Episode 008
サヨナラは言わないよ...そして約束(前編)
music:[promise]
前回までの『L.D.C.』
しかし、デートの待ち合わせ場所へ向かった朱里の前にJ.と涼が現れ、J.の脅威に彼女は龍助と遥に危害を加えない変わりに投降すると約束する。そして、涼に一日だけ待って欲しいとお願いし、涼は朱里を信じて翌日迎えに行くことになる。
別れが近づいていることも知らずに龍助は朱里とのデートを楽しんでいたが、彼女は彼に心配をかけまいと別れのことは話さず、彼との残された時間を大切に感じた。二人はお互いにプレゼントをして、デートの最後には町を見下ろせる観覧車の中で朱里は龍助の額にkissをした。
そして、翌朝、龍助が目覚めた時には、彼女はもうそこにはいなかったのだった。
龍助が目覚める少し前、ジュリアは涼との約束どおり、龍助の家を出て、魔界の使者の元へ大人しく投降していた。そこには、J.と涼が待っていた...。
「おい、どうした?ジュリア クリスティー。」
「何も無いわ。」
朱里はJ.が開いたゲートから魔界への『世界の穴』の『perte mondiale』へ入る前に立ち止まって振り返る。日の出間もない時間で、朝早くて人影も無い。その視線の先には龍助の家があった。朱里の両手には黒く光る魔法によって手錠のようなものがかかっている。魔力を無効化しているようだ。
「だったら、大人しくまっすぐ歩け。おい、R.。お前は、龍助の記憶置換とハルカリの奴を連れてくるんだったな?」
「あぁ、そうだ。J.はジュリアをちゃんと魔界へ送り届けろ。もう抵抗はしないだろうから、お前は手を出すな。分かったな?」
「言われ無くったって分かってるよ。バカやろう。」
そう涼に、はき捨てるようにJ.は言った。J.の髪には以前、龍助からもらった花のついた髪飾りがしてあった。朱里がその花の髪飾りを見ながら言う。
「綺麗ね。その髪飾り。あなたにとても似合っているわよ。」
「う、うるさい!こんなもの。」
慌てて、髪飾りを取ってポケットにしまう。朱里に褒められて、少しうれしいような腹立たしいような顔をしながら、J.は珍しく照れているようだった。
「そろそろジュリアを連れて行け!引き続き、俺は任務を遂行する。」
「龍助君には、手荒なまねをしないでね。約束を守ってね。涼さん。」
朱里が涼に向かって確認をする。
「分かっている。ただし、南龍助が大人しくしていればだ。」
「それから、遥ちゃん…、ハルカリ ディオールさんのことも。」
「約束は守る。しかし、お前たちが抵抗すれば、悪いがこちらも手荒なまねをしなければなくなる。以上だ。」
クールに涼が答えて、首をゲートの方へ2度振って、朱里に出発するように合図をする。
「うん…。龍助君…。ごめんね。そして、ありがとう。」
朱里が龍助の家の方に振り返りながら、J.に背中を押されるようにして、魔界へ消えていった。続いてJ.も消える。
「さて、南龍助の記憶置換にかかるとするか。」
涼が龍助の家へ一歩一歩ゆっくりと歩き出した。
人間界と魔界の世界の穴同士を繋ぐ『passage』という通路を魔界へ向かって通過中に、朱里は涼に投降する前に龍助の部屋に別れを告げに行ったことを思い出していた。
朱里とのデートで疲れきってすやすやと眠る龍助を起こさないように、そっと部屋に入って行った。
朱里は龍助に借りていた携帯音楽プレイヤーを、彼のベッドの横にある机の上においた。そして、寝息を立てている龍助の顔をゆっくりと見つめる。
「この携帯音楽プレイヤーを貸してくれてありがとう。龍助君の選んだ、いろんな音楽が入っていて、まだまだ全部聞いていないんだけど、楽しかった。素敵な歌を色々覚えたんだよ。そのうちのいくつかがEspoirとして、この『L.D.C.』のクリスタルになったね。全部で7つ…。でも、夢はかなわなかったよ…。」
涙が溢れてきて今にもこぼれそうになり、朱里が右手で口元を押さえて折れそうな気持ちをぐっと抑えようとしていた。龍助のベッドにそっと腰を下ろして、彼の顔をより近くで見ようと顔を近づける。
「ねぇ、私は、あなたがそばにいてくれて、デビルモードになっても暴走せずに平常でいられるようになったの。過去に何度か暴走してから、デビルモードになるのがずっと怖くて、いつ暴走して自分自身をコントロールできなくなって、大切な人を傷つけてしまうのではないかといつも不安だったの。」
龍助の手に自分の手を気づかれないように重ねた。
「でも、暴走してしまったとき、あなたが体を張って止めてくれたんだよね。ぎゅっと抱きしめてくれて…。私を守ってくれると言ってくれて、不安だった私の心が少しずつ解きほぐされていく感じだった。それに、この間は、龍助君がいてくれて私の心があなたの心を感じていれたから暴走しなかったし、怖くもなかった。本当に龍助君のおかげだよ。いつもこんな私を大切に想ってくれて…、本当にうれしかった。好きだよ…。龍助…。」
そっと、手を重ねたまま彼の頬にkissをする。抑えてきた涙がこぼれて、龍助の頬にも落ちる。
彼の頬に落ちた涙を優しく人差し指でふき取って、少し微笑んだらゆっくりと立ち上がる。
「本当に楽しかったね。色々と…。龍助君と二人っきりのデートも。学校のみんなとの生活も。ピクニックにも行ったよね。μを見つけた公園も木漏れ日が心地よかったね。そうだ、μは連れて行くね。リラは私と一緒に戦ったことで魔界にはしばらくは帰れないと思うから、もしあなたの記憶置換後にリラが適応魔法を使ったら、可愛がってあげてね。あの子は、龍助君のことをきっと認めてくれるよ。もう、心は通じているはずだから。」
龍助の部屋を見渡しながら、シンセサイザーの雑誌に目が行った。
「そうそう、龍助君と音楽もしてみたかったなぁ。私が歌って、龍助君がシンセサイザーで。光君もお兄さんの形見のギターで一緒に演奏できると、きっと楽しかっただろうね。私を誘ってくれてありがとう。実現できなくて残念だなぁ…。また、約束を守れなかったね…。ごめんね。」
そして、彼女はもう一度、龍助の方を見つめて、深くお辞儀をしたままこう言った。
「ねぇ、約束を覚えている?私はまだ覚えてるよ。あなたはもう覚えていないと思うけど…。あなたに…、龍助に再び出会えてうれしかった…。また、あなたは記憶置換されて私のことも忘れてしまうかもしれないけれど、私は龍助のことを忘れないよ。」
そして、大きく息を吸った。大きな悲しみに耐えつつ、か弱いその両肩が小刻みに揺れていたが、心を静めて、最後に微笑みなおした。
「サヨナラは言わないよ…。ありがとう、龍助君。」
そう言うと、μをポケットに入れているのを確認して、部屋を出て行ったのだった。
龍助のことを思い出しながら、朱里は歌を口ずさむ。
「震えてる私 声にならない想いを
伝えて欲しいあなたへ...」
その歌は、龍助の携帯音楽プレイヤーの中にあった楽曲[promise]だった。寂しげな朱里の歌をJ.は黙って聞いていた。
「大切なあなた
いつまでも側にいたい
笑顔で優しく見つめていて
心から願う これからも
かわらずに 思い出
二人重ねたい...」
黒いクリスタルが朱里の『L'aile du coeur(心の翼)』にうっすら輝いた。とても切ない彼女の気持ちを表すかのように。8つ目のクリスタルが朱里の胸元に点灯したが、J.は気がつかず、朱里はそっと、『L.D.C.』に魔法の手錠のようなもので拘束された両手で触れながら、その後も歌を悲しげに口ずさんでいた…。
朝、7時すっかり明るくなって、目覚ましで龍助は起床した。朱里の身に何が起こったのか何も知らない彼は、昨日の朱里とのデートを思い出して、少し照れくさそうに目をこすりながら、ベッドそばの机の上に置かれた携帯音楽プレイヤーを見た。
「あれ?麻宮さんに貸しておいたのに、いつの間に。リラがいたずらで持ってきたのかな?そんなことないか…。」
何かいつもと違うと肌で感じて、隣の部屋に向かって、ドアをノックする。
「ねぇ、麻宮さん。リラ?起きてる?」
「お、おはよう。りゅ、龍助。」
扉の奥からリラの声がしたので、龍助はドアを開けて朱里が住んでいた部屋に入って行った。
すると、突然、ドアがバタンと閉まる。驚いて、横を見ると、リラの翼を右手で掴んでぶら下げるようにしている涼が、朱里のベッドに座っていた。
「よぉ。お目覚めかな?」
「あ、あなたは…。麻宮さんをどうしたんだ!」
「お前が起きるまで待ってやったんだから、もう少し歓迎してくれても良いんじゃないか。」
リラを、ぽんと、ベッドの上に投げた。リラがベッドに着地して、布団を掴んでおびえている。
「朱里は、おいらたちに危害を加えないということを引き換えに、連れて行かれたんだ…。」
「何だって!」
龍助が、右の拳をぎゅっと握る。
「お前は、何も知らなかったんだな?そばにいたのに。何も気づかないとは、とんだ王子様だ。お姫様は、苦しんだ挙句、一日だけ、大好きな王子様との想い出作りを願い出て、王子様を助けるために、けなげに投降したのにな。なんとも切ないお話だ。まぁ、お前もジュリア クリスティーも王子とお姫様ではないか。」
馬鹿にするように、涼は龍助に話しながらクールに笑った。龍助が、真実を知って、ガクッと床に座り込んだ。昨日のデートの時に、時々、笑顔の合間に見せた朱里の悲しそうな表情をしていたことを思い出した。
「僕は、気づけなかったのか…。彼女のすぐそばにいたのに。朱里を守るって言ったのに…。」
「それに、ジュリアは大切なことなのに、お前には相談すらしなかったんだぜ。信頼ってそんなものか。まぁ、お前は、今から俺によって記憶置換をされて、ジュリアのことも魔界や異世界のこともすべて忘れてしまうんだから、悩む必要もないな。」
龍助は朱里が相談してくれなかったということを指摘されて、更に落ち込む。リラがベッドの端で落ち込んだ龍助と涼をみながらがくがくと震えている。
「おいらも、知らなかったんだ。龍助…、ごめん。おいらは、ディアブロ様からの命令で、朱里を監視していたんだ…。でも、告げ口をしたわけじゃないよ。そりゃ、朱里と龍助が仲良くしているのには焼もち焼いたこともあったけど。遥も多分言ってないと思う。」
「お前たちが知らないうちにシーズ博士が密偵を放っているんだ。俺には誰かは知らされていないから分からないが、おそらくお前たちのすぐ近くにもな。まぁ、ドラゴンのチビなんかに頼らなくたって、情報なんていくらでも手に入るし、俺一人でもお前たちぐらい処理できる。」
涼がリラのおでこを軽くデコピンした。リラがおびえて、後ろに下がったとたん、ベッドから転げ落ちた。
「おっと、自分から落ちるとは馬鹿だなぁ、気をつけろよ。仮にも、お前もディアブロ様のシモベなんだろう?頼りないなぁ。さて、南龍助。大人しく記憶置換を受けろ。痛くも無いし、今のお前の心も楽になるさ。すべて忘れてしまえ。」
「龍助…。」
涼が立ち上がり、龍助の方へ向けて右手のひらを向けた。リラが、ひっくり返ったまま小さく呟く。龍助はがっかり落ち込んだままで、ショックに打ちひしがれていた。
涼が、記憶置換の魔法を唱えようとした時、突然、窓から遥が飛び込んできた。
「龍助、しっかりしなさいよ!あんたが朱里を忘れちゃってどうするの。あんたの気持ちなんてそんなもんだったの?」
「だって、僕にはどうしようも。彼女を守ることもできないどころか、彼女に助けてもらうだけで、足手まといでしかなかったんだ…。」
「なんだなんだ。仲間割れか。ハルカリお嬢様。ちょうど良い。南龍助の記憶置換が終わったら、あんたのところへ行って、連れて帰るように言われていたので、大人しく待っていろ。」
涼が遥を睨みつけて、その後、記憶置換の呪文を唱え始めた。慌てて、遥が呪文をさえぎるように、涼の前に立ちはだかる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!今の私では、あんたに敵わないのは分かっているから、抵抗はしない。でも、あたしも龍助に別れの挨拶ぐらいさせてもらっても良いでしょう?それとも、あんたは朱里には、甘いのかしら?」
「なんだと!まぁ、良いだろ。ハルカリお嬢様も南龍助が好きなのか?つくづく、龍助という奴は魔族の女にもてるんだな。さっさと別れを告げろ。少しだけ待っていてやる。」
呪文を唱えるのをやめて、涼が手を下ろしてベッドに腰を下ろした。それを確認して遥は床に座り込んでいる龍助に抱きついた。
「ばか。何、落ち込んでいるの。そんなんじゃ、朱里からあんたの心を奪い取るためのやり甲斐が無いじゃない。」
「?」
遥に抱きつかれたまま、その言葉を聞いて龍助が少し驚いた。そして、遥は小さい声で耳元に囁いた。
「私の渡しておいた指輪をちゃんとしている?」
「?」
以前、涼が現れた後で、ディオール家の宝具の指輪を龍助に、同じく宝具で片方だけのピアスを光に渡してあった。龍助は小さくうなずく。
「よしよし。あんたにしたら上出来。しばらく大人しくしておきなさいよ。また来るから、頭を冷やしておきなさい。」
そう言うと龍助に再びぎゅっと抱きついてウインクしたら、一言、口にした。
「大好きだよ。龍助。またね。」
「…?。またね…?」
朱里の投降に関してのショックと遥の言動に困惑しながらうつむいたままの龍助から、遥が立ち上がって涼に言った。
「さっさと、やっちゃって。」
「そうか。じゃぁ、心置きなく。」
そう言うと、再び、龍助に右手の平を向けて呪文を唱えた。
呪文を唱え終わった後で、遥の肩をぽんと叩いた。
「しばらくしたら、南龍助も記憶置換後に正気に戻るだろうから、行くぞ、ハルカリお嬢様。それから、そこのチビドラゴン!お前は何処でも好きなところへ行け。ジュリアに加担した罪があるが、お前にとってジュリアとの主従の契約に逆らえなかったことを考慮して、魔界からはしばらく追放だ。ありがたく思え。シーズ博士のご配慮だ。せっかく拾った命を大切にしろ。人間に見つからないようにな。」
リラが、小さく三度うなずく。
そして、涼はゲートを開き魔界へ遥と共に帰っていった。
朱里の住んでいた部屋にただぽつんと小さく龍助が座り込んでいた。そして、リラが心配そうに龍助を見つめていた…。
「何も無いわ。」
朱里はJ.が開いたゲートから魔界への『世界の穴』の『perte mondiale』へ入る前に立ち止まって振り返る。日の出間もない時間で、朝早くて人影も無い。その視線の先には龍助の家があった。朱里の両手には黒く光る魔法によって手錠のようなものがかかっている。魔力を無効化しているようだ。
「だったら、大人しくまっすぐ歩け。おい、R.。お前は、龍助の記憶置換とハルカリの奴を連れてくるんだったな?」
「あぁ、そうだ。J.はジュリアをちゃんと魔界へ送り届けろ。もう抵抗はしないだろうから、お前は手を出すな。分かったな?」
「言われ無くったって分かってるよ。バカやろう。」
そう涼に、はき捨てるようにJ.は言った。J.の髪には以前、龍助からもらった花のついた髪飾りがしてあった。朱里がその花の髪飾りを見ながら言う。
「綺麗ね。その髪飾り。あなたにとても似合っているわよ。」
「う、うるさい!こんなもの。」
慌てて、髪飾りを取ってポケットにしまう。朱里に褒められて、少しうれしいような腹立たしいような顔をしながら、J.は珍しく照れているようだった。
「そろそろジュリアを連れて行け!引き続き、俺は任務を遂行する。」
「龍助君には、手荒なまねをしないでね。約束を守ってね。涼さん。」
朱里が涼に向かって確認をする。
「分かっている。ただし、南龍助が大人しくしていればだ。」
「それから、遥ちゃん…、ハルカリ ディオールさんのことも。」
「約束は守る。しかし、お前たちが抵抗すれば、悪いがこちらも手荒なまねをしなければなくなる。以上だ。」
クールに涼が答えて、首をゲートの方へ2度振って、朱里に出発するように合図をする。
「うん…。龍助君…。ごめんね。そして、ありがとう。」
朱里が龍助の家の方に振り返りながら、J.に背中を押されるようにして、魔界へ消えていった。続いてJ.も消える。
「さて、南龍助の記憶置換にかかるとするか。」
涼が龍助の家へ一歩一歩ゆっくりと歩き出した。
人間界と魔界の世界の穴同士を繋ぐ『passage』という通路を魔界へ向かって通過中に、朱里は涼に投降する前に龍助の部屋に別れを告げに行ったことを思い出していた。
朱里とのデートで疲れきってすやすやと眠る龍助を起こさないように、そっと部屋に入って行った。
朱里は龍助に借りていた携帯音楽プレイヤーを、彼のベッドの横にある机の上においた。そして、寝息を立てている龍助の顔をゆっくりと見つめる。
「この携帯音楽プレイヤーを貸してくれてありがとう。龍助君の選んだ、いろんな音楽が入っていて、まだまだ全部聞いていないんだけど、楽しかった。素敵な歌を色々覚えたんだよ。そのうちのいくつかがEspoirとして、この『L.D.C.』のクリスタルになったね。全部で7つ…。でも、夢はかなわなかったよ…。」
涙が溢れてきて今にもこぼれそうになり、朱里が右手で口元を押さえて折れそうな気持ちをぐっと抑えようとしていた。龍助のベッドにそっと腰を下ろして、彼の顔をより近くで見ようと顔を近づける。
「ねぇ、私は、あなたがそばにいてくれて、デビルモードになっても暴走せずに平常でいられるようになったの。過去に何度か暴走してから、デビルモードになるのがずっと怖くて、いつ暴走して自分自身をコントロールできなくなって、大切な人を傷つけてしまうのではないかといつも不安だったの。」
龍助の手に自分の手を気づかれないように重ねた。
「でも、暴走してしまったとき、あなたが体を張って止めてくれたんだよね。ぎゅっと抱きしめてくれて…。私を守ってくれると言ってくれて、不安だった私の心が少しずつ解きほぐされていく感じだった。それに、この間は、龍助君がいてくれて私の心があなたの心を感じていれたから暴走しなかったし、怖くもなかった。本当に龍助君のおかげだよ。いつもこんな私を大切に想ってくれて…、本当にうれしかった。好きだよ…。龍助…。」
そっと、手を重ねたまま彼の頬にkissをする。抑えてきた涙がこぼれて、龍助の頬にも落ちる。
彼の頬に落ちた涙を優しく人差し指でふき取って、少し微笑んだらゆっくりと立ち上がる。
「本当に楽しかったね。色々と…。龍助君と二人っきりのデートも。学校のみんなとの生活も。ピクニックにも行ったよね。μを見つけた公園も木漏れ日が心地よかったね。そうだ、μは連れて行くね。リラは私と一緒に戦ったことで魔界にはしばらくは帰れないと思うから、もしあなたの記憶置換後にリラが適応魔法を使ったら、可愛がってあげてね。あの子は、龍助君のことをきっと認めてくれるよ。もう、心は通じているはずだから。」
龍助の部屋を見渡しながら、シンセサイザーの雑誌に目が行った。
「そうそう、龍助君と音楽もしてみたかったなぁ。私が歌って、龍助君がシンセサイザーで。光君もお兄さんの形見のギターで一緒に演奏できると、きっと楽しかっただろうね。私を誘ってくれてありがとう。実現できなくて残念だなぁ…。また、約束を守れなかったね…。ごめんね。」
そして、彼女はもう一度、龍助の方を見つめて、深くお辞儀をしたままこう言った。
「ねぇ、約束を覚えている?私はまだ覚えてるよ。あなたはもう覚えていないと思うけど…。あなたに…、龍助に再び出会えてうれしかった…。また、あなたは記憶置換されて私のことも忘れてしまうかもしれないけれど、私は龍助のことを忘れないよ。」
そして、大きく息を吸った。大きな悲しみに耐えつつ、か弱いその両肩が小刻みに揺れていたが、心を静めて、最後に微笑みなおした。
「サヨナラは言わないよ…。ありがとう、龍助君。」
そう言うと、μをポケットに入れているのを確認して、部屋を出て行ったのだった。
龍助のことを思い出しながら、朱里は歌を口ずさむ。
「震えてる私 声にならない想いを
伝えて欲しいあなたへ...」
その歌は、龍助の携帯音楽プレイヤーの中にあった楽曲[promise]だった。寂しげな朱里の歌をJ.は黙って聞いていた。
「大切なあなた
いつまでも側にいたい
笑顔で優しく見つめていて
心から願う これからも
かわらずに 思い出
二人重ねたい...」
黒いクリスタルが朱里の『L'aile du coeur(心の翼)』にうっすら輝いた。とても切ない彼女の気持ちを表すかのように。8つ目のクリスタルが朱里の胸元に点灯したが、J.は気がつかず、朱里はそっと、『L.D.C.』に魔法の手錠のようなもので拘束された両手で触れながら、その後も歌を悲しげに口ずさんでいた…。
朝、7時すっかり明るくなって、目覚ましで龍助は起床した。朱里の身に何が起こったのか何も知らない彼は、昨日の朱里とのデートを思い出して、少し照れくさそうに目をこすりながら、ベッドそばの机の上に置かれた携帯音楽プレイヤーを見た。
「あれ?麻宮さんに貸しておいたのに、いつの間に。リラがいたずらで持ってきたのかな?そんなことないか…。」
何かいつもと違うと肌で感じて、隣の部屋に向かって、ドアをノックする。
「ねぇ、麻宮さん。リラ?起きてる?」
「お、おはよう。りゅ、龍助。」
扉の奥からリラの声がしたので、龍助はドアを開けて朱里が住んでいた部屋に入って行った。
すると、突然、ドアがバタンと閉まる。驚いて、横を見ると、リラの翼を右手で掴んでぶら下げるようにしている涼が、朱里のベッドに座っていた。
「よぉ。お目覚めかな?」
「あ、あなたは…。麻宮さんをどうしたんだ!」
「お前が起きるまで待ってやったんだから、もう少し歓迎してくれても良いんじゃないか。」
リラを、ぽんと、ベッドの上に投げた。リラがベッドに着地して、布団を掴んでおびえている。
「朱里は、おいらたちに危害を加えないということを引き換えに、連れて行かれたんだ…。」
「何だって!」
龍助が、右の拳をぎゅっと握る。
「お前は、何も知らなかったんだな?そばにいたのに。何も気づかないとは、とんだ王子様だ。お姫様は、苦しんだ挙句、一日だけ、大好きな王子様との想い出作りを願い出て、王子様を助けるために、けなげに投降したのにな。なんとも切ないお話だ。まぁ、お前もジュリア クリスティーも王子とお姫様ではないか。」
馬鹿にするように、涼は龍助に話しながらクールに笑った。龍助が、真実を知って、ガクッと床に座り込んだ。昨日のデートの時に、時々、笑顔の合間に見せた朱里の悲しそうな表情をしていたことを思い出した。
「僕は、気づけなかったのか…。彼女のすぐそばにいたのに。朱里を守るって言ったのに…。」
「それに、ジュリアは大切なことなのに、お前には相談すらしなかったんだぜ。信頼ってそんなものか。まぁ、お前は、今から俺によって記憶置換をされて、ジュリアのことも魔界や異世界のこともすべて忘れてしまうんだから、悩む必要もないな。」
龍助は朱里が相談してくれなかったということを指摘されて、更に落ち込む。リラがベッドの端で落ち込んだ龍助と涼をみながらがくがくと震えている。
「おいらも、知らなかったんだ。龍助…、ごめん。おいらは、ディアブロ様からの命令で、朱里を監視していたんだ…。でも、告げ口をしたわけじゃないよ。そりゃ、朱里と龍助が仲良くしているのには焼もち焼いたこともあったけど。遥も多分言ってないと思う。」
「お前たちが知らないうちにシーズ博士が密偵を放っているんだ。俺には誰かは知らされていないから分からないが、おそらくお前たちのすぐ近くにもな。まぁ、ドラゴンのチビなんかに頼らなくたって、情報なんていくらでも手に入るし、俺一人でもお前たちぐらい処理できる。」
涼がリラのおでこを軽くデコピンした。リラがおびえて、後ろに下がったとたん、ベッドから転げ落ちた。
「おっと、自分から落ちるとは馬鹿だなぁ、気をつけろよ。仮にも、お前もディアブロ様のシモベなんだろう?頼りないなぁ。さて、南龍助。大人しく記憶置換を受けろ。痛くも無いし、今のお前の心も楽になるさ。すべて忘れてしまえ。」
「龍助…。」
涼が立ち上がり、龍助の方へ向けて右手のひらを向けた。リラが、ひっくり返ったまま小さく呟く。龍助はがっかり落ち込んだままで、ショックに打ちひしがれていた。
涼が、記憶置換の魔法を唱えようとした時、突然、窓から遥が飛び込んできた。
イラスト:hata_hataさん
「だって、僕にはどうしようも。彼女を守ることもできないどころか、彼女に助けてもらうだけで、足手まといでしかなかったんだ…。」
「なんだなんだ。仲間割れか。ハルカリお嬢様。ちょうど良い。南龍助の記憶置換が終わったら、あんたのところへ行って、連れて帰るように言われていたので、大人しく待っていろ。」
涼が遥を睨みつけて、その後、記憶置換の呪文を唱え始めた。慌てて、遥が呪文をさえぎるように、涼の前に立ちはだかる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!今の私では、あんたに敵わないのは分かっているから、抵抗はしない。でも、あたしも龍助に別れの挨拶ぐらいさせてもらっても良いでしょう?それとも、あんたは朱里には、甘いのかしら?」
「なんだと!まぁ、良いだろ。ハルカリお嬢様も南龍助が好きなのか?つくづく、龍助という奴は魔族の女にもてるんだな。さっさと別れを告げろ。少しだけ待っていてやる。」
呪文を唱えるのをやめて、涼が手を下ろしてベッドに腰を下ろした。それを確認して遥は床に座り込んでいる龍助に抱きついた。
「ばか。何、落ち込んでいるの。そんなんじゃ、朱里からあんたの心を奪い取るためのやり甲斐が無いじゃない。」
「?」
遥に抱きつかれたまま、その言葉を聞いて龍助が少し驚いた。そして、遥は小さい声で耳元に囁いた。
「私の渡しておいた指輪をちゃんとしている?」
「?」
以前、涼が現れた後で、ディオール家の宝具の指輪を龍助に、同じく宝具で片方だけのピアスを光に渡してあった。龍助は小さくうなずく。
「よしよし。あんたにしたら上出来。しばらく大人しくしておきなさいよ。また来るから、頭を冷やしておきなさい。」
そう言うと龍助に再びぎゅっと抱きついてウインクしたら、一言、口にした。
「大好きだよ。龍助。またね。」
「…?。またね…?」
朱里の投降に関してのショックと遥の言動に困惑しながらうつむいたままの龍助から、遥が立ち上がって涼に言った。
「さっさと、やっちゃって。」
「そうか。じゃぁ、心置きなく。」
そう言うと、再び、龍助に右手の平を向けて呪文を唱えた。
呪文を唱え終わった後で、遥の肩をぽんと叩いた。
「しばらくしたら、南龍助も記憶置換後に正気に戻るだろうから、行くぞ、ハルカリお嬢様。それから、そこのチビドラゴン!お前は何処でも好きなところへ行け。ジュリアに加担した罪があるが、お前にとってジュリアとの主従の契約に逆らえなかったことを考慮して、魔界からはしばらく追放だ。ありがたく思え。シーズ博士のご配慮だ。せっかく拾った命を大切にしろ。人間に見つからないようにな。」
リラが、小さく三度うなずく。
そして、涼はゲートを開き魔界へ遥と共に帰っていった。
朱里の住んでいた部屋にただぽつんと小さく龍助が座り込んでいた。そして、リラが心配そうに龍助を見つめていた…。
to be continued...
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
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[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
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[monologue feat.神威がくぽ] shin
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[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
一色遥(デビルモード)
イラスト:hata_hataさん