Episode 023
謎の天使(後編)

music:[INFINITY]


前回までの『L.D.C.』

 セルを行方を追っていたJ.が天界の天使族ミストス.Cとバトルになり、彼女は魔力をコントロールできずに暴走してしまう。そして、ミストスに完敗する。しかし、彼は「どうか放っておいてください。あなたの追っているセルという者についてはかかわりは無いのです。今のところ。」と言い残し、止めを刺さずに去って行った。
 
 悔しさで涙したJ.に由依が優しく心を癒してくれたのだった。共に本当の親を知らない似た者同士の二人は仲良くなった。ミストスに次会うまでに天界に本当の家族と会いに行くか決めるように由依は言われて一人悩む。
 
 数時間後J.は花屋で涼に出会い、花束をプレゼントされる。少しずつ気にかかっていた涼への想いで心は揺れる。涼は、J.とセル逃走や、異世界の壁の異変,ミストス.Cという天界の天使族の動向等について情報交換をして去って行ったのだった...。

 ある日の放課後の軽音楽部で、龍助と実が練習をしている。実のドラムと龍助のシンセサイザーでコードと小節数を決めてアドリブでセッションをする。
 武司が12小節のコード譜をプリントアウトしたものを用意してくれたので、それを元にそれぞれがアドリブで演奏を楽しみだした。勿論、まだまだ未熟な龍助と実は、バリエーション的な面で乏しかったが、コピー曲の練習をしてきた彼らには新たな音楽の扉が開けた感じがしたのだった。

イラスト:hata_hataさん

 龍助はオルガンの音で、左手は和音を弾き、右手はメロディーの様なフレーズを弾く。24小節が終わった後で、ドラムソロを実が叩く。時々、走りそうになるリズムをメトロノームのクリックになんとか合わせながら、タムをドコドコドコとパワフルに叩いた後で、スティックを回す。
 そしてドラムソロを終えてから更に2回24小節を二人で演奏して最後のスネアドラムのフィルを実が叩いた後でクラッシュシンバルとライドシンバルを両手で叩いてダーダーダとリズムを刻んで演奏を終える。
 
「まだまだあたい達には難しいけど、たまには楽しいじゃない。」
「そうだね。ちょっぴりオリジナル曲っぽい感じもするし。セッションをやってみてコピー曲を改めて演奏すると、プロの演奏ってやっぱりすごいなぁ、って感じるよ。」
 スティックを置いて汗を拭きながら実が龍助のところにやってくる。
「武司も光にオリジナルの事を言われて少し考え方を変えたのかしら。」
「どうだろうね?でも、今日は、光が修理に出していたアコースティックギターを取りに行く、って言ったら、武司君が予備校へ行く前に付き合うって一緒に行ったみたいだよ。」
 昼休みに屋上でご飯をみんなで食べた時に、光と武司が話しているのを龍助が聞いていたのだった。
「なんだ、あの二人も仲直りして良かった。それにしても、あたいが一緒に行くって言うと、お前はうるさくて暑苦しいから来るな、って言うんだけど、武司だったら良いのかしら。失礼しちゃう。」
「ははは…。」
 龍助が苦笑いしてごまかす。再び修理に出していたアコースティックギターを取りに行って、部室に遊びに来る予定だった。
「ねぇ、光が来るまで、こないだ聞いた曲を打ち込んできたのを聞いてみて。耳でコピーしているから、分からないところだらけでまだちゃんと打ち込めてないんだけど。」
 シンセサイザーとノートパソコンを繋いで龍助が打ち込んだ曲を流す。その曲は、[INFINITY]だった。携帯音楽プレイヤーで朱里が聞きながら口ずさんでいたのを見て、龍助は打ち込みの練習に打ち込んでみたのだった。テンポが速く軽快でタイトなドラムのリズムに合わせて、楽曲が流れていく。
「これ、あたいも知っている。少し暗めの楽曲だけど、Dメロの箇所が明るくなるやつでしょう?」
 実がドラムをたたく真似をしながらリズムを取りながら聞いている。
 龍助は曲を聞きながら朱里が歌っていた姿を思い出していた。
 
「くだらないこと?突き放したけど
唇をあの時かみ締めていた...
 
冷たい風が胸を突き抜ける
悔しさがぐっと込み上げた」
 
 朱里が龍助との関係でぎくしゃくした時に、家の庭でこの歌を一人歌っていたのだった。
 
「Get my way! shinin' dream 迷わずにいつも
誰より強くなれると良いのに
勇気が欲しい 君を守りたくて
無限大に 光 輝かせて」
 

イラスト:hata_hataさん

 龍助も涼の存在を考えると時々何か朱里との距離を遥か遠くに感じることがあり、この曲が印象的に心に残っていた。龍助は朱里と涼が兄妹という事を知らないので、朱里にとって大切な人が涼なのではないかと、心迷うことがある。お互いに思い会っているが、ちょっとしたすれ違いだった。
 朱里が歌い終えると、彼女の胸元にある宝具『L'aile du coeur(心の翼)』に、indigoのクリスタルが輝いた。朱里はそっとその輝きを見つめながら歌い続ける。
彼女の姿を、二階の龍助の部屋から除きながら龍助は切ない想いに包まれていた。それに、出会った頃に話を聞いた彼女が何かを約束したという約束の相手を未だに分からず、それが涼なのかさえ分からなかった。
 
 朱里の寂しげな表情を思い出しながら、龍助が思わずつぶやく。
「僕にも勇気がほしい…。」
「え?何か言った?龍助君。何か上の空だったけど。大丈夫?」
 実が心配そうに尋ねると、龍助が真っ赤になって慌てる。
「あ、何でもない。いや、その。あ、そうだ!今度、花火大会があるから、麻宮さん達は浴衣を買いに行くんだって。」
「あぁ、そういえば花火大会の時期ね。で、みんなで観に行くの?それとも、朱里と二人っきりで?」
 龍助の方へ乗り出すようにして実が迫ってくる。びっくりして、龍助が答える。
「いや、みんなでだよ。勿論。」
「なんだ、つまんないの。朱里と龍助君だったら、あたいと光様でダブルデート、と思ったんだけど。でも、龍助君達お似合いだけど親戚って言っていたっけ?」
 魔界の掟で異世界の存在を伏せておくために、朱里は実達クラスメートに龍助の親戚ということで説明していた。光だけは、以前、涼が朱里を捕まえに来て彼女達が痛手を負った後に助けた事があり、魔界から来たことをリラ達から知らされている。
 実ががっかりしている様子を見ながら、ダブルデート?と、首をかしげて苦笑いをしながら龍助が言う。
「それは、ダブルデートっていうのかな…?ははは…。今度の花火大会はね、由依ちゃんに花火を見せてあげたいんだ。あの子はまだこの町の花火を見たことないから。それに、出店も。」
 龍助の由依への思いやりを感じながら、実が微笑む。
「出店と言えば金魚すくいかしら。光様は金魚すくい上手だったわね。ラケットを持ってテニスも上手だけど、モナカを持って金魚すくいも上手ね。いつも、仲間の中では一番沢山すくっていたわ。で、龍助君は…。」
「すぐに破れちゃって。ゼロだったり。」
 二人が幼い頃にみんなで花火大会の出店での思い出を語り合って笑う。
 
「なんだ?二人でニヤニヤして。気持ち悪い。」
 光が楽器屋から帰ってきて部室に入ってくる。
「いや、花火大会の話。お帰り。光も今度の花火大会へ来るだろう?」
 龍助が光を町の花火大会へ誘う。
「勿論。朱里や一色も誘って、みんなで行こう。」
「あたいは?そのみんなに入って良いのかしら?」
 楽器屋へ行くことを知らされていなかった実が口を尖らせながら無理に光にいじけながら言ってみる。
「しょうがないな。だって、お前も仲間だろう?その代り、一色達をエスコートしてやってくれよ。祭りはお前の十八番だしな。この町の花火大会を満喫させてやってほしんだ。お前ならできる!」
「任せて!あたい頑張る。」
 上手く光に乗せられて、実がガッツポーズをとる。光が龍助にウィンクをして、龍助がうなずいた。
 
「お前ら、それで練習はもう終わりか?せっかくアコギを持ってきたんだから、何か練習しようぜ。」
「そうね。だったら、光様、[INFINITY]って曲を知ってる?」
 実が尋ねると、ギターをケースから出しながら、光が思い出しながら答える。
「あぁ。でも、あれは打ち込み系の曲だぜ。」
「知っているんだったら、僕が採譜したコード譜があるから三人でやってみない?ドラムは実君の生で、アコギでコードを光。そして、僕が、左手でベースの音色,右手でメロディーをシンセで。まだ両手であんまりうまく弾けないけど、右手のメロディーをメインに弾くよ。」
 龍助がシンセをいじって、左手でベースの音色,右手でシンセリードの音色を鳴らす。
「おっ、二つの音で同時に出来るのか?」
「シンセサイザーのメーカーによって呼び方とか違うんだけど、spilit機能を使うと一つのシンセサイザーで2つの音色を設定してそれぞれ演奏できるんだよ。例えばこの場合、このCの鍵盤よりも低い音域の鍵盤をbass。Cの鍵盤を含めて右側にある高い音域の鍵盤をシンセリードにしているんだ。更にたくさんの音色を割り振りたい場合、パフォーマンスモードやマルチモードみたいなのを使うと、一台のシンセサイザーで鍵盤ごとに音色を変えることが出来るんだよ。僕は普段は一音色のシングルモードで弾いていることが多い。だけど、こういった時は、マルチモードで二つ以上の音色をセットアップしてプログラムされているのをいじると便利なんだ。パソコンと繋いでDTMで何パートも同時に使う時にも便利なんだよ。」
 実が頭をかしげながら龍助の持ってきた譜面の譜割をノートにメモする。
「なんか、分かったような、分からなかったような。あたいはドラムだから、AメロとかBメロとかのブロックだけ把握すれば今回は良し。」
「僕は、打ち込みの時に大体覚えたから、譜面は光が使って。」
 龍助から実が譜面を預かって、光に渡す。
「サンキュな。じゃぁ、テンポもゆっくり目にして龍助が弾き易くするか。」
「ありがとう。本当は武司君がいると、僕はどっちかのパートだけに専念出来てありがたいんだけど。もっと練習しないといけないなぁ。」
 実がメトロノームのテンポを少しゆっくり目に合わせて、スティックでカウントする。
 演奏を始めると、初めは少しもたついてばらつきが目立ったが、少しずつまとまっていく。原曲は打ち込み系の楽曲だったが、かなりアコースティックよりな感じになっていた。
 
「アコギだとこんな感じかな。やっぱエレキギターとかあると良いなぁ。もう少し、ロックよりになってかっこよいかも。」
 演奏を終えて光が口にする。

イラスト:hata_hataさん

「そういえば、龍助の知り合いの涼さん。何度か楽器屋で会ったな。あの人、エレキを弾いていた気がする。」
「りょ、涼様!!あたいも、楽器屋で一緒にセッションしたことがあるわ。」
 涼の名前を聞いて、実が目を輝かせながら自慢する。それを、呆れた様に光が返す。
「セッションしていたつもりになって夢を見ていただけじゃないのか?」
「失礼ね。ちゃんと褒めてもらったんだから。」
 実がプンプンと軽く怒る。
「そうだね。涼さんもギターが好きなんだよ、きっと。いつか、機会があったら一緒に演奏してみたいね。光も、エレキとかやってみたら?」
「まぁ。考えてみるよ。アコギは何処でも弾けるのと温かい兄貴な感じがするのが好きだけど、俺らしさをエレキで模索してみても良いかもな。武司に相談してみるか。あいつ、シンセ以外にも色々と詳しくて、今日も楽器屋で店員さんと武司と俺の三人で話し込んでいたら予備校に遅れそうになって慌ててた。」
 武司と光が音楽を通して仲良くしていたのを聞いて龍助はとてもうれしい気持ちになる。その日は、光と実と龍助の三人で色々と音楽の話をして帰ったのだった。
 
 
 それから数日後、花火大会の日が訪れる。夜空には鮮やかな花火が彩り、大きな音がこだます。そして、夜空の元には色々な出店が道を飾り、浴衣姿の人々が夏の風情を演出していた。
「うわぁ、きれいだね、リラ。」
 縫いぐるみのふりをしてカモフラージュしているリラを抱いた由依が浴衣姿で夜空を見上げながらはしゃぐ。リラも大きな花火を見ながら大声で叫びたいのを我慢しながらニコニコとしている。
「由依ちゃんもリラもご機嫌ね。私も人間界の花火は初めて見たわ。様々な色や形や大きさがあって、空のキャンパスに絵を描いているみたいだわ。」
 浴衣姿の朱里が由依の横で話す。数日前に、朱里達は駅前のお店で浴衣を買ったのだった。龍助はリラと荷物持ち兼ボディーガードということでついて行ったのだった。その時に、龍助も浴衣を朱里と遥と由依に選んで貰い着てきた。団扇を持って少し前を歩く朱里の浴衣姿を見ながら、龍助は見惚れていたのだった。
「あんた、何ぼっとしてるのよ。ちゃんと歩きなさいよ。それにしてもすごい人ね。」
「あ、遥ちゃん。」
 龍助の横で遥が人ごみに少しうんざりした様子で言う。
「浴衣姿も似合っているね。綺麗だ。」
「そ、そう?まぁ、そんなこと…ないけど…。」
 遥が龍助の言葉に少し照れて手に抱いているリコを軽くぎゅっと抱きしめる。縫いぐるみのふりをしているリコも遥のうれしい気持ちを感じて微笑む。
「光との待ち合わせは、あそこの階段の前だったんだけど。あ、いるいる。お~い、光!」
 人ごみの先に光の姿を見つけて龍助が手を振る。光も、龍助達の姿を見つけて歩いてくる。
 
「お~。やっぱり朱里も一色も良い感じジャン。由依ちゃんも可愛いね。」
「ありがとう、光君。光君も浴衣姿、似合っているよ。」
 由依の頭をなぜてやっている光に、朱里が言う。光が思い出したように袋を遥と朱里に一つずつ渡した。
「そうだ。これさぁ、駅前の雑貨屋で売ってたんだけど。店とかの飾り用みたいなんだけど、サイズ的にちょうどリコやリラにピッタリじゃないかと思って。俺からのプレゼント。」
 光から受け取った袋を開けると小さな浴衣が入っている。
「まぁ、良かったわね。リラもリコちゃんも。光君にお礼言わないとね。」
 朱里と遥がリラとリコに浴衣を着せてやる。リラ達の翼の部分は、切り込みを入れる様にちゃんと袋にハサミも用意されている。着せてみるとサイズもちょうどピッタリで、リラはリコの浴衣姿に見惚れていた。すると、周りの一般人に気づかれない様にリコが光にお礼を言う。
「素敵な浴衣をありがとうございますですの。ぽっ。」
「サンキュな。おいらもみんなと一緒に浴衣着てみたかったんだ。」
 二匹とも光に礼を言うと光も頭を下げる。
「どういたしまして。これで、みんなで夏祭りの準備はできたね。多分、裕二先輩や実達も来てるはず。もう花火大会が始まっちゃっているから、先に花火を少し見てから出店を見てみようぜ。」
 
 リラは朱里が預かって、迷子にならないように由依の手を龍助がつなぐ。しばらく花火がよく見える場所で龍助達は花火を鑑賞した。由依達は花火が上がるたびに両手を振って大声で喜んでいた。
「うわぁ、こんどもおおきい。ねぇ、じゅり。おおきいね。」
「そうね。次のも綺麗だわ。まるで光のシャワーみたい。」
 朱里が団扇で由依を優しく仰いでやりながら語りかける。龍助が由依の様子を見ながら話す。
「花火で感動したら、たまや~、って言ったりするんだよ。」
「あぁ、でも本来は、花火を作っている所の名前を呼ぶんだけどな。確か。まぁ、どこが作っている花火かは分からないから、たまや~、で良いと思うよ。」
 遥が光の横で、話を聞いて花火が上がると小さな声で言う。
「たまや~…。」
「お、一色。なんか恥ずかしがらないで、もっと大きな声で叫んでみろよ。気持ち良いから。たまや~!!」
 光が大きな声で叫んで、花火師に敬意を示して拍手をする。すると朱里と由依も少し大きな声で、「たまや~」と言う。初めは恥ずかしがっていた遥も気が付けば一緒になって楽しんでいたのだった。
 花火大会の第一部が終わり、第二部までの間、放送で少し挨拶等が入ると、龍助達は出店を見に行くことにした。
 
 
 出店を見ながら、龍助達が歩いていると裕二と千夏が歩いているのを見かけ挨拶をする。
「なんや、一色さんもいらっしゃっていたのですか。とてもお召し物がお似合いで。朱里ちゃんも良いね。いてっ!」
「はいはい。あんたは、さっきからすれ違う女性にみんな鼻の下のばして、みっともない。」
 千夏が裕二の耳を引っ張って注意する。それを見て龍助達が笑う。
「ちょっとあたし達は用事があるからまたね。」
 家族に用事を頼まれていた千夏が、名残惜しそうな裕二を連れて人ごみに消えていく。
 
「相変わらずだな。先輩と千夏は。」
 光が笑っていると、由依がお面を指さす。
「あれは?」
「お面だね。見てみるかい?」
「うん。」
 龍助が由依を肩車して、お面が並べられているお店の前に来る。
「へい、いらっしゃい!お嬢ちゃん。」
「へい、いらっしゃいました。ゆいだよ。」
 威勢の良いお店の人の真似をして由依が応える。
「面白いね。この子。どれが良いかい?」
「えっ…とね。えっと…。ゆいはこれがすきかも。」
 お面を由依が選ぶと、店の人が由依の頭に着けてやる。
「良いじゃないかい。よし、お嬢ちゃんには特別におまけして安くしてやるよ。」
「おまけ?おじさん、ありがとう。ゆい、たいせつにするね。」
 由依が可愛くお辞儀すると、龍助が礼をして代金を支払う。由依が嬉しそうに朱里にお面を見せている。すると遥が数件先の出店に目をやる。
「あれは何かしら?」
「あ~、あれは風車っていうんだ。龍助、先、いつもの射的のお店に行っててくれよ。多分、実がそこにいると思う。俺は、一色とリコに風車見せてくるから。後で俺達も追いつく。もししばらくしてこなかったら、金魚すくいのところに行っててくれ。後は、携帯電話で連絡するから。」
 光が携帯電話を取り出すと、バッテリーの残量メーター表示が少なくなっている。
「あ~、しまった。携帯電話の充電を忘れてきた。バッテリーが残りちょっとだった。とにかく、後で追いつくから。よろしく。」
 
 
 光が、龍助達に指示して別行動をとる。遥が光に手を引かれて、大小色んな風車が並べられているお店の前に着く。時折吹く風に、風車は優雅に回っていた。
「風に当たると回る仕組みなんだ。」
「そう。」
 くるくる回る風車を見つめながら光の話を遥が聞いている。
「これなんか、一色に似合っているかも。」
 光が一つ風車を選んで、遥に手渡す。大きすぎず、かといって小さすぎない風車だった。遥が息を吹きかけると、軽やかに回る。
「綺麗…。あたし、これ買うわ。選んでくれてありがとう。」
 遥が風車を買って、手に持つ。リコを光が左手で抱えてやり歩き出そうとする。
 すると、左後方から声がする。
「まだまだ魔界には無い珍しい物が沢山あるぜ。きっと。」
 二人が振り返ると、お面を着けた男が立っていた。
 
 
 その頃、龍助達は射的の売り場に来ていた。途中で、キャラクターの絵の描いている綿菓子の袋と、リンゴ飴を買ってきた。
「ここには、実君がいるんだ。ね?」
 龍助が言うと、実が射的の銃を真剣に構えている。額に一筋の汗が流れて、そして、一発撃つ。すると球は見事小さいフィギュアに当たって落ちる。実は、ふっ、とクールに息を吐いた。
「お客さん。全弾命中。毎年見事だね。」
「当たり前じゃない。あたいは、射的だけは光様にも負けたことないんだから。何だったら、このお店の的をすべてゲットしても良いけど。」
 苦笑いしながら店員が戦利品の景品を沢山手渡すと、実が両手に抱える。
「実君はすごわね。まるで魔法の様だわ。」
 朱里の声で実が龍助達に気づく。
「あら、朱里ちゃん。綺麗じゃないの。浴衣姿とは素敵ね。由依ちゃんまで可愛いわ。お面とリンゴ飴と綿菓子の袋とは、お祭りを楽しんでいるみたいね。」
「うん。おいしいよ。たべる?」
 由依が食べかけのリンゴ飴を実に差し出すと、景品を予め用意してきた紙袋に入れて龍助に渡す。
「ありがとう。由依ちゃん。せっかくだから、それは由依ちゃんが残さず食べてね。あたいもさっき買ったのがあるのよ。あたいのは杏子飴だけど。それから、今回の射的の戦利品は、由依ちゃんにプレゼントするわ。あたい、景品よりも射的をしている時のスリルがたまらないの。」
「いいの?たくさんあるね。わぁ、ありがとう!!!」
 由依が龍助に肩車されたまま足をバタバタさせながら喜ぶ。
「ところで光様は?」
「光君は、遥ちゃんと風車を見に行ってから後でここに来るって。もし時間がかかる様だったら、金魚すくいに先に行っているように言ってたわ。」
 実が周りをきょろきょろしながら尋ねると、朱里が答える。
「そうなの。光様がそう言っていたんだったら、先に金魚すくいに行っていましょう。で、みんなで勝負よ!今年こそ光様に負けない様に先に行って練習しておかないと。」
 元気に実が言うと、龍助が笑いながらうなずく。
「じゃぁ、金魚すくいへ行こうか。途中で、たこ焼きと広島焼きも買ってみよう。」
 
 実を先頭に龍助達が歩き出す。たこ焼きを1つ使って、みんなで1個ずつ食べる。朱里は実に気づかれないようにリラの口に入れてあげると、嬉しそうにリラが頬張る。広島焼きも小さく切って、みんなで分けて食べた。
 
 金魚すくいのお店の前に来ると、店にはお客が一生懸命金魚すくいを楽しんでいた。浅い大きな水槽の中を赤や黒の小さな金魚が沢山泳いでいる。
「うわぁ~。きんぎょがいっぱい。あかいきんぎょさんと、くろいきんぎょさんと…。」
 肩車から降ろしてもらって、由依がお面を頭の後ろに着けて、水槽に駆け寄る。ちょこんと座って金魚を眺めている。
「いらっしゃいませ。」
「4人分の金魚すくいのモナカを頂戴。」
 実が言うと、実,龍助,朱里,由依が店員の女性からモナカとすくった金魚を入れるための器を受け取って、代金を支払う。幼い頃から、毎年、龍助と光と実の三人は来るが、光がいつも一番の成績で、実達は未だ勝ったことがなかった。
「今年のあたいは、ちょっと違うわよ。新たな必殺技を考えてきたんだから。」
 そう言うと、実が二匹ほどまとめてすくって器に入れた。
「すごいわ。実君。私も由依ちゃんと頑張ってみようかしら。」
朱里と由依もモナカを持って度の金魚をすくうか迷っている。龍助が金魚を3匹すくったところでモナカが破れる。
「あぁ、残念。今年は、3匹だった。去年は2匹だったから1匹増えたけど。難しいなぁ。麻宮さんと由依ちゃんはどう?」
「ゆいは、あかいきんぎょさんみっつと、くろいきんぎょさんひとつとったよ。」
 半分破れたモナカを使いながら由依が狙った金魚を追いかける。水の中をすいすいと泳ぎ回る金魚を見ていると、由依の髪がほんの一瞬微かに輝き白くなった後に、また元の色に戻った様に見えた。朱里と龍助が各々、目の錯覚かと瞬きや目をこする。しかし、目の前にはいつもの由依が無邪気にはしゃいでいるのだった。由依の狙った元気なその赤い金魚は大きな水槽の中をあちらこちらへ逃げ回ったが、由依がすくうと癒されたように大人しくなって器の中へ入る。
「やったぁ~!ごひきめ。」
「すごいわね、ゆいちゃん。私も負けないわよ。」
 朱里が浴衣の右袖を少しまくってすくう。水面近くの金魚を次々とすくっては器へ移していく。
「朱里ちゃんすごいじゃない?意外な伏兵がここにいたとは。あたいも負けられないわ!」
 実が朱里の器を覗き込んで闘志をむき出しにする。しかし、次の瞬間、実のモナカも破れる。結局、第1回戦は、朱里21匹,実16匹,由依7匹,龍助3匹という結果で終わった。このお店では、金魚をすくった数10匹までは金魚を1匹,20匹までは2匹,30匹までは3匹,それ以上は4匹をプレゼントしてもらえるので、それぞれ金魚を3匹,2匹,1匹,1匹ずつ小さな袋で貰って持つ。
「光様遅いわね。どうしたのかしら。」
「待っている間に、隣のチョコバナナでも買って食べようか?」
 龍助達は、チョコバナナを買って食べながら光と遥を待つことにした。割り箸に刺したバナナに溶かしたチョコでコーティングした後でカラフルな小さなデコレーションを施してあった。自分でとった元気な金魚を見ながら由依が嬉しそうにチョコバナナを食べていた。リラも朱里から食べさせてもらってご満悦だった。
 
 
 光と遥が風車の売り場で振り返るとお面の男が水風船のヨーヨーを持って立っていた。
「魔界には無い珍しい物…?誰よ!あんた!」
 小さな声で遥が男を睨みつける。光と遥が片方ずつ耳に着けているピアスがうっすら輝いている。すると、その男は笑いながら言った。
「おやおや、この俺を忘れちまったかな?」
 お面をとると遥の知った顔が現れる。魔界のトレジャー・ハンターのアル・レインだった。

イラスト:hata_hataさん

「あ、あんた、こないだの。アルさんか…。」
「アルが何でこんな所にいるのよ!それも、お面なんかして子供じゃあるまいし。」
 魔界のセルの一味かと思って緊張していた光と遥がほっとして言う。
「何だよ、歓迎されてないなぁ、俺。せっかく愛しの遥に会いに人間界へ遊びに来てるのに。」
「嘘ばっかり。だいたい私に会いに来たんだったら、なんでこんな所でお面かぶって油売っているのよ。どうせ何かの調査なんでしょう?」
「あ、ばれてた?そう。ちょっと調べ事が。ついでに遥にも、うっ。」
 遥にハグをしようとしたアルが腹に遥のパンチを食らって片膝を着く。
「ついでに?それから、私とあんたは何の関係も何の。さっさと、仕事をして魔界へ帰りなさい!ふんっ。行くわよ、佐伯君。」
 怒った遥がツンとして立ち去ろうとする。光がアルの様子を心配して手を貸そうとすると、大丈夫と、手の平を振ってアルが立ち上がる。
「なかなか、相変わらず切れの良いパンチだ。愛を感じるぜ。」
「馬鹿!まったく。」
 ため息をついた遥が歩いていく。その後を光とアルが付いて行く。
「一色、そこを右に曲がって、突き当りが金魚すくいのお店だ。もう、射的の店を出てるみたいだから。」
 光がそう言った瞬間、アルが何かを感じる。
「遥、金魚すくいは後だ。」
「そうみたいね。」
 
 アルと遥が引き返そうとする。光のピアスもうっすら輝きが増す。
「ちょっと待ってくれ!何が起こっているんだ?」
「あたしにも分からないわ。念のために行ってみるだけ。佐伯君は朱里達と先に合流してちょうだい。」
 遥の腕を掴んで、光が真剣に言う。
「待てよ。俺も!俺も行く!来るなと言っても俺も一色に付いていくから。」
「OK!お前も来い。ただし、自分の身は自分で守れよ。」
 アルが光に言う。それを聞いて、遥がアルに抗議をする。
「アル!!何馬鹿なことを言ってるの!佐伯君は人間なのよ。何か危険があったらどうするの?」
「遥、お前も男の決意を汲んでやれよ。察してやってたまにはしおらしくして付いてこい!」
 アルが遥に少し強く言うと、遥が黙る。少し強く言い過ぎたと思い、小さなため息を一つ着いた後で、遥の耳元に囁くように言う。
「ふぅ。大丈夫だ。何かあったら、俺がお前達を守るって約束しただろう。こう見えても、俺は元『レジェンド』のA.だ。大丈夫だ、遥。お前達は俺の命に代えても必ず俺が守る。安心しろ。」
「わ、分かったわ…。」
 遥がうなずく。光がアルと遥の関係を見ながら、唇をかむ。遥を守ってやりたいが、人間の光にはアルや遥の様な力は無い。それでも、光は遥を守りたかった。改めて、自分の無力さを感じていた。光の心の中で[INFINITY]が流れた。
 
「自分に何が出来るのかさえも
分からずにうつむき瞳閉じてた...
 
焦るだけで何も出来ないまま
閉ざされてく 扉 叩く
 
Believe in me! breakin' through 心 解き放て
自分らしく生きるために 今
涙もいつか思い出に変わるよ
無限大に 続く この未来へ」
 
 
 そして、アル達は何か魔力の様なものを感じる方向へ走り出した。
 
 
 龍助は花火を見上げながら、携帯電話を取り出して光に電話する。しかし、光の携帯電話はバッテリーの電源が切れていて繋がらなかった。
「さっき、携帯電話のバッテリーが切れそうと言っていたから、電源を切っているのか、バッテリーが切れたんだね。しょうがない。ここで待っていてもお客さんの邪魔になっちゃうから、さっきの花火がよく見える場所で観て待っていようか。僕が光を探してくるから。」
 龍助が言うと、朱里もうなずく。
「そうね。龍助君にお願いするわ。私は由依ちゃんと迷子にならない様に待っている。」
「あたいも光様を探してくる。」
 花火が見える場所に移動すると実が自分も光を探しに行こうと名乗り出る。
「いや、実君は由依ちゃん達に何か美味しい物を買ってきてあげて。待っているうちに何かつまみながらでも。さっき、ちょっとずつ分けただけだから、お腹空いてきてると思うし。」
「分かったわ。任されよ!光様はよろしくね。」
 
 
 人ごみの中を龍助が探し回るが、光達はもう移動してしまっていて見つからなかった。歩いていると、普段着の武司の姿が見える。
「あ、武司君!」
「君か。どうかしたのかい?てっきり、佐伯や麻宮さんや一色さん達と一緒かと思ったんだけど。探してたんだよ。松本さんと。」
 武司の後ろには浴衣姿の恵が恥ずかしそうに立っていた。幼い頃は龍助達と一緒に武司は花火大会へ遊びに来ていたが、中学校が違ったために龍助達と花火大会に行くことがなくなっていた。しかし、龍助達が来ているだろうと思い、今年は恵を誘って花火大会へ久々に遊びに来たのだった。
「こんばんは、恵ちゃん。武司君と一緒だったんだ。ここをまっすぐ行った所に花火がよく見える場所があって、そこで麻宮さんと由依ちゃんと実君が待ってるよ。」
「…。遥ちゃんは?」
 恵が尋ねると、龍助が経緯を説明する。
「遥ちゃんと光が別行動をとったんだけど、はぐれちゃって。携帯電話がつながらないから探してるんだ。裕二さんと千夏ちゃんは用事があるって言っていたから、後で合流できるかわからないけど。きっと、千夏ちゃんのおばさんに頼まれたいつもの町内会の用事かな。」
「放送で迷子として呼び出すのも、佐伯だけならともかく一色さんと一緒だったら彼女には悪いか。僕も松本さんを麻宮さんの所に連れて行ったら、佐伯達を探すよ。この人ごみだと見つけるのも一苦労だね。」
 武司達と別れて再び龍助は心当たりのありそうなお店を探し回っていた。第二部の花火も始まっており、空には次々と光のイリュージョンが繰り出され、大きな打ち上げ花火の音と同時に人々の歓声が沸いていた。
 
 
to be continued...

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  • Espoir06
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が付いたエピソードをお楽しみいただけます。さぁ、『L.D.C.』の世界へようこそ!
イラスト:hata_hataさん

■Episode 001:

♪:[blue]

■Episode 002:

♪:[light pink -I love you.-]

■Episode 003:

♪:[nu.ku.mo.ri.]

■Episode 004:

♪:[real]

■Episode 005:

♪:[color]

■Episode 006:

♪:[my wings]

■Episode 007:

♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]

■Episode 008:

♪:[promise]

イラスト:hata_hataさん

■Episode 017:

♪:[ドキ×2]

■Episode 018:

♪:[let it go!!]

■Episode 019:

♪:[N]

■Episode 020:

♪:[tears in love]
♪:[destiny]

■Episode 021:

♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]

■Episode 022:

♪:[Happy Happy Love]

■Episode 023:

♪:[INFINITY]

■Episode 024:

♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]

■Episode 025:

♪:[pain]

イラスト:hata_hataさん

:シナリオ公開中
:シナリオ公開予定
:シナリオ執筆中
:シナリオ執筆予定

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[interrupt feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

[above feat.神威がくぽ] shin


[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin 


[initiative feat.神威がくぽ] shin 


[Breaker feat.神威がくぽ] shin


[Come on! feat.神威がくぽ] shin


[departure feat.神威がくぽ] shin


[Lock on feat.神威がくぽ] shin


[monologue feat.神威がくぽ] shin


[reduction feat.神威がくぽ] shin


[voice feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

麻宮朱里(普段着姿)

イラスト:hata_hataさん