Episode 009
魔界へ突入!(朱里の奪還開始)
music:[Dancing in the night!]
前回までの『L.D.C.』
しかし、無断で人間界へ来た朱里を魔界は許さず、彼女は龍助たちにこれ以上危険が及ぶのを恐れて「人間になるという」夢をあきらめ、龍助達に何も言わずに独りで魔界へ投降したのだった。
龍助は、遥とリラと共に朱里を取り戻すために旅立つ決心をする。
そして、今、第二部の扉は開かれる...。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年は少女を守るために新たな世界へ、仲間と共に旅立った。
龍助たちは『世界の穴』の『perte mondiale』に飛び込んで、魔界へと向かっていた。彼の左肩につかまったリラは、まるでジェットコースターに乗るのを苦手な人が絶叫するかのように叫んでいた。
「う、うおおおお~!おいら、朱里と人間界に来た時も、ちびってしまいそうだったんだけど、今回も駄目だぁ~!」
「だ、大丈夫だよ。一色さんも、もう少ししたら追いつくと思うし。リラがしっかりしてくれないと、僕は何処へ向かってよいのか分からないんだから。」
「こ、これは、遥が到着地点まで呪文で繋いでくれているから、一本道なんだぞ。」
小さな左手で目を覆いながら、リラが答える。少し後ろから声が聞こえる。
「佐伯君と少しだけ話していて遅くなってごめん。リラ、あんた、何、叫んでるのよ。今からあたしたちは魔界に拘束されている朱里を奪い返しに行くのに、こんなことでびびってるんじゃぁ、どうしようもないわね。それに、あんまり大きな声出すと、目立っちゃうじゃないの。ほんと駄目ね。」
クールに話す遥に、龍助がリラに気を使いながら、苦笑いをする。
龍助たちに追いついた遥の耳には、龍助が朱里に貸してあげていた携帯プレイヤーのイヤフォンがつけてあった。朱里を取り戻すまで、遥が龍助の携帯音楽プレイヤーを貸して欲しいとお願いして持ってきたものだった。
「退屈な日々に 慣れ過ぎて
大切なものを 見失う・・・」
イヤフォンからかすかに[Dancing in the night!]が聞こえる。
「一色さん、[Dancing in the night!]を聞いてるの?」
「まぁね。これから、朱里を助けに行くんだから、ちょっとupテンポな曲で気合入れなくちゃ。龍助も…自分の携帯電話で聞けるんでしょう?元気になるから…あんたも…あたしと同じ曲でも…聞いてみれば…?」
最後になるほど、小声になってちょっぴり照れくさそうに話す遥に笑顔でうなずき、胸ポケットに入れていた携帯電話からイヤフォンを取り出して曲を流す。
「Dancing in the night!
言葉じゃなくて 伝えたい Yeah!!
Dancing in the night!
もう少しだけ 勇気だそう
Dancing in the night!
大切なこと 見つけたい Yeah!!
Dancing in the night!
振り向かないで 前に進め
抱きしめたい」
龍助は曲を聞きながら遥の横顔を見て感謝した。人間になろうとして、無許可で魔界からやってきた麻宮朱里(ジュリア クリスティー)という女の子と出会い、短い間であったが朱里と恋に落ち、そして共に夢を描くために彼女を守っていくと心に決めたのにもかかわらず、朱里を魔界に連れ去られてしまった。
その不甲斐なさに、打ちのめされて、一時は彼女のことを忘れてしまおうとまで思った。しかし、遥のおかげで、朱里を忘れることなんて出来ない自分に気づかされ、ちっぽけな人間が魔界へ乗り込んで、朱里を奪還しようと今、立ち上がっている。
そして、魔界には来れなかったものの、龍助の修行を手伝ってくれた光や、共に朱里奪還のために力を貸してくれるリラと遥のような仲間達によって今の自分があることに何度も何度も心からお礼を言っていた。
大切な存在である朱里との思い出を色々と回想しながら、魔界への異世界を繋ぐ道を飛ぶように進んでいた。朱里がデートの時にプレゼントしてくれた、左腕のドラゴンの模様の入ったシルバーのブレスレットを右手で触って、これからの決意と、彼女へ伝えたい思いを強く込めていた。
ちょうど、同じ頃、朱里も城の奥の何重にも結界が張られた部屋に監禁されて、同じく、龍助にプレゼントしてもらったピンクに輝く小さな石が入ったイヤリングにそっと触れて、小さく歌を歌っていた。
「出逢いと別れを 繰り返し
涙の数だけ 強くなる
「寂しくない...。」といえば違うけれど
自分らしく 生きる為
心を開いて」
膝の上に置いたμと記された卵を優しくなぜながら、大切だった龍助のことを思い出して朱里の涙がこぼれる。その涙が、朱里の胸元にある、『L'aile du coeur(心の翼)』に触れて、そして、膝元の卵の上にしずくの様にこぼれた。
その瞬間、『L.D.C.』に水色のクリスタルが輝いた。そして、同時に卵も少し輝いてまた輝きが治まった。
「あら。9つ目のクリスタルだ。それにμまで輝いて。この子は元気付けてくれてるのかしら?優しい子ね。この歌はね、龍助君が貸してくれていた携帯音楽プレイヤーで聴いて覚えた曲の一つだったんだけど、『L.D.C.』のクリスタルになるEspoirの一つだったんだわ。」
朱里が『L.D.C.』を見た後で、再び卵に寂しげな顔で視線を戻す。
「でも、もうクリスタルが増えたところで、人間になる夢がかなうわけでもなさそうだし、それに魔界に監禁されている身で、もうあの日の約束をかなえようと思ったりしたらいけないのよ。私は、魔族なんだから、龍助君たちと同じような人間にはなれないの。龍助君は記憶置換で私のことを忘れても、私の心には龍助君との思い出が残っているの。それだけで、もう十分だよ。それに、優しいμもここにいるし。もう、龍助君やリラや遥ちゃんに会えなくなっちゃったのが寂しいけど、みんなが危険にさらされるのはもっと辛いよ。」
自分に言い聞かせるように卵をなぜながらまた歌を口ずさんでいた。机には、龍助からデートの日に貰ったブーケが寂しげにぽつんと飾ってあった。
少し移動中にこつを掴み始めて、龍助は気持ち体を前に傾けて加速してみた。リラが慌てて龍助の耳にしがみつく。
「おおおお、ちょちょちょっとまってくれ!そんなに急がなくても朱里は逃げないぞ。なんたってつかまってるんだから。」
「リラって、意外に怖がりなんだね。ドラゴンなのに。あ、痛い、髪を引っ張らないで。」
リラが恐怖で龍助の髪に掴みかかる。その瞬間、体制が少し崩れて、更に加速する。
「あ~、何やってるの!もぉ~龍助もリラも!」
すぐに遥が加速して追うが、上手くコントロールできない龍助は蛇行して遥にぶつかって、遥もろとも魔界へ落ちて行った。
「あ~れ~!!!!」
遠くで、リラの声がこだました。
龍助と遥はもつれるように絡み合いながらコントロールを失い、壁にぶつかる寸前に、遥が右手で魔方陣を急遽出して、そこから外へ脱出し、地面に叩きつけられる。
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
龍助が恐る恐る目を開けると目の前に遥の顔があった。地面に叩きつけられる寸前、龍助は遥を守るために、無意識に彼女の頭を自分の胸に抱きしめるようにしていたのだった。
「痛~い。リラのせいでとんだ着地になっちゃったじゃない。はっ!?」
龍助に抱きしめられた状態で地面に横たわっていることに気が付いた遥は、顔を急に赤くして、かなり慌てて起き上がった。
「な、な、な、何よ!あんた。」
「ごめんね。リラが怖がったとはいえ、コントロールできなかった僕のせいだよ。それにしても痛かったね。一色さんは大丈夫?怪我していない?」
「あ、あ、だ、大丈夫よ。あたしは。」
どぎまぎしている遥が無事だったことに安堵して、ゆっくり龍助は起き上がった。
「リラは大丈夫かな?」
「あのチビドラゴンは、その辺に落ちてるわよ。きっと。」
「リラ~?」
立ち上がってから龍助がリラに声をかける。しかし返事が無い。龍助が手を差し出して、手を掴んで遥も立ち上がる。
「あの馬鹿。何やってるのよ。せっかく朱里が監禁されている城からちょっとだけ離れた場所に着地しようと思っていたのに、あの馬鹿ドラゴンのせいで軌道がずれて、予定よりも遠くに着地した上に迷子とは。ほんと、馬鹿!!!」
「まぁまぁ。どうしよう。まずはリラを探さないといけないね。」
「しょうがないわね。馬鹿ドラゴンだけど、あたしの仲間にしちゃったしね。」
遥が、少し落ち着いて、諦めたように微笑む。初めて魔界へ来た龍助を元気付けようと彼女なりに和ませようとした。
彼らが落ちた場所は森で、空は暗く曇っていた。時折、生ぬるい風が吹きぬけ、遠くには火山の噴火の音が少しこだましていた。
遥の説明によると、朱里や遥達の住んでいた世界である魔界は、魔族が住んでおり、魔界の1年が人間界の9年分だそうだ。
大半が森と砂漠でできており、いろいろな魔界の住民がいるそうだ。魔界だからモンスターの巣窟というわけではなく、人の姿をした(悪魔の羽が生えていたりすることもあるが)ものが多く、都心では争いが多いわけでもない。
モンスター的なものもいるようだが、彼らは魔力が比較的低いらしい。これも、魔界を治めているディアブロ王の統率のおかげだそうだ。だが、外れに行くと未だに危険な場所もあるらしい。
二人でリラを探しながら森をさまよっていたが、遥がつまずいて転びそうになったので、龍助は彼女の手を掴んだ。
「大丈夫?この辺りは暗い上に、足場が良くないから気をつけようね。そうだ、手を繋いでおくとよいね。僕は、魔界のことが分からないから、一色さんとはぐれてしまうと困るから。」
「え、あんたと…。い、いいわよ。しょうがないわね。これ以上、迷子が増えるのも面倒だし。」
嫌そうにしつつも、密かにうれしさでむずがゆい感覚を感じながら遥が龍助の手をぎゅっと握る。龍助もはぐれないようにしっかりと彼女の手を握り返した。
その頃、リラは、800メートルほど南に離れた洞窟前の砂地に、一匹落ちていた。柔らかい砂地に頭から着地していたので、お尻を振りながら小さな翼をパタパタさせて頭を引き抜くのに必死だった。
その時、リラの尻尾を引っ張って引き抜いた者がいた。
「ぷふぁ~。あ、ありがとう。龍助か?危なく砂を一杯食ってしまいそうになったぞ。ぺっつ、ぺっつ。」
砂を吐きつつ、尻尾から逆さづりになっているリラが顔に付いた砂を小さな手で拭き落とす。
「もー、降ろして良いぞ。龍助?」
「龍助って?誰だ、そいつ?」
「…?」
「お前、珍しいなぁ。ドラゴンなのか?この界隈では見かけなくなったからなぁ。」
リラを逆さのまま、顔に近づけてまじまじと見つめた。
「ギャー!!!」
リラが暴れる。龍助が助けてくれたものだと思っていたら、違う男だったからだ。どうやら、魔界の住民に見つかってしまったようだ。リラは、朱里がつかまった時に、魔界のシーズ博士のはからいで、捕まらずに魔界追放処分になっていた。魔界から追放の身にもかかわらず、朱里を助けるために龍助たちと忍んで魔界へ乗り込んできたのだが、早速、はぐれた上にこの有様である。
「おいおい、食ったりしないから、落ち着け。お、そうだ。これ、食うか?」
その男は、腰にぶら下げていたバッグからキャンディーを取り出して、自分が1つ食べて見せて、2つほどリラの目の前に差し出した。龍助たちよりは大人に見えたが、旅人なのか、いろんな冒険用の装備をしているようだった。
最初は様子を伺っていたが、リラは体をそらせて肉球のついた小さい両手で水色のキャンディーの一個を受け取る。そして、ぶら下がったままさっと口に入れた。
「お、食べるねぇ。それは空色のキャンディーだ。でも、この魔界じゃ、空といっても真っ暗な雲空だけどな。人間界には、青空があって、こんな感じの水色で綺麗な時もあるんだぞ。」
黙って、リラがキャンディーを口にほおばってなめていると、サイダーの味がしてシュワーと炭酸のような甘く爽やかな感じの刺激がして、思わず、目をぱちぱちした。
「ははっ。気に入ったか?これもやるから持っておけ。」
男はピンク色のキャンディーも渡した。その色がデビルモード時に魔力を抑えた時の朱里の明るいピンクの髪の色に似ていて、リラはふと寂しげになる。その様子を見て、男はリラを地面に降ろしてやり、頭を軽くなでてやった。
「なんだ、ピンクのキャンディーは嫌いだったのか?まぁ、元気出せ。それも甘酸っぱくて美味いぞ。俺の名は、アル。アル レイン(Al Rayne)っていうんだ。元は魔界の兵士だったんだけど、任務で研究所に通っているうちに、だんだん遺跡なんかに興味がわいて、今じゃ兵士も辞めて、トレジャーハンターをやっているんだ。こんなところで出会ったのも何かの縁だ。よろしくな!」
微笑みながら、リラに手を差し出した。
リラは、砂の中から救ってくれた上にキャンディーまでくれたアルというトレジャーハンターが悪い人ではないだろうと思い、礼の代わりに握手をするために、手を出そうとした。しかし、キャンディーで両手がふさがっているので、ピンクのキャンディーも口に放り込んで、両手をパンパンと少しはたいてから、その小さい手で握手代わりに指に触った。
「うぉいら、リィルァ。」
口に頬張ったキャンディーのせいで、なんだかモグモグ話すので聞き取れなかったが、アルはリラが少し元気になったのに気が付いた。そして、リラの口からキャンディーがなくなるまで、しばらく口笛を吹いていた。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年は新たな世界で、新たな仲間と出会うことになる。
しばらくして、アルの口笛の音に気づき、警戒しながら龍助と遥が現れる。
「あんた、誰よ?リラを返しなさいよ。そんな、馬鹿ドラゴン持ってても何の特にもならないんだから。」
「リラ?こいつのことか?お前、可愛い女の子にしちゃあ、ちょっとじゃじゃ馬っぽいけど、なんか気に入った!で、そこの仲良くお手手繋いでるのはお前の彼氏か?」
はぐれないように龍助と遥が手を繋いでいたことを指摘されて、遥が龍助の手を振り払って、ロッドを取り出した。
「あ、あたしは、こいつの彼氏なんかじゃないの!勘違いしないでよね。百年、いや、千年、早いのよ。ふざけないでよ。リラはそんな馬鹿でもあたしの仲間なんだから、返しなさい!」
赤くなって説明する。
「いや、そりゃ失敬。で、俺はトレジャーハンターのアル。このリラとかいうドラゴンが砂に頭を突っ込んでいたから、助けてやったんだぜ。仲間の命の恩人に、ロッド向けて魔法攻撃はいただけないなぁ。」
そう言うと、腰につけていた鞭で絡めるように、あっという間に遥からロッドを奪う。
「何っ!速い!」
遥が一歩下がって素手で構える。龍助は手元にリラがいないので、re-writeしてリラを武器にフォームチェンジすることもできず、遥もロッドを奪われてしまってあっという間に戦力を奪われてしまった。
「なぁ、アル?遥はおいらの仲間なんだ。許してやってくれよ。遥も、アルは良い奴そうなんだ。おいらの命の恩人に攻撃しないでくれよ。」
「良い奴そう、って『そう』が付くのは解せないが、まぁ、可愛いレディーには紳士に接しないとな。で、お前が俺にほれたらhappy endだぜ。」
「…?ちょっと、何、言ってるの!あんたどういう神経してるのよ?100万年経ってもありえないから!あんたなんかより、龍助の方が何倍もましよ。」
「やっぱ、彼氏なんだ?」
「違う!こいつには、大切な人が居るんだもん。あたしじゃないの…。」
少し寂しげに遥が小さく呟く。その様子を見たアルが、鞭をしまって、ロッドを遥に手渡してやる。
「返してやるから、ロッドはしまっておけ。このドラゴンもお前に返す。」
龍助の左肩にリラを乗せてやる。
「あ、あの~。僕、龍助って言います。僕らの大切な仲間のリラを救っていただきありがとうございました。てっきり、リラが捕まってしまっていると勘違いしちゃってごめんなさい。」
「ごめんなさい…。」
遥も下を向いたまま、謝る。
「まぁ、分かればよいよ。さっき、リラと話していて、μって記された卵みたいなのを人間界で見たことがあると聞いて、トレジャーハンターとしては、どんなものか一度見てみたいものだと思っていたんだ。それを見せてくれるとありがたいなぁ。」
「μは、今は無いんだ。おいらの大切な朱里が持っているんだ。」
「そうか。それは残念だな。ところでお前ら、何処に向かっている途中だったんだ?こんな森の奥には遺跡ぐらいしかないぞ。」
「ちょっとアクシデントで、着地するゲートを間違って、軌道を外れたの。ここから、ディオール家のある町まではどれくらいあるのかしら?」
頭をかきながら、アルはコンパスを取り出し、地図を見る。龍助たちも覗き込む。
「それは、大変だったなぁ。あの大貴族の住む町だと、ここから北にかなり行かないといけないんだけど。ちょうど、この辺りは『世界の穴』の『perte mondiale』が何かの干渉で安定して開けないんだ。ここいらも、砂漠にいくつかある大きな遺跡の様に、隠れた遺跡がいくつかあるからな。過去に滅んだといわれる機械文明の影響なのか、突然絶滅の道を歩みだしたドラゴンの怨念なのか。いずれにしろ、歩いていった方が良いんだが、この先は高い山がそびえているから、かなり遠回りになるが、この道を戻って回り道をするのが普通だな。」
「そうですかぁ。ありがとうございました。」
龍助がお礼を言ってすぐに立ち去ろうとしたのだが、アルが引き止めた。
「最後まで話を聞けよ、少年。」
「?」
「普通なら、回り道だが、そこのレディーが気に入ったので、特別にこのトレジャーハンターが回り道をしないで抜ける道を案内してやっても良いよ!」
アルが、遥に軽く投げkissをする。すぐに遥が手の甲で、投げkissを払いのける仕草をする。そして、リラがその投げkissの軌道を眺めながら、ホームランの様に遥遠くに飛ばされていったのを眺めるような仕草をする。龍助が苦笑いをしてただ呆然としている。
「No, thank you!さぁ、龍助、リラ、行くわよ。」
遥が龍助の背中を押すようにして早く立ち去ろうとする。龍助が軽く挨拶をして、リラは手を振った。
「あらら。気が変わったら、また声かけろよな?ハニー?」
アルが手を振る。それを無視して遥が龍助の腕を握って引っ張りつつ少し早足で進んでいく。
「龍助!あんたも、ちゃんとエスコートしてよ…ね…。たまには…。」
「ごめん、いつも頼りなくて…。」
魔界が初めての龍助に無理を言ってしまっている自分に遥は苛立っていた。
しばらく歩くが、相変わらず道に迷ったままだった。行けども行けども森から抜け出せずにいた。
「もう、どっちに行けばよいのよ!あんた達、遅い!」
リラが遥に向かって話す。
「遥、お前は、ずんずん進みすぎだぞ。」
「何よ。あんたが悪いんでしょう?だいたい、あんたが怖がらないで変なところに落ちなければ、朱里の拘束されている城の近くに着地できていたのに。馬鹿ドラゴンのせいで嫌な奴にも会うし、もぅ、散々よ!!」
「まぁまぁ。仲良くしようよ。ね?そ、そうだ。ご飯にしよう。朝ご飯以来、食べてなかったから。」
龍助がムードを落ち着けるために提案をする。その瞬間、遥とリラのお腹がギューとなる。少し照れくさそうにうつむきながら遥もリラも左右の人差し指をつんつんさせながら小さく呟く。
「しょうがないわね。」
「そうだな。」
どうやら意見が一致したようだった。
「良かった…。遥もリラも食いしん坊で…。」
ほっとして、龍助が思わず口を滑らせてしまった。
「何ですって!」
「なんだと!」
睨まれる龍助。
「は、はははは。なんで僕が怒られないといけないの…。」
「冗談よ。子供じゃあるまいし。」
「こ、子供…。お、おいらも冗談だ。」
「そ、そうなんだ…。はぁ~。違った意味で先が思いやられる…。」
魔界へ来て敵と戦う前に色々と壁にぶつかって、龍助はため息をついた。
持ってきた缶詰とパン一切れを食べたら、再び歩き出したのだが、見慣れた洞窟の前に出た。
「よう、お帰り!」
軽く手を上げてアルが声をかける。彼は荷物を枕にして寝そべってくつろいでいた。
「な、何でよ!かなり歩いたのに。」
「ここいらは、経験豊富なトレジャーハンターでも道に迷いやすいんだ。なんたって俺でも迷っちゃったからなぁ。」
「はぁ~?」
二人と一匹がアルにあきれる。どうやら、アルも道に迷った挙句、この洞窟の中にある遺跡を抜けることにしたのだが、一人では危険と判断し、ちょうど偶然通りかかった龍助たちと進もうと考えていたようだ。どうやら遺跡の効果なのかどうしてもこの洞窟前に出てしまうような魔法か何かがかかっているようで、龍助を放っておいても戻ってくると予想していた。それに、洞窟奥の遺跡には宝が祭られているとの言い伝えがあるようで、そのお宝も手に入れられれば一石二鳥という計画だった。
「な?一緒に行こうや。遥~。仲間は沢山いた方が楽しいじゃないか。」
「なれなれしく名前を呼ばないでよ。だいたい、いつ、あんたと仲間になったのよ?」
「あれまぁ、なんともつれないねぇ。俺と遥ちゃんの仲じゃない?」
「なんで、そうなるの!」
アルのマイペースな言動に遥が振り回されているのを横目に、リラがパタパタと小さい翼で飛びながら龍助のそばで相談する。
「なぁ、龍助、おいらたちではここから抜け出せないみたいだから、アルと協力してこの洞窟を抜けようよ。」
「そうだね。まずは目的の街までたどり着かないと。こんなところで立ち止まっているわけにもいかないし。一色さんも良いよね?」
優しく諭すように龍助が言う。遥は、龍助の方へうなずいてから、左手を腰に当てて、右手でアルを指差してきっぱり言った。
「分かったわよ。あんた、μって卵を見てみたいって言っていたよね。だったら、しばらくはあたしたちの道案内役をしてよね。ちゃんと無事に町へたどり着くように!だったら、遥でも良いわよ。」
遥がやっと承諾したのを見て、アルがゆっくりと立ち上がる。
「了解。朱里って子に会って、μという卵を見てみたいしな。俺に任しておけ。但し、遺跡内はダンジョンでトラップ等の危険な箇所が沢山あると思う。だからトレジャーハンターの経験が多い俺の言うことは絶対だ。分かったな?でないと、みんなに危険が及ぶ。俺も道案内役として責任を持って全力を尽くす!」
先ほどとは違う真剣な表情で話すアルに、龍助も遥もリラもうなずく。
「そうと決まったら行くぞ。おいら達、龍助,遥,アル,おいらでパーティー(チーム)だ。」
アルが、先頭に龍助と遥が続く。龍助の左肩にはリラが停まっていた。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年とその仲間は、古の光を求め暗闇に立ち向かうために、今、立ち上がった。
少年は少女に出会って、少年は少女を守るために新たな世界へ、仲間と共に旅立った。
龍助たちは『世界の穴』の『perte mondiale』に飛び込んで、魔界へと向かっていた。彼の左肩につかまったリラは、まるでジェットコースターに乗るのを苦手な人が絶叫するかのように叫んでいた。
「う、うおおおお~!おいら、朱里と人間界に来た時も、ちびってしまいそうだったんだけど、今回も駄目だぁ~!」
「だ、大丈夫だよ。一色さんも、もう少ししたら追いつくと思うし。リラがしっかりしてくれないと、僕は何処へ向かってよいのか分からないんだから。」
「こ、これは、遥が到着地点まで呪文で繋いでくれているから、一本道なんだぞ。」
小さな左手で目を覆いながら、リラが答える。少し後ろから声が聞こえる。
「佐伯君と少しだけ話していて遅くなってごめん。リラ、あんた、何、叫んでるのよ。今からあたしたちは魔界に拘束されている朱里を奪い返しに行くのに、こんなことでびびってるんじゃぁ、どうしようもないわね。それに、あんまり大きな声出すと、目立っちゃうじゃないの。ほんと駄目ね。」
クールに話す遥に、龍助がリラに気を使いながら、苦笑いをする。
龍助たちに追いついた遥の耳には、龍助が朱里に貸してあげていた携帯プレイヤーのイヤフォンがつけてあった。朱里を取り戻すまで、遥が龍助の携帯音楽プレイヤーを貸して欲しいとお願いして持ってきたものだった。
「退屈な日々に 慣れ過ぎて
大切なものを 見失う・・・」
イヤフォンからかすかに[Dancing in the night!]が聞こえる。
「一色さん、[Dancing in the night!]を聞いてるの?」
「まぁね。これから、朱里を助けに行くんだから、ちょっとupテンポな曲で気合入れなくちゃ。龍助も…自分の携帯電話で聞けるんでしょう?元気になるから…あんたも…あたしと同じ曲でも…聞いてみれば…?」
最後になるほど、小声になってちょっぴり照れくさそうに話す遥に笑顔でうなずき、胸ポケットに入れていた携帯電話からイヤフォンを取り出して曲を流す。
「Dancing in the night!
言葉じゃなくて 伝えたい Yeah!!
Dancing in the night!
もう少しだけ 勇気だそう
Dancing in the night!
大切なこと 見つけたい Yeah!!
Dancing in the night!
振り向かないで 前に進め
抱きしめたい」
龍助は曲を聞きながら遥の横顔を見て感謝した。人間になろうとして、無許可で魔界からやってきた麻宮朱里(ジュリア クリスティー)という女の子と出会い、短い間であったが朱里と恋に落ち、そして共に夢を描くために彼女を守っていくと心に決めたのにもかかわらず、朱里を魔界に連れ去られてしまった。
その不甲斐なさに、打ちのめされて、一時は彼女のことを忘れてしまおうとまで思った。しかし、遥のおかげで、朱里を忘れることなんて出来ない自分に気づかされ、ちっぽけな人間が魔界へ乗り込んで、朱里を奪還しようと今、立ち上がっている。
そして、魔界には来れなかったものの、龍助の修行を手伝ってくれた光や、共に朱里奪還のために力を貸してくれるリラと遥のような仲間達によって今の自分があることに何度も何度も心からお礼を言っていた。
大切な存在である朱里との思い出を色々と回想しながら、魔界への異世界を繋ぐ道を飛ぶように進んでいた。朱里がデートの時にプレゼントしてくれた、左腕のドラゴンの模様の入ったシルバーのブレスレットを右手で触って、これからの決意と、彼女へ伝えたい思いを強く込めていた。
ちょうど、同じ頃、朱里も城の奥の何重にも結界が張られた部屋に監禁されて、同じく、龍助にプレゼントしてもらったピンクに輝く小さな石が入ったイヤリングにそっと触れて、小さく歌を歌っていた。
「出逢いと別れを 繰り返し
涙の数だけ 強くなる
「寂しくない...。」といえば違うけれど
自分らしく 生きる為
心を開いて」
膝の上に置いたμと記された卵を優しくなぜながら、大切だった龍助のことを思い出して朱里の涙がこぼれる。その涙が、朱里の胸元にある、『L'aile du coeur(心の翼)』に触れて、そして、膝元の卵の上にしずくの様にこぼれた。
その瞬間、『L.D.C.』に水色のクリスタルが輝いた。そして、同時に卵も少し輝いてまた輝きが治まった。
「あら。9つ目のクリスタルだ。それにμまで輝いて。この子は元気付けてくれてるのかしら?優しい子ね。この歌はね、龍助君が貸してくれていた携帯音楽プレイヤーで聴いて覚えた曲の一つだったんだけど、『L.D.C.』のクリスタルになるEspoirの一つだったんだわ。」
朱里が『L.D.C.』を見た後で、再び卵に寂しげな顔で視線を戻す。
「でも、もうクリスタルが増えたところで、人間になる夢がかなうわけでもなさそうだし、それに魔界に監禁されている身で、もうあの日の約束をかなえようと思ったりしたらいけないのよ。私は、魔族なんだから、龍助君たちと同じような人間にはなれないの。龍助君は記憶置換で私のことを忘れても、私の心には龍助君との思い出が残っているの。それだけで、もう十分だよ。それに、優しいμもここにいるし。もう、龍助君やリラや遥ちゃんに会えなくなっちゃったのが寂しいけど、みんなが危険にさらされるのはもっと辛いよ。」
自分に言い聞かせるように卵をなぜながらまた歌を口ずさんでいた。机には、龍助からデートの日に貰ったブーケが寂しげにぽつんと飾ってあった。
少し移動中にこつを掴み始めて、龍助は気持ち体を前に傾けて加速してみた。リラが慌てて龍助の耳にしがみつく。
「おおおお、ちょちょちょっとまってくれ!そんなに急がなくても朱里は逃げないぞ。なんたってつかまってるんだから。」
「リラって、意外に怖がりなんだね。ドラゴンなのに。あ、痛い、髪を引っ張らないで。」
リラが恐怖で龍助の髪に掴みかかる。その瞬間、体制が少し崩れて、更に加速する。
「あ~、何やってるの!もぉ~龍助もリラも!」
すぐに遥が加速して追うが、上手くコントロールできない龍助は蛇行して遥にぶつかって、遥もろとも魔界へ落ちて行った。
「あ~れ~!!!!」
遠くで、リラの声がこだました。
龍助と遥はもつれるように絡み合いながらコントロールを失い、壁にぶつかる寸前に、遥が右手で魔方陣を急遽出して、そこから外へ脱出し、地面に叩きつけられる。
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
龍助が恐る恐る目を開けると目の前に遥の顔があった。地面に叩きつけられる寸前、龍助は遥を守るために、無意識に彼女の頭を自分の胸に抱きしめるようにしていたのだった。
「痛~い。リラのせいでとんだ着地になっちゃったじゃない。はっ!?」
龍助に抱きしめられた状態で地面に横たわっていることに気が付いた遥は、顔を急に赤くして、かなり慌てて起き上がった。
「な、な、な、何よ!あんた。」
「ごめんね。リラが怖がったとはいえ、コントロールできなかった僕のせいだよ。それにしても痛かったね。一色さんは大丈夫?怪我していない?」
「あ、あ、だ、大丈夫よ。あたしは。」
どぎまぎしている遥が無事だったことに安堵して、ゆっくり龍助は起き上がった。
「リラは大丈夫かな?」
「あのチビドラゴンは、その辺に落ちてるわよ。きっと。」
「リラ~?」
立ち上がってから龍助がリラに声をかける。しかし返事が無い。龍助が手を差し出して、手を掴んで遥も立ち上がる。
「あの馬鹿。何やってるのよ。せっかく朱里が監禁されている城からちょっとだけ離れた場所に着地しようと思っていたのに、あの馬鹿ドラゴンのせいで軌道がずれて、予定よりも遠くに着地した上に迷子とは。ほんと、馬鹿!!!」
「まぁまぁ。どうしよう。まずはリラを探さないといけないね。」
「しょうがないわね。馬鹿ドラゴンだけど、あたしの仲間にしちゃったしね。」
遥が、少し落ち着いて、諦めたように微笑む。初めて魔界へ来た龍助を元気付けようと彼女なりに和ませようとした。
彼らが落ちた場所は森で、空は暗く曇っていた。時折、生ぬるい風が吹きぬけ、遠くには火山の噴火の音が少しこだましていた。
遥の説明によると、朱里や遥達の住んでいた世界である魔界は、魔族が住んでおり、魔界の1年が人間界の9年分だそうだ。
大半が森と砂漠でできており、いろいろな魔界の住民がいるそうだ。魔界だからモンスターの巣窟というわけではなく、人の姿をした(悪魔の羽が生えていたりすることもあるが)ものが多く、都心では争いが多いわけでもない。
モンスター的なものもいるようだが、彼らは魔力が比較的低いらしい。これも、魔界を治めているディアブロ王の統率のおかげだそうだ。だが、外れに行くと未だに危険な場所もあるらしい。
二人でリラを探しながら森をさまよっていたが、遥がつまずいて転びそうになったので、龍助は彼女の手を掴んだ。
「大丈夫?この辺りは暗い上に、足場が良くないから気をつけようね。そうだ、手を繋いでおくとよいね。僕は、魔界のことが分からないから、一色さんとはぐれてしまうと困るから。」
「え、あんたと…。い、いいわよ。しょうがないわね。これ以上、迷子が増えるのも面倒だし。」
嫌そうにしつつも、密かにうれしさでむずがゆい感覚を感じながら遥が龍助の手をぎゅっと握る。龍助もはぐれないようにしっかりと彼女の手を握り返した。
イラスト:hata_hataさん
その時、リラの尻尾を引っ張って引き抜いた者がいた。
「ぷふぁ~。あ、ありがとう。龍助か?危なく砂を一杯食ってしまいそうになったぞ。ぺっつ、ぺっつ。」
砂を吐きつつ、尻尾から逆さづりになっているリラが顔に付いた砂を小さな手で拭き落とす。
「もー、降ろして良いぞ。龍助?」
「龍助って?誰だ、そいつ?」
「…?」
「お前、珍しいなぁ。ドラゴンなのか?この界隈では見かけなくなったからなぁ。」
リラを逆さのまま、顔に近づけてまじまじと見つめた。
「ギャー!!!」
リラが暴れる。龍助が助けてくれたものだと思っていたら、違う男だったからだ。どうやら、魔界の住民に見つかってしまったようだ。リラは、朱里がつかまった時に、魔界のシーズ博士のはからいで、捕まらずに魔界追放処分になっていた。魔界から追放の身にもかかわらず、朱里を助けるために龍助たちと忍んで魔界へ乗り込んできたのだが、早速、はぐれた上にこの有様である。
「おいおい、食ったりしないから、落ち着け。お、そうだ。これ、食うか?」
その男は、腰にぶら下げていたバッグからキャンディーを取り出して、自分が1つ食べて見せて、2つほどリラの目の前に差し出した。龍助たちよりは大人に見えたが、旅人なのか、いろんな冒険用の装備をしているようだった。
最初は様子を伺っていたが、リラは体をそらせて肉球のついた小さい両手で水色のキャンディーの一個を受け取る。そして、ぶら下がったままさっと口に入れた。
「お、食べるねぇ。それは空色のキャンディーだ。でも、この魔界じゃ、空といっても真っ暗な雲空だけどな。人間界には、青空があって、こんな感じの水色で綺麗な時もあるんだぞ。」
黙って、リラがキャンディーを口にほおばってなめていると、サイダーの味がしてシュワーと炭酸のような甘く爽やかな感じの刺激がして、思わず、目をぱちぱちした。
「ははっ。気に入ったか?これもやるから持っておけ。」
男はピンク色のキャンディーも渡した。その色がデビルモード時に魔力を抑えた時の朱里の明るいピンクの髪の色に似ていて、リラはふと寂しげになる。その様子を見て、男はリラを地面に降ろしてやり、頭を軽くなでてやった。
「なんだ、ピンクのキャンディーは嫌いだったのか?まぁ、元気出せ。それも甘酸っぱくて美味いぞ。俺の名は、アル。アル レイン(Al Rayne)っていうんだ。元は魔界の兵士だったんだけど、任務で研究所に通っているうちに、だんだん遺跡なんかに興味がわいて、今じゃ兵士も辞めて、トレジャーハンターをやっているんだ。こんなところで出会ったのも何かの縁だ。よろしくな!」
微笑みながら、リラに手を差し出した。
リラは、砂の中から救ってくれた上にキャンディーまでくれたアルというトレジャーハンターが悪い人ではないだろうと思い、礼の代わりに握手をするために、手を出そうとした。しかし、キャンディーで両手がふさがっているので、ピンクのキャンディーも口に放り込んで、両手をパンパンと少しはたいてから、その小さい手で握手代わりに指に触った。
「うぉいら、リィルァ。」
口に頬張ったキャンディーのせいで、なんだかモグモグ話すので聞き取れなかったが、アルはリラが少し元気になったのに気が付いた。そして、リラの口からキャンディーがなくなるまで、しばらく口笛を吹いていた。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年は新たな世界で、新たな仲間と出会うことになる。
しばらくして、アルの口笛の音に気づき、警戒しながら龍助と遥が現れる。
「あんた、誰よ?リラを返しなさいよ。そんな、馬鹿ドラゴン持ってても何の特にもならないんだから。」
「リラ?こいつのことか?お前、可愛い女の子にしちゃあ、ちょっとじゃじゃ馬っぽいけど、なんか気に入った!で、そこの仲良くお手手繋いでるのはお前の彼氏か?」
はぐれないように龍助と遥が手を繋いでいたことを指摘されて、遥が龍助の手を振り払って、ロッドを取り出した。
「あ、あたしは、こいつの彼氏なんかじゃないの!勘違いしないでよね。百年、いや、千年、早いのよ。ふざけないでよ。リラはそんな馬鹿でもあたしの仲間なんだから、返しなさい!」
赤くなって説明する。
「いや、そりゃ失敬。で、俺はトレジャーハンターのアル。このリラとかいうドラゴンが砂に頭を突っ込んでいたから、助けてやったんだぜ。仲間の命の恩人に、ロッド向けて魔法攻撃はいただけないなぁ。」
そう言うと、腰につけていた鞭で絡めるように、あっという間に遥からロッドを奪う。
「何っ!速い!」
遥が一歩下がって素手で構える。龍助は手元にリラがいないので、re-writeしてリラを武器にフォームチェンジすることもできず、遥もロッドを奪われてしまってあっという間に戦力を奪われてしまった。
イラスト:hata_hataさん
「良い奴そう、って『そう』が付くのは解せないが、まぁ、可愛いレディーには紳士に接しないとな。で、お前が俺にほれたらhappy endだぜ。」
「…?ちょっと、何、言ってるの!あんたどういう神経してるのよ?100万年経ってもありえないから!あんたなんかより、龍助の方が何倍もましよ。」
「やっぱ、彼氏なんだ?」
「違う!こいつには、大切な人が居るんだもん。あたしじゃないの…。」
少し寂しげに遥が小さく呟く。その様子を見たアルが、鞭をしまって、ロッドを遥に手渡してやる。
「返してやるから、ロッドはしまっておけ。このドラゴンもお前に返す。」
龍助の左肩にリラを乗せてやる。
「あ、あの~。僕、龍助って言います。僕らの大切な仲間のリラを救っていただきありがとうございました。てっきり、リラが捕まってしまっていると勘違いしちゃってごめんなさい。」
「ごめんなさい…。」
遥も下を向いたまま、謝る。
「まぁ、分かればよいよ。さっき、リラと話していて、μって記された卵みたいなのを人間界で見たことがあると聞いて、トレジャーハンターとしては、どんなものか一度見てみたいものだと思っていたんだ。それを見せてくれるとありがたいなぁ。」
「μは、今は無いんだ。おいらの大切な朱里が持っているんだ。」
「そうか。それは残念だな。ところでお前ら、何処に向かっている途中だったんだ?こんな森の奥には遺跡ぐらいしかないぞ。」
「ちょっとアクシデントで、着地するゲートを間違って、軌道を外れたの。ここから、ディオール家のある町まではどれくらいあるのかしら?」
頭をかきながら、アルはコンパスを取り出し、地図を見る。龍助たちも覗き込む。
「それは、大変だったなぁ。あの大貴族の住む町だと、ここから北にかなり行かないといけないんだけど。ちょうど、この辺りは『世界の穴』の『perte mondiale』が何かの干渉で安定して開けないんだ。ここいらも、砂漠にいくつかある大きな遺跡の様に、隠れた遺跡がいくつかあるからな。過去に滅んだといわれる機械文明の影響なのか、突然絶滅の道を歩みだしたドラゴンの怨念なのか。いずれにしろ、歩いていった方が良いんだが、この先は高い山がそびえているから、かなり遠回りになるが、この道を戻って回り道をするのが普通だな。」
「そうですかぁ。ありがとうございました。」
龍助がお礼を言ってすぐに立ち去ろうとしたのだが、アルが引き止めた。
「最後まで話を聞けよ、少年。」
「?」
「普通なら、回り道だが、そこのレディーが気に入ったので、特別にこのトレジャーハンターが回り道をしないで抜ける道を案内してやっても良いよ!」
アルが、遥に軽く投げkissをする。すぐに遥が手の甲で、投げkissを払いのける仕草をする。そして、リラがその投げkissの軌道を眺めながら、ホームランの様に遥遠くに飛ばされていったのを眺めるような仕草をする。龍助が苦笑いをしてただ呆然としている。
「No, thank you!さぁ、龍助、リラ、行くわよ。」
遥が龍助の背中を押すようにして早く立ち去ろうとする。龍助が軽く挨拶をして、リラは手を振った。
「あらら。気が変わったら、また声かけろよな?ハニー?」
アルが手を振る。それを無視して遥が龍助の腕を握って引っ張りつつ少し早足で進んでいく。
「龍助!あんたも、ちゃんとエスコートしてよ…ね…。たまには…。」
「ごめん、いつも頼りなくて…。」
魔界が初めての龍助に無理を言ってしまっている自分に遥は苛立っていた。
しばらく歩くが、相変わらず道に迷ったままだった。行けども行けども森から抜け出せずにいた。
「もう、どっちに行けばよいのよ!あんた達、遅い!」
リラが遥に向かって話す。
「遥、お前は、ずんずん進みすぎだぞ。」
「何よ。あんたが悪いんでしょう?だいたい、あんたが怖がらないで変なところに落ちなければ、朱里の拘束されている城の近くに着地できていたのに。馬鹿ドラゴンのせいで嫌な奴にも会うし、もぅ、散々よ!!」
「まぁまぁ。仲良くしようよ。ね?そ、そうだ。ご飯にしよう。朝ご飯以来、食べてなかったから。」
龍助がムードを落ち着けるために提案をする。その瞬間、遥とリラのお腹がギューとなる。少し照れくさそうにうつむきながら遥もリラも左右の人差し指をつんつんさせながら小さく呟く。
「しょうがないわね。」
「そうだな。」
どうやら意見が一致したようだった。
「良かった…。遥もリラも食いしん坊で…。」
ほっとして、龍助が思わず口を滑らせてしまった。
「何ですって!」
「なんだと!」
睨まれる龍助。
「は、はははは。なんで僕が怒られないといけないの…。」
「冗談よ。子供じゃあるまいし。」
「こ、子供…。お、おいらも冗談だ。」
「そ、そうなんだ…。はぁ~。違った意味で先が思いやられる…。」
魔界へ来て敵と戦う前に色々と壁にぶつかって、龍助はため息をついた。
持ってきた缶詰とパン一切れを食べたら、再び歩き出したのだが、見慣れた洞窟の前に出た。
「よう、お帰り!」
軽く手を上げてアルが声をかける。彼は荷物を枕にして寝そべってくつろいでいた。
「な、何でよ!かなり歩いたのに。」
「ここいらは、経験豊富なトレジャーハンターでも道に迷いやすいんだ。なんたって俺でも迷っちゃったからなぁ。」
「はぁ~?」
二人と一匹がアルにあきれる。どうやら、アルも道に迷った挙句、この洞窟の中にある遺跡を抜けることにしたのだが、一人では危険と判断し、ちょうど偶然通りかかった龍助たちと進もうと考えていたようだ。どうやら遺跡の効果なのかどうしてもこの洞窟前に出てしまうような魔法か何かがかかっているようで、龍助を放っておいても戻ってくると予想していた。それに、洞窟奥の遺跡には宝が祭られているとの言い伝えがあるようで、そのお宝も手に入れられれば一石二鳥という計画だった。
「な?一緒に行こうや。遥~。仲間は沢山いた方が楽しいじゃないか。」
「なれなれしく名前を呼ばないでよ。だいたい、いつ、あんたと仲間になったのよ?」
「あれまぁ、なんともつれないねぇ。俺と遥ちゃんの仲じゃない?」
「なんで、そうなるの!」
アルのマイペースな言動に遥が振り回されているのを横目に、リラがパタパタと小さい翼で飛びながら龍助のそばで相談する。
「なぁ、龍助、おいらたちではここから抜け出せないみたいだから、アルと協力してこの洞窟を抜けようよ。」
「そうだね。まずは目的の街までたどり着かないと。こんなところで立ち止まっているわけにもいかないし。一色さんも良いよね?」
優しく諭すように龍助が言う。遥は、龍助の方へうなずいてから、左手を腰に当てて、右手でアルを指差してきっぱり言った。
「分かったわよ。あんた、μって卵を見てみたいって言っていたよね。だったら、しばらくはあたしたちの道案内役をしてよね。ちゃんと無事に町へたどり着くように!だったら、遥でも良いわよ。」
遥がやっと承諾したのを見て、アルがゆっくりと立ち上がる。
「了解。朱里って子に会って、μという卵を見てみたいしな。俺に任しておけ。但し、遺跡内はダンジョンでトラップ等の危険な箇所が沢山あると思う。だからトレジャーハンターの経験が多い俺の言うことは絶対だ。分かったな?でないと、みんなに危険が及ぶ。俺も道案内役として責任を持って全力を尽くす!」
先ほどとは違う真剣な表情で話すアルに、龍助も遥もリラもうなずく。
「そうと決まったら行くぞ。おいら達、龍助,遥,アル,おいらでパーティー(チーム)だ。」
アルが、先頭に龍助と遥が続く。龍助の左肩にはリラが停まっていた。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年とその仲間は、古の光を求め暗闇に立ち向かうために、今、立ち上がった。
to be continued...
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
リラ(ドラゴンの姿ver.)
イラスト:hata_hataさん