Episode 004
謎の刺客(後編)

music:[real]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から来た麻宮朱里,お供のリラと一緒に生活することとなった南龍助は、同じく魔界から来た遥と3人と1匹で下校中、謎の男性が現れる。R.(アール)と名乗るその男性は魔界の王であるディアブロ王の命令で朱里たちに会いに来たと、言う。
 
 魔界の戦士、R.を目の前にして、朱里と遥,龍助,リラの三人と一匹に緊張が走る。そして朱里は一つの決断をする...。

イラスト:hata_hataさん

「ハルカリ様には魔界へお帰りいただくように命が出ています。大人しくお帰りください。それから、ジュリアは分かっていると思うが、無許可による人間界への滞在、及び、人間に異世界のことを知られて、処理もされていない件等で拘束する。そして、南龍助。お前は、掟により、記憶を差し替える。無益な争いはしたくない。大人しく従ってもらおう。そうすれば、痛い目もしなくて済む。」
 R.がそう言ったとたん、遥が適応魔法を解いてモードチェンジをし、ロッドを取り出した。続けて、氷魔法攻撃をR.に向けて数発繰り出す。
「先手必勝!ざまぁないわね。」
「遥ちゃん、効いてないわ。下がって!」
 朱里が遥に叫んだ。
「お痛が過ぎるのもどうかと思いますよ。しょうがない、話しても通じないようでしたら、少々手荒な手を取らざるを得ないな。」
 R.は冷たくそう言うと、適応魔法を解いて同じくモードチェンジした。彼の手には黒く冷たく光る槍があった。
「何よ、そんな脅しに、あたしは屈しないわよ。あたしは誰にも負けないのよ!」
 そう叫んで、朱里の制止を振り切って、遥はR.に接近して氷攻撃魔法を繰り出す。
「お嬢様、そんな戦い方では、俺には勝てないですよ。ちゃんと間合いを取らないと。まぁ、俺のこの槍は何処までも伸びるから、結局、間合いを取れないのだが!」
 遥が繰り出した氷攻撃魔法を槍で突き崩した。
 

イラスト:hata_hataさん

「な、なに!龍助、ジュリア、あんた達は逃げなさい!」
「それは困るんだよな。」
「早く!!あ、あんたの相手はこのあたしよ!こ、これでも食らえ!!!」
 そう言って、遥は頭上にロッドを大きく振りかざして呪文を唱えた。
 魔法陣の中からひときわ大きい吹雪がR.に向かって行った。しかし、R.は槍の中央を持って両手で振り回すと大きな風を起こし、遥に向かって吹雪を押し返した。
「きゃぁ!!!」
 寸前に、氷防御魔法のバリアを張ったが、防ぎきれず吹き飛ばされて、龍助のすぐ横の地面に叩きつけられた。遥は気を失ってしまったように、動けなくなった。
「一色さん!」
「遥ちゃん!」
 朱里と龍助が叫ぶ。
「龍助君は遥ちゃんを。リラ、お願い。」
 朱里はリラを手にとって瞳を閉じた。
 
「re-write!」
 
 リラは光に包まれて剣にフォームチェンジした。龍助は遥を抱き起こして朱里の後ろに連れて行く。かすかに遥に意識があるようで、力ない声で小さく言った。
「龍助…。ごめんね。朱里…。」
「もうしゃべらないほうが良いよ。一色さん。」
 
「だから、大人しく言うことを聞けば痛い目をしなくて済んだのにな。世間を知らないお嬢様はこれだから困る。さて、ジュリア クリスティー、あんたも抵抗する気か?」
「わ、私は捕まってもしょうがないけど、龍助君には手をださないで。それから遥ちゃんにも。」
「それは、無理だ。任務は忠実に遂行しないといけないのでな。」
「だったら、私が、みんなを守る。龍助君ごめんね。私と出会ってしまったからこんなことに巻き込まれちゃって。遥ちゃんも…。」
 振り返らずにそう言うと一歩前に出た。
「困ったなぁ。しょうがない、一度、痛い目をするしかないのかな。」
 R.が槍を胸元に引き寄せて、睨んだ。そして、次の瞬間、槍を朱里の方へ突き出すとその槍は長々と朱里の方へ突き進んでいった。
 朱里は剣で槍先をはじいた。
 
「なかなか。今のはまだ本気ではないが、その剣でよく受け止めたな。ほめてやろう。しかし、その程度では俺には勝てない。」
 次々に槍を突き出しては、朱里はその度に剣を使ってよけるのが精一杯だった。
 少しずつ、朱里の衣服のところどころが裂けていく。
「朱里、適応魔法を解いてモードチェンジしないとこのままでは負けちゃうよ!」
 剣になったリラから朱里の心へ声が響く。
「わ、分かってる。でも、私は人間になるためにここへ来たの。」
「そんなこと言ったって、おいらたちがやられちゃったら夢もかなわないよ。」
「…。私は、デビルモードにモードチェンジしたら…。また…。」
「そんなこと言っている場合か!龍助と遥を守れるのは、おいらたちだけなんだ!!勇気を出して。」
 防戦一方の朱里の腕にもかすり傷で赤い血がにじむ。
 
「麻宮さん!!」
「龍助君は遥ちゃんを連れてもう少し離れて、危ないから。」
「でも…。」
「大丈夫!私が守るから。あなたを、守るから!」
 そう言うと唇を少しかんで、心を決めて前を向いた。
 
「そろそろ、終わりにしようか。お譲さん。悪いが、ここまでだー!」
 R.の繰り出した槍のスピードが一段と速くなって、朱里に向かう。思わず龍助が目を閉じた。
 
 恐る恐る龍助が目を開いた時、そこには適応魔法を解除してモードチェンジをした朱里がR.の胸元に剣を寸止めしていた。

イラスト:hata_hataさん

 彼女は、澄んだ水色の髪でコスチュームも変わっていた。そして、いつもの朱里とは少し違う少しクールな表情になっていた。リラの剣も二刀流で、右手に刀身の長い長剣、左手に刀身の短い短剣だった。
「な、何。あの瞬間にモードチェンジしたのか。お、お前は何者だ。」
 R.が少し後ろに跳んで下がる。
 
「あら、ジュリア クリスティーなんだけど。お忘れかしら?」
 そう冷たく言うと、剣を構えた。
「ちっ。俺としたことが。ただの魔族の女かと思っていたら、なんてことだ。久々にバトルが楽しめそうだ。」
 R.が何度も槍を強く突き出し、朱里は身軽に少しの間、交わしていたが、槍を上から振り下ろした。朱里は二つの剣を交差してその槍を頭の上で軽く受けとめる。
「麻宮さん…。」
「朱里…。あんた…。」
 龍助と遥は橋の端に戻った。そして壁に遥をもたれさせて、二人で戦いの行方を見守った。
 
「その程度なの?あなたは。がっかりさせないで。」
「調子に乗るなよ。お前ごときに俺は負けん。」
「どうかしら?さぁ、来ないなら、私から行くわよ!」
 朱里がR.に向かっていく。R.は槍を縮めてから、再度、朱里へ向けて伸ばした。
 朱里は軽く跳躍した後で宙返りをして槍をよけ、その後、槍の上に着地して、勢いよくR.にめがけて突っ込んでいった。
 慌てて槍を縮めるが、そのスピードよりも速くR.に向かっていき、R.の腕に軽く切り傷をつけた。
「む。」
「これで、あなたは2回やられてるわよ。まだやる気?」
 R.の力をモードチェンジした朱里は大きく圧倒していた。モードチェンジにより水色の髪の色になった彼女は静かに微笑んでいた。
「まだまだ、これぐらいでは引けない。」
「しょうがないわね。」
 朱里が二刀流の剣を構えなおす。R.の周りに風が重く吹き荒れる。朱里の胸元の『L.D.C.』がうっすら赤くノイズを発する。
「う、ううう。」
 剣を持ったまま、突然、朱里が頭を押さえる。
 
「いけない…。龍助…。あ、あの子をとめてあげなくちゃ。うっ。」
「どうしたの?一色さん。大丈夫?」
「あの子を…。朱里を救ってあげて…。」
 遥が朱里の異常な状態に気がついた。しかし、彼女は傷ついて話すのもやっとの状態で、龍助はどうしてよいのか分からずただ立ち尽くしていた。
 
「どうした。ジュリア…。」
「はぁ?ちょっと頭が痛かっただけよ。」

イラスト:hata_hataさん

 R.が朱里の顔を見た時、その瞳は赤くなっていた。まるで、朱里の名前の中に記された「朱」のように赤かった。
 
「いかん、デビルモードのコントロールが上手く出来なくて暴走してしまったか。朱里、しっかりしろ!おいらの心の声が聞こえるか?朱里~!!!」
 もう、武器になっているリラの心の声は今の朱里には届かなくなっていた。
「行くよ~!お前なんか、消えてなくなってしまえ~!!」
 切りかかる朱里にR.が防戦するのが精一杯で、次々にR.が押されていった。
「くそっ、更にパワーが上がりやがった。なんなんだこいつは!」
「そろそろくたばりなさいよ!!」
 長剣の方で槍を弾き飛ばして、短剣でR.の首を切ろうとした時、『L.D.C.』に再び赤いノイズが散った。同時に暴走している朱里が両方の剣を放して、頭を押さえる。弾き飛ばされた槍は、少し離れた地面に突き刺さった。
「うううう…。なんなのよ!」
 R.は、すぐに弾き飛ばされた槍の元へ跳び、槍を引き抜いて距離をとった。
 
 いてもたってもいられずに、龍助が駆け寄る。
「麻宮さん?大丈夫。」
「だ、誰よ。あんたも敵なの?」
「何を言っているんだ、僕だよ!龍助だよ!」
「私は守らないといけないの!戦わなくちゃいけないのよ!」
 再び、足元の短剣を持って龍助に向かっていった。
「麻宮さんは僕が守る!だから、大丈夫だよ!朱里~!!!」
 両手を広げて龍助は切り込んでくる朱里を抱きしめた。龍助は朱里の短剣で脇を少し切っていた。
「うっ…。大丈夫だよ。朱里。僕が守るから。僕がそばにいるから。」
 朱里がじたばたともがくが、龍助がぎゅっと力強く抱きしめた。龍助の脇の辺りの服が赤くにじんでくる。
 
 二人の様子を見ながら、傷だらけになったR.がゆっくりと近づいてきた。
「何が起きたか分からんが、任務だ。悪く思うな。」
 そう言って、R.が朱里を龍助の背中越しに、槍で二人まとめて突き通そうとした。
 その瞬間、龍助の周りにオーラのようなものが広がり、槍を止めた。まるで見えない壁のようだった。
「くっ、このオーラはなんだ!ちっ、これ以上、無抵抗な奴を攻撃するのも俺のプライド的に許せん。また出直すことにするか…。」
 そう言い残すとR.は魔方陣のゲートを開き、姿を消した。
 
 龍助は朱里をしっかりと抱きしめたまま離さなかった。朱里は、少しずつ落ち着いていった。しばらくすると、瞳が赤色から水色になった。
 そして、力なく龍助にもたれかかった。
「ご、ごめんなさい。私。ごめんさい。龍助君に剣を向けて傷つけようとして。」
「大丈夫だよ。僕は。ぼ、僕は…。」
「龍助君?龍助~!」
 
 
「なんだ、ぼろぼろジャン?R.ともあろうものが、情けないね。」
「うるさい、J.(ジェイ)。次は必ずしとめる。」
 傷ついたR.にJ.という少女が無邪気に笑う。
「まぁ、せいぜいがんばりな。そのうち俺が仇を取ってやるよ。は、はははは・・・。」
 J.がR.の部屋から出て行った。
 
「それにしても何だったんだ、ジュリア クリスティーという女。あの魔力の変動は。瞳が赤くなったのも気になる…。あの女の中で何らかのバランスが崩れてきているのか?それから、最後のバリアのようなあのオーラは…。俺の槍ですら防いでしまうとは。あれはジュリアのものなのか?それとも南龍助という人間のものなのか?まさか、人間にはそのような力はないはず…。いずれにしろ、ディアブロ様にご報告しなければ…。」
 R.はシーズ博士に任務失敗の報告を行った。その中で、朱里のモードチェンジでの不自然な魔力の増大と、その後の赤く変色した瞳の色の件を報告し、朱里の中のバランスが崩れてきていることを報告した。
 ただし、龍助のオーラの件に関しては報告しなかった。R.自身、なぜ報告しなかったのか分からなかったが、彼の中の何かがそうさせた。R.はしばらく朱里たちを観察するために、一人、人間界へ潜伏することにした。朱里たちへのリベンジをしたいのもあったが、機密事項であまり詳しく知らされなかった『L.D.C.』に関わる朱里たちの行動についても、自分の目で調べて知りたいと思ったからもある。それに、朱里と共に龍助という人間にも興味を持ったようだった。
 
 
to be continued...

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