Episode 006
ブレイクスルー(後編)

music:[my wings]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から来た麻宮朱里,お供のリラと一緒に生活することとなった南龍助は、楽器屋の帰りに、魔界の涼(R.)に遭遇する。龍助に迫る危険を感じて駆けつけて朱里が危機一髪のところで、涼の攻撃を止めた。
 
 龍助が見守る中、朱里はデビルモードで涼に応戦する。以前、朱里はデビルモードにモードチェンジして暴走したのだが、龍助が見守ってくれているという安心感からか暴走せずに戦う。そして、新たなEspoir[my wings]によって『L.D.C.』に赤いクリスタルが輝くのだった。
 
 break throughさせてパワーアップした涼の武器が繰り出す攻撃すらも圧倒して、朱里は大切なものを守るために前に進むのだが...。

「ちっ。前回よりもパワーアップしたのだが、お前もパワーアップしたのか…。」
「私はあなたみたいに独りで戦っているんじゃないの。龍助君と二人で戦っているのよ!」
「愛の力とでも言うのか?ばかばかしい。」
 龍助の方を見ながら、涼は笑った。
「あなたは、信じること、守りたいものってないの?」
「俺にとって、任務が一番だ。命令を遂行する。それ以外に何が必要なんだ。」
「だから、あなたからは、強いようで、どこかガラスのように壊れそうなものを感じるのね。かわいそうな人。」
「うるさい!魔界の掟を破っている奴に何が分かる!」
 涼の遠隔操作の槍先が朱里を囲んでいっせいに攻撃を仕掛けた。しかし、朱里はすべて弾き飛ばした。
 
「迷いがあるわね。」
 クールに朱里が涼に言う。
「引きなさい。そして、自分にとって何が正しいか考えなおして。あなたも本当は、人間になりたいんじゃないの?」
「?」
 龍助がびっくりする。
 
「俺は、任務が全てだ。魔界の住民としてディアブロ様の命令は絶対だし、魔界の掟だって守るべきものだ。そもそも掟は世界のバランスを保つために定められたものだと聞く。お前は、それを破っているんだぞ。」
「確かに、そうかもしれない。でも、そもそも本当にそれが正しいのかしら?人間界や魔界や天界等を自由に行き来できないようにして、世界にバリアを張ったために、ドラゴン族が滅びに瀕していると言っている者もいるわ。」
「それは、少数派の意見だ。異世界を分けることで、すみわけが出来て、天界と魔界との争いも激減し、人間界の住民も安心して何も知らずに暮らすことが出来ているんだ。それをお前は狂わそうとしているんだぞ。それに、もう、人間界の南龍助やハルカリ嬢にまで危害が及んでいる事実を見ろ。」
 朱里が一瞬ためらって、槍先を弾きそこねて服が少し裂ける。ひるんだところを容赦なくドラゴンキラーで攻撃をかけると、朱里の長剣と短剣を二本とも弾き飛ばした。
 
「し、しまった!」
「馬鹿め。それに、甘いなぁ。もし、南龍助を遠隔操作で攻撃すればあっという間に消滅だぞ。」
「あなたは、そんな卑怯なことをしないでしょう?」
「?」
「あなたには、まだプライドがあるから。それから、何が正しいのか知りたいと思っているはずよ。だから私に任務外で『L.D.C.』について質問しにきたのでしょう?そして、少し分かってきたんじゃないの?私にも、教えて!私も知りたいの。」
「うるさい!!!」
 武器を持たない朱里に攻撃を仕掛けようと構えなおした。
 
 
 龍助はとっさに、朱里の落とした長剣と短剣を拾い上げた。そして、囁いた。
「リラ?僕に力を貸して!朱里を守りたいんだ。僕は彼女を守ると約束したんだ!!」
 武器にフォームチェンジしたリラから心に声がする。
「おいらを使いこなすには、主従契約を結ばなければならない。主従契約を結んだマスターのみがおいらをre-writeできるんだ。しかし、おいらのマスターは朱里だけだと決めている。悪いがそれだけはできん…。それに、人間の龍助ではおいらを使いこなせないだろう。」
 リラが渋る。龍助が真剣に訴える。
「頼むよ!朱里を助けたいんだ。主従契約だったら、君がマスターでも良いから。」
「そんなわけには行かないんだ。」
「今にも朱里がやられそうなんだ!なんで、そんなことにこだわるんだよ。守りたくないのか?朱里が大切じゃないのか?」
 目に涙を一杯にためて龍助が唇をかむ。血が少しにじむ。
「…。分かった。おいらはお前をマスターとは認めないが、朱里を助けるためだ…。今から言う言葉を復唱しろ。『天と地と異世界の理を守らんとするとき、我、神々とも魔族とも関わらず、澄んだ心の瞳で正しき道を切り開こう。』」
 龍助が復唱する。
「天と地と異世界の理を守らんとするとき、我、神々とも魔族とも関わらず、澄んだ心の瞳で正しき道を切り開こう。」
「『その為の力を我に与えたまえ。』」
「その為の力を我に与えたまえ。」
「その唇の血をどちらの剣でも良いからつけろ。」
 龍助は短剣を持った左手の親指でにじんでいる血に触れて、長剣にそっと触れた。
「良いだろう、これで契約は終了だ。後は分かっているな。」
 一歩踏み込んで、龍助がゆっくりとうなずく。
 
「re-write」
 
 その瞬間、龍助はオーラに包まれる。
「なんだ?南龍助なのか?」
 オーラに気づいて朱里の前から離れて、涼は距離をおく。
「どうしてだ。龍助がおいらをここまで使いこなせるとは?朱里よりもおいらとの適合性が…。」
「龍助君。どうして?普通の人間では使いこなせないはずなのに…。」
「君を…、朱里を守るって言っただろう!下がって。」
 そう言うと、涼にめがけて剣を一振りする。オーラの一部が涼に向かって飛んでいく。涼がドラゴンキラーで受け流そうとするが、抑えきれずに吹っ飛んで、壁に激突する。
「な、何…。お前、ただの人間じゃないのか?それとも、何か魔法をかけてもらって攻撃力が上がっているのか?だが、武器や攻撃魔法の攻撃力が高くとも、それを使うものが扱いきれなければ、大したこともない。そして、戦いの経験の無い今のお前は、多くの戦いを乗り越えてきた俺を倒すことはできん。」
 涼が龍助を睨んだ。そして、龍助に向かって走りだした。
 

イラスト:hata_hataさん

「くるぞ、龍助。攻撃しろ!」
「わ、分かっている。」
 リラにアドバイスされて、剣を振り下ろし、オーラの一部を飛ばすが、涼はあっさり交わして龍助に迫ってくる。
「龍助君、気をつけて~!!」
 朱里の叫び声がこだます。
 龍助は短剣と長剣で交差させて、守りの体制をとるが、涼のドラゴンキラーにあっさりと剣ごと吹き飛ばされた。
「うわっ~!!」
 龍助は電信柱にぶつかり、その後で、地面に叩きつけられた。龍助が少し血を吐く。
「龍助君~!!」
 朱里が両手で目を覆うような仕草をして叫んだ。
 
 
 涼が龍助に直接止めを刺そうとドラゴンキラーをなぜながら言った。
「これが、経験の差だ。南龍助。所詮、お前は人間だ。大人しくしていればよかったものを。」
 涼の後ろから朱里が呼び止めた。
「待ちなさい!あなたの武器が『L.D.C.』の研究結果によって進化したのであれば、私の『L.D.C.』にも何かかしらの力があるはずよ。なんたって、オリジナルなんだから。」

イラスト:hata_hataさん

 そう言いながら、胸元の『L.D.C.』を両手で持って涼に見せた。その中には、クリスタルが、6つ光っていた。
「そうかもな。だが、お前には使い方も分からないだろう。」
「いいえ、大昔に私を育ててくれたおばあさまから教えてもらったことがあるの。」
「だったら、やってみるとよい。見ていてやるから。」
 朱里は幼い頃に育ての親である、祖母から教えてもらったことを思い出していた…。
 
 朱里の頭をしわのよった手で優しく何度もなぜながら、朱里の祖母は諭すように話したのだった。
「ジュリアや。今から言うおまじないとその宝具『L.D.C.』は、お前のお母さんの家でその血を受け継いだ者によって代々受け継がれてきたそうだよ。どうしてもお前が大切な人を守りたいと思った時に唱えてみると良い。きっと力になってくれるはずだよ。ただし、このおまじないは、使うものによって良いものにも悪いものにもなる。お前は本当に良い子だから、正しい使い方ができると思う。澄んだ瞳と澄んだ心で、ただ大切な人のことだけを思いながら、真心を込めなさい…。」
 
 朱里は記憶の片隅にある祖母の言葉をたどるように、囁くように唱える。
 
『歌いし者の想い、歌われし者の想い。今、古の神々の力により時を越えん。心の翼によって我に力を与えたまえ。今こそ解き放て、変革の光…。Light of revolution!』
 
 その瞬間、朱里が両手に持っていた『L.D.C.』がまばゆく光る。そして、中央にいくつか輝いていたクリスタルが点滅して、『L.D.C.』はフォームチェンジをした。その姿は、一本のロッドになった。
「な、なんだと。武器を更にフォームチェンジさせるのではなくて、『L.D.C.』そのものが武器になるのか?ははは、面白い、面白すぎるぜ!それに、『L.D.C.』のおかげでまた、一段と魔力が上がったんじゃないか?とくと試させてもらおう。」
 
 そう言うと、遠隔操作の槍先を朱里に向けて攻撃を始めた。
 朱里はロッドを離した。ロッドは中に浮いたまま停まっている。そして両手の平を合わせて合掌のポーズを胸の辺りにとって呪文を唱える。
 すると、大きなバリアの壁が彼女の周りを覆った。
 槍先がバリアに当たった瞬間に動きが止まり、同時に彼女が両手を涼の方へ広げると、遠隔操作されていた槍先は涼へ向かって飛んで行った。
「なんだと。」
 自分の放った槍先で逆に攻撃を受けて、涼は左腕のドラゴンキラーで防御体制をとりながら後ろに下がる。
 
 続いて、朱里はロッドの中央を持って、まるでバトンの様に時計回りに二回転させると、火の玉が現れた。そして呪文を唱えながら、涼の方へロッドを振ると、火の玉は勢いよく涼の元へ飛んでいった。
「今度は炎か!」
 さっと横にそれて火の玉を避ける。すると、朱里がロッドを自分の方へ戻した。その動作により、火の玉がバックして涼の背中に命中した。涼の上着が少し焼ける。
「うっ。何なんだ。炎を遠隔操作しているのか?そういえば、お前は火の属性を持っているのか。それも陰の属性も持ち合わせているみたいだな。先ほどは水の属性で陰の属性は無かったように感じたのだが、モードチェンジにより属性が変わるというのか?お前、いったい何者なんだ?」
「私は麻宮朱里よ!人間になりたくて、魔界へ来たの。龍助君と一緒に夢を描いていきたいの。大人しく帰って!これ以上、あなたを傷つけたくもないの。涼さん!」
 朱里は、大きな声で叫んだ。
 
「お、おのれ…。俺がお前ごときに負けるわけにはいかない。」
 涼が朱里の頭上に跳び上がった。そして、ドラゴンキラーの先を朱里へ向けて落下していった。朱里が右手でロッドを頭上中央に構えて、左手の人差し指を眉間の辺りに合わして呪文を唱える。
 すると朱里の頭上にロッドの長さ分の直径の炎の魔法陣が現れて、その後、涼に目掛けて燃え上がる。慌てて、涼は避けようとするが、炎の壁が広がり、涼はあっという間に炎の壁に押しつぶされそうになる。
 朱里は武力だけでなく魔法も使えるのだが、いつも以上に火力が強かった。それに、その炎から何か感じる。それは、[my wings]を歌った時の気分に近かった。
「そうか、Espoirのクリスタルの力なのね。『L.D.C.』は武器になると、Espoirのクリスタルの力を元に力を発揮するんだわ。」
 そう気づくと、朱里は[my wings]を歌いながら魔法を繰り出す。赤い炎を操る妖精のように、ロッドを振りかざし、まるで優雅にダンスでもしているかのようだった。
 
「fly away to the sky
どんな時でも 二人ならこわくはない
with my wings
羽ばたいて 誰より高く
見つけ出そう きっと
get my place with you, for my love」
 
 どんどん、涼が追い詰められていく。
「くそっ。ここまでか。一旦、魔界へ引くことにする。」
 大きく後ろへ跳んで、魔方陣の扉を開くと姿を消す。
 
 
 涼が去ったことを確認すると、朱里がデビルモードから、モードチェンジして元の茶色の髪型に戻った。地面に倒れたままの龍助の元に駆け寄る。朱里が膝の上に龍助の頭を乗せる。

イラスト:hata_hataさん


「ははっ。また、朱里に助けられちゃったね…。」
「ううん。二人で追い返したんだよ。龍助君と私で。」
「リラも…。」
「そうね。龍助君が言うとおりだわ。リラも三人で戦って勝ったのよ。」
 龍助がほっとして、朱里の膝の上でぐったりとなる。命に別状はなさそうなのを確認して、朱里は回復魔法を龍助にかけつつ、しばらく、子守唄の様に歌っていた。それは、優しく龍助の心も癒していた。
 
 リラがre-writeから開放されて、ドラゴンの姿になって呟く。二人の様子を少しはなれて見つめながら。
「おいらのマスターは朱里なんだ。なんで龍助の方が朱里よりも適合性が高かったんだ…。あいつは人間だし…。そんなことがあってはならない。人間がマスターだなんて、おいらは認めない。プライドが許せない。おいらのマスターは朱里だけだ…。でも、おいらは龍助が嫌いじゃなくなってきたんだ…。悪い奴じゃないし…。大好きな朱里のことも笑顔にしてくれる…。どうしよう…。忘れよう。そうだ、忘れよう。主従契約は無かったことに…。でも…、契約を一度してしまうと遡って無効にできないんだよなぁ…。」
 
 そして、朱里は朱里で、悩んでいた。
「『L.D.C.』が魔力をコントロールして、Espoirのクリスタルを集めることで人間になれるのではないかと望みをかけていたのに…。逆に『L.D.C.』そのものが歌の力を使った武器になるとは…。龍助君や遥ちゃんたちを巻き込んでまで、あの日の約束をかなえようとしてきたのに、私はどうしたらよいのかしら…。願いはかなわないの?教えてよ…。誰か…。」
 
 
to be continued...

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音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

リラ(フォームチェンジ時:剣一本ver.)

イラスト:hata_hataさん