の奴か…。」
 アルが何か心当たりの言葉を話そうとすると、フィーの蹴りが連続で入る。
「お前は知らなくて良い事だ。伝説通り、今すぐ抹消される運命だからな。」
「な、何?伝説だと?何を言ってるんだ?うわぁー!!」
 
 break throughした状態でもアルの右手の義手ではまだ上手く使いこなせず、左手で右手の守備範囲のミスをカバーしながらの戦いでは、圧倒的に不利だった。
 フィーの攻撃を防御して避けながら、後ろへ跳ぶ。しかし、体勢を崩して転がって壁に激突する。義手が外れてチェーンごと落ちる。
「てぇっ…うっ…。さすがにここまで絶望的なことは無かったが。でも、まだやれるさ。」
 左手のチェーンを前方へ展開した後で、道具を取り出そうとするが片手ではうまく取り出せずに手こずる。取り出せた瞬間、アルの周りに魔法陣が浮かび上がる。
 
「これで終わりだ。Finish!」
 
 地面がせりあがって大きな音と共に爆発した。
 辺りの噴煙が治まると、岩に埋もれたアルが見えた。break throughされていたチェーンも鞭のフォームに戻っていた。フィーが近づいて鞭を蹴ってアルの様子を伺うが、アルはピクリとも動きが無く、魔力も感じられなかった。
「セル様には伝説の通り戦術師を消していた事にするか…。若干、時間がかかってしまったが。前回のアル末梢作戦で失敗したとは言えんしな。さらばだ、元『レジェンド』A.。まぁ、私も元『レジェンド』F.だからお前が負傷していなければもう少しだけは手こずったかもな。」
 フィーはセルにアルの消滅作戦に失敗していた事を伏せておきたかった様だった。
 
 現場からフィーが立ち去って少し経った。瓦礫の中のアルの指がピクリと動く。傷だらけで、もうろうとする意識の中でゲートを開く。
「まだ、俺達には続きがあるさ。ここで終わる訳にはいかないんだ。そうだろ?龍助、朱里…光……遥…。」
 そして、片手で這いずりながら転がり込んで、消える。瓦礫の残骸の中には、アルの着けていた眼帯と壊れた義手が残されていた。
 
 
to be continued...

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■Episode 003:

♪:[nu.ku.mo.ri.]

■Episode 004:

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■Episode 005:

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♪:[my wings]

■Episode 007:

♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]

■Episode 008:

♪:[promise]

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■Episode 017:

♪:[ドキ×2]

■Episode 018:

♪:[let it go!!]

■Episode 019:

♪:[N]

■Episode 020:

♪:[tears in love]
♪:[destiny]

■Episode 021:

♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]

■Episode 022:

♪:[Happy Happy Love]

■Episode 023:

♪:[INFINITY]

■Episode 024:

♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]

■Episode 025:

♪:[pain]

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[interrupt feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

[above feat.神威がくぽ] shin


[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin 


[initiative feat.神威がくぽ] shin 


[Breaker feat.神威がくぽ] shin


[Come on! feat.神威がくぽ] shin


[departure feat.神威がくぽ] shin


[Lock on feat.神威がくぽ] shin


[monologue feat.神威がくぽ] shin


[reduction feat.神威がくぽ] shin


[voice feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

アル・レイン

イラスト:hata_hataさん