Episode 023
謎の天使(前編)

music:[INFINITY]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から反逆者セルが逃走し人間界へ逃げ込んむ。偶然、遥と光は夜の海でセルと魔獣達に出くわしてしまった。セルは魔獣を一匹だけ遥達抹殺のために残して闇に消え、魔獣と遥が戦おうとした時、セルを追ってきたJ.によって遥達は助けられたのだった。
 
 J.とJ.の部下の魔界の兵士は、その後セルを追跡したが、セルの行方に関する手がかりは見つからなかった...。

 人間界のあるお屋敷の中で、ミストスが部屋にノックをして入る。
「クラシス様。お茶をお持ちいたしました。」
「ありがとう。ミストス。」
 窓際のソファーにクラシスが座っている。ソファー前のテーブルの端に紅茶とエクレアをミストスが置くと、クラシスはタロット占いの様なものをしていた手を止める。
「邪悪なものが動き始めた様ね。あの子にも知る時が迫ってきているのかもしれないわ。なるべくなら、今の幸せを守ってあげたいけれど…。」
 窓の外を寂しげに見つめるクラシスを案じながらも、ミストスはゆっくりと紅茶を注ぎながら話す。
「そうでございますね…。ただ、これは変えがたい運命なのかもしれません…。私達は見守るしかできないのかもしれません。」
「ごめんなさいね。ミストス。あんなことをした私のために…。」
 にっこりとほほ笑みながら紅茶のカップをクラシスに差し出した。
「いいえ。もう過去のことです。それに私の一族は先代からクラシス様の家に仕えてきました。私の居場所はここですから。さぁ、お茶をお飲みくださいませ。気分がほぐれますよ。」
「ありがとう…。」
 ラズベリーの風味の入った紅茶の香りが部屋中に広がり、しばらく彼女はうつむいていたのだった。
 
 
 セルの逃走の話は、遥から朱里達にも伝えられた。魔力を察知する事が出来ない龍助は、遥から預かっていたディオール家の指輪を着ける。この指輪は、光の着けているピアス同様に、魔族の魔力を感知すると光る。敵が魔力を極端に抑えている場合、感知することが難しいが、着けている者の存在を魔族から分かりにくくするという効果もあり、戦う力となるのではなく、身を守るためにディオール家が代々大切にしてきた宝具の一つであった。
「朱里も気を付けてね。魔界の反逆者だから、何を企んでいるか分からないから。まぁ、あたしたちは魔界でも一般人だから危険は少ないと思うけど…。」
 龍助,朱里,由依,遥,リラ,リコが龍助の部屋に集まって話をしている。

イラスト:hata_hataさん

「そうね。でも、遥ちゃんは、お父様が大臣職に就かれているし、ディオール家の一人娘だから気を付けないと…。」
「ありがとう。あたしにはリコがいるし。」
 リコをなぜながら遥が言うと、リコが可愛く会釈する。
「ハイですの。朱里様にはリラがお守りしますわ。」
「お、おう。おいらは偉大なドラゴンだからな。どんと任してくれ!」
 リラがリコにかっこよいところを見せようと食べかけのビスケットを口に掘り込んで飲み込むと胸を張って言う。それを見て、朱里が微笑みながらもう一枚ビスケットをあげる。
「小っちゃくて可愛いけどね。頼りにしているわ。由依ちゃんは、私と龍助君で守るわ。」
 由依がビスケットを食べながら、リラの横でリラの真似をして胸を張る。
「ゆいもりらをまもるよ。」
「あ、ありがとう…。おいら心強いよ…。とほほ…。」
 リラが、苦笑いをする。
 

イラスト:hata_hataさん

「光にもピアスを渡しているんだったら、とりあえず大丈夫だね。それにしても、セルっていう魔族と夜の海で目撃したっていうけど、なんでそんな時間に海にいたの?」
「え、そ、それは…、あのね、えっと…。」
 龍助の質問に、知られたくなかった遥がもじもじする。すると、うれしそうにリコが龍助に答えた。
「光様と一緒に買い物をした帰りに少し寄り道をしただけですの。」
「リ、リコ!!!ちょ、ちょっと。えっと…、あのね、深い意味はないのよ。全然。ただ、佐伯君がこの町を案内してくれただけ。それだけよ。」
 遥が真っ赤になりながら龍助に言い訳するように説明すると、龍助が遥の手を取って感謝する。
「ありがとう、遥ちゃん。光の事を気遣ってくれて。最近、光にも色々あったから、僕も心配していたんだ。」
 遥は未だ気づいていないが、光の腕の傷で従来の様にテニスができなくなったことや、龍助が誘って軽音楽部へ遊びに来たものの些細なことで武司と喧嘩してしまったりしたり、龍助も心の支えになりたかったが、遥が彼の支えになってくれていたことに感謝したのだった。
「ま、まぁね。大したことないわ。佐伯君も、一応、あたしたちの仲間だもん。当り前よ。そう、当り前。」
 色んな意味でドキドキしながら遥が言うと、朱里が遥に抱きつつ言う。
「さすが遥ちゃん。優しいし、頼りになるわね。」
 
 突然、由依が遥かに尋ねる。
「ねぇ、そういうの。でーと、っていうの?」
 それを聞いて遥が首を振りながら否定すると、横にいたリラがにんまりとする。

イラスト:hata_hataさん

「そ、そうなのか?と、いう事は…。」
 龍助達も遥を見る。
「…美味しい物を食べたな。遥!ずるいぞ!おいらも食べたかったのに。何を食べたか、教えろ!」
 デートだったのかという事ではなく、遥達が何か美味しい物を食べた事がリラには気になったようで、遥が拍子抜けする。
「な、なんであんたに教えなきゃいけないのよ。このちびドラゴン!」
「ううう、プチドラゴンだ!いずれ大きくなる。由依ちゃんも遥が何を食べたか気になるだろう?」
 リラが小さな腕を組んで由依に賛同を求めると、由依も腕組みをしてうなずく。
「うん、きになる、きになる。」
 それを見たリコが優しく諭すように二人の前に飛んでいく。
「由依ちゃんとリラ。あのね。私も光様と一緒だったから、教えて差し上げますけど。今度、皆様で一緒に食べに行きましょうね。」
 リコが中華のランチバイキングやクレープの話をすると、リラも由依も目を輝かせながら聞いている。
「リコも一緒に!おう、みんなで食べに行こう!」
「ゆいもいく!ゆいも、ゆいも!みんなででーと。」
 朱里と龍助がくすくす笑うと、遥も呆れてくすくすと笑う。
 
「中華もおいしそうだね。光も誘って、今度は僕達も一緒にエスコートしてもらおうね。そういえば、今度の週末、花火大会があるんだよ。」
 龍助が、花火大会のチラシを机の上から持ってきてみんなに見せる。
「はなび?」
 由依が珍しそうにチラシに顔を近づけて眺める。
「花火とは火薬を使った火属性の魔法の様なものね。魔界でもそれに近いものがあるわ。綺麗なのよね。」
 朱里もチラシを見ながら由依に説明すると、遥もうなずく。
「そうね。せっかくだから人間界の花火も見物しましょう。ねぇ、リコ。」
「ハイですの。光様も誘って。」
 嬉しそうに遥の肩に飛んで行ってリコが停まって言う。
「ハイハイ。もう、リコは佐伯君がお気に入りね。」
 呆れたように遥がため息をつくと、その話を聞いていたリラが密かに呟いた。
「な、何!光がライバルか?侮れないぞ…。」
「頑張らないとね?リラも。」
 勝手に光を恋のライバルと決めつけているリラの側で、朱里がにっこりしながらささやいて、ウィンクする。リラが恥ずかしそうにした。
 
「そうだ、この間の浜辺の海の家でもカキ氷やおでん等、色々美味しいものが売っていたけど、花火大会の時は屋台が来て楽しいよ。例えば、リンゴ飴や、ふんわりとして甘い雲の様な綿菓子,一口サイズで可愛いベビーカステラ,色んなトッピングのクレープ,カラフルなデコレーションがされたチョコバナナみたいな甘いものもあるよ。それから、焼きそば,お好み焼き,たこ焼き,イカ焼き,トウモロコシを醤油で甘辛く焼いたもの,焼き鳥,ジャンボウィンナーとか、ガッツリ食べれるものも美味しいんだ。」
「これは?」
 チラシの裏に書いてある挿絵を由依が指差す。
「あ、これは、金魚すくいだよ。金魚すくいは、光が得意なんだ。光も誘って教えてもらおうね。出店の中には、遊べるものもあるんだ。金魚すくいや、くじ引き,射的とかもある。お面とか、風車とかも売っているお店もあって、ホントわくわくするんだ。」
 龍助が由依に身振り手振りで説明している姿を見ながら、朱里がジュースをストローで飲む。
「楽しみね。由依ちゃん?」
「うん。ゆい、たのしみだよ。はるかおねえちゃんも、りこもいっしょにいこうね。」
 朱里のスカートを右手で握ったまま、左手で遥の指を小さな手で掴んで嬉しそうに揺らす。遥もうなずいて、軽く由依の指を握り返して微笑んだ。リコがそのつないだ手の上に飛び降りてブランコのように揺れている。
「ハイですの。楽しみですわね、由依ちゃん。人間界では浴衣というお着物があると聞いたことがありますから、海の水着のようにおしゃれして出かけられると素敵ですわね。」
「よく知っているね。さすがリコちゃんだ。きっと、みんな綺麗だと思うよ。浴衣も風情があってよいね。僕も光も楽しみだよ。」
 龍助が朱里や遥達の浴衣姿を想像して嬉しそうにする。朱里が思い立ったように遥を誘う。
「遥ちゃん、また一緒に浴衣を見に行こうね。」
「勿論よ。また、女の子だけでお店に行きましょう。由依ちゃんとリコも一緒に。」
 浴衣選びを見られるのが少し恥ずかしいのか、遥がそう答えると、龍助とリラが少しがっかりした表情になる。それを見た由依が気を利かせて言う。
「おにもつもちに、りらとりゅうすけもきたいって。」
「まぁ、だったら一緒に行きましょう。あたし達を狙っているわけでは無さそうだから危険は少ないと思うけど、セルが逃走している最中だし、ちょっと頼りないけどボディーガードとしても役に立つかも。」
 遥が片手を腰の辺りに手を当てながらつんとして、龍助とリラを見ながら言う。
「頑張ります。ねぇ、リラ。」
「お、おう、ばっちり任しておけ。買い物の時にパフェ食おうぜ!」
 それを聞いた朱里が笑いながらリラの頭を人差し指で軽く突く。
「もう、リラは食いしん坊さんなんだから…。」
 
 
 遥が龍助の家を出て、自宅に戻る。

イラスト:hata_hataさん

「ねぇ、リコ?」
「いかがしましたか?遥様?」
 リコが彼女の呼びかけに応える。
「まだおそらくセルがこの人間界へ潜伏しているのでしょうね。そーいえば、佐伯君と出かけて楽器屋でR.に出会った時にあたし達や朱里に異世界から何者かが接近しなかったか、と言っていたでしょう?」
 リコも楽器屋で涼と出会った時のことを思い起こす。
「その様な事をおっしゃっていましたね。あれは、セルの事だったのでしょうか?」
「いいえ、あの時点ではまだセルは逃走していないはず…。と、いうことは、異世界の者とは誰なのかしら。」
 遥がカーテンを閉めてソファーに座る。リコが遥の側に小さな翼で飛んでくる。
「分かりませんね。R.様の様子では、敵か味方かも分からない感じでしたし。」
「そうね。いずれにしても、用心しないと。あたし、朱里も由依ちゃんも佐伯君やクラスメートのみんなも守りたいの。龍助も。でも、今の力では自分ですら足を引っ張ってしまうことが。この間も、ジャンヌさんに助けてもらったし。もっと大切なものを守りきる力が欲しいのに…。」
 夜の海で、セルの一味に遭遇し、魔獣の攻撃を受けた時にJ.によって助けられたことを思い出していた。責任感の強い遥は、あの時、セルの一味を自分が捕まえることが出来ず、みすみす逃がしてしまった事により、人間界に危険が増えてしまった事を残念に思っていた。
 
 遥の姿を見て、リコも呟く。
「大切なものを守る力…。分かりました。いつもの訓練に新たな試みを試してみますか?」
 悩んだ挙句、リコが提案すると、遥が尋ねる。
「そんなことがあるの?」
「はい。ただ、とても容易いことではありません。魔界で遥様と初めてre-callの契約をした時に言いましたが、もともと私はドラゴン属性の者との相性が高いのです。遥様は残念ながら氷属性者。それを補うために、日々の鍛練で、遥様との心の絆を深めシンクロ率を上げてre-call時の防御力や魔力の効果を高めています。」
 魔界での戦いで遥は多くのことを学んで、以前よりも魔力もレベルアップしていたが、人間界へ朱里達と戻った後も、頑張りやな遥は魔法の訓練や、リコとのre-callの修行も続けていたのだった。
「いつもありがとう。感謝しているわ。」
「しかしながら、この方法で更に効果を高めるには氷属性者の遥様では難しいです。勿論、魔界の精鋭のレジェンドであるR.様やJ.様でも同じですから。」
 リコの言葉に遥の表情が曇る。
「彼らで難しいのなら、今のあたしでは叶わないわ…。悔しいけど。」
 
 遥の膝元にそっと降り立って、リコは優しく遥を見上げながらゆっくりと話す。
「遥様。あなたが今の限界を超える方法が一つあります。」
「何?それは。」
 リコは自分の額の辺りを軽くなでる。リコの額にはクリスタルの様な者がある。

イラスト:hata_hataさん

「私には秘められた力があります。これは扱うのに私自身難しく、遥様とのシンクロによって引き出される力です。朱里様の宝具『L.D.C.』とは少し違うのですが、私の中にも人間界でいう歌、つまり”Espoir”の力を吸収することができます。宝具『L.D.C.』には及びませんが、”Espoir”のクリスタルの力を、遥様の魔力と掛け合わせてより大きな守る力を手に入れるというものです。ただし、過去に扱えたお方は、魔界ではシャロン・ディアブロ様、唯一お一人です。」
 一瞬にして遥の希望が再び突き落とされたような絶望感に襲われる。唯一の扱えた者が遥が足元にも及ばない魔界の王の名前だったからだ。
「ディアブロ様だけ…。魔界で一番の魔力の持ち主だけ…っていうこと?」
「私は以前、ディアブロ様に仕えておりました。そして、朱里様奪還の際にディクセンオールで遥様達を監視するために遥様と町のお店で出会うように命じられました。」
 がっかりしている遥に、彼女と出会った頃の事をリコが話し出す。
 
「そうね。元々、ディアブロ様がパートナーなのよね…。だったら、なんで、朱里奪還後もあたしなんかのパートナーを?」
「遥様達の監視の命令を受けた時に、ディアブロ様は私にもう一つ命令を下されました。いいえ、命令というよりは願いと言うべきかもしれません。次の時代の魔界を担う者の力になって欲しいと。」
 自分よりも小さいにもかかわらず魔界の事を背負っているディアブロ王の偉大さを改めて感じながら遥は尋ねる。
「ディアブロ様がそんなことを?あの時は、あたし達は魔界の掟に刃向っていたのに?」
「ハイですの。勿論、朱里様が人間界へ来ることが許された後で、ディアブロ様の命令で動いていたので戻ってきても良いとおっしゃいました。」
 魔界の王の側に仕えるという誰もが羨む名誉ある仕事が出来るというのに、遥の元を離れなかったことに驚いた。
「じゃあ、なぜ?」
 少し照れながらリコが答える。
「私が遥様と一緒にいたいから、っていう、私の本心が理由だったらいけませんか?ディアブロ様も大切な方ですが、龍助様や光様や朱里様達を守りたいという遥様と一緒に守りたいのです。リラも同じ思いじゃないでしょうか。」
 その言葉に遥がはっとして涙を流す。そして、大切なパートナーと巡り合えたことに胸が熱くなる。
「ありがとう…。リコ。あたし、頑張る。だから、リコとあたしの”Espoir”の力を借りてみんなを守れるようになりたい。」
 遥は膝元のリコを抱き上げて胸に抱きしめて、頬をリコの頬に摺り寄せた。
「分かりました。もう泣かないでください。せっかくのエレガントな遥様のお顔が。」
 レジェンドでも難しく、過去にディアブロ王しか扱えなかった力を遥はリコと共に力を合わせてきっと身に着けると、心に決めたのだった。
 
 

イラスト:hata_hataさん

 セル逃走のその後の状況を大臣職に就いている遥の父に聞くために、遥とリコは本格的な修行も兼ねてしばらく魔界へ帰ることにした。
 それから数日経った。普段、リコと遊ぶために遥の家へリラと一緒に時々遊びに行っていた由依がつまらなそうにおもちゃのピアノを弾いている。リコが優しくレクチャーしてくれたおかげで、由依も少しだけだがおもちゃのピアノを弾くことが出来るようになっていた。
「つまんない。」
「リコは遥と一度魔界へ帰ったからなぁ。おいらもリコに会えないのは寂しいけど、しょうがないぞ。用事がすんだらすぐ帰ってくるって言っていたから。」
 朱里が龍助と学校へ行っている間、由依が寂しがるのでリラもお留守番をしていたのだった。由依の子守役のリラが困った顔をして、由依をなだめる。
「う…。つ・ま・ん・な・い!!」
「我儘言わずに、おいらとお昼寝しよう?そうだ、良い子はお昼寝をしよう。よく寝る子は育つ、って言うし。おいらも大きくなりたいし。美味しいものを食べている夢を見ればきっと幸せだぞ。」
 先ほど昼ご飯を食べたばかりなのだが、リラは食べ物の事を想像しながら涎を拭いた。リラが、タオルケットを持って由依の所に飛んでいく。
「な?少し寝たら、朱里が帰ってくるから、みんなでお散歩しよう?」
「お散歩?」
 由依が少し興味を示したので、尽かさずリラはおもちゃのピアノを部屋の端に片づけて、タオルケットを由依にかけてやる。
「そう。だから、おとなしくお昼寝しよう。三時のおやつの時間までもまだ時間があるから。な?」
 渋々、由依も昼寝をすることにした。由依の横に丸まって、リラも横になる。そして、由依とリラは眠りに落ちて行った。
 
 

イラスト:hata_hataさん

 それから数時間経って、由依が目を覚ます。目をこすりながら、横を見るとリラが何か食べ物の夢を見ているように口を動かしながら眠っている。由依は、リラに自分のタオルケットをかけてあげると、部屋を出た。階段を降りると、どうやら、龍助の母親も買い物に出ているようで、誰もいない。
「つ・ま・ん・な・い。ゆいはひとりでもおさんぽできるもん。」
 そう呟いて、由依は靴を履き一人で家を出た。一人で出かけるのは初めてだったが、少し大人になったような気持ちがしたのだった。
 遥がすんでいるお迎えのマンションへトコトコ歩いて行って、オートロックの機械の前で機械を操作する。いつもは、リラと来ているので扱い方は知っている。しかし、呼び出しブザーを押しても返事がない。
「まだかえってきてないのかな。それとも、じゅりのがっこうかな?ゆい、おむかえにいってみる。」
 由依は、何度か龍助達の通う学園へ連れて行ってもらったことがあるので、かすかな記憶をたどり歩き出した。空には青空が広がり、好きな歌をハミングしながら気分よく手を振っていた。
 橋を渡って、少し進んだ十字路の所で由依が立ち止まる。
「う~ん。どっちだろう。ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な?」
 すると、左の道に白い小さな蝶が飛んでいるのが見えた。由依は、夢中になって蝶を追いかけてどんどんと道を進んでいく。しかし、しばらくすると、蝶は空の上の方へ飛んでいき見えなくなってしまう。
「あ~あ。いっちゃった。ゆいにもりらのようにはねがあると、ちょうちょさんとおそらのおさんぽができるのに。」
 小石を軽く蹴飛ばして残念がった後で振り返ると、由依は迷子になったことに気づく。慌ててきょろきょろしてみるが、同じような家が建っており、来たことのない場所でどちらから歩いてきたかも分からなくなった。
 
「どうしよう…。ちゃんとりらとおるすばんしておけばよかった…。」
 不安で泣きそうになるのを必死に耐えていると、由依の後ろから男性の声がする。
「どういたしましたか?」
 由依が振り返ると、そこには由依が海で出会ったクラシスに付き添っていたミストスが立っていた。
「くらしすさんのおともだち?ゆい、じゅりのがっこうへおむかいにいこうとしてまいごになったの…。」
「それは大変ですね。ミストスが学校までお送りいたしましょう。朱里様の見かけであれば、人間界では高校生ぐらいのお歳でしょうね。きっとこの辺りの高校かと思われます。ご案内いたしましょう。ご安心を。」
 優しく微笑んで手を差し出すと、由依が手をつなぐ。
「ほんとう!ありがとう。みすとすさん。」
「いいえ。一度、由依様とお話ししておきたかったので。キャンディーでも食べますか?」
 ミストスが由依の口に紅茶味のキャンディーを入れてあげると、由依が嬉しそうに頭を少し傾けてお辞儀をする。その一瞬、由依の髪が白く輝いた様にミストスに見えた。ミストスは「こ、これは…。まさか…。」と、心の中で呟いた。
 
 

イラスト:hata_hataさん

 歩きながらミストスが由依に言う。
「由依様は朱里様がお好きですか?」
「うん。すき。かぞくだから。」
 由依が答えると、ミストスはため息をつく。
「家族ですか…。」
 それを見た由依がミストスに尋ねる。
「みすとすさんは、くらしすさんのかぞく?」
「そうですね。まぁ、ミストスはクラシス様にお仕えする人間界で言うと執事みたいなものでしょうか。」
 由依が執事を羊と聞き間違えて、笑う。
「ひつじさん?へんなの。」
「いいえ、し・つ・じ、です。分かりやすく言うとお手伝いさんでしょうか。」
 苦笑いしながらミストスが教えてあげると、由依が自分の事を話す。
「ゆいもごはんのおてつだいさんするよ。ごはんのときに、みんなのおはしならべるの。」
「由依様はお利口さんですね。」
 由依の事をミストスが褒めてあげると、由依は嬉しそうにする。そしてミストスに言った。
「みすとすさんも、おりこうさんだね。」
「これは、お褒め頂いて光栄です。家族のためにお手伝いするのはとても気持ちの良いことですね。」
 道を曲がると橋の側に出てくる。
 
「うん。でも、ゆいのほんとうのかぞくはわからないの…。」
「会いたいですか?由依様は本当の家族に。」
 朱里達といて幸せなのだが、本当の父や母に会いたいと心のどこかで感じていた由依が寂しそうに打ち明ける。
「……。あいたい…かも…。」
「そうですよね。逢いたいですよね。本当の家族に。それが本来あるべき姿かもしれません。」
 ミストスが考え込みながら由依を見つめる。
「由依様…。あなたは、ある理由で卵から生まれました。由依様は天界の者の子供。天界の民が由依様の家族です。」
「天界?」
 由依がミストスの顔を見上げる。
「はい。天界です。ここは、人間界ですが、ディアブロ王が治める朱里様達の世界である魔界とも違う異世界です。由依様は、本来、人間界にいるべきではなく、天界の地にいるべきなのです。私は、天界から来ました天使族です。私も人間界の者ではありません。」
 ミストスは天界の天使族ということを由依に明かす。魔界には魔族,天界には神族がいるが、彼らに仕える天使族は天界にも魔界にも住んでいる。何かの理由で、ミストスはクラシスに付き添って人間界に来ているようだった。
「由依様がいるべき場所はここではない。天界には本当の家族が待っております。ミストスが由依様を天界へお連れすることはできます。」
 いきなり由依が天界の者で天界に家族が待っていると聞かされて彼女は驚くが、驚き以上にうれしさにミストスに大きな声で言う。
「ほんと!?ゆい、じゅりといっしょにいく!」
 すると、ミストスは由依にゆっくりと諭した。
「それはなりません。異世界への移動は許可ある者のみ許されます。朱里様が掟を破ってしまうという事になり、捕まってしまいます。ご心配をかけないように、この話は決して話してはダメです。人間界の大切なお友達に危険が及ぶかもしれませんから。」
「…。」
 黙って由依がうなずく。大切な龍助や朱里達に危険が及ぶのであれば黙っておこうと思ったのだった。
学校への道へ出た所で、ミストスは魔族の魔力を感じて警戒して足を止める。由依が遠くに見える学校の校門を指差す。
「あ、がっこうだ。ゆいあとはひとりでいけるよ。ありがとう。」
「また、お会いしましょう。それまでに、由依様のお気持ちを決めて下さい。クラシス様もきっと由依様とお会いしたいと思いますよ。」
 海でクラシスと共に歌を歌って楽しかったことを由依が思い出す。
「うん…。ゆいもくらしすさんとまたあいたい。」
「それでは、失礼致しますね。」
 そう言うと、ミストスが道を引き返して角を曲がった。その先にミストスの姿はもう無かった。
 
 
 突然、由依の目の前にゲートが開き、J.が出てくる。
「なんだ、子供か。この辺りに天使族の魔力を感じて来てみたのだが…。気のせいか?」
 J.が辺りを見渡す。由依が人間界へ来るときにディアブロ王の側に護衛としてJ.が仕えていたことを思い出す。
「おねぇちゃん、しゃろんちゃんのおともだちでしょう?」
「シャロン・ディアブロ様にお仕えする兵のJ.だ。ちょっとここで待っていろ。後で聞きたいことがある。」
 そう言い残すと、J.はミストスが曲がった角の方に何かを感じとり走って行った。
 
 
to be continued...

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が付いたエピソードをお楽しみいただけます。さぁ、『L.D.C.』の世界へようこそ!
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■Episode 001:

♪:[blue]

■Episode 002:

♪:[light pink -I love you.-]

■Episode 003:

♪:[nu.ku.mo.ri.]

■Episode 004:

♪:[real]

■Episode 005:

♪:[color]

■Episode 006:

♪:[my wings]

■Episode 007:

♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]

■Episode 008:

♪:[promise]

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■Episode 017:

♪:[ドキ×2]

■Episode 018:

♪:[let it go!!]

■Episode 019:

♪:[N]

■Episode 020:

♪:[tears in love]
♪:[destiny]

■Episode 021:

♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]

■Episode 022:

♪:[Happy Happy Love]

■Episode 023:

♪:[INFINITY]

■Episode 024:

♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]

■Episode 025:

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[interrupt feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

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白鳥由依(ローブ姿)

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