Episode 008
サヨナラは言わないよ...そして約束(後編)
music:[promise]
前回までの『L.D.C.』
彼女を守れなかったことと、彼女が相談してくれなかったこと、そして、彼女の悩みに気づかずにデートを楽しんでいた自分に打ちのめされた。
龍助の記憶置換をしようとした涼の前に遥が現れ、打ちのめされたままの龍助を思いを込めてぎゅっと抱きしめる。ハルカリ家の宝具の一つである魔力を弱める指輪をしているかを確認後、「大好きだよ。龍助。またね。」と言い残した。その後、涼が龍助に記憶置換の魔法をかけて、遥は涼によって魔界へ連れて行かれた。
後に残ったのは、落ち込んだ龍助と、その姿を心配そうに見つめる魔界を追放されたリラだった。ハルカリ家の指輪のおかげで、龍助の記憶置換はされなかった。
龍助は打ちのめされたまま、音楽も辞めて、朱里を忘れようとするのだが...。
遥は、魔界でも有力な大貴族のお嬢様ということで、魔界のディオール家に連れ戻され、自宅謹慎処分ですんだ。
朱里は、取調べの後、魔界の牢へ監禁された。遥の働きかけによって、ディオール家の頭首である遥の父が朱里を牢獄から、何重にも封印魔法効果のかかった宮殿奥の部屋に拘束されることになった。
朱里があらかじめ、適応魔法の応用をかけていた、龍助の家族や仲間などに魔法を解除していたために、彼女が去った時には、もう彼女の存在を仲間は忘れてしまっていた。
しかし、龍助は、遥に渡されていた指輪のおかげで、記憶置換の魔法効果が効かず、同じく、もう一人、朱里と遥のことを忘れていない人間がいた。
光だった。彼も、遥から受け取った片方だけのピアスを肌身離さずつけていたため、朱里の適応魔法の解除がされないままだったのだ。
リラはしばらく龍助の部屋にいることになった。本来であれば、龍助が記憶置換されて朱里や異世界のことを忘れ、普通に生活する予定だったので、リラは龍助の前から姿を消すべきであった。しかし、記憶置換されなかったままの落ち込んだ龍助を放っておけなかったからだ。
朱里と遥が魔界へ連れ戻された翌日の月曜日、学校へ龍助が登校すると、クラスメートたちは、朱里がもともといなかったように生活していた。その様子に、気がつき、光が慌てて龍助を校舎の屋上に呼び出して、事情を聞き出した。
「そんなことがあったのか…。」
「もう、君も忘れたほうが良いよ。音楽もやめるよ。朱里を思い出してしまって、つらいから。」
「何、言っているんだ、龍助。悔しくないのか?朱里を取り戻さなくて。お前が守らなくてどうするんだ!」
「無駄だよ。それに、彼女は、僕には何も相談してくれなかったんだよ…。」
突然、光が龍助を一発、殴る。龍助が地面に転がって、光が、殴った拳をもう片方の左手でさするようなしぐさをした。
「馬鹿やろう!朱里はお前のことを大切に思っていたから話せなかったんだろう?それに、何もやってもないのに、無駄と決め付けて、あきらめるな。」
「だって、僕は役に立てないんだよ。足手まといなんだ…。僕だって悔しいよ…。でも、ちっぽけな人間の僕には何もできないんだ…。」
地面に転がったまま龍助が涙を流す。光が悔しそうに、後ろを向いて、壁に拳をぶつける。
「くそっ。どいつもこいつも、俺の前から姿を消しやがって!もう誰も消えて欲しくないのに。」
「あらあら、何とも、男の涙は見たくないものね。見苦しい。」
「?」
「一色?」
龍助と光が同時に同じ方向を見る。そこには、遥が腰に手を当てて、ちょっとつんとした感じで立っていた。
「お、お前、大丈夫なのか?連れ戻されたと龍助が言っていたぞ。」
「あら、あたしを誰だと思っているの?魔界でも名高いディオール家のお嬢様よ。それに幼い頃からお屋敷から良く抜け出しては、朱里と遊んでいたから、同じ要領でお屋敷を抜けることなんて朝飯前なのよ。」
遥が龍助の前に歩いていく。
「またね、って言ったでしょう?腑抜けた耳では聞き取れなかったかしら?…あ、あの時、その前に言ったことは、じょ、じょ、冗談だからね。」
少し思い出して、遥が照れたようにあたふたした。その様子を光が覗き込む。
「?」
「佐伯君は知らなくて良いの。それよりも、朱里を奪い返しに行くわよ!」
龍助が、あきらめた顔でうつむく。すると、遥が更に近寄って、龍助の襟裳を左手で掴んで引き寄せて、右手の平で数発のビンタをした。
「?」
「目を覚ましなさいよ!あんた男でしょう?朱里はきっと待っているよ。あんたを待っているの。私が助けに行っても意味が無いの。あんたじゃないと!分かる?あ・ん・た・を・ま・っ・て・る・の!!」
遥は、手を離して、龍助に鞄の中から取り出したリラを軽く投げつけた。
「ひ、ひどいよ。遥…。」
「あんたもしっかりしなさい。偉大なドラゴンなんでしょう?もっと根性があると思っていたわ!がっかり。」
リラが、はっとする。
「ハルカリ…。わ、悪かった。弱気になってしまって。おいらはドラゴンだ。」
龍助の肩にパタパタと飛んで停まる。
「おいら、朱里を取り戻したい…。おいらは魔力がない人間をマスターにしたくなかった。朱里だけが、おいらのマスターと決めていたし。だけど、それはちっぽけな安っぽいプライドだったんだ。おいらは大切なものを守るためにre-writeするように生まれてきたんだった。そして、その目的に、マスターが、人間か魔族かなんて関係ないんだ。大切なのは、守りたいものを一緒に戦って守ってくれるマスターだということなんだ。」
「あんた、なかなか良いことを言うこともあるのね?少し見直したわ。」
リラと遥が微笑む。
「ほら、リラも立ち上がったよ。龍助はどうなの?あんたはどうしたいの?」
「でも、僕は、足手まといにしかならない…。」
「まだ、ぐじぐじしているの?しっかりしなさいよ!あたしを失望させないで。」
「俺も力になるから。」
光が龍助に向かって言う。しかし、遥がうつむいて言う。
「悪いけど、佐伯君は連れて行けない。」
「え?俺だって、朱里を助けたいし、みんなの力になりたい!」
「だったら、今回は大人しく人間界にいて、私たちの帰るのを待っていて。ごめんね。龍助は、偶然、re-writeできたみたいだけど、残念ながらあなたには無理だと思う。無力な状態で、大人しく通してくれるようなそんな甘いものじゃないの。今からしようとしていることは。」
「…。」
光が左手の拳をぎゅっと握った。
そんな光を気遣いつつも、光から龍助に視線を移しながら遥は続けた。
「それに、龍助だって、re-wirite出来たといっても、リラに聞いたら戦闘経験が無いからあっさり負けたそうなの…。そうだ!龍助を短期間で訓練するから、あなたもその力になって。」
「分かったよ。どうやら、俺は、一色や龍助とは違う普通の人間なんだ。でも、できることは、力になれることはやりたい。もう、誰も俺の前からいなくなってほしくないから!龍助、仲間を、朱里を取り戻しに行ってくれ。俺の分まで…。それから…、一色を守ってやってくれ…。できれば俺が代わってやりたい。でも、俺じゃ駄目みたいなんだ。お前には、それができるんだぞ!」
悔しそうな光を見ながら、龍助が口を開いた。
「光…。わ、分かったよ。僕も、麻宮さんを助けたい。会って、話したいことや伝えたいことが一杯ある。」
「龍助…。」
深呼吸をしてから、遥,光,リラへと視線を移し、再び遥の目をしっかり見て言った。
「遥ちゃん、ごめん。僕、がんばってみるよ。前に進んでみる。そして、麻宮さんを取り戻して、光や、みんなの前に遥ちゃんとリラと4人で帰ってくるよ。僕を訓練して欲しい。」
遥はうれしそうに大きくうなずいた。
「よく言った。頼んだぞ、龍助。俺も訓練を手伝うから。」
光が親指を立てて、右目で龍助へウインクをした。
「お、おいらも龍助をサポートするから、ヨロシクな。」
リラもまねをするが、ウインクが上手くできなかった。両目を瞬きしてうれしそうに翼をパタパタさせていた。
「うん、ありがとう。それから、リラと僕は、主従関係でなくて、仲間だよ。それで良いんじゃないかな?」
龍助がリラののどをなでながら言う。リラは、うれしそうに目を閉じる。
翌日から、龍助は5日間、町外れにある森の中で龍助の訓練を行った。
第一段階は、モードチェンジをした遥が氷攻撃魔法で攻撃し、それをre-writeしたリラを龍助が装備して、攻撃をよけたり、受け流したり、受け返す、『防御』の練習だった。
第二段階は、テニス部の光にラケットで魔法効果を封じ込めたボールのようなものをサーブさせて、それを正確に粉砕するという、『攻撃』の練習だった。魔法効果には、火系,氷系,雷系,風系の4種類のものを用意して、魔法効果の低いものがメインだったが様々な魔法になれていった。
そして、第三段階は、遥と龍助の『実戦形式の訓練』だった。まだ、遥に勝てるような戦力は龍助には無かったのだが、遥の攻撃を受け流したり、遥のスピードに少しずつ付いていけるようになって、仲間のおかげで龍助は訓練前と比べて心身ともに少しだけ強くなっていっていた。
魔界へ出発する前日に、龍助と遥,光,リラの三人と一匹は、朱里が住んでいた部屋に集まって最後のミーティングをしていた。
「良く頑張ったな、龍助。」
「ありがとう、光。みんなのおかげだよ。」
光が、龍助の頭をぐちゃぐちゃになぜながら褒めてやった。すると、遥が言う。
「でも、たいして強くなってないかもね。まぁ、あんたにしては上出来よ。そもそも、あたしのレベルまでなんて、そんなすぐになれるもんじゃないわ。」
「そうだね。遥…、いや一色さんは、生まれつき才能がある上に、努力家で頑張っているもんね。」
「そ、そうよ…。あんたなんかが、いくら努力してもあたしは負けないんだから。あ、これ!」
龍助の言葉に照れくさそうにしながら、ふと、朱里の使っていた本棚に携帯音楽プレイヤーが置かれていることに気が付いた。
「あ、うん。麻宮さんに貸してあげていたものだから。なんだか、置いておこうかと思って。僕は、携帯電話でも聞けるし。」
「ねぇ、だったら、私に貸してよ。その携帯音楽プレイヤーを。」
立ち上がって、本棚から携帯音楽プレイヤーを手にとって、遥が龍助におねだりする。
「えっ?」
「朱里を助け出すまでで良いから。助け出したら、返してあげるから、良いでしょう?ねぇ?それとも、朱里には貸して、私には貸せないとでも言うの?」
遥が龍助に迫る。
「いや…。良いよ。」
「ありがとう!!龍助!!」
うれしそうに遥が明るく微笑む。すぐに、イヤフォンを耳に付けて音楽を聴き始めていた。
「そんなに携帯音楽プレイヤーが使いたかったら、俺のを貸してやるのに。」
「あたしは、これが良いの。朱里と一緒の龍助のが。」
傍らでビスケットを黙々とかじっていたリラがもぐもぐしながらしゃべる。
「まぁまぁ。おいらは、龍助の成長にびっくりしたよ。re-writeの適合率が日に日に高まってくるのを感じて、なんだか勇気が出たよ。」
「そうだね。僕も。」
リラと龍助が微笑む。
「なんだ、リラ。俺と龍助の方が付き合いが長いし、幼馴染で親友なんだぜ。」
光がちょっと焼きもちを焼いたようなふりを冗談でやる。
「おぅ。だったら、おいらと光も親友だ。」
「なんなのよ、あんた達、気持ち悪いわね。」
「遥も入るか?というか、お前も朱里もおいら達の親友だし、大切な仲間だったな。」
リラが声をかける。龍助と光も遥を見上げる。遥が少し涙ぐみながら、答える。
「しょうがないなぁ…。あんた達を仲間にしてあげるわよ。」
翌日の朝、学校の校舎の屋上には、龍助,リラと見送る光の姿があった。
「一色さんは、もう少ししたら来ると思うけど。まだ来ていないみたいだね。」
「必ず、朱里を取り戻してこいよ。それから、一色のことも守ってやれよ。俺には一色を守ってやれないから…。」
光の気持ちを察して、リラが話す。
「おいらと龍助に任せろ。それに、遥は強い女の子だ。それよりも、光も気をつけてな。一応、適応魔法をかけておいたから、龍助と遥が魔界へ潜入しても人間界での混乱は無いとは思うが、どこに危険が潜んでいるか分からないから。」
「分かった。ちゃんと一色から預かったピアスは安全のために身に着けておくよ。頼むな、リラ。」
屋上へ通じるドアが開く。
「ごめ~ん。ちょっと遅くなったかな?」
遥が駆け寄る。その耳には龍助から借りた携帯音楽プレイヤーのイヤフォンが装着されていた。
「いや、待ち合わせ時間よりも数分前だから気にしないでも良いよ。」
「それじゃぁ、ゲートを開くよ。下がって。」
遥が適応魔法を解除してモードチェンジして、ロッドを取りだし、続いて魔方陣を描いて、魔界へのゲートを開いた。
光が手の甲を上にして仲間の中央に差し出す。
黙ったまま、龍助がその手の上に手をのせる。遥も続いた。最後にリラがパタパタと小さな翼で飛んでいき龍助の腕にとまって、肉球の付いた小さなその手をちょこんとのせた。
「必ず帰ってこいよ!待っているからな。」
龍助たちが大きくうなずく。
「じゃぁ、行ってくるね。」
「遥、おいら達は先にゆっくりと行っているから、じゃぁな。」
龍助の肩にリラが止まったことを確認して、龍助が魔界へ向けて『世界の穴』の『perte mondiale』に飛び込む。
遥がゆっくりと飛び込もうとした時、光が声をかける。
「一色!!必ず帰って来いよ。待っているからな。龍助やリラも頼む。」
振り返って微笑む。彼女のイヤフォンには、[promise]が流れている。
「覚えてる?二人
描いた夢の約束
小指を交わして祈ったよね
いつまでも 私 感じている
あなたのぬくもり
ずっとこの胸に...」
光に小指を少し見せて指きりの仕草をする。
「ありがとう。心配してくれて。必ず帰ってくるよ。約束する。朱里も一緒にみんなで。」
そう言うと、魔界へ向けて遥も出発していった。すぐに、ゲートは消えて、光がゲートのあった方向をずっと見つめながら、「みんな無事に帰ってきてくれ!」と強く強く祈った。
屋上の入り口からその様子を伺っている人影があった。
「やっぱり、行きよったか…。あいつら。」
そして、少し離れた高層マンションの一室から龍助たちがゲートに入っていく様子を見ていた者もいた。
「なんなんだ、今のは…。龍助たちはいったい何者なんだ?」
メガネをはずして、フレームを拭きながら動揺した心をおさめようとしていた。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年は少女を守るために新たな世界へ、仲間と共に旅立った。
朱里は、取調べの後、魔界の牢へ監禁された。遥の働きかけによって、ディオール家の頭首である遥の父が朱里を牢獄から、何重にも封印魔法効果のかかった宮殿奥の部屋に拘束されることになった。
朱里があらかじめ、適応魔法の応用をかけていた、龍助の家族や仲間などに魔法を解除していたために、彼女が去った時には、もう彼女の存在を仲間は忘れてしまっていた。
しかし、龍助は、遥に渡されていた指輪のおかげで、記憶置換の魔法効果が効かず、同じく、もう一人、朱里と遥のことを忘れていない人間がいた。
光だった。彼も、遥から受け取った片方だけのピアスを肌身離さずつけていたため、朱里の適応魔法の解除がされないままだったのだ。
リラはしばらく龍助の部屋にいることになった。本来であれば、龍助が記憶置換されて朱里や異世界のことを忘れ、普通に生活する予定だったので、リラは龍助の前から姿を消すべきであった。しかし、記憶置換されなかったままの落ち込んだ龍助を放っておけなかったからだ。
朱里と遥が魔界へ連れ戻された翌日の月曜日、学校へ龍助が登校すると、クラスメートたちは、朱里がもともといなかったように生活していた。その様子に、気がつき、光が慌てて龍助を校舎の屋上に呼び出して、事情を聞き出した。
「そんなことがあったのか…。」
「もう、君も忘れたほうが良いよ。音楽もやめるよ。朱里を思い出してしまって、つらいから。」
「何、言っているんだ、龍助。悔しくないのか?朱里を取り戻さなくて。お前が守らなくてどうするんだ!」
「無駄だよ。それに、彼女は、僕には何も相談してくれなかったんだよ…。」
突然、光が龍助を一発、殴る。龍助が地面に転がって、光が、殴った拳をもう片方の左手でさするようなしぐさをした。
「馬鹿やろう!朱里はお前のことを大切に思っていたから話せなかったんだろう?それに、何もやってもないのに、無駄と決め付けて、あきらめるな。」
「だって、僕は役に立てないんだよ。足手まといなんだ…。僕だって悔しいよ…。でも、ちっぽけな人間の僕には何もできないんだ…。」
地面に転がったまま龍助が涙を流す。光が悔しそうに、後ろを向いて、壁に拳をぶつける。
「くそっ。どいつもこいつも、俺の前から姿を消しやがって!もう誰も消えて欲しくないのに。」
イラスト:hata_hataさん
「?」
「一色?」
龍助と光が同時に同じ方向を見る。そこには、遥が腰に手を当てて、ちょっとつんとした感じで立っていた。
「お、お前、大丈夫なのか?連れ戻されたと龍助が言っていたぞ。」
「あら、あたしを誰だと思っているの?魔界でも名高いディオール家のお嬢様よ。それに幼い頃からお屋敷から良く抜け出しては、朱里と遊んでいたから、同じ要領でお屋敷を抜けることなんて朝飯前なのよ。」
遥が龍助の前に歩いていく。
「またね、って言ったでしょう?腑抜けた耳では聞き取れなかったかしら?…あ、あの時、その前に言ったことは、じょ、じょ、冗談だからね。」
少し思い出して、遥が照れたようにあたふたした。その様子を光が覗き込む。
「?」
「佐伯君は知らなくて良いの。それよりも、朱里を奪い返しに行くわよ!」
龍助が、あきらめた顔でうつむく。すると、遥が更に近寄って、龍助の襟裳を左手で掴んで引き寄せて、右手の平で数発のビンタをした。
「?」
「目を覚ましなさいよ!あんた男でしょう?朱里はきっと待っているよ。あんたを待っているの。私が助けに行っても意味が無いの。あんたじゃないと!分かる?あ・ん・た・を・ま・っ・て・る・の!!」
遥は、手を離して、龍助に鞄の中から取り出したリラを軽く投げつけた。
「ひ、ひどいよ。遥…。」
「あんたもしっかりしなさい。偉大なドラゴンなんでしょう?もっと根性があると思っていたわ!がっかり。」
リラが、はっとする。
「ハルカリ…。わ、悪かった。弱気になってしまって。おいらはドラゴンだ。」
龍助の肩にパタパタと飛んで停まる。
「おいら、朱里を取り戻したい…。おいらは魔力がない人間をマスターにしたくなかった。朱里だけが、おいらのマスターと決めていたし。だけど、それはちっぽけな安っぽいプライドだったんだ。おいらは大切なものを守るためにre-writeするように生まれてきたんだった。そして、その目的に、マスターが、人間か魔族かなんて関係ないんだ。大切なのは、守りたいものを一緒に戦って守ってくれるマスターだということなんだ。」
「あんた、なかなか良いことを言うこともあるのね?少し見直したわ。」
リラと遥が微笑む。
「ほら、リラも立ち上がったよ。龍助はどうなの?あんたはどうしたいの?」
「でも、僕は、足手まといにしかならない…。」
「まだ、ぐじぐじしているの?しっかりしなさいよ!あたしを失望させないで。」
「俺も力になるから。」
光が龍助に向かって言う。しかし、遥がうつむいて言う。
「悪いけど、佐伯君は連れて行けない。」
「え?俺だって、朱里を助けたいし、みんなの力になりたい!」
「だったら、今回は大人しく人間界にいて、私たちの帰るのを待っていて。ごめんね。龍助は、偶然、re-writeできたみたいだけど、残念ながらあなたには無理だと思う。無力な状態で、大人しく通してくれるようなそんな甘いものじゃないの。今からしようとしていることは。」
「…。」
光が左手の拳をぎゅっと握った。
そんな光を気遣いつつも、光から龍助に視線を移しながら遥は続けた。
「それに、龍助だって、re-wirite出来たといっても、リラに聞いたら戦闘経験が無いからあっさり負けたそうなの…。そうだ!龍助を短期間で訓練するから、あなたもその力になって。」
「分かったよ。どうやら、俺は、一色や龍助とは違う普通の人間なんだ。でも、できることは、力になれることはやりたい。もう、誰も俺の前からいなくなってほしくないから!龍助、仲間を、朱里を取り戻しに行ってくれ。俺の分まで…。それから…、一色を守ってやってくれ…。できれば俺が代わってやりたい。でも、俺じゃ駄目みたいなんだ。お前には、それができるんだぞ!」
悔しそうな光を見ながら、龍助が口を開いた。
「光…。わ、分かったよ。僕も、麻宮さんを助けたい。会って、話したいことや伝えたいことが一杯ある。」
「龍助…。」
深呼吸をしてから、遥,光,リラへと視線を移し、再び遥の目をしっかり見て言った。
「遥ちゃん、ごめん。僕、がんばってみるよ。前に進んでみる。そして、麻宮さんを取り戻して、光や、みんなの前に遥ちゃんとリラと4人で帰ってくるよ。僕を訓練して欲しい。」
遥はうれしそうに大きくうなずいた。
「よく言った。頼んだぞ、龍助。俺も訓練を手伝うから。」
光が親指を立てて、右目で龍助へウインクをした。
「お、おいらも龍助をサポートするから、ヨロシクな。」
リラもまねをするが、ウインクが上手くできなかった。両目を瞬きしてうれしそうに翼をパタパタさせていた。
「うん、ありがとう。それから、リラと僕は、主従関係でなくて、仲間だよ。それで良いんじゃないかな?」
龍助がリラののどをなでながら言う。リラは、うれしそうに目を閉じる。
翌日から、龍助は5日間、町外れにある森の中で龍助の訓練を行った。
第一段階は、モードチェンジをした遥が氷攻撃魔法で攻撃し、それをre-writeしたリラを龍助が装備して、攻撃をよけたり、受け流したり、受け返す、『防御』の練習だった。
第二段階は、テニス部の光にラケットで魔法効果を封じ込めたボールのようなものをサーブさせて、それを正確に粉砕するという、『攻撃』の練習だった。魔法効果には、火系,氷系,雷系,風系の4種類のものを用意して、魔法効果の低いものがメインだったが様々な魔法になれていった。
そして、第三段階は、遥と龍助の『実戦形式の訓練』だった。まだ、遥に勝てるような戦力は龍助には無かったのだが、遥の攻撃を受け流したり、遥のスピードに少しずつ付いていけるようになって、仲間のおかげで龍助は訓練前と比べて心身ともに少しだけ強くなっていっていた。
イラスト:hata_hataさん
「良く頑張ったな、龍助。」
「ありがとう、光。みんなのおかげだよ。」
光が、龍助の頭をぐちゃぐちゃになぜながら褒めてやった。すると、遥が言う。
「でも、たいして強くなってないかもね。まぁ、あんたにしては上出来よ。そもそも、あたしのレベルまでなんて、そんなすぐになれるもんじゃないわ。」
「そうだね。遥…、いや一色さんは、生まれつき才能がある上に、努力家で頑張っているもんね。」
「そ、そうよ…。あんたなんかが、いくら努力してもあたしは負けないんだから。あ、これ!」
龍助の言葉に照れくさそうにしながら、ふと、朱里の使っていた本棚に携帯音楽プレイヤーが置かれていることに気が付いた。
「あ、うん。麻宮さんに貸してあげていたものだから。なんだか、置いておこうかと思って。僕は、携帯電話でも聞けるし。」
「ねぇ、だったら、私に貸してよ。その携帯音楽プレイヤーを。」
立ち上がって、本棚から携帯音楽プレイヤーを手にとって、遥が龍助におねだりする。
「えっ?」
「朱里を助け出すまでで良いから。助け出したら、返してあげるから、良いでしょう?ねぇ?それとも、朱里には貸して、私には貸せないとでも言うの?」
遥が龍助に迫る。
「いや…。良いよ。」
「ありがとう!!龍助!!」
うれしそうに遥が明るく微笑む。すぐに、イヤフォンを耳に付けて音楽を聴き始めていた。
「そんなに携帯音楽プレイヤーが使いたかったら、俺のを貸してやるのに。」
「あたしは、これが良いの。朱里と一緒の龍助のが。」
傍らでビスケットを黙々とかじっていたリラがもぐもぐしながらしゃべる。
「まぁまぁ。おいらは、龍助の成長にびっくりしたよ。re-writeの適合率が日に日に高まってくるのを感じて、なんだか勇気が出たよ。」
「そうだね。僕も。」
リラと龍助が微笑む。
「なんだ、リラ。俺と龍助の方が付き合いが長いし、幼馴染で親友なんだぜ。」
光がちょっと焼きもちを焼いたようなふりを冗談でやる。
「おぅ。だったら、おいらと光も親友だ。」
「なんなのよ、あんた達、気持ち悪いわね。」
「遥も入るか?というか、お前も朱里もおいら達の親友だし、大切な仲間だったな。」
リラが声をかける。龍助と光も遥を見上げる。遥が少し涙ぐみながら、答える。
「しょうがないなぁ…。あんた達を仲間にしてあげるわよ。」
翌日の朝、学校の校舎の屋上には、龍助,リラと見送る光の姿があった。
「一色さんは、もう少ししたら来ると思うけど。まだ来ていないみたいだね。」
「必ず、朱里を取り戻してこいよ。それから、一色のことも守ってやれよ。俺には一色を守ってやれないから…。」
光の気持ちを察して、リラが話す。
「おいらと龍助に任せろ。それに、遥は強い女の子だ。それよりも、光も気をつけてな。一応、適応魔法をかけておいたから、龍助と遥が魔界へ潜入しても人間界での混乱は無いとは思うが、どこに危険が潜んでいるか分からないから。」
「分かった。ちゃんと一色から預かったピアスは安全のために身に着けておくよ。頼むな、リラ。」
屋上へ通じるドアが開く。
「ごめ~ん。ちょっと遅くなったかな?」
遥が駆け寄る。その耳には龍助から借りた携帯音楽プレイヤーのイヤフォンが装着されていた。
「いや、待ち合わせ時間よりも数分前だから気にしないでも良いよ。」
「それじゃぁ、ゲートを開くよ。下がって。」
遥が適応魔法を解除してモードチェンジして、ロッドを取りだし、続いて魔方陣を描いて、魔界へのゲートを開いた。
光が手の甲を上にして仲間の中央に差し出す。
黙ったまま、龍助がその手の上に手をのせる。遥も続いた。最後にリラがパタパタと小さな翼で飛んでいき龍助の腕にとまって、肉球の付いた小さなその手をちょこんとのせた。
「必ず帰ってこいよ!待っているからな。」
龍助たちが大きくうなずく。
「じゃぁ、行ってくるね。」
「遥、おいら達は先にゆっくりと行っているから、じゃぁな。」
龍助の肩にリラが止まったことを確認して、龍助が魔界へ向けて『世界の穴』の『perte mondiale』に飛び込む。
遥がゆっくりと飛び込もうとした時、光が声をかける。
「一色!!必ず帰って来いよ。待っているからな。龍助やリラも頼む。」
振り返って微笑む。彼女のイヤフォンには、[promise]が流れている。
「覚えてる?二人
描いた夢の約束
小指を交わして祈ったよね
いつまでも 私 感じている
あなたのぬくもり
ずっとこの胸に...」
光に小指を少し見せて指きりの仕草をする。
「ありがとう。心配してくれて。必ず帰ってくるよ。約束する。朱里も一緒にみんなで。」
そう言うと、魔界へ向けて遥も出発していった。すぐに、ゲートは消えて、光がゲートのあった方向をずっと見つめながら、「みんな無事に帰ってきてくれ!」と強く強く祈った。
屋上の入り口からその様子を伺っている人影があった。
「やっぱり、行きよったか…。あいつら。」
そして、少し離れた高層マンションの一室から龍助たちがゲートに入っていく様子を見ていた者もいた。
「なんなんだ、今のは…。龍助たちはいったい何者なんだ?」
メガネをはずして、フレームを拭きながら動揺した心をおさめようとしていた。
Boy meets girl.
少年は少女に出会って、少年は少女を守るために新たな世界へ、仲間と共に旅立った。
to be continued...
第一部 完
第二部(魔界編)もお楽しみ下さいませ♪
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
"CD作品のtopページLink"
”CD作品のご予約ページLink”
"音楽配信Link-11"
[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
南龍助(普段着姿)
イラスト:hata_hataさん