Episode 015
守るための戦い(中編)
music:[baby baby]
前回までの『L.D.C.』
同じ頃、朱里はμと記された卵から生まれた白鳥由依(しらとり ゆい)の秘めた力によって部屋に厳重に張られた結界を解除し、二人で部屋を出た。
しかし、部屋を出た朱里が涼や遥の魔力を察知し、龍助達と涼が戦っていることを確信した瞬間、朱里の後ろから急速に近づく影があった...。
王宮の捕まっていた部屋のある階から階段を見下ろして、朱里は龍助達の安否を心配した。その時、彼女の後ろに人影が急激に近づき、彼女を後ろから取り押さえる。
「だ、誰?」
「しっ、大人しくしなさい。」
男は、朱里が騒がないように口を押さえて耳元で囁く。
「じゅりをいじめないで!」
由依がその男の足に噛み付く。
「い、いいいい痛いじゃないの!!!あ、静かにしなくちゃ。」
朱里を取り押さえた男は『レジェンド』のM.だった。
「あのねぇ。ミーは味方よ。そこのちっちゃいお嬢ちゃん、噛み付くのやめて。可愛いお顔しているのに、これじゃぁ、まるで怪獣ね。」
M.が朱里を放して、子猫の首元をつまんで持ち上げるような感じで、由依の服の背中の上辺りをひょいと掴かむ。しかし、噛み付いたまま離れない。
「あ、由依ちゃん、やめてあげて。私は大丈夫よ。」
「…うん。じゅり、だいじょうぶ?」
噛み付くのをやめて、朱里に駆け寄る。由依の頭をなぜてやりながら朱里が話す。
「ありがとうね。由依ちゃんは私を心配してくれたんだよね。本当にごめんなさい。この子、悪気はないのよ。私は麻宮朱里。魔界名は…。」
「ジュリア・クリスティーね。知っているわ。ミーは、『レジェンド』のM.よ。Midi.Midi.って可愛い名前もあるけど。ミーはあなたの仲間に頼まれてあなたをエスコートしに来たの。」
「私の仲間?それって、龍助君かしら?」
朱里の予想を聞いて、M.が右手の平を左右に振りながら言う。
「違うわよ。南龍助の僕ちゃんも可愛かったけど、元『レジェンド』のA.よ。」
「A.さん?」
「今は、トレジャーハンターのアル・レインって名乗っているみたい。ナイスガイよ。あなたのちょっと頼りない白馬の王子様の僕ちゃんと、せっかちなお嬢ちゃん,トカゲもどきのドラゴン,可愛い綺麗なドラゴンの仲間よ。ミーも彼らと戦ったんだけど、負けちゃった。」
アル・レインが龍助達の仲間ということは、涼に教えてもらった情報にあったので朱里も理解できた。朱里は龍助を心配しながらも、状況を判断するために少しM.の話を聞いていた。
アルは研究所でセルという反逆者の不穏な動きを暴いたが、J.に捕まった。逃げることも可能だったが、アルにはある考えがあって大人しくJ.に捕まることにしたのだった。
取調べのために牢獄へ連行されている途中で、一時、兵士宿舎の前を通った。その時に、M.が現れたのだった。遺跡の警護に続き、オアシスの警護も龍助達のおかげで失敗に終わり、M.はまた更に環境の厳しい永久凍土への転属が決まり、兵舎に戻ってきたのもあった。しかし、実は、龍助達のことが心配で兵舎に戻って来ていた。M.は連行する役を兵士と強引に代わり、アルと接触を図り逃がしてやろうしたが、代わりに龍助達が朱里を脱出させるのを助けてやって欲しいと依頼されたのだった。
「ミーも一応、『レジェンド』だからディアブロ様には反逆行為をしたくないの。でも、アルの信じた南龍助って僕ちゃんを応援したかったの。」
「龍助君…。そ、そうだわ。早く、助けに行かないと!」
朱里が階段の下の方へ駆け出そうとした時、M.が朱里の腕を掴んで制止した。
「待ちなさい。この階段の下には更に何重も結界が張ってあるのよ。あたいもこの階に来るのは苦労したの。もたもたしていると、そこの由依ちゃんと一緒に見つかってすぐに捕まっちゃう。それこそ、足手まといよ。」
「ゆい、あしでまといじゃないモン。」
由依がM.に舌を出してアッカンベーをする。
「でも、龍助君が…。遥ちゃんも…。」
「彼らは、このミーを倒した二人よ。大丈夫。頼りないけどあなたを助けにきた王子様とそのお供を信じてあげなさい。それよりも、脱出できる様に準備するのよ。ね、お姫様?」
M.が心配そうな朱里にウィンクをする。
「龍助君…。私は信じて待ってるよ…。遥ちゃん、リラも無事でいてね…。」
その頃、龍助達は涼と戦っていた。龍助が放ったオーラを三つまとめて左腕のドラゴンキラーで力任せに押し返しつつ、龍助へ迫っていた。そして、龍助は後ろへ跳んで退避する余裕が無いと判断し、逆に向かってくる涼の方へ飛び込んだのだった。
「何?お前は馬鹿か?良いだろう、このオーラごと吹き飛ばしてやる!!」
涼が更に加速する。
「龍助どうするんだ?」
剣にフォームチェンジしているリラが心の声で尋ねる。
「僕を信じて。行くよ!うぉおおおおー!!」
龍助が飛び込みながら三回長剣を振りオーラを飛ばした。すると、涼が押し戻しているオーラとぶつかり、相殺された。そして、龍助は長剣で切り込み、涼はドラゴンキラーで迎え撃つ。
大きな衝撃音が響き、龍助も涼も後ろへ弾き飛ばされた。
「うわぁ!」
「ちっつ。」
龍助が着地に失敗して転ぶ。涼は着地して、瞬時に再び龍助へ切り込もうとした。大きく振りかぶって、龍助の上からドラゴンキラーを振り下ろす。
しかし、龍助の前に遥が飛び出し、リコの盾で受け止めた。
「は、遥ちゃん…。あ、ありがとう。」
危ないところだったが、遥の的確な判断で、後方からの援護から前方へ飛び出たことでなんとか守り抜いた形となった。
「この盾は、なんだ。この温かい気持ちになるのは…。幻影か、何かの魔法か?」
リコの盾から何か感じて、涼は後ろへ跳躍して距離をとる。
「龍助、大丈夫?やっぱりあたしがいないと駄目ね。」
「そうだね。リラとがんばってみたんだけど。遥ちゃんとリコに感謝しなくっちゃ。」
「お気になさらないで下さいませ。龍助様は、ご主人様と私で守りますの。ぽっ。」
盾にフォームチェンジしているリコが心の声で龍助達に語りかける。
龍助が立ち上がろうとした。
「ご主人様、左45度と右60度上から来ます。」
「分かってるわ。行くわよ!」
遥が左手で龍助の前に結界を張りながら、右手のロッドで氷属性の魔法攻撃を同時に行う。同時に二つの呪文を発動することは、魔力も大量に消費し、技術もセンスも必要な高度な技であったが、遥は龍助とリラがre-writeの訓練をしているのを見て、更に自分も魔術のスキルアップのための訓練を影ながらしてきたのだった。
まだ未熟だったが、はじめに使った氷属性者用のカプセルのおかげで補完してくれている。涼が飛ばしていた遠隔操作の槍先を全て氷属性の吹雪で吹き飛ばす。
そして、最後に一つだけ別の方向から跳んできた槍先をリコの盾で弾き飛ばした。
「やるじゃないか。ハルカリお嬢様。まだまだ隙が多いが、道具のおかげだな。以前よりも少しはやれるようになったようだ。だが、そろそろ、カプセルの効果もなくなってくるぞ。」
「悔しいけど、あんたの言う通りよ。まだあたし一人の魔力では勝てない。だけど、アルが戦いの中で教えてくれたの。仲間と協力して戦い、自分の魔力だけでなく、時には道具や地の利等の条件を総合的に判断して戦えば、より多くの守りたいものを守れる力になるって!」
「アル・レインか?あの男とも一度手合わせ願いたいものだ。元『レジェンド』と現『レジェンド』とは格が違うがな。」
龍助が肩で息をしていたが、少し落ち着いてゆっくりと両方の手の剣を構える。大きな衝撃音を聞きつけて、警備兵が十名ほど広間に入ってくる。
「反逆者の南龍助達だな!諦めて、大人しく投降しろ!!」
「遥ちゃん、そっちはお願い。僕は遥ちゃんが抑えるまで涼さんを抑えるから。アルならきっとこうするよ。」
「そうね。分かったわ。リコ行くわよ。」
龍助と遥が背中合わせになってそれぞれの敵に向けて構える。大人数とのバトルを遥が担当して先に倒すことで、涼との戦いを有利に進めようという戦略に出たのだった。
遥がロッドを大きく振って十名の兵士に向かって、氷属性の魔法攻撃を繰り出す。兵士達も盾で防御姿勢をとりつつ、遥との距離を少しずつ狭める。
「だったら、これはどう?アルのお得意のパターンだけど。」
雷の魔法の詰まった小さな玉の道具を兵士達の足元に投げつけた。地面に当たった瞬間にバチバチと小さな爆発が起こる。兵士達が慌ててそちらへ気を取られた瞬間、遥が再びロッドを大きく振り、氷属性の攻撃魔法を繰り出し、彼らを吹き飛ばした。そして、結界をすぐに張って彼らを閉じ込める。
「しばらく大人しくしていてね。」
そして、結界内に雷系の攻撃魔法を唱えて電撃を走らせて、彼らを気絶させた。
龍助は遥が戦っている間、涼が遥に攻撃できないように、ひたすらリラの剣を振ってオーラで中距離攻撃を繰り返していた。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「肩で息をしているようでは、もうお前もそれほど戦えまい。大人しく消滅しろ。」
涼がオーラをドラゴンキラーで全て弾き飛ばしながら言う。
兵士を片付けた遥が振り返る。
「龍助、片付いたわ。でも、応援の警備兵が来る可能性が高いから、早くここを突破して朱里の所へ向かわないと。あたしの氷属性のカプセルの効果ももう終わってしまったわ。あたしの魔力もかなり消耗してきている…。」
龍助の耳元で小さく囁く。
「しょうがない。まだ十分安定しないけど、リラ。」
「分かった。いつでも来い。おいら達ならできる。」
遥が氷属性魔法で涼の左右を攻撃して逃げ道を無くし、同時に龍助が真ん中に飛び込んで切り込む。続けて、遥は遠隔操作の涼の槍を魔法攻撃する。
「お前の剣では俺を倒せない。はっ!」
涼が迎え撃つために、ドラゴンキラーを構えて飛び込む。龍助がオーラを放つ可能性があるのでそれを警戒しつつドラゴンキラーで防御と攻撃両方を出来る体制をとる。
龍助がまだリラの長剣の間合いに入らないところで、突然、踏み込んだ。
「!?」
「今だ、リラ!re-write!」
その瞬間、リラのフォームチェンジが始まり、大きなマサカリ方にフォームチェンジした。そして、勢いよく振りかぶった。涼の横側から攻撃する形になった。
「何!まだ、お前達は攻撃力の高い戦力を持っていたのか!だが、甘いな。」
涼がすぐに防御体制を取るために、ドラゴンキラーを装着している左腕を身体に引き付けた。
「re-write!」
涼が横の防御に入った瞬間に龍助が再びre-writeさせて、リラを剣へフォームチェンジする。両手に剣を持って同時に踏み込んでいた。
「何!!!さっきの武器は囮だったのか!!」
龍助が涼のドラゴンキラーと腕の間に剣を差し込む形でドラゴンキラーを強引に弾き飛ばす。そして、同時に短剣の方で首元へ押し当てて取り押さえようとする。
「やったわ、龍助!!!」
遥が叫ぶ。
「それはどうかな?」
龍助のわき腹に遠隔操作の槍が一つ突き刺さっていた。ガクッと、龍助が膝を付く。あらかじめ涼はbreak throughした時に護身用として槍先を一つ隠しておいたのだった。
「残念だったな。お前の囮の武器を使った戦略には感心したが、俺も数々の戦闘を乗り越えてきた戦士だ。ちゃんと切り札は隠してある。そして、更にまだ、お前達を失意のどん底に落としてやる。」
「龍助!!!」
慌てて、遥が前に出ようとした時に、他の遠隔操作の槍先が彼女を切り裂く。リコの盾で防御姿勢をとるが、防ぎきれず倒れる。
「おっと、俺の新たなパワーを見せる前に気絶するとは…。大した事無いな。」
「は、遥ちゃん…。く、くそっ…。」
龍助がわき腹の痛みをこらえつつ、悔し涙を流す。
涼が再びドラゴンキラーを装着した。そして瞳を閉じて話し始めた。
「俺は、ジュリア・クリスティーとの二度の戦いを通じて、まだ強くならなければならないと思った。しかし、break throughするだけでは、俺は彼女を超える魔力を手に入れることは出来ない。そして、氷山地帯の奥にある『氷の遺跡』へ、より強くなるために、俺は自分自身との戦いに行って来たんだ。」
涼は、『氷の遺跡』の中を進みつつ、様々な過酷な試練を乗り越えたのだった。そして、試練を乗り越えた時、彼は心身ともに鍛えられ、更に、遺跡の不思議な効力によって武器にも新たな力を与えられたのだった。
ドラゴンキラーにフォームチェンジしていた武器を一旦解除して、槍に戻す。そして、冷たい口調で一言叫んだ。
「evolve!」
すると、槍が若干大きくなり、色が黒色から白色へ変化した。同時に、涼の魔力もbreak through状態の時よりもパワーアップした。
「どうだ。南龍助。これが、俺の今の力だ。お前達が経験を積んで強くなる以上に、俺も更に強くなったんだ。これでも、立ち向かってくるか?」
傷ついた龍助がゆっくりと立ち上がる。
「僕はまだまだ負けられないんだ!朱里を取り戻すまでは。遥ちゃん、ごめんね。ちょっと待っていてね。」
少し後ろに下がり、リラの剣を再び構える。リラが心の声で心配する。
「龍助、もう意識が朦朧としているだろう。大丈夫なのか?」
「…。」
返事がない。気力だけで立ち上がっている状態で、リラの言うとおり意識がはっきりしない。視界がはっきりしなくなってきていた。
「お前達も、やはりもはやこれまでか。人間にしては良くやった。この俺もまさか、evolveを見せることになるとは思っていなかった。だが、これで、お仕舞いだ。なるべく苦しまないようにしてやる。安心しろ、ハルカリ嬢は消滅まではされないだろう。魔界でも指折りの大貴族の娘だったからな。だが反逆の罪でディオール家は取り潰しだろう。頭首と実行犯のハルカリは一生牢獄の中だ。じゃあな。」
涼は寂しげな表情で一気に白い槍を龍助の胸に向けて伸ばした。わき腹に突き刺さり服を突き破った。龍助が構えていた両手の剣を落とし、左手は力なく下へ垂れ下がり、右手は槍の上に垂れて、槍を掴んでいた。
そして、涼は、ゆっくりと槍を引き抜こうとした。
しかし、引き抜けない。
「な、何?」
龍助が、にやりとする。右手だけでなく、両手で槍をしっかりと握る。槍は彼の衣服を突き抜けていたが、寸前のところで身体はかすっただけだったのだ。涼が外した訳ではなく、龍助が避けていたのだった。手で槍を掴んだまま龍助が放さない。そして、目を大きく見開くと、左目がいつもの龍助の瞳ではなかった。
「き、貴様、何者だ!!」
アルが叫ぶ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
龍助がうなる。そして、腕輪の辺りにうごめいていたオーラが全身を包んだ。今まで魔力がほとんど感じられなかった龍助から、急激に魔力が増大する。まるで何かの封印が解けて開放された様に。
「朱里は、俺が守る。朱里を返せ!」
龍助が槍を持っている涼ごと槍を振り回す。
「く、くそっつ。こいつ、覚醒しているのか?あの左目は、まるでドラゴンの瞳の様ではないか?理由は分からないが、あれだけ戦って傷だらけなのに、このパワーとは。何処にこんな力が…。うわぁ。」
槍を放り投げて、涼が槍ごと壁に叩きつけられた。龍助がリラの長剣を持って、涼へ切りかかる。
「だ、誰?」
「しっ、大人しくしなさい。」
男は、朱里が騒がないように口を押さえて耳元で囁く。
「じゅりをいじめないで!」
由依がその男の足に噛み付く。
「い、いいいい痛いじゃないの!!!あ、静かにしなくちゃ。」
朱里を取り押さえた男は『レジェンド』のM.だった。
「あのねぇ。ミーは味方よ。そこのちっちゃいお嬢ちゃん、噛み付くのやめて。可愛いお顔しているのに、これじゃぁ、まるで怪獣ね。」
M.が朱里を放して、子猫の首元をつまんで持ち上げるような感じで、由依の服の背中の上辺りをひょいと掴かむ。しかし、噛み付いたまま離れない。
「あ、由依ちゃん、やめてあげて。私は大丈夫よ。」
「…うん。じゅり、だいじょうぶ?」
噛み付くのをやめて、朱里に駆け寄る。由依の頭をなぜてやりながら朱里が話す。
イラスト:hata_hataさん
「ジュリア・クリスティーね。知っているわ。ミーは、『レジェンド』のM.よ。Midi.Midi.って可愛い名前もあるけど。ミーはあなたの仲間に頼まれてあなたをエスコートしに来たの。」
「私の仲間?それって、龍助君かしら?」
朱里の予想を聞いて、M.が右手の平を左右に振りながら言う。
「違うわよ。南龍助の僕ちゃんも可愛かったけど、元『レジェンド』のA.よ。」
「A.さん?」
「今は、トレジャーハンターのアル・レインって名乗っているみたい。ナイスガイよ。あなたのちょっと頼りない白馬の王子様の僕ちゃんと、せっかちなお嬢ちゃん,トカゲもどきのドラゴン,可愛い綺麗なドラゴンの仲間よ。ミーも彼らと戦ったんだけど、負けちゃった。」
アル・レインが龍助達の仲間ということは、涼に教えてもらった情報にあったので朱里も理解できた。朱里は龍助を心配しながらも、状況を判断するために少しM.の話を聞いていた。
アルは研究所でセルという反逆者の不穏な動きを暴いたが、J.に捕まった。逃げることも可能だったが、アルにはある考えがあって大人しくJ.に捕まることにしたのだった。
取調べのために牢獄へ連行されている途中で、一時、兵士宿舎の前を通った。その時に、M.が現れたのだった。遺跡の警護に続き、オアシスの警護も龍助達のおかげで失敗に終わり、M.はまた更に環境の厳しい永久凍土への転属が決まり、兵舎に戻ってきたのもあった。しかし、実は、龍助達のことが心配で兵舎に戻って来ていた。M.は連行する役を兵士と強引に代わり、アルと接触を図り逃がしてやろうしたが、代わりに龍助達が朱里を脱出させるのを助けてやって欲しいと依頼されたのだった。
「ミーも一応、『レジェンド』だからディアブロ様には反逆行為をしたくないの。でも、アルの信じた南龍助って僕ちゃんを応援したかったの。」
「龍助君…。そ、そうだわ。早く、助けに行かないと!」
朱里が階段の下の方へ駆け出そうとした時、M.が朱里の腕を掴んで制止した。
「待ちなさい。この階段の下には更に何重も結界が張ってあるのよ。あたいもこの階に来るのは苦労したの。もたもたしていると、そこの由依ちゃんと一緒に見つかってすぐに捕まっちゃう。それこそ、足手まといよ。」
「ゆい、あしでまといじゃないモン。」
由依がM.に舌を出してアッカンベーをする。
「でも、龍助君が…。遥ちゃんも…。」
「彼らは、このミーを倒した二人よ。大丈夫。頼りないけどあなたを助けにきた王子様とそのお供を信じてあげなさい。それよりも、脱出できる様に準備するのよ。ね、お姫様?」
M.が心配そうな朱里にウィンクをする。
「龍助君…。私は信じて待ってるよ…。遥ちゃん、リラも無事でいてね…。」
その頃、龍助達は涼と戦っていた。龍助が放ったオーラを三つまとめて左腕のドラゴンキラーで力任せに押し返しつつ、龍助へ迫っていた。そして、龍助は後ろへ跳んで退避する余裕が無いと判断し、逆に向かってくる涼の方へ飛び込んだのだった。
「何?お前は馬鹿か?良いだろう、このオーラごと吹き飛ばしてやる!!」
涼が更に加速する。
「龍助どうするんだ?」
剣にフォームチェンジしているリラが心の声で尋ねる。
「僕を信じて。行くよ!うぉおおおおー!!」
龍助が飛び込みながら三回長剣を振りオーラを飛ばした。すると、涼が押し戻しているオーラとぶつかり、相殺された。そして、龍助は長剣で切り込み、涼はドラゴンキラーで迎え撃つ。
大きな衝撃音が響き、龍助も涼も後ろへ弾き飛ばされた。
「うわぁ!」
「ちっつ。」
龍助が着地に失敗して転ぶ。涼は着地して、瞬時に再び龍助へ切り込もうとした。大きく振りかぶって、龍助の上からドラゴンキラーを振り下ろす。
しかし、龍助の前に遥が飛び出し、リコの盾で受け止めた。
「は、遥ちゃん…。あ、ありがとう。」
危ないところだったが、遥の的確な判断で、後方からの援護から前方へ飛び出たことでなんとか守り抜いた形となった。
「この盾は、なんだ。この温かい気持ちになるのは…。幻影か、何かの魔法か?」
リコの盾から何か感じて、涼は後ろへ跳躍して距離をとる。
イラスト:hata_hataさん
「そうだね。リラとがんばってみたんだけど。遥ちゃんとリコに感謝しなくっちゃ。」
「お気になさらないで下さいませ。龍助様は、ご主人様と私で守りますの。ぽっ。」
盾にフォームチェンジしているリコが心の声で龍助達に語りかける。
龍助が立ち上がろうとした。
「ご主人様、左45度と右60度上から来ます。」
「分かってるわ。行くわよ!」
遥が左手で龍助の前に結界を張りながら、右手のロッドで氷属性の魔法攻撃を同時に行う。同時に二つの呪文を発動することは、魔力も大量に消費し、技術もセンスも必要な高度な技であったが、遥は龍助とリラがre-writeの訓練をしているのを見て、更に自分も魔術のスキルアップのための訓練を影ながらしてきたのだった。
まだ未熟だったが、はじめに使った氷属性者用のカプセルのおかげで補完してくれている。涼が飛ばしていた遠隔操作の槍先を全て氷属性の吹雪で吹き飛ばす。
そして、最後に一つだけ別の方向から跳んできた槍先をリコの盾で弾き飛ばした。
「やるじゃないか。ハルカリお嬢様。まだまだ隙が多いが、道具のおかげだな。以前よりも少しはやれるようになったようだ。だが、そろそろ、カプセルの効果もなくなってくるぞ。」
「悔しいけど、あんたの言う通りよ。まだあたし一人の魔力では勝てない。だけど、アルが戦いの中で教えてくれたの。仲間と協力して戦い、自分の魔力だけでなく、時には道具や地の利等の条件を総合的に判断して戦えば、より多くの守りたいものを守れる力になるって!」
「アル・レインか?あの男とも一度手合わせ願いたいものだ。元『レジェンド』と現『レジェンド』とは格が違うがな。」
龍助が肩で息をしていたが、少し落ち着いてゆっくりと両方の手の剣を構える。大きな衝撃音を聞きつけて、警備兵が十名ほど広間に入ってくる。
「反逆者の南龍助達だな!諦めて、大人しく投降しろ!!」
「遥ちゃん、そっちはお願い。僕は遥ちゃんが抑えるまで涼さんを抑えるから。アルならきっとこうするよ。」
「そうね。分かったわ。リコ行くわよ。」
龍助と遥が背中合わせになってそれぞれの敵に向けて構える。大人数とのバトルを遥が担当して先に倒すことで、涼との戦いを有利に進めようという戦略に出たのだった。
遥がロッドを大きく振って十名の兵士に向かって、氷属性の魔法攻撃を繰り出す。兵士達も盾で防御姿勢をとりつつ、遥との距離を少しずつ狭める。
「だったら、これはどう?アルのお得意のパターンだけど。」
雷の魔法の詰まった小さな玉の道具を兵士達の足元に投げつけた。地面に当たった瞬間にバチバチと小さな爆発が起こる。兵士達が慌ててそちらへ気を取られた瞬間、遥が再びロッドを大きく振り、氷属性の攻撃魔法を繰り出し、彼らを吹き飛ばした。そして、結界をすぐに張って彼らを閉じ込める。
「しばらく大人しくしていてね。」
そして、結界内に雷系の攻撃魔法を唱えて電撃を走らせて、彼らを気絶させた。
龍助は遥が戦っている間、涼が遥に攻撃できないように、ひたすらリラの剣を振ってオーラで中距離攻撃を繰り返していた。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「肩で息をしているようでは、もうお前もそれほど戦えまい。大人しく消滅しろ。」
涼がオーラをドラゴンキラーで全て弾き飛ばしながら言う。
兵士を片付けた遥が振り返る。
「龍助、片付いたわ。でも、応援の警備兵が来る可能性が高いから、早くここを突破して朱里の所へ向かわないと。あたしの氷属性のカプセルの効果ももう終わってしまったわ。あたしの魔力もかなり消耗してきている…。」
龍助の耳元で小さく囁く。
「しょうがない。まだ十分安定しないけど、リラ。」
「分かった。いつでも来い。おいら達ならできる。」
遥が氷属性魔法で涼の左右を攻撃して逃げ道を無くし、同時に龍助が真ん中に飛び込んで切り込む。続けて、遥は遠隔操作の涼の槍を魔法攻撃する。
「お前の剣では俺を倒せない。はっ!」
涼が迎え撃つために、ドラゴンキラーを構えて飛び込む。龍助がオーラを放つ可能性があるのでそれを警戒しつつドラゴンキラーで防御と攻撃両方を出来る体制をとる。
龍助がまだリラの長剣の間合いに入らないところで、突然、踏み込んだ。
「!?」
イラスト:hata_hataさん
その瞬間、リラのフォームチェンジが始まり、大きなマサカリ方にフォームチェンジした。そして、勢いよく振りかぶった。涼の横側から攻撃する形になった。
「何!まだ、お前達は攻撃力の高い戦力を持っていたのか!だが、甘いな。」
涼がすぐに防御体制を取るために、ドラゴンキラーを装着している左腕を身体に引き付けた。
「re-write!」
涼が横の防御に入った瞬間に龍助が再びre-writeさせて、リラを剣へフォームチェンジする。両手に剣を持って同時に踏み込んでいた。
「何!!!さっきの武器は囮だったのか!!」
龍助が涼のドラゴンキラーと腕の間に剣を差し込む形でドラゴンキラーを強引に弾き飛ばす。そして、同時に短剣の方で首元へ押し当てて取り押さえようとする。
「やったわ、龍助!!!」
遥が叫ぶ。
「それはどうかな?」
龍助のわき腹に遠隔操作の槍が一つ突き刺さっていた。ガクッと、龍助が膝を付く。あらかじめ涼はbreak throughした時に護身用として槍先を一つ隠しておいたのだった。
「残念だったな。お前の囮の武器を使った戦略には感心したが、俺も数々の戦闘を乗り越えてきた戦士だ。ちゃんと切り札は隠してある。そして、更にまだ、お前達を失意のどん底に落としてやる。」
「龍助!!!」
慌てて、遥が前に出ようとした時に、他の遠隔操作の槍先が彼女を切り裂く。リコの盾で防御姿勢をとるが、防ぎきれず倒れる。
「おっと、俺の新たなパワーを見せる前に気絶するとは…。大した事無いな。」
「は、遥ちゃん…。く、くそっ…。」
龍助がわき腹の痛みをこらえつつ、悔し涙を流す。
涼が再びドラゴンキラーを装着した。そして瞳を閉じて話し始めた。
「俺は、ジュリア・クリスティーとの二度の戦いを通じて、まだ強くならなければならないと思った。しかし、break throughするだけでは、俺は彼女を超える魔力を手に入れることは出来ない。そして、氷山地帯の奥にある『氷の遺跡』へ、より強くなるために、俺は自分自身との戦いに行って来たんだ。」
涼は、『氷の遺跡』の中を進みつつ、様々な過酷な試練を乗り越えたのだった。そして、試練を乗り越えた時、彼は心身ともに鍛えられ、更に、遺跡の不思議な効力によって武器にも新たな力を与えられたのだった。
ドラゴンキラーにフォームチェンジしていた武器を一旦解除して、槍に戻す。そして、冷たい口調で一言叫んだ。
「evolve!」
すると、槍が若干大きくなり、色が黒色から白色へ変化した。同時に、涼の魔力もbreak through状態の時よりもパワーアップした。
「どうだ。南龍助。これが、俺の今の力だ。お前達が経験を積んで強くなる以上に、俺も更に強くなったんだ。これでも、立ち向かってくるか?」
傷ついた龍助がゆっくりと立ち上がる。
「僕はまだまだ負けられないんだ!朱里を取り戻すまでは。遥ちゃん、ごめんね。ちょっと待っていてね。」
少し後ろに下がり、リラの剣を再び構える。リラが心の声で心配する。
「龍助、もう意識が朦朧としているだろう。大丈夫なのか?」
「…。」
返事がない。気力だけで立ち上がっている状態で、リラの言うとおり意識がはっきりしない。視界がはっきりしなくなってきていた。
「お前達も、やはりもはやこれまでか。人間にしては良くやった。この俺もまさか、evolveを見せることになるとは思っていなかった。だが、これで、お仕舞いだ。なるべく苦しまないようにしてやる。安心しろ、ハルカリ嬢は消滅まではされないだろう。魔界でも指折りの大貴族の娘だったからな。だが反逆の罪でディオール家は取り潰しだろう。頭首と実行犯のハルカリは一生牢獄の中だ。じゃあな。」
涼は寂しげな表情で一気に白い槍を龍助の胸に向けて伸ばした。わき腹に突き刺さり服を突き破った。龍助が構えていた両手の剣を落とし、左手は力なく下へ垂れ下がり、右手は槍の上に垂れて、槍を掴んでいた。
そして、涼は、ゆっくりと槍を引き抜こうとした。
しかし、引き抜けない。
「な、何?」
龍助が、にやりとする。右手だけでなく、両手で槍をしっかりと握る。槍は彼の衣服を突き抜けていたが、寸前のところで身体はかすっただけだったのだ。涼が外した訳ではなく、龍助が避けていたのだった。手で槍を掴んだまま龍助が放さない。そして、目を大きく見開くと、左目がいつもの龍助の瞳ではなかった。
「き、貴様、何者だ!!」
アルが叫ぶ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
龍助がうなる。そして、腕輪の辺りにうごめいていたオーラが全身を包んだ。今まで魔力がほとんど感じられなかった龍助から、急激に魔力が増大する。まるで何かの封印が解けて開放された様に。
「朱里は、俺が守る。朱里を返せ!」
龍助が槍を持っている涼ごと槍を振り回す。
「く、くそっつ。こいつ、覚醒しているのか?あの左目は、まるでドラゴンの瞳の様ではないか?理由は分からないが、あれだけ戦って傷だらけなのに、このパワーとは。何処にこんな力が…。うわぁ。」
槍を放り投げて、涼が槍ごと壁に叩きつけられた。龍助がリラの長剣を持って、涼へ切りかかる。
to be continued...
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
麻宮朱里(デビルモード姿:魔力を抑えたver.)
イラスト:hata_hataさん