Episode 004
謎の刺客(前編)
music:[real]
前回までの『L.D.C.』
何か始めようと思っていた龍助は、音楽に興味を持ち始め、クラスメートの小島武司にD.T.M.(デスク・トップ・ミュージック)というものを教えてもらう約束をする。
朱里のいた魔界では、シーズ博士が精鋭部隊に以前所属していたR.(アール)という男を呼び出し、ある命令を伝える。朱里たちに危険が迫る...。
「お呼びですか?シーズ博士。」
「おお、待っておったぞ。リョーウェイン。」
薄暗く、多くの実験機材らしきものに囲まれた部屋で声がする。
「リョーウェインではなく、今はR.(アール)です。」
「そうであったな。お前の過去を知るものは少ないからのう…。R.よ。」
「…。」
R.という青年は少し苦い顔をする。
「話とは、魔界から通行許可証無しで、人間界へ行ったものがいるとの報告があった。と言っても、わしが忍ばせている者からだがな。どうやら、研究中である『L.D.C.』に関わることで、お前にはあまり詳しくは言えないが、世界のバランスを狂わす可能性がある。」
「世界のバランスを…。」
「名前はジュリア クリスティー(Julia Christie)。人間界では、麻宮朱里と名乗っているようじゃ。」
そう言うと、機材のボタンを操作して、部屋にある大型ディスプレイに朱里の写真を映し出した。
「女か…。」
「困ったことに、ディオール家のお嬢様が少し加担しているようじゃ。あのお転婆娘にも困ったのう…。ディオール家といえば魔界でも指折りの大貴族だというのに。ひとまず、ジュリアを捕らえ、ハルカリ嬢は魔界へ連れ帰るのがお前の役目じゃ。くれぐれもハルカリ嬢には丁重にな。」
「了解しました。準備が整い次第すぐに発ちます。」
R.がその場を立ち去ろうとしたその時、ふと思い出したように再びシーズ博士が呼び止めた。
「うむ。そうだ、もう一つ忘れておった。ジュリアという者が隠れていることを知っている人間がおる。南龍助という少年じゃ。こやつは、ジュリアが魔界の者だということまで知っておるようじゃ。お前も存じておろうが、掟では、人間界の混乱を避けるために異世界の存在を知ったものは、記憶を差し替えるか、又は拘束するかしないといけないことになっておる。」
龍助の写真が大型ディスプレイに映し出される。
「つまり、俺に龍助という奴の知識の差し替えもせよということですね。」
「あるいは、拘束か…。精鋭部隊に所属していたお前のことだから、大したことのない任務かもしれないが、ディアブロ様直々の命なので、一応、用心しておけ。」
「ははっ!もしジュリアが抵抗する場合は如何しましょう?」
「…。やむを得ない場合は、力ずくで。最悪の場合は、抹殺せざるを得まい。それが世界のバランスのためじゃ…。そうならんようにお前を呼んだのじゃが。頼んだぞ。任務の詳細は後ほど、そちらのデバイスへ転送しておく。下がってもよいぞ。」
「はっ!!」
R.は敬礼をしてその部屋を出た。
「困ったのう…。これも定めなのか…。」
薄暗い部屋の中で、シーズ博士は呟いた。
「行くよ~!」
勢いよく千夏が走り出した、続いて、朱里と遥が続く。放課後のラクロス部の練習中だった。
彼女たちの練習している運動場が見渡せる校舎の教室から、裕二と龍助と実が見ていた。
「ええなぁ~。遥ちゃん。ちょっとつんとしたところもまた可愛くて。なぁ?なぁ龍助、聞いとるんか?」
龍助は朱里の姿を見つめて、うっとりとしていた。先日、μと書かれた卵らしきものを公園で見つけた時に、朱里が思わず頬にkissしてくれた時の事を思い出していた。
「あたいは、光様の方が良いけど…。でも龍助君でも…。それにしても、遅いよね、光様…。あ、帰ってきた!お帰りなさい!」
「龍助は、朱里に夢中だから聞こえてないかも。裕二先輩、ジュース買って来たよ。」
笑いながら、教室に入ってきたのは光だった。
「え、そ、そんなことないよ。そんなこと…。」
光に気がついた龍助は慌てて言った。
「まぁ、ええやないか。朱里も綺麗で可愛いしなぁ。うらやましいわ。龍助にとって親戚なんが残念やな。それにしても、千夏は上手いなぁ。さすがキャプテン!もうちょい、女っぽくなると可愛いんやけどなぁ…。」
「そんなこと言っていると、また千夏に怒られるよ~。それでなくてもあの女は怒りっぽいから。あたいはそうじゃないけど。」
朱里の魔法でクラスメートには龍助と朱里は親戚ということになっていた。朱里と出会ってから2週間ほど経って、魔界から来たという朱里との日常に龍助も大分、慣れてきたところだった。
みんなに頼まれていたジュースを渡して、自分はスポーツドリンクを片手に光が椅子に座る。
「お前は見いへんのか?みんな可愛いで。これぞ青春っちゅう感じやないかぁ。」
「まぁ、先輩にとってはね。俺には、テニスがあるから。今日は休部して、ちょっとギターを修理へ出していたからそれを取りに行かないといけないんだ。」
「それって、事故で亡くなったお兄さんの形見の…?」
龍助が言うと、みんなが光の方を向いて少し暗い顔をする。
「な、なんだよ。みんな。もう5年も前の話だから、俺はもう吹っ切れてるのに…。」
明るく笑顔を作りながら光はポケットに入れた右手の拳をぎゅっと握り締めた。
「そ、そうやな。龍助~。気が利かんな。朱里のことで頭一杯で。困った奴や。」
「そ、そうよね、光様は亡くなったお兄様のこと大切だったから、お兄様の大切にしていたギターを弾いているって言っていたものね。ねぇ、みんなで帰りに光様と楽器屋さんへ行ってみない?ねぇ、裕二先輩?」
「そうやな、帰り道やし。光さえ良ければ。そろそろ行くか?」
光が残りのスポーツドリンクを飲み干してから立ち上がって、そばにあったペットボトルを教室のゴミ箱へ投げた。ペットボトルは、外れることも無く、ゴミ箱へ入った。
「ナイスショット!じゃぁ、みんなで、行きますか?シンセサイザーに興味があるって言ってたから、龍助も来る?どうする?」
「あ、僕は、ちょっと。今日は、良いや…。またで。」
「朱里か…。一緒に帰れて、ええのぉ。なんか最近、付き合い悪くなって、わい寂しいわ…。」
「はいはい、先輩にはあたいと光様がいるから。早く行かないと、千夏が来るから。」
実は気を利かせて、裕二の腕を掴んで強引に教室から出て行った。
「なんや、男ばっかりやな。むさくるしい。それもオカマちゃんと腕組んで。」
「贅沢言わない!」
教室の外で裕二の声が聞こえる。
「じゃぁな。どっちみち一色も一緒なんだろう?お前ら家が近いみたいだからな。さぁて、ギターを取りに行くとしますか。」
そう言って、光はテニスラケットの入ったケースと鞄を担いで教室を出て行った。
40分ほどして、龍助が校庭へ出ると、ちょうど部活を終えた朱里と遥が着替えて部室から出て来たところだった。すぐに二人は龍助を見つけたが、遥は気が付かない振りをしていた。
「あ、龍助君だ!」
朱里が一緒に歩いていた遥の手を引っ張って駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、朱里…!」
風が優しく吹き抜け、彼女達の髪やスカートをそっと揺らす。朱里が慌てて鞄でスカートの前を押さえるようにしながら龍助の前に来て少し体を横に傾けかわいらしく尋ねる。
「ねぇ、龍助君も今、帰り?」
朱里が笑顔で声をかける。
「あぁ、そうだけど。」
龍助がちょっぴり照れくさそうに答える。
「だったら、一緒に帰ろうよ。遥ちゃんも一緒にみんなで。」
「うん。ちょうど用事が終わったところなんだ。」
「お前、おいら達の帰りを待っていただろう?」
朱里の肩に停まっていたリラが龍助に言う。
「え、リ、リラは出てきていて良いの?」
朱里の姿に目がいっていて、リラに気が付かなかった龍助がきょろきょろと周りを気にしながら慌てて話す。それに対して、リラが駄々をこねるように呟いた。
「だって、鞄の中にずっといるとおいら退屈だし、窮屈なんだもん。」
「学校では出てきちゃ駄目だよ。誰かに見つかっちゃうかもしれないから。」
「そうね、龍助君が言っている通りだよ。もう少し鞄の中でよい子にしていていようね。」
朱里はリラを優しくなぜてあげると、鞄の中へ誘導してあげた。するとリラが大人しく鞄に入ったのだった。ほっ、と龍助が胸をなでおろすと朱里がそっと微笑む。それを見ていた遥がつんとしながら自分の髪を触りながら声をかける。
「いつまで待たせるの?あんた達、帰るんでしょう?それともあたしはお邪魔だったかしら?」
「そんなことないよ。」
朱里と龍助が同時に答える。少しにっこりとしながら遥が言った。
「だったら、行くわよ。ほら、朱里も龍助も。」
再び優しい風が彼らを吹き抜け、遥の髪に留めてあるいくつものリボンがゆらゆらと綺麗に揺れていたのだった。
楽器屋に着いて、光が修理に出していたギターを受付カウンターで確認して受け取っている間、裕二と実はギター売り場にいた。
「なんか、色々高いのから安いのまであってよう分からんなぁ。」
「あたいだったら、光様のギターに合わせてタンバリンでも…。」
「いらん、いらん。」
「なんですって。だったら、あたいが超スウィーティーなバラードを歌うわ。」
「もっと、いらんわ!」
コントか漫才のようで、そうでないような会話を二人が交わしていると、ギター売り場の奥からかっこよいギターのフレーズが流れる。クールで鋭いその音色は、一瞬周りを切り裂くような疾走感を感じさせるようなものだった。
「お客さん、すこぶる上手いねぇ。如何です?今ならセール中だからお安くしますよ。」
「またにする。そろそろ用事があるんだ、悪いな。」
店員にギターを返したその青年は、裕二と実の横を通り過ぎて行った。
「なんや、上手かったけど、もう終わりか。冷たい感じやなぁ。…実?」
「い、い、い、い、い、い、今の人見た?とってもセクシーでスーパークール。あたいの超ど真ん中ストライクゾーン!!!」
「はぁ?あかん。また、こいつは…。かっこええ兄ちゃん見るとすぐ別世界へ行ってしまうからなぁ…。ここにも超カッコええ裕二様がいるというのに。まぁ、わいは実じゃなくて女の子からきゃぁきゃぁ言われたいけどな。」
ギターを受け取って修理代の支払いを済ませた光が寄ってきた。
「どうかした?なんかクールなギターが聞こえたんだけど…。」
「さっきの兄ちゃんや。すれ違わなかったか?」
「いえ、誰とも。」
光が振り返るがそこにはさっきの男性はもういなかった…。
「ところで、さっきの兄ちゃん見て、また、実のスイッチが入ってしもうたから置いていくか…。」
裕二と光がキャピキャピしている実をみて、ため息をつく。
その頃、龍助は部活の練習が終わった朱里と遥と三人で家に向かって歩いていた。勿論、リラも朱里の鞄の中にいる。
「龍助は何か部活に入らないの?」
「あぁ、バスケット部に入ろうと思ったんだけど、ちょっと考え中なんだ。音楽やってみようかと思って。」
「龍助君が?」
「うん…。僕はピアノとか習ったこと無いんだけど、こないだ軽音楽部のシンセサイザーというものを触って、なんか面白そうだなぁ、って思って。」
「あんた、楽器が出来ないのに、音楽?馬鹿じゃないの?」
「ううん、D.T.M.(デスクトップミュージック)っていうらしいんだけど、パソコンとシンセサイザーなんかで楽器が演奏できなくても音楽をすることが出来るって、武司君が教えてくれたんだ。」
「D.T.N.ぐらい知っているわよ…。あたしだって。」
いつもであれば反論をしてこない龍助からの予期せぬ答えに、遥が少しひるんだ。
「D.T.『M』.な、遥!知ったかぶりするなよ。デスクタップミュージシャンだ!」
話を聞いていたリラが、ここぞとばかり朱里の鞄から頭を出して遥に胸を張って言ったのだが、デスクトップミュージックと間違えていることに気がつかないリラを見ながら龍助は苦笑いする。
「な、何よ。ちびドラゴン!」
「う、や、やるかぁ、知ったか女!」
慌てて朱里が仲介に入る。
「まぁまぁ、二人とも…。仲良くしてよ。私たち仲間じゃないの。」
「誰がこんなちびちびドラゴンと…。」
「ちびちび言うな!せめてプチドラゴンと呼べよ。」
小さいことを気にはしているようだが、少し受け入れるようになったようだ。昨日、ぷちトマトを食べた時に、朱里が「リラのように小さくて可愛いね」と言ったので、『ぷち』という言葉はリラにとってどうやらお気に入りになったらしい。そう、悟った龍助は、小さいながらコンプレックスを前向きにとらえようとしているリラに微笑んだ。
「そういえば、朱里は何を聞いているの?」
「あ、これね。龍助君に借りた携帯音楽プレイヤーだよ。」
朱里が、うれしそうに携帯音楽プレイヤーを遥に見せる。
「な、何よ。龍助は、朱里には優しいんだ…。あたしには借してくれてないな~。」
そう言いながら、少し早足で歩いていく。
「え、だって、一つしか持ってないから…。古い携帯用のCDプレイヤーだったらあるけど…。」
「い・ら・な・い~!!冗談よ、あたしは貴族でお金持ちなのよ。あ、先行くよ。」
「そうなんだ。冗談か…。は、は…。そういえば、麻宮さんは何の曲を聞いているの?」
「えっとね。聞いてみる?」
朱里は片方の耳にしていたイヤフォンを外して、龍助の方へ差し出し、ウインクした。
龍助はその笑顔にドキッとする。
「あ、うん。」
朱里から片方のイヤフォンを受け取って、龍助も耳につける。イヤフォンからは少しクールな曲がちょうど流れてきた。
「煌く星に照らされ 胸の鼓動を強く感じてる」
「この曲は[real]って曲だね。この曲を聞いていたんだ。」
「うん。こういった感じの曲もたまに。龍助君の携帯音楽プレイヤーには色々と曲が入っているから。」
そう言うと、朱里は曲に合わせて歌を口ずさんだ。
「君のこと 護る力が欲しいよ どんな時も
守りぬく勇気 この胸の奥で輝いて...」
すぐ横でイヤフォンを片方ずつ一緒にして歩いている朱里の横顔を見つめながら、その歌声を聞いていた。時々肩が触れ合って、その度に二人は少し微笑んで、照れながら1センチほど距離を開けながらしばらく仲良く歩いた。
「君のこと... 護るよ きっと... 立ち向かうよ...
リアルな想い...」
ちょうど曲を歌い終えたころ、朱里の『L'aile du coeur(心の翼)』に、紫色にクリスタルが輝いた。リラが、クリスタルに気がついて口を大きくパクパクさせつつ言う。
「お、じゅ、朱里!!!」
「新たなクリスタルだね。以前、この歌を口ずさんでも何の変化もなかったのに。不思議ね…。」
「ただ麻宮さんが歌うだけでなくて、何か、必要な条件があるのかも。」
「これで4つめのクリスタルだわ。遥ちゃんにも見せてあげよう。龍助君、一緒に遼ちゃんのところまで走ろう!」
そう言うと、龍助の腕を持って、二人そろって遥のところまで少しかけていった。先ほどまで付かず離れずの様な二人だったのだが、4つめのクリスタルのことですっかり忘れてしまっていた。
人気の無い道を曲がって橋を渡っている遥に追いつく。
「何よ、あんたたち。」
「遥ちゃん、今、クリスタルがね…。」
その瞬間、まるで朱里の言葉をさえぎるように、急に風が龍助たちの方へ吹いて、過ぎていった。朱里の長く明るい茶色の髪がなびく。
突然、リラがささやいた。
「朱里!感じた?気をつけて。」
朱里も遥も緊張した表情に変わっている。何か重く冷たい空気が張り詰める。
「うん。龍助君は下がって。私が守るから。」
「龍助、あんたは邪魔。」
「え、みんなどうしたの?」
龍助の前に朱里と遥が立つ。いつものほほんとしているリラが少しおびえた表情になっている。
「で、出てきなさいよ!あんた、そこにいるの分かってるんだから。」
遥が橋の先の方へ向かって叫んだ。
「ばれちゃ、しょうがないなぁ…。はじめまして、R.と申します、ハルカリお嬢様。隣にいるのは、ジュリア クリスティーかな。後ろにいるのは南龍助か。これは手間が省けて良い。」
姿を現したR.は、ゆっくりと橋の中央にいる龍助たちのところに歩いてきた。
「何よ!それ以上近づいたら、痛い目にあうわよ。私を誰だと思っているの。」
「ディオール家のお嬢様でしょう?でも、俺もディアブロ王の命でここへ来ているので。」
「ディアブロ様が…。」
朱里が小さく呟く。
「おお、待っておったぞ。リョーウェイン。」
薄暗く、多くの実験機材らしきものに囲まれた部屋で声がする。
「リョーウェインではなく、今はR.(アール)です。」
「そうであったな。お前の過去を知るものは少ないからのう…。R.よ。」
「…。」
R.という青年は少し苦い顔をする。
「話とは、魔界から通行許可証無しで、人間界へ行ったものがいるとの報告があった。と言っても、わしが忍ばせている者からだがな。どうやら、研究中である『L.D.C.』に関わることで、お前にはあまり詳しくは言えないが、世界のバランスを狂わす可能性がある。」
「世界のバランスを…。」
「名前はジュリア クリスティー(Julia Christie)。人間界では、麻宮朱里と名乗っているようじゃ。」
そう言うと、機材のボタンを操作して、部屋にある大型ディスプレイに朱里の写真を映し出した。
「女か…。」
「困ったことに、ディオール家のお嬢様が少し加担しているようじゃ。あのお転婆娘にも困ったのう…。ディオール家といえば魔界でも指折りの大貴族だというのに。ひとまず、ジュリアを捕らえ、ハルカリ嬢は魔界へ連れ帰るのがお前の役目じゃ。くれぐれもハルカリ嬢には丁重にな。」
「了解しました。準備が整い次第すぐに発ちます。」
R.がその場を立ち去ろうとしたその時、ふと思い出したように再びシーズ博士が呼び止めた。
「うむ。そうだ、もう一つ忘れておった。ジュリアという者が隠れていることを知っている人間がおる。南龍助という少年じゃ。こやつは、ジュリアが魔界の者だということまで知っておるようじゃ。お前も存じておろうが、掟では、人間界の混乱を避けるために異世界の存在を知ったものは、記憶を差し替えるか、又は拘束するかしないといけないことになっておる。」
龍助の写真が大型ディスプレイに映し出される。
「つまり、俺に龍助という奴の知識の差し替えもせよということですね。」
「あるいは、拘束か…。精鋭部隊に所属していたお前のことだから、大したことのない任務かもしれないが、ディアブロ様直々の命なので、一応、用心しておけ。」
「ははっ!もしジュリアが抵抗する場合は如何しましょう?」
「…。やむを得ない場合は、力ずくで。最悪の場合は、抹殺せざるを得まい。それが世界のバランスのためじゃ…。そうならんようにお前を呼んだのじゃが。頼んだぞ。任務の詳細は後ほど、そちらのデバイスへ転送しておく。下がってもよいぞ。」
「はっ!!」
R.は敬礼をしてその部屋を出た。
「困ったのう…。これも定めなのか…。」
薄暗い部屋の中で、シーズ博士は呟いた。
「行くよ~!」
勢いよく千夏が走り出した、続いて、朱里と遥が続く。放課後のラクロス部の練習中だった。
彼女たちの練習している運動場が見渡せる校舎の教室から、裕二と龍助と実が見ていた。
「ええなぁ~。遥ちゃん。ちょっとつんとしたところもまた可愛くて。なぁ?なぁ龍助、聞いとるんか?」
龍助は朱里の姿を見つめて、うっとりとしていた。先日、μと書かれた卵らしきものを公園で見つけた時に、朱里が思わず頬にkissしてくれた時の事を思い出していた。
「あたいは、光様の方が良いけど…。でも龍助君でも…。それにしても、遅いよね、光様…。あ、帰ってきた!お帰りなさい!」
「龍助は、朱里に夢中だから聞こえてないかも。裕二先輩、ジュース買って来たよ。」
笑いながら、教室に入ってきたのは光だった。
「え、そ、そんなことないよ。そんなこと…。」
光に気がついた龍助は慌てて言った。
「まぁ、ええやないか。朱里も綺麗で可愛いしなぁ。うらやましいわ。龍助にとって親戚なんが残念やな。それにしても、千夏は上手いなぁ。さすがキャプテン!もうちょい、女っぽくなると可愛いんやけどなぁ…。」
「そんなこと言っていると、また千夏に怒られるよ~。それでなくてもあの女は怒りっぽいから。あたいはそうじゃないけど。」
朱里の魔法でクラスメートには龍助と朱里は親戚ということになっていた。朱里と出会ってから2週間ほど経って、魔界から来たという朱里との日常に龍助も大分、慣れてきたところだった。
みんなに頼まれていたジュースを渡して、自分はスポーツドリンクを片手に光が椅子に座る。
「お前は見いへんのか?みんな可愛いで。これぞ青春っちゅう感じやないかぁ。」
「まぁ、先輩にとってはね。俺には、テニスがあるから。今日は休部して、ちょっとギターを修理へ出していたからそれを取りに行かないといけないんだ。」
「それって、事故で亡くなったお兄さんの形見の…?」
龍助が言うと、みんなが光の方を向いて少し暗い顔をする。
「な、なんだよ。みんな。もう5年も前の話だから、俺はもう吹っ切れてるのに…。」
明るく笑顔を作りながら光はポケットに入れた右手の拳をぎゅっと握り締めた。
「そ、そうやな。龍助~。気が利かんな。朱里のことで頭一杯で。困った奴や。」
「そ、そうよね、光様は亡くなったお兄様のこと大切だったから、お兄様の大切にしていたギターを弾いているって言っていたものね。ねぇ、みんなで帰りに光様と楽器屋さんへ行ってみない?ねぇ、裕二先輩?」
「そうやな、帰り道やし。光さえ良ければ。そろそろ行くか?」
光が残りのスポーツドリンクを飲み干してから立ち上がって、そばにあったペットボトルを教室のゴミ箱へ投げた。ペットボトルは、外れることも無く、ゴミ箱へ入った。
「ナイスショット!じゃぁ、みんなで、行きますか?シンセサイザーに興味があるって言ってたから、龍助も来る?どうする?」
「あ、僕は、ちょっと。今日は、良いや…。またで。」
「朱里か…。一緒に帰れて、ええのぉ。なんか最近、付き合い悪くなって、わい寂しいわ…。」
「はいはい、先輩にはあたいと光様がいるから。早く行かないと、千夏が来るから。」
実は気を利かせて、裕二の腕を掴んで強引に教室から出て行った。
「なんや、男ばっかりやな。むさくるしい。それもオカマちゃんと腕組んで。」
「贅沢言わない!」
教室の外で裕二の声が聞こえる。
「じゃぁな。どっちみち一色も一緒なんだろう?お前ら家が近いみたいだからな。さぁて、ギターを取りに行くとしますか。」
そう言って、光はテニスラケットの入ったケースと鞄を担いで教室を出て行った。
40分ほどして、龍助が校庭へ出ると、ちょうど部活を終えた朱里と遥が着替えて部室から出て来たところだった。すぐに二人は龍助を見つけたが、遥は気が付かない振りをしていた。
「あ、龍助君だ!」
朱里が一緒に歩いていた遥の手を引っ張って駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、朱里…!」
風が優しく吹き抜け、彼女達の髪やスカートをそっと揺らす。朱里が慌てて鞄でスカートの前を押さえるようにしながら龍助の前に来て少し体を横に傾けかわいらしく尋ねる。
「ねぇ、龍助君も今、帰り?」
朱里が笑顔で声をかける。
「あぁ、そうだけど。」
龍助がちょっぴり照れくさそうに答える。
「だったら、一緒に帰ろうよ。遥ちゃんも一緒にみんなで。」
「うん。ちょうど用事が終わったところなんだ。」
「お前、おいら達の帰りを待っていただろう?」
朱里の肩に停まっていたリラが龍助に言う。
「え、リ、リラは出てきていて良いの?」
朱里の姿に目がいっていて、リラに気が付かなかった龍助がきょろきょろと周りを気にしながら慌てて話す。それに対して、リラが駄々をこねるように呟いた。
「だって、鞄の中にずっといるとおいら退屈だし、窮屈なんだもん。」
「学校では出てきちゃ駄目だよ。誰かに見つかっちゃうかもしれないから。」
「そうね、龍助君が言っている通りだよ。もう少し鞄の中でよい子にしていていようね。」
朱里はリラを優しくなぜてあげると、鞄の中へ誘導してあげた。するとリラが大人しく鞄に入ったのだった。ほっ、と龍助が胸をなでおろすと朱里がそっと微笑む。それを見ていた遥がつんとしながら自分の髪を触りながら声をかける。
「いつまで待たせるの?あんた達、帰るんでしょう?それともあたしはお邪魔だったかしら?」
「そんなことないよ。」
朱里と龍助が同時に答える。少しにっこりとしながら遥が言った。
「だったら、行くわよ。ほら、朱里も龍助も。」
再び優しい風が彼らを吹き抜け、遥の髪に留めてあるいくつものリボンがゆらゆらと綺麗に揺れていたのだった。
楽器屋に着いて、光が修理に出していたギターを受付カウンターで確認して受け取っている間、裕二と実はギター売り場にいた。
「なんか、色々高いのから安いのまであってよう分からんなぁ。」
「あたいだったら、光様のギターに合わせてタンバリンでも…。」
「いらん、いらん。」
「なんですって。だったら、あたいが超スウィーティーなバラードを歌うわ。」
「もっと、いらんわ!」
コントか漫才のようで、そうでないような会話を二人が交わしていると、ギター売り場の奥からかっこよいギターのフレーズが流れる。クールで鋭いその音色は、一瞬周りを切り裂くような疾走感を感じさせるようなものだった。
イラスト:hata_hataさん
「またにする。そろそろ用事があるんだ、悪いな。」
店員にギターを返したその青年は、裕二と実の横を通り過ぎて行った。
「なんや、上手かったけど、もう終わりか。冷たい感じやなぁ。…実?」
「い、い、い、い、い、い、今の人見た?とってもセクシーでスーパークール。あたいの超ど真ん中ストライクゾーン!!!」
「はぁ?あかん。また、こいつは…。かっこええ兄ちゃん見るとすぐ別世界へ行ってしまうからなぁ…。ここにも超カッコええ裕二様がいるというのに。まぁ、わいは実じゃなくて女の子からきゃぁきゃぁ言われたいけどな。」
ギターを受け取って修理代の支払いを済ませた光が寄ってきた。
「どうかした?なんかクールなギターが聞こえたんだけど…。」
「さっきの兄ちゃんや。すれ違わなかったか?」
「いえ、誰とも。」
光が振り返るがそこにはさっきの男性はもういなかった…。
「ところで、さっきの兄ちゃん見て、また、実のスイッチが入ってしもうたから置いていくか…。」
裕二と光がキャピキャピしている実をみて、ため息をつく。
その頃、龍助は部活の練習が終わった朱里と遥と三人で家に向かって歩いていた。勿論、リラも朱里の鞄の中にいる。
「龍助は何か部活に入らないの?」
「あぁ、バスケット部に入ろうと思ったんだけど、ちょっと考え中なんだ。音楽やってみようかと思って。」
「龍助君が?」
「うん…。僕はピアノとか習ったこと無いんだけど、こないだ軽音楽部のシンセサイザーというものを触って、なんか面白そうだなぁ、って思って。」
「あんた、楽器が出来ないのに、音楽?馬鹿じゃないの?」
「ううん、D.T.M.(デスクトップミュージック)っていうらしいんだけど、パソコンとシンセサイザーなんかで楽器が演奏できなくても音楽をすることが出来るって、武司君が教えてくれたんだ。」
「D.T.N.ぐらい知っているわよ…。あたしだって。」
いつもであれば反論をしてこない龍助からの予期せぬ答えに、遥が少しひるんだ。
「D.T.『M』.な、遥!知ったかぶりするなよ。デスクタップミュージシャンだ!」
話を聞いていたリラが、ここぞとばかり朱里の鞄から頭を出して遥に胸を張って言ったのだが、デスクトップミュージックと間違えていることに気がつかないリラを見ながら龍助は苦笑いする。
イラスト:hata_hataさん
「な、何よ。ちびドラゴン!」
「う、や、やるかぁ、知ったか女!」
慌てて朱里が仲介に入る。
「まぁまぁ、二人とも…。仲良くしてよ。私たち仲間じゃないの。」
「誰がこんなちびちびドラゴンと…。」
「ちびちび言うな!せめてプチドラゴンと呼べよ。」
小さいことを気にはしているようだが、少し受け入れるようになったようだ。昨日、ぷちトマトを食べた時に、朱里が「リラのように小さくて可愛いね」と言ったので、『ぷち』という言葉はリラにとってどうやらお気に入りになったらしい。そう、悟った龍助は、小さいながらコンプレックスを前向きにとらえようとしているリラに微笑んだ。
「そういえば、朱里は何を聞いているの?」
「あ、これね。龍助君に借りた携帯音楽プレイヤーだよ。」
朱里が、うれしそうに携帯音楽プレイヤーを遥に見せる。
「な、何よ。龍助は、朱里には優しいんだ…。あたしには借してくれてないな~。」
そう言いながら、少し早足で歩いていく。
「え、だって、一つしか持ってないから…。古い携帯用のCDプレイヤーだったらあるけど…。」
「い・ら・な・い~!!冗談よ、あたしは貴族でお金持ちなのよ。あ、先行くよ。」
「そうなんだ。冗談か…。は、は…。そういえば、麻宮さんは何の曲を聞いているの?」
「えっとね。聞いてみる?」
朱里は片方の耳にしていたイヤフォンを外して、龍助の方へ差し出し、ウインクした。
龍助はその笑顔にドキッとする。
「あ、うん。」
朱里から片方のイヤフォンを受け取って、龍助も耳につける。イヤフォンからは少しクールな曲がちょうど流れてきた。
「煌く星に照らされ 胸の鼓動を強く感じてる」
「この曲は[real]って曲だね。この曲を聞いていたんだ。」
「うん。こういった感じの曲もたまに。龍助君の携帯音楽プレイヤーには色々と曲が入っているから。」
そう言うと、朱里は曲に合わせて歌を口ずさんだ。
「君のこと 護る力が欲しいよ どんな時も
守りぬく勇気 この胸の奥で輝いて...」
すぐ横でイヤフォンを片方ずつ一緒にして歩いている朱里の横顔を見つめながら、その歌声を聞いていた。時々肩が触れ合って、その度に二人は少し微笑んで、照れながら1センチほど距離を開けながらしばらく仲良く歩いた。
「君のこと... 護るよ きっと... 立ち向かうよ...
リアルな想い...」
ちょうど曲を歌い終えたころ、朱里の『L'aile du coeur(心の翼)』に、紫色にクリスタルが輝いた。リラが、クリスタルに気がついて口を大きくパクパクさせつつ言う。
「お、じゅ、朱里!!!」
「新たなクリスタルだね。以前、この歌を口ずさんでも何の変化もなかったのに。不思議ね…。」
「ただ麻宮さんが歌うだけでなくて、何か、必要な条件があるのかも。」
「これで4つめのクリスタルだわ。遥ちゃんにも見せてあげよう。龍助君、一緒に遼ちゃんのところまで走ろう!」
そう言うと、龍助の腕を持って、二人そろって遥のところまで少しかけていった。先ほどまで付かず離れずの様な二人だったのだが、4つめのクリスタルのことですっかり忘れてしまっていた。
人気の無い道を曲がって橋を渡っている遥に追いつく。
「何よ、あんたたち。」
「遥ちゃん、今、クリスタルがね…。」
その瞬間、まるで朱里の言葉をさえぎるように、急に風が龍助たちの方へ吹いて、過ぎていった。朱里の長く明るい茶色の髪がなびく。
突然、リラがささやいた。
「朱里!感じた?気をつけて。」
朱里も遥も緊張した表情に変わっている。何か重く冷たい空気が張り詰める。
「うん。龍助君は下がって。私が守るから。」
「龍助、あんたは邪魔。」
「え、みんなどうしたの?」
龍助の前に朱里と遥が立つ。いつものほほんとしているリラが少しおびえた表情になっている。
「で、出てきなさいよ!あんた、そこにいるの分かってるんだから。」
遥が橋の先の方へ向かって叫んだ。
「ばれちゃ、しょうがないなぁ…。はじめまして、R.と申します、ハルカリお嬢様。隣にいるのは、ジュリア クリスティーかな。後ろにいるのは南龍助か。これは手間が省けて良い。」
姿を現したR.は、ゆっくりと橋の中央にいる龍助たちのところに歩いてきた。
「何よ!それ以上近づいたら、痛い目にあうわよ。私を誰だと思っているの。」
「ディオール家のお嬢様でしょう?でも、俺もディアブロ王の命でここへ来ているので。」
「ディアブロ様が…。」
朱里が小さく呟く。
to be continued...
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- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
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- Espoir05
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イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
南龍助(学生服姿)
イラスト:hata_hataさん