Episode 010
トレジャーハント?(後編)

music:[月影の唄]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から来た麻宮朱里を取り戻すために魔界へ突入した龍助,遥,リラは、ちょっとしたアクシデントにより軌道を外れ、新たに仲間になった魔界のトレジャーハンターであるアルと共に、洞窟の遺跡を抜けて遥の家をまずは目指すことになった。
 
 洞窟の遺跡には様々なトラップが仕掛けられており、トレジャーハンターのアルの道案内で4つ目の石碑のトラップもクリアした。
 
 そこには、彼らを不気味な人影が待ち受ける。果たして、龍助たちは遺跡を抜けることが出来るのだろうか...。


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 通路が閉まる寸前、何とか龍助たちは通り抜けることが出来た。
「うぉ、やべぇ。おいら達、危なかったなぁ。」
「あんたは何もしてないでしょう?龍助は大丈夫だった?」
 遥がリラに一言指摘してから、はぁはぁと肩で息をしてへたり込んでいる龍助の顔を覗き込んだ。
「うん、なんとか。途中でアルに助けてもらわなかったら危なかったけど。」
「あれぇ、遥ちゃんは、俺には優しい声をかけてくれないの?」
 アルが、遥に尋ねる。遥はため息をついてから、一言言った。
「あんたも、大丈夫?」
「まぁ、俺様は魔界のトレジャーハンターだから大丈夫さ!ハニー♪」
「さぁ、こんな馬鹿は放っておいて次に行きましょう。」
 アルから予想通りの言葉が返ってきたので無視するように遥が歩き出そうとする。
「そうだな、おいらも遥に一票。」
 リラも少し冷ややかな目で遥の方へ、小さい翼をパタパタやりながら飛んでいく。
「何?リラまで。なんだか、世知辛い世の中だなぁ。まぁ、俺には龍助がいるから。」
 龍助の肩にアルが腕をかけてニコッとし、龍助が苦笑いをする。
 
 
「そう世知辛い世の中なのよ。せっかくトラップを抜けてきたのに残念。ミーがあんた達を全員ここで成敗してやるんだから。」
 突然、岩陰から一人の魔族の男が出てきた。
「ミー、ってお前、恥ずかしくないのか?自分で言っていて。」
 アルが呆れて応える。
「トレジャーハンターの人ですか?僕らよりも先に着いたんですね。」
「そんなわけないでしょう?龍助、あんた馬鹿じゃないの?さっきのトラップは三人以上いないとクリアできなかったはずよ。」
「それにおいら達を成敗するって言っていたから、良いやつではなさそうだぞ。なんかセンスも悪そう。」
「シャラ~ップ!!!だまらっしゃい、そこのチビトカゲども!!!」

イラスト:hata_hataさん

「ちびちび言うな!それにトカゲでもないぞ。」
 リラがパタパタと小さい翼で飛びながら、ミーと自分のことを呼ぶ男に怒鳴った。
「あんたも、チビという言葉にそうとうコンプレックスあるのね。それよりも、何者なの?」
 遥が呆れながら聞くと、男は不敵な笑いを上げつつ、仁王立ちのポーズをとった。
 
「良くぞ、聞いてくれ…。」
 その瞬間、遥がロッドで氷魔法攻撃を仕掛けた。瞬時にロッドを取り出し、遥と同じ呪文で魔力を相殺する。
「なんなの、危ないじゃないの。ミーが名乗るまで待てないのかしら。最近の若い子って失礼しちゃう。もう、ぷんぷんよ。ここで長い間ずっと門番していたのに。もう、腰が痛くなっちゃったわ。」
「はぁ?なんなんだこいつは。」
 鞭を構えて様子を伺っていたアルが顔をゆがませる。
「龍助、おいらたちもre-writeするか?」
「そうだね。」

イラスト:hata_hataさん


「ちょっと待ちなさいよ。あたしの出番よ。あんた達は下がってなさい。さっきの呪文は、あたしと同じ氷攻撃魔法だったけど、魔力も癖まで同じだった…。」
 re-writeしようとした龍助たちの前に遥が割って入る。
「よくぞ、見抜いたわね。そこの小娘。ミーの特技は、相手の呪文をただ相殺したり跳ね返すようなものではなくて、相手の呪文を一定期間コピーして繰り出すことが出来るんだよ。」
 そう言うと、さっき遥が放った氷属性の魔法を遥に向かって数発放つ。しかし、アルの鞭がそれを全て砕く。そして口をゆっくりと開いた。
「ということは、その能力は一定期間だけって、ことだろ?」
「?。そのとおり。まぁ、その期間にお前達を倒せばそれで良いんだ。」
 余裕な表情でその男はロッドをさすりながら話す。その様子を見ながらアルが挑発的に鞭を一振りして、間合いをとる。
「だったら、やってみろよ。そんなに俺達もヤワじゃないぜ。」
 
 
「そうさせて頂くわ。後悔してももう遅いんだから。」
 アルを睨みつけて、ロッドを振り回して遥の放った氷攻撃魔法と同じものを連続で打ち込んできた。
「遥は、龍助を守れ。ここは俺が何とかする。」
「あたしの敵よ!」
「お前は、残してきた仲間に、龍助とリラを守るって約束したんだろう?だったら、約束を守れ!それにお前の守りたいものは誰か良く考えろ!!」
 そう叫ぶと遥を龍助の方へ突き飛ばして、鞭で飛んでくる魔法攻撃を防御した。
 突き飛ばされた遥を龍助がキャッチする。遥が大人しくアルに従う。
 
「あんた、なかなかやるじゃないのさ。あら、よく見ると良い男ね。」
「良い男は間違っちゃいないが、あいにく俺は男には興味はないんだ。セクシーでナイスバディーなレディーか、じゃじゃ馬でキュートなガールだったら是非御一緒したいところだけどな。」
「だったら、しょうがない。ミーがもう少し本気で戦ってあ・げ・る。さっきのが全魔力の10パーセントぐらいだったから、30パーセントぐらいで。これであんたもミーの魅力にぞっこんよー!」
「な、何~!?ちょ、ちょっと待った!お前、そんなに強いのか?や、やば…。に、逃げろ!」
 アルが龍助たちに指示する。
「え?何よ、アル。あんた、さっきのかっこつけた台詞はなんだったのよ!何とかするって言ったじゃない!」
「遥ちゃん、さぁ、行こう!」
 龍助が遥の腕を引っ張ってアルに付いていく。遥は後ろを見ながら引っ張られつつ走っていく。
「ちょっと待ちなさいよ!まだ、ミーとの勝負が付いてないわよ!!!おのれぇ~、わがシモベども。やってお仕舞い!」
 逃げ出した龍助たちに向かって魔族の男が叫ぶ。影が少しずつ集まって濃くなっていき、魔獣が数匹現れた。そして、ミーと自分のことを呼ぶ敵と共に、龍助たちを追跡する。
 
 
 天井の数箇所をアルが鞭で崩して、落盤で敵の追撃を遅らせて龍助たちはひたすら逃げる。アルは、地の利を見ながら数箇所にアドベンチャー用の道具で即席トラップを仕掛けつつ走り抜けてゆく。
「お、ここを右に曲がってみよう!」
 後ろの方でアルが仕掛けたトラップに引っかかった魔獣が風攻撃魔法の餌食になって悲鳴を上げる。
「大丈夫かよ?アル?おいら達は逃げ切れるのか?」
「このトレジャーハンターを信じなさいって!」
 走りながら、アルがリラにウインクをする。
「なんか頼りないんだよなぁ…。はじめの龍助が落ちそうになった落とし穴といい、大玉といい、おいら達、さっきから罠にかかりまくっている気がするけど…。」
「ノープロブレム!だって、まだ生きてるだろ!」
「前向いて、アルさん!」
 天井が低いところがあって、間一髪でアルが頭を下げて通り抜ける。
「おっと!危ない危ない。サンキューな龍助!」
 
「先に泉が見えるよ、行き止まりじゃないの?」
 龍助が遥の腕を左手で掴んだまま夢中で走りつつ、右手で泉の方を指差す。遥が引っ張られながら後ろの敵の気配を気にしつつ言う。まだ、追っ手の声が少し離れたところから聞こえていた。
「もう、頼りにならないんだから。みんなで、泉に飛び込むわよ。」
 それを聞いたリラが龍助の頭の上でおどおどしながら話し出した。
「りゅ、龍助!こんな時になんなんだが、おいらの秘密があるんだ。」
「何?後じゃ駄目なの?」
「お、おいら泳げないんだ~!!だって水竜じゃないんだもん。」
 
 どうやら、リラは泳げないらしい。そういえば、人間界にいる時も顔を洗う時はちょっとだけ手に水をつけて拭くようにしていたことを龍助は思い出した。風呂はリラなりに朱里にかっこ悪いところを見せないように朱里に抱かれて大人しく入っていたのかもしれない。朱里を怒らせないように、苦手な水の恐怖におびえながら。
「大きなビニール袋を被っている時間も無いから、ちょっとの間息を止めときなさい!龍助、手を放して。先に行くわよ!」
 遥が泉へ勢い良く飛び込む。続いて、アルが飛び込む。
「リラ、しっかり僕につかまっていて、行くよ!」
「あ~れ~!」
 龍助が最後に泉の中へ飛び込んだ。
 
 
 泉の中は流れがあって、川のように流れていた。どうやら洞窟内の別の場所へ地下の水路で続いているようだった。
 龍助たちはその流れに沿ってしばらく流されて、流れがゆるい浅瀬のところで上がった。追っ手は泉の中の地下水路まで追ってこなかったようだ。
 
 
「ほら見ろ!『人間万事、塞翁が馬』っていうだろ!」
 逃げることを選んだアルが誇らしげに言う。それに対してリラが突っ込む。
「お、お前は人間じゃないだろ!魔族じゃないか。おいらは溺れて、水を飲みすぎて水ぶくれになるかと思った。へ、ヘクション!」
「あんた汚いわね。鼻水拭きなさいよ。」
「はい、リラ、ティッシュ。濡れちゃってるけど。」
 鼻水を少したらしているリラに龍助がティッシュを渡して、鼻水を拭く。
「もう…。それで、ここを抜けることが出来るんでしょうね?もう、泉に飛び込んでびしょびしょだし、最低。あんた達、服がちょっと透けているからって見ない!エッチ!」
 アルと龍助が、水で遥の服が少し透けている状態を見て赤くなっていた。
「いや、すまんすまん。風邪ひいてもなんだから、風の防御系呪文で服をすぐ乾かしてやるから、スカート抑えておけよ!」
 アルが風の防御呪文を唱えると風の壁が現れた。
「ちょ、ちょっといきなり。」
 遥が慌ててスカートを抑える。龍助は、小さいリラを気遣って飛ばされないように注意しようとした。
「リラ、飛ばされないように…。って、もう飛ばされちゃったみたいだよ…。」
 リラは少し後ろの岩に頭をぶつけて小さなたんこぶを作って、岩山にしがみついていた。
「うぅ、こんな奴にあっさり飛ばされるとは不甲斐ない…。」
 遥たちの服は、しばらくすると乾いた。
 
 
「風の魔法って便利だね。乾燥機みたいな使い方も出来るとは。」
「そうだろう。頭の使いようなんだ。風属性は遥の氷属性よりも実用性が高いんだ。」
「うるさいわね。どうせ女の子のスカート捲りなんかのエッチなことにしか使ってないんじゃないの?もう、最低~!あたしの氷属性は煌めく芸術的な属性だから、あんたのように下品な者には理解できないわよ。それに、それぞれに属性にはメリットやデメリットがあるでしょう?」
「へぇ…。人間には属性って無いんだよね?」
 龍助が尋ねる。
「そんなことないぞ。ヘクション!人間にも属性はある。ただ、たいていの人間には魔力がほとんど無くて、意味をなさないけどな。血液型のような感じで、性格なんかに影響してくるんだと考えられている。まぁ、親の遺伝や育った環境によっても影響を受けるから、おいらたちと違って属性は人間にとってはそんなに重要ではないかも。」
 リラがくしゃみをしながら、龍助に説明をする。アルが割って説明に入る。
「そうだな。俺達、魔族だと、戦闘面などで相性があって、相性が劣勢だとワンランク上の魔法で攻撃や防御しないと互角にはならない。まぁ、地の利や気候などの条件などでも変わってくるんだけど。」
 
 遥が少しは慣れたところで髪を直しながら言う。
「そうよ。火,氷,風,雷,水がメイン属性ね。」
 
 
 メイン属性には次のようなものが確認されているようだ。
火:火の属性(氷に強く 水に弱い。ワンランク上の呪文で同等効果。)
氷:氷の属性(風に強く 火に弱い。ワンランク上の呪文で同等効果。)
風:風の属性(雷に強く 氷に弱い。ワンランク上の呪文で同等効果。)
雷:雷の属性(水に強く 風に弱い。ワンランク上の呪文で同等効果。)
水:水の属性は癒し効果(火に強く 雷に弱い。ワンランク上の呪文で同等効果。)
 
 
「それに、聖,陰は、レベル高めの属性で上級者で魔族には陰属で、神族には聖属が付加されることがあるみたい。まぁ、あたしも将来は陰属を身につけることになるかしら。」
 
 
聖:聖なる属性(レベル高めの者のみ)
陰:聖の反対側の属性(レベル高めの者のみ)
 
 
「おい、忘れちゃ困るぞ。おいらのようなドラゴン系の竜属性もあるんだ。」
 
 
竜:ドラゴン属性(火と氷と風と雷に強く 聖と陰に弱い。ワンランク上の呪文で同等効果。)
 
 

イラスト:hata_hataさん

「あんたはre-writeして属性のあるマスターの武器になって一人で戦わないから、あんまり効果ないかも。マスター次第ね。」
「そう言われてみれば…。」
 遥に指摘されて、リラが少し考え込む。
 
「僕の属性は、何だろう…。」
「基本属性は、人間だとあんまりはっきり分からないんだよね。風なのか?優しいから水なのかな?案外、あたしと一緒の氷だったりして。あ、龍助は魔族だったんだ。」
 うれしそうに遥が言った。龍助を魔族だと思っているアルは不思議そうに遥を見つめる。
 
 
 リラにも龍助の属性は分からないようだった。龍助に分かりやすいように、遥が龍助のクラスメートたちの属性も含めて教えてくれた。
 
佐伯光(雷)
伊集院実(雷)
沢崎千夏(水)
松本恵(火)
小島武司(風)
安藤裕二(氷)
「高校の教師」稲葉美咲(火)
 
麻宮朱里(水)/デビルモード時(陰・火)
一色遥(氷)
速水涼(陰・風)
J.(雷)
アル・レイン(風)
 
リラ(竜?)
 
ということだった。
 
 
「さて、そろそろ先に進むか。」
「待ってよ。あたし達、流されてきたのよ?ここがどこかも分からないのに。」
「大丈夫だって。ほら、あそこ見てみ。」
 心配そうな遥を安心させるようにアルは少し先のほら穴を指差した。その先には、明らかに人工物と思われる彫刻が施された壁が続いていた。宝石がところどころにちりばめられている。
「なんだ、あれは。おいら達の出口はあっちなのか?」
「どうなの?アル?僕達、この洞窟を抜け出せるの?」
「さぁ、俺にも分からないけど、あの洞窟は明らかに遺跡のお宝につながっていそうだなぁ。」
「あたし達は、お宝なんてどうでも良いの!早くここを抜けたいのよ。」
 
 チッ、チッ、チッと右手の人差し指を振りつつ、アルが遥の唇に指をやる。
「あんた、何するのよ!!!」
 遥の拳がアルのみぞおちに見事ヒットする。アルが右ひざをガクッと地面につける。
「アル…大丈夫か?」
 恐る恐るリラが覗き込む。アルは、苦笑いをして軽く手を振った。
「ちょっと待ってよ、遥ちゃん。アルは何か言いたいことがあったんだよ。そうだよね?」
「あぁ…。遥のパンチは効くなぁ。で、俺がこの遺跡について知っている情報がここに書いてあるから、見てみろ。36ページ目の真ん中の辺りだ。」
 そう言って、遥の方へ胸ポケットから出したメモ帳を投げた。そこには、『時の鏡』の洞窟と書かれていた。今までに調べてきた内容や、龍助たちと一緒に進んできた洞窟内の即席の地図などもこと細かくメモされていた。
 
「その中に、『泉の流れの先にクリスタルの遺跡が眠る』と書いてあるだろう?それがおそらく、さっき指差した洞穴の先にあると考えられる。勿論、お宝も眠っているだろう。重要なのは、その次に書いてあるところだ。」
「『『時の鏡』の鍵のありかを記し、勇者達を旅立ちへといざなうであろう』…?」
 魔界の文字を龍助が読めないので、遥が読んでやる。
「そうだ。『時の鏡』とは何か分からないんだが、時々、いろんな古文書に記されている言葉なんだ。今は、その言葉が分からないから置いといて、『勇者達を旅立ちへといざなうであろう』ってところ。これって、遺跡の出口を意味してるんじゃないかと。まぁ、俺達は勇者なんてガラじゃないけどな。」
「そうね。アルは、盗掘のプロだもんね。」
 慌ててアルが遥に向かって訂正する。
「ト、トレジャーハンターって呼んでくれ。人聞きが悪い。それにベテランもつけてな。」
「ベテラン盗掘師?まぁ、何でも良いわ。それで、話を戻すけど、出口の可能性があるんだったらさっさと行きましょう。」
 
 龍助がアルに手を貸して立ち上がるのを助けてやった。遥はさっさと洞穴に向かって歩いていく。
「龍助、お前もすごいのに好かれたもんだ。」
「?」
「まぁ、良いや。お前は、朱里とかいう姉ちゃんだったな。そういえば、早く、ここを抜け出して、朱里ちゃんが持ってるμって卵見せて欲しいもんだ。でも、まずは、お宝、お宝。」
 みぞおちを押さえつつふらふらと遥の後を追ってアルが歩いていく。
 リラと龍助がため息をつきながら両手の平を広げてお手上げのポーズをとってから、アルに続いた。
 
 
 洞穴の中を少し進むと広間に出た。アルが目をキラキラさせながら遥の前に割って前に出る。
「Get!!!うぉ~、これ全部クリスタルか?」
 そこには水晶の結晶で壁中がキラキラとしていた。長年かかって出来たようで、大きな柱がいくつもあった。何処からとも無く風が時々吹き込み、水晶の天井を吹き抜けるときに綺麗な音を奏でる。龍助たちがどこかで聞いたことのある曲だった。
「これって、[月影の唄]じゃない?」
 遥が呟く。
「まさか、偶然そう聞こえるだけだよ、きっと。あれは人間界の曲だよ。」
 龍助が遥に話しかけるが、遥はそのメロディーに引き込まれるように聞き入っていた。
「まぁ、おいら達はまずはここから抜け出すことを考えなくちゃ。おい、アル!お宝集めしてる場合じゃないぞ。」
 龍助の肩から離れて、リラが小さい翼をパタパタさせながら、落ちている水晶をかき集めているアルを怒る。
「まぁ、硬いこというなよ。お前には後で町に着いたらキャンディーよりも美味しいものを買ってやるから。グミなんかどうだ。きっとお前、好きだぞ。」
「グミ?なんだか分からないが、美味そうだな。よし、おいらもクリスタルを拾うのを手伝ってやる。」
「お前って、良い奴だな。特大のグミを買ってやる。それからマシュマロも。」
 その様子を呆れた様子で龍助が見送った。龍助は、少し周りを見渡しながら中央へ歩いて行き、少し高台になっている箇所に飾られている石碑のところで立ち止まった。遥が気が付き、駆け寄る。
 

イラスト:hata_hataさん

「なんだろうね?これ。『時の鏡』に関する記述でもされているのかな?」
「あたしにも読めないわ。これは古代文字みたいだから。あの馬鹿二人はどうしようもないわね。宝と食べ物に目が無くて。」
 リラの相棒である龍助が申し訳なさそうにする。遥が石碑に触ろうとすると、何かバリアのようなものが張られているようで、びりびりと雷のような電気が走って触ることが出来なかった。
「危ないわね。」
 遥の手が大丈夫か見ようとした龍助がバランスを崩して、前に倒れて石碑に左手を押さえることで持ちこたえる。
 
「あ、あんた、大丈夫なの?今、あたしが触ったらびりびりきたのに。」
「は…は…は…、大丈夫みたいだね。」
 すると、石碑が光り輝いて、地面が揺れる。慌てて、手を放すが揺れが止まらない。遥はびっくりして龍助にしがみついていた。
「おい、龍助、お前は何をしたんだ?」
 アルとリラがぐらつく足場を確かめながら歩いてきた。天井からはクリスタルのかけらが落ちてくる。
「ご、ごめんなさい。転びそうになって思わずそこの石碑に手をついちゃっただけなんだ。」
「どいてくれ。なんて書いてあるかチェックするから。」
 龍助がしがみついている遥と共に少し横による。
「何々。『汝、選ばれし者であれば、ここにその証を見せよ』って書いてあるぞ。お前、何を持ってるんだ。」
「いや、左手だったら人間界で朱里にプレゼントしてもらったブレスレットをつけてるんだけど。これって、別にたいしたもんじゃないんだ。」
「確かにただのドラゴンの刻印がされているシルバーのブレスレットだな。ひょっとして、証を持ってない奴が触ったから、遺跡が崩壊していっているとか?」
「うぉ、それって、おいら達、絶体絶命ってことじゃん?ギャー!!!」
 リラが大慌てで飛び上がって、クリスタルに頭をぶつけて気を失った。
「あ~あ、大丈夫だ。リラには少し眠ってもらっておこう。どうやって脱出するかな?」
 アルがリラを拾い上げて、リラの様子を見て、龍助に渡す。あたふたと龍助たちがしていると、突然揺れが治まった。
 
 すると龍助たちの後ろ側に更に大きな石碑とクリスタルでできた扉が現れていた。どうやら、何かの仕掛けで、遺跡のスイッチが入って、カラクリで地面から扉が現れたのだった。石碑に龍助たちが駆け寄る。アルが石碑の古代文字をメモに取りながら読む。そこにはこう書いてあった。
 
『古き歌。夢を描きしMの清き心と時の鏡に映し出す時、新たな道が開けるだろう。』
 
「なんか良く分からんが、どうやら、トラップではないようだ。古き歌とかMってなんなんだ。古き歌というぐらいだからMusicかMelodyのMかな?MusicianのMか?新たな道ってこの扉の先のことか…?いや、違うなぁ。これは、おそらくこの遺跡の出口への通路でしかなさそうだ。と、いうことは、『時の鏡』の鍵のありかが前半の文言で、新たな道というのは、勇者への道?」
「とりあえず、その扉を開けてみない?」
 遥が龍助からゆっくりと離れて口を開いた。
「そうだね。」
 龍助と遥が一緒に扉を左右に押し開ける。その先には、階段が続いていた。風が少し吹き込んできた。おそらく外の風だろう。
 
「よし、出口に続いていそうだぞ。」
 階段の上の方を覗き込みながらアルがにっこりとする。龍助と遥も顔を合わせて微笑む。龍助の片手の中のリラが気を取り戻してうっすら目を開ける。
「お、気が付いたか。無事抜け出せそうだぞ。お前は、しばらく休んでおけ。」
 アルが優しくリラの頭をなぜてやる。リラは安心したのか、ゆっくりとうなずいて、瞳を閉じた。
「さて、行こうか。それにしても、このクリスタルの扉だけでも持っていければ高値で買い取ってもらえそうなのになぁ。みんなで持っていかないか?」
「駄目だよ。遺跡はこのままにしておこうよ。僕らじゃないちゃんとした勇者が必要とするときが来るかもしれないんだから。」
 龍助がアルの右肩を軽く引っ張る。それを見て、遥が強めの口調で言う。
「あんたは、さっきクリスタルのかけらをバックに詰めてたでしょう?それで我慢しなさい。」
「はーい。なんか、俺のママみたいだな。ますます気に入った。」
「はぁ?やめてよね。あたしは…。」
 アルが、遥の唇に人差し指で触れてしゃべる。
「心の中に決めた奴がいるんだよな。分かってる。まぁ、がんばれや。」
 言い切ると、ウインクを龍助にして扉の先にある階段を登っていった。
「な、なんなのよ。あいつ…。」
 遥が少し赤くなって、慌ててアルの後ろを付いていく。
 龍助はリラをハンドタオルに優しく包んであげてから鞄に入れた。そしてもう一度、振り返って、クリスタルが一面に張り巡らされているその広間を見渡して、そして遥たちの後を追った。
 クリスタルの扉が閉じると、またしばらく揺れが始まり、遺跡は眠りに付いた。
 
 
 100段ほど階段をくねくねと登っていくと、結界の張られた魔法の扉があった。隙間から風が吹き込んでいた。
「あたし、この結界だったら解除できるかも。」
「おっ、出来るか?」
「やってみるわ。」
「じゃぁ、頼む。お手並み拝見とするか。」
 遥が結界に軽く触れてから、力を込めて呪文を唱えながら右手の平を向けたまま、指先を12時の方向から3時の方向へ動かして、更に手を握って拳を3時の方向から9時の方向へ反時計回りに回した。
 すると、結界が一瞬点滅する。
「お見事!」
「今のうちに、出るわよ。」
「さすが、遥ちゃんだね。」
 三人が外に出る。
 
 すると、そこは切り立った崖の上だった。龍助がバランスを崩して遥に抱きつきつつ、それを支えようとしたアルも巻き込んで落下した。
「キャー!!!」
「うわぁ!!!」
「今、助けてやるから。それっ!」
 瞬時に、アルが鞭を木の枝に絡ませて、空いている方の左手で遥と彼女に抱きついている龍助ごと向こう側の草地へ投げた。二人は草地へ転がって止まった。
 龍助が遥の後ろから胸の辺りを抱きしめる感じになっていて、慌てて離れる。
「あんた、どうするの。こんなにして?ちゃんと責任とってよ。」
 遥の髪が草地にあった花びらが絡んで乱れていた。花びらの色と同じように頬をほんのりピンクに染めた彼女を見て龍助はドキッとした。
「ご、ごめんね。僕がまた足手まといになって。すぐに花びらを取るから。」
 アルが、鞭にぶら下がったまま声をかける。
「おい、お前ら。誰か忘れてないかぁ?」
 
 
 龍助と遥が、ぶら下がったままのアルを引き上げた。どうやら、鞄に詰めたクリスタルが重かったようで、引き上げる際に少し鞄から崖下へクリスタルが零れ落ちたのでアルはがっかりしていた。
「全部なくなったわけじゃないでしょう?生きてるんだから、またいつかあの洞窟へ行けばよいじゃないの。今度は独りで。」
 龍助にセミロングの髪に付いた花びらを取ってもらいながら遥が言う。
「独りじゃ、あのトラップをクリアできないじゃん…。あ、そうだ!分身の魔法と同じ効果の道具が売っていたからそれを買ってまた行けば良いのか。」
「危ないよ。ミーって自分の名前を呼んでいた魔族もいたし、最後のクリスタルの扉を開く方法も偶然開いたけど、結局、どうして開いたか分からなかったし…。」
「そうだなぁ…。あいつはやばい。」
 
 
 その時、草地から20メートルぐらい離れた森の方からガサガサと音がした。
「今の音は何だ?」
 アルがしゃがんで静かにするように龍助たちに合図を送る。龍助も遥もうなずく。
「俺は、ちょっと辺りを偵察してくる。龍助たちは少し隠れていろ。」
「分かったよ。アルも気をつけてよ。」
「俺様の対策は万端だ。」
 自慢げにアルが言う。
「ちょっと不安だわ。あんたが自慢げに言うと特に。」
「なんだと!あ、そうか。お前、俺のことが心配なんだな?やぱり、俺のことが好きか?そうかそうか。」
「何を勘違いしてるの!私が好きなのはね、りゅう…。何でもないわよ!!少なくともアルは好きにならないから!!」
「なんだ、残念。じゃぁ、行ってくるから。ハニー。」
 森の方の様子を伺いながら、アルが茂みを伝って足早に偵察に向かう。
 
「な、何がハニーよ。ベー、だ!!りゅ、龍助は誤解しないでね。」
 アルが偵察に行った後で、遥が照れくさそうに龍助をもじもじと見る。
「え、あぁ。気にしていないよ。」
「ちょっとは気にしてくれても良いのに…。」
 遥が残念そうに小さくつぶやく。
 
 
 アルが少しこぼしていったクリスタルのかけらが、近くに3粒ほど落ちていた。薄暗いが星のような光がクリスタルに当たって、クリスタルが小さく輝く。
「蛍のようだね。とっても綺麗。朱里にも見せてあげたかったなぁ。あの子もきっと見とれているんだろうなぁ…。」
 遥が小さな声で囁いて、少し機嫌を取り戻す。
 空からは雨がぽつぽつと降り出し始めていた。これから起こることを予兆しているように…。
 
 
to be continued...

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が付いたエピソードをお楽しみいただけます。さぁ、『L.D.C.』の世界へようこそ!
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■Episode 001:

♪:[blue]

■Episode 002:

♪:[light pink -I love you.-]

■Episode 003:

♪:[nu.ku.mo.ri.]

■Episode 004:

♪:[real]

■Episode 005:

♪:[color]

■Episode 006:

♪:[my wings]

■Episode 007:

♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]

■Episode 008:

♪:[promise]

イラスト:hata_hataさん

■Episode 017:

♪:[ドキ×2]

■Episode 018:

♪:[let it go!!]

■Episode 019:

♪:[N]

■Episode 020:

♪:[tears in love]
♪:[destiny]

■Episode 021:

♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]

■Episode 022:

♪:[Happy Happy Love]

■Episode 023:

♪:[INFINITY]

■Episode 024:

♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]

■Episode 025:

♪:[pain]

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音楽配信:VOCALOTRACKS
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(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

リラ(フォームチェンジ時:剣一本ver.)

イラスト:hata_hataさん