Episode 012
悲しき想いと涙(後編)

music:[ETERNITY]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から来た麻宮朱里を取り戻すために魔界へ突入した龍助,遥,リラは、新たに仲間になった魔界のトレジャーハンターであるアルと共に、遥の生まれ育った街、ディクセンオールを旅立ち、一路、朱里が捕らわれている城へ向かっていた。
 
 前回の魔界の兵士達との戦闘のため、ゲートの監視が厳しくなった。そのために、龍助たちは陸路を進むことにした。
 
 森を抜けている時に、キメラの群れと遭遇する。そこは野生のキメラが群れを成している森だったのだ。アルの提案で、龍助は戦闘訓練も兼ねて、キメラを捕獲することになる。森を抜けると砂漠を越える必要があるためだった。
 
 そして、龍助たちを追っている一つの影があった...。

 遥がロッドを高く空に差しだして、大きく一振りする。その瞬間、空から氷の刃が降ってきた。そして、森に潜んで龍助達を狙っているキメラに襲い掛かり軽く氷付く。
「よし、さすが遥だ。雑魚はこれで少しの間動けないから、ボスだけと勝負できるぞ。」
 その瞬間、キメラの雄たけびが森に轟く。
「く、来るぞ、龍助!おいら達で朱里を取り戻せるように強くなろう!」
「うん!!!」
 森の茂みから突然、氷を破ってキメラが飛び出す。龍助が、リラの剣を両手で振り下ろしてオーラを飛ばし、キメラに攻撃を加える。しかし、あまり効果がない。
「くそっ。龍助、連続で打ち込むぞ。それからおいら達は近距離は危ないが、中距離の方がより命中しやすいから間合いを見ながら攻撃しよう。」
「そうだね。リラ、行くよー!!」
 龍助が走りこみながら剣を数回振り、キメラにオーラを全弾命中させる。さすがに、キメラのボスもうめき声を上げる。しかし、まだ十分に戦意があるようだ。
 
 龍助の戦いを心配そうに見守る遥をアルが見つめる。
「龍助も少しはやるわね。」
「遥のためかもな。」
「それは、違うかも。朱里を助け出すためなんだわ。勿論、彼は優しいからあたしのことも守ってくれる…。もっと強くなって、みんなを守れるようになりたいのよ。」
「まぁ、硬いこと考えなさんな。物事は良いように前向きに考えようよ。あいつが強くなればお前もうれしいだろう?そんな大好きな彼を支えてあげなくちゃな?遥。」
「うるさいわね。ちょっと、何か感じない?」
 遥が龍助が戦っている先に魔力を察知した。
「…?俺への熱いラブコールではなさそうだな。これは、あの時の女戦士か。」
「J!!!」
 遥はJ.との戦いで、自分が必ず守ると心に決めていた龍助にかばってもらったことで、逆に彼に傷を負わせてしまったことに深く後悔していた。そのJ.が現れたことで、飛び出していった。
 
「おい、遥、待て!!」
 慌てて遥を追って、アルも飛び出す。龍助の手前で高く跳び上がって、龍助とキメラのボスを軽く跳び越してその先に待つJ.目掛けて氷攻撃魔法を繰り出した。
 アルも、鞭を使って高い木の枝に絡ませてぶら下がりながら龍助たちを跳び越えて、遥と龍助たちの間に着地する。龍助は、何が起こったのか分からなかったが、目の前のキメラのボスへ間合いを計りながら攻撃を繰り返していた。
「ちっ。遥め。前回、龍助を傷つけられたのを全部自分の責任と思って背負いやがって…。俺の立場がないぜ。龍助は、そろそろキメラをしとめれそうだが、油断は禁物だな。問題は、遥が冷静な判断を下せるかどうかか…。」
 
 

イラスト:hata_hataさん

「こんな攻撃では効いてないでしょう?さっさと出てきなさいよ。こそこそしていないで。」
 茂みに向かって遥が叫ぶ。茂みからJ.がゆっくり出てきた。そして、にやっと口元が歪んだ瞬間、すごいスピードで遥へ大きな鎌を振りかざして襲い掛かった。
「少し魔力が高いからって調子に乗らないでよ。」
「お前は、邪魔だ!俺の敵は龍助と裏切り者のあのトレジャーハンターだ!」
「遥!!!危ないから間合いを取れ!そいつは中距離以上間合いをとっていれば、少しは戦いやすい。」
 アルが龍助の戦いの様子を気にしながら、遥にアドバイスする。しかし、遥には、聞こえていないようで、目の前の敵を必死に攻撃していた。
「ちっ。龍助のバトルが片付いてから、あのおっかない大鎌の姉ちゃんとのバトルだったら良かったんだが…。龍助、お前は何とか頑張れ。お前だったらなんとか乗り越えられる。それよりも遥にはもうこれ以上悲しい思いはさせたくないんだ。」
 遥がJ.を封じ込めようと結界のトラップを仕掛けつつ、攻撃をするが、J.がトラップをもろともせずに向かってくる。J.が左に跳んだ瞬間、遥は氷魔法攻撃で吹雪を繰り出すが、J.を見失ってしまった。
 
「ど、何処に行ったのよ!」
「遥、上だ!!!」
 J.は大鎌の棒の部分を投げ出して左に跳んだように見せかけて、遥の頭上に跳んでいたのだった。その手には釜の歯の部分をフォームチェンジして、半分にしてそれぞれに開いた穴に指を通してつかむ様にして接近戦用の武器を両手に持っていた。
 遥は、慌てて氷防御魔法の結界を張って応戦する。J.が結界を砕きながら落ちてくる。アルが鞭で援護するが、右手のJ.の武器で跳ね返される。
「あたしは、負けられないの!!あんたは許せないの!!」
 そう遥が叫んだ瞬間、遥が光に包まれる。
 
 
 

イラスト:hata_hataさん

 遥が、気がついた時、明るく霧のようなもので包まれた空間にいた。
「ここは、何処?」
「ご主人様。私の力で一時的に異次元へお連れしました。」
 リコが遥の肩から小さい翼でパタパタと飛び上がり、遥の顔の前で話す。
「リコ…。あんた、いったい…。ドラゴンじゃないの?」
「あたしは、マスターと共に大切なものを守るために生まれてきました。まだ、遥様とはマスターの主従契約をしておりません。私の本当のマスターが遥様であるか分かりません。でも、あなたは、今、守りたい者がある。そして、力を必要としています。本来、我々は、ドラゴン属性者の方とマスター契約をするのが一番力を発揮することが出来るといわれております。」
 ロッドを遥がぎゅっと握る。
「あたしは、氷属性者だわ…。」
「そうですね。遥様は氷属性者です。よって、残念ですが私との相性はドラゴン属性の方ほど良いわけではありません。」
「…。」
 うつむく遥。悔しさで涙が少し流れる。リコが優しく微笑んで、遥の頬を優しくなでながら話す。
 
「でも、私は遥様が好きです。効果を発揮するには属性的な相性だけでなく、お互いの気持ちが通じ合う、つまり信頼関係や絆などでも克服することが可能といわれております。そして、日ごろの鍛錬によっても補うことが出来ます。」
「あたしに力を貸してリコ!あたしは龍助を守りたいの。そして朱里も取り戻したいの。リラやアルも佐伯君も人間界で知り合ったクラスメートのみんなも、守りたいの。」
「分かりました。私は、リラのre-writeの様に主に武器ではなく、re-callで防具にフォームチェンジします。マスターの魔力を使うことで防御力を上げるので、遥様の魔力消耗も激しくなります。それに、リコは『戦うための武器』ではなく、大切な者を『守るための武器』です。それをご理解いただけたら、きっとお力になれると思います。そろそろ、この空間にいれる時間が短くなってまいりました。契約に入ります。心から大切な人たちのことを思いながら復唱してください。」
 リコが説明し終えたら、遥はリコの瞳をしっかり見てうなずいた。
 
「『空と大地と海の理を守らんとするとき、我、女神の微笑と星屑の涙とクリスタルの輝きをもって、温かき心で包み込もう。その為の力を我に与えたまえ。』」
 遥がロッドを放して、胸元に両手を持ってきて祈るような姿で心を込めて復唱する。
「『空と大地と海の理を守らんとするとき、我、女神の微笑と星屑の涙とクリスタルの輝きをもって、温かき心で包み込もう。その為の力を我に与えたまえ。』」
 すると、リコは遥の頬にkissをして優しく言った。
「後は、あなたの涙を私に触れさせてください。それで、契約は終了です。そして、re-callとおっしゃってくだされば、私はあなたと共に大切な者を守ることが出来ます。大丈夫。私はいつもあなたと共にいますから。安心してくださいませ。ご主人様。」
「ありがとう。リコ。」
 頬に残った涙を人差し指で拭き、リコにそっと触れる。リコが小さくうなずいた。
 
「re-call!」
 
 瞬時にリコが光に包まれ、遥の左手から肩にかかるぐらいの盾にリコがフォームチェンジした。重さはほとんどないぐらい軽いのだが、遥の魔力を少しずつ使いつつオーラを放っていた。不思議なことに、遥は優しい気持ちに包まれて落ち着いていた。
 
 
 J.が落ちてくる。どうやら、遥はリコによって異次元に移動していたが、契約を済ませて、また同じ時間の同じ次元に戻ってきたようだった。
「何、その盾みたいなものはなんなんだ!!!お前!!!」
 遥が、リコの盾でJ.の攻撃を防御し、そして、勢いよく弾き飛ばした。J.は木を二本ほどなぎ倒しながら飛ばされていった。
「ぐあぁ!!!」
 J.がうめき声を上げる。
 
「遥、お前、いったい、どうしたんだ?その盾。あ、リコなのか?それは。」
「そうよ。あたしの大切なパートナーなんだから。」
「ちぇっ。珍しいドラゴンだったから、俺が欲しかったのにな。」
「あんたになんか渡さないんだから。ありがたく思いなさい。リコと一緒に、みんなまとめてあんたも守ってあげるんだから。」
 遥が余裕の笑みで話す。アルが遥の中の焦りが消えていることに気がつき、ほっとため息を付きながら言う。
「そりゃぁ。うれしいなぁ。でも、そろそろアル様にも出番を用意してくれよ。約束しただろう。俺がお前達を守る、って。遥は、龍助を見守ってやってくれ。俺はこの姉ちゃんの目を覚まさせてやる。また暴走を始めたから。」
 
 いつもであれば、遥は言うことを聞かずに向かっていくところだが、リコを身に着けて優しさに包まれているせいかアルの指示に従った。
「分かったわ。龍助は任せて。」
「頼んだぞ!あ、でも、あいつの手助けをしすぎると、あいつのためにならないから、見守ってやるのも優しさだぞ。成功したら褒めてやれ。それじゃぁ、大鎌の姉ちゃん、いや、今は武器が鎌じゃなくて、近距離戦闘用の武器なのか。だったら、なおさら中距離以上で叩く。」
 
 
 遥が龍助の方へ援護に回ったのを確認して、アルは左手でゆっくりと鞭を構えながらバックから癒し効果魔法の注射のようなものを右手に取り出した。
 茂みのところで、J.が前回同様、暴走を始めていた。
「こいつは、普通じゃないな。お前、まさか、クローン技術の応用か何かで強化されたんじゃないのか?天界では禁忌だが、魔界では取調べが甘いからな。ひょっとしたら、シーズ…。」
 J.が投げた武器が跳んできて、アルが軽くよける。
「おー、危ねぇ。投げれば中距離戦闘でも使えるけど、あんまり賢い戦いとは思えないぞ。」
 暴走中のJ.が、にやりとする。アルが風の音を聞いて瞬時に風の呪文を唱えて、突風を起こした。すると、後ろから迫ってきていたJ.の武器が軌道を外れて彼女の手元に戻る。
「ブーメランの様にして使えるのか。こりゃあ、中距離どころか、遠距離戦も出来そうだな。気をつけないと。あんた、意外に正気?大人しくしていれば綺麗なのにな。花飾りの付いた髪飾りがすごく似合っているのに台無しだぜ…まったく…。」
 トラップの道具を仕掛けながら、数メートル後ろに跳ぶ。
 
 

イラスト:hata_hataさん

 その頃、龍助は着実にリラと共にキメラのボスに攻撃をして弱らせていた。周りのキメラは遥の氷属性魔法で体の一部が凍り付いて動けずにいた。
「もう、そろそろこのキメラのボスも限界に来ているはずだぞ。油断するな。前回は、褒めたとたんミスが出たからな。」
「分かったよ。気をつける。でも、もう攻撃しなくても…。なんだか可哀想だよ。僕達がさっさと通り抜ければ、彼らはここで普通に暮らしていけるんだよ。」
「それは…。」
 リラが言葉に詰まる。様子を見守っていた遥が声をかける。
「龍助、しっかりしなさい。キメラは本来、飼われていたものだから、野生化して自由になるのが幸せかどうか分からないの。」
「?」
 
 遥が優しく諭すように龍助に語り掛ける。

イラスト:hata_hataさん

「キメラは、本来、優しい生き物なの。あたしのお屋敷でも沢山飼っていたでしょう?みんなとても大人しくて可愛いの。でも、野生になると自由にはなるけど、過酷な魔界で生存競争に残っていくのは大変なことなの。人間界と違って魔界は非常に厳しい場所だし、まだ解明されていないことも沢山あるのよ。もし、このキメラを捕獲して、あんたが連れて行きたくなかったら、それでも良いわ。でも、あんたが、大切に愛情を注いで安心させてあげるのがキメラにとって幸せなことなのかも。安心して、朱里を奪還したら、あたしのお屋敷で大切にすることも出来るわ。まずは、消滅させない程度に弱らして、降参させて、道を通してもらいなさい。あんたの力で朱里を取り戻すんでしょう?」
「ごめん、遥ちゃん。僕は、これ以上は攻撃をしないよ。もう十分だと思う。」
「龍助…。」
 龍助が少し微笑んで遥を見つめる。
「やっぱり、何かを犠牲にしてまで、守らなければならないということは出来るだけ避けたいんだ。」
 腰に手を当てて、少しおすましポーズをとりながら遥はうなずいた。
「あんたが、出した答えなら、あたしはもう何も言わないわ。」
「おいらも。」
 リラも心の声で同意する。
 
 リラの剣を構えるのを止めて、龍助がキメラのボスの方へ歩いていった。そして怯えるキメラにゆっくりと触れて、なぜながら言った。
「ごめんね。僕らが突然現れたから、びっくりしたんだよね。君も群れを守らないといけなかったから戦ったんだよね。僕も朱里という大切な人や遥ちゃんやリラ,アル達仲間を守るためにここを通らないといけないんだ。後で、アルに癒しの魔法効果の道具を借りて回復させるから、許してね。」
 
 すると、龍助にキメラが顔を寄せて優しく鳴いた。
「おい、遥!これは服従の泣き声じゃないか?」
 リラがre-writeから開放されて、ドラゴンのフォームにフォームチェンジして言う。
「リラの言うとおりだわ。あんたをボスに認めたのよ。」
「え、僕はキメラじゃないよ?」
 龍助が慌てる。その様子を見て遥が呆れながら教える。
「馬鹿ね…。ホントあんたは。あんたに付いて行くってことなのよ。」
「?。でも仲間のキメラは?」
「おそらく、ここにいると思うわ。でも、いつか、キメラが帰りたくなったら、返してあげればよいじゃないの?」
「本当にそれで良いの?君は…。これから目的地に向かって砂漠を越えるらしくて厳しいみたいだよ。」
「そうね。本来なら、もう一度、ゲートを開いて、朱里のいる城の近くまで行きたいところだけど、前回の戦いで警戒令がしかれて自由にゲートを移動できなくなってしまったから…。」
「おいら達は、キメラのお前が来てくれると助かるぞ。」
 キメラはキュー、と鳴いた。
 
「OKだ!多分。」
 リラが小さい翼でパタパタしながら言う。
「多分って、リラもいいかげんだな。」
「ははは。そうだ、おいら達、何か忘れてないか?」
「そうね、何か忘れている気が…。」
 少しみんなで考えながら、ふとリラが遥に思い出したようにお願いする。
「子分のキメラを開放してやってくれ。」
「そうね。」
 遥が癒し系の魔法でキメラを回復させてやる。ボスのキメラが龍助に服従したことで、他のキメラは攻撃をしてこずに、大人しくしていた。リラがうれしそうにキメラの周りを飛び回っている。
「よし、めでたしめでたし。」
「…じゃ、ないよ!!!アルは?どうしたの?」
 突然、龍助が叫ぶ。
「あ!!!」
 一同が叫ぶ。
 
 
 一同がアルを忘れてしまっていたことに気付いた頃、アルが1kmほど南の枯れた沢で、J.と戦っていた。龍助や遥達からなるべくこの暴走状態のJ.を遠ざけるためにあえて、誘導するようにトラップを仕掛けては引いてそこまでたどり着いた。
「いい加減に、手持ちのアイテムも無くなってきたな。あのJ.とかいう奴、攻撃力がまだ上がってやがる。軽く見積もっても、俺の数倍の魔力だ。クローン技術の研究者が天界から追放されて魔界へ身を隠しているって噂を聞いたことがあったが、こいつもその研究の結果なのか?」
 少し距離を置いて、岩陰に身を潜めているアルにJ.が怒鳴りつける。
「おい、いい加減出てきて戦えよ!せっかく武器をbreak throughさせて、戦ってやってるんだから、お前も俺と戦え!!裏切り者のトレジャーハンター!いや、それとも、若くして上級魔族の作戦部の一級戦術家に上り詰めたという、元『レジェンド』のアルレイン!魔界の兵士の中でもエリート集団の『レジェンド』に所属していたにもかかわらず、あっさりと辞めて、魔界の反逆者に成り下がりやがって!!!」
 
 訂正しようと、アルが岩陰から顔を出す。
「は、反逆者って?まぁ、ちょっとヤンチャし過ぎたかもしれないが…、ディアブロ様に刃向かっているわけじゃないぞ。そこんとこヨロシク!うわっ!」
 J.が武器をブーメランにして一つを飛ばしてきた。
 
「だったら、お前は、何で南龍助たちと一緒に旅をしているんだ!」
「何でだろうな?そうだなぁ。あえて言うなら、あいつら、温かいんだ。」
「?」
 J.の攻撃の手が一瞬止まる。
「あ、今、笑ったなぁ?結構、恥ずかしかったんだぞ。うわっ!うぉ!」
 いらいらしながらJ.がブーメランにして再度、武器を両方飛ばしてきた。
「うるさい!何、生ぬるいことを言ってやがる。そんな奴は、俺が跡形もなく消し去ってやる!消滅してしまえ!!!」
「それは困るんだ!俺にはやらないといけないことがある。それに知りたいことも。そして、守ってやると決めた仲間も出来た。『レジェンド』を辞めた頃の以前の俺だったらお前にやられてもよいか、と思っていたかもしれないが、俺には責任があるんだ。やり遂げないと、消え去れない。お前に出会って、また調べないといけないことが増えた。悪いが、お前の意向には沿えない。」
 アルが静かな口調になった。J.がブーメランとして戻ってきた刃をキャッチして、アルに向かっていく。
 
「俺が精鋭部隊『レジェンド』の時の名前は、A.(エー)だった。通称、3#(トリプルシャープ)のA。人間界の音楽でKeyがAの楽譜には#(シャープ)が3つ付くからだ。スケールを弾くとA, B, C#, D, E, F#, G#って具合だ。でも、3#の言われは実は違うんだ。#を横につなげると###チェーンに見えないか?」
 J.の攻撃をアルが寸前でかわす。鞭を右手に持ち替えて話し続ける。
「俺の武器は鞭だが、それはフォームチェンジする前の姿。そして、フォームチェンジするとチェーンになるんだ。そう、お前がbreak throughできるように、俺もbreak through出来るのさ。なんたって、魔界ではじめてbreak through出来る様になったのは俺だからな。そう、break throughを名付けたのもこの俺だから!break through!」
 そう言うと、アルは鞭をフォームチェンジしてチェーンにした。
 
「何!シーズ博士の研究結果ではないのか!嘘をつくな!」
 J.がアルに怒鳴りつける。
「まぁ、確かに博士と共同研究だ。でも、発見したのは俺だぜ。俺は護衛を兼ねて博士の研究の手伝いをしていた時期があって、その時に、常日頃から戦術だけでは兵士を守りきれないと考えて、より安全に魔界を守るために少しでも兵士の魔力を上げることを考えた。その研究結果が当時研究中だった『L.D.C.』という古代の宝具の調査データ分析から導き出したものだった。お前の武器もその研究結果のおかげでbreak throughされているはずだ。」
 アルがチェーンを展開して防御体制を取り、J.はアルを睨みつける。
「悪いことは言わん。今すぐbreak throughは止めろ。これは、俺の様に耐性があれば別だが、耐性が無い奴が使うと命を縮める。宝具『L.D.C.』は”Espoir”のクリスタルの力を吸って攻撃力を増幅するが、break throughの場合はクリスタルを完全に結晶化できていないから、足りない分は扱っている奴の命を吸いながら補うことで力を発揮している。それでも、本物にはかなわない。なんせ、似せて作ったからあくまでコピーで不完全品だ。」
「うるさい!!コピーだから不完全だと!!」
 
 J.が武器でがむしゃらに切りかかる。アルがチェーンで軽く払いのける。
「ちゃんと聞け!オリジナルにはかなわないんだ!まだ研究が不完全だったんだ。」
「だったら、オリジナルを消し去れば良いだけのことだ。それで、俺がオリジナルになる。コピーとして生まれてくるしかなかった俺にはそれしかない!」
 暴走しながら、むきになって攻撃を繰り返すJ.に対して、チェーンで防御しながらアルが、けん制しながら尋ねる。
 
「お、お前。やはり、クローン実験に関係しているな?」
「あぁ、そうだよ。クローンさ。ジャンヌ Fi. シーズ(Jeanne Fi . Seeds)だ。Fi.は…。」
「fifth。つまり、5番目ってことか。」
 J.が最後まで言い切る前にアルが答える。
「そうだよ。5番目の研究体だ。さすが研究者ってところか?」
「クローン研究は、魔界でも禁止されているはずだぞ!それなのにシーズ博士が?お前の名前はシーズ博士の名前が入っているな?」
 再び、チェーンを前面へ展開しながら、数メートル後ろ側へ移動しながらアルが言う。
 
「クローンとして生み出して戦士として育てている罪滅ぼしな気分で付けたのかもな。一応、名義は娘として登録はされている。」
「そうか…。お前も生まれのせいで苦労したんだな。」
「?」
「でもな、それを恨んだって何も変わらない!」
 チェーンを大きく振り、その後で展開していたチェーンをJ.の足へ絡ませて動きを止めようとした。しかし、J.は動きを読んで、上に飛び、武器をブーメランの様にしてアルへ向けて二つ同時に投げつけた。
 
「しまった!!!……と、言って欲しいんだろうが、悪いな。戦いは『力』でするもんじゃない。『守りたい者を守りたい』という熱い『ハート』でやるもんだ。」
 クールにアルが言った瞬間、仕掛けていたトラップが発動する。氷属性の壁がJ.の武器の軌道に展開し、武器を壁に封じ込めた。そして、J.自身にも辺りに仕掛けられていた雷属性の無数の玉の連鎖爆発により、バチバチと電撃が走る。
 
「うゎーーー!!!」
 
 J.が電撃で一瞬気を失った瞬間に、すぐに、アルが癒し系魔法の注射の様な物を、二本ほどJ.の首と胸元の辺りにチェスの様に投げつけて、彼女の暴走を抑えた。その次の瞬間、アルは、J.を風属性の結界で押さえ込んで、動けないようにした。寂しげな瞳でアルがJ.を見つめる。
「お前にも守りたい者が見つかると良いなぁ…。どんな運命でも受け入れて、前向きに進まないといけないんだ。だって、生きることを許されているんだぜ。俺達は…。」
「くそっ。裏切り者に言われる筋合いは無い。さっさと俺をぶった切って消滅させろ!」
「お前の名前に、博士の『シーズ』の名前が入っているのは、きっと愛娘として育てているあの博士の優しさからだぜ。これだけは、はっきり分かる気がする。俺もあの博士に可愛がられたからな。あの人にも過去に色々とあるようだが、とても心の優しい人だった。」
「…。」
 黙って、J.は顔を背ける。
 
「それに、博士以外にもお前を見守って支えてくれている奴がいると思うぞ。お前の力だけじゃ、『レジェンド』になんて成れない。不完全だからだ。あ、クローンだからと言うわけではない。戦士として、『力』に頼りすぎているからだ。それでも、『レジェンド』としてJ.を名乗ることを許されているのは、お前を影ながら支えてくれている仲間がいるからなんだ。勿論、お前の努力も認めるが、そいつらに感謝しなくちゃな。」
 森に風が流れて草木が優しく揺れる。先ほどアルが注入した癒し系の魔法が効いてきたようで、J.の表情が更に少し落ち着いてきた。
「それに…。」
 
 アルが、座り込んでにこっとする。
「それに、まだお前は気が付いていないかもしれないが、やっぱりお前も大人しくしていると可愛いぞ!」
「な、何…!」
 突然のアルの言動でJ.が真っ赤になる。
「花の飾りが付いたその髪飾りも良く似合っている。どういう知り合いか知らないが、龍助のプレゼントだったっけ?もう少し大人しくしていれば、すごくいい感じだと思うぞ。暴走したお前はあまりにおっかない。」
 少しおちょける様にアルがJ.に言う。
「俺のことを、お前、お前、言うな!」
「ちっ、ちっ。それが、おっかないんだ。ほら、ニコって笑ってみ?それから、レディーなんだから、『俺』じゃなくて、『わたし』とか『わたくし』とかに替えるだけで一気に好感度upだ。おっ、龍助たちがこっちへ近づいてきているな。」
 アルは、遥たちの魔力を察知して、チェーンをフォームチェンジして鞭に戻した。
「俺は、お前に勝ったんだから、俺がお前の命の行方を決める。で、俺の答えは、負けた悔しさを背負って生きろ、だ。」
「?」
「お前はもっと自分を大切にすることを覚えろ。そして、支えてくれている奴らのことに感謝できるようになれ。自分を大切に出来ない奴が、仲間を守るなんて出来ない。支えられていることに気づかず感謝すら出来ない奴には、戦いの中で冷静な判断は下せない。強くなりたいんだったら、まず、龍助みたいに人間らしくなってみろ。クローンとか、クローンじゃないとか、生まれが良いとか、悪いとかじゃないんだ。お前はお前だ。」
 その言葉に、J.は、以前、涼にかっとなって向かっていった時に言われたことを思い出した。涼に「もっと自分を大切にしろ。俺は俺で、お前はお前だ。お前の代わりはいない。」,「クローンだとしてもクローンじゃなくても、お前はお前でよいと思うがな。『本物』か、『偽物』かは、お前自身が決めればよいことだ。まぁ、自分の一生なんだから好きにすれば良い。」と言われたのだった。
 
 思い出しているJ.にアルが話しかける。
「あ、お前、遥じゃなくて俺を追っていて、今回、バトルになったんだよな?それって、俺に逢いたかったの?」
「ち、違う!!!私は、お前へのリベンジで、南龍助の鞄に仕掛けていた発信機を追って来たんだ。」
「分かる、分かる。モテル男はつらいよな。悪い。俺には遥という心に決めた相思相愛のgirlがいるんだ。泣かないでくれよ、baby!」
「違うって言ってるだろう!!!」
 J.が、むきになって答える。
「ははは。分かってるって。サンキューな。発信機は後で壊しておく。情報ありがとう!」
「な、な…。」
 トークでは完全にアルのペースに振り回されて、J.が困惑しながら黙り込んだ。
 
「そ、れ、じゃぁ。俺の過去のことはもう少し龍助たちには内緒な?俺とお前、えっと、ジャンヌのひ・み・つ。」
「…。」
「無視するなよ。なんか感じ悪いよ。そこ!まぁ、『俺』が『私』に代わっているだけでも少し成長しているみたいだから、良しとするか。しばらくしたら、結界が解けるから自分で仲間の所へ帰れ。俺は、龍助たちと前に進む。アディオス!」
 そう言い残すとウィンクしてアルは立ち去った。
 後に残ったJ.が呟く。
「『私』か…。」
 
 
 アルを探しに龍助たちが森を散策していると、アルが飛び出す。
「よ!愛しの遥ちゃん!」
「無視!」
「あのなぁ、さっきジャンヌにも無視されたばっかりなんだから、さすがに凹むよ。俺も。」
 リラがアルの前に飛んでくる。
「アル、無事だったのか?おいら達はキメラのボスを仲間にしたぞ!」
「仲間になってもらったんだよ。アルも無事で何よりだ。ジャンヌさんは?」
 龍助が、心配そうにアルに問いかける。
「ちょっぴりお説教をしてきた。で、反省中。」
「?」
 龍助たちが首をかしげる。一同を気にせずに、アルが龍助の鞄の底につけられた小さな発信機を取り去ってプチッと握りつぶした。
「さぁ、行くぞ。さっさと行かないと、他の魔界の兵士が来るかもしれないぞ。」
「そうだな。メイラスが運んでくれるっていうから、おいらたち、みんなで乗って行こう!」
 キメラのボスにメイラスと龍助が名付けたようだ。アルが以前手に入れたキメラにはメイヨウと遥が名付けていた。
 アルがメイラスにも手綱を設置する。そして、メイラスには龍助と遥が、メイヨウにはアルが乗り、リラは龍助の肩に、リコは遥の肩に停まって、森を抜けていった。
 
 森を抜けると、そこには広大な砂漠が広がる。
 
 
to be continued...

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■Episode 018:

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♪:[destiny]

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♪:[Happy Happy Love]

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2017年11月01日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 9th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

[Breaker feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2016年11月02日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 8th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

[Come on! feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2015年09月09日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 7th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

[departure feat.神威がくぽ] shin


[Lock on feat.神威がくぽ] shin


[monologue feat.神威がくぽ] shin


[reduction feat.神威がくぽ] shin


[voice feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲5曲
2月18日(水)よりドワンゴジェイピーにて特設ペー ジを設けていただき先行配信、2月25日(水)よりiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 6th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

南龍助(学生服姿)

イラスト:hata_hataさん