Episode 003
ハッピーエッグ
music:[nu.ku.mo.ri.]
前回までの『L.D.C.』
遥が立ち去った後で朱里は龍助にそっと寄り添い、[light pink -I love you.-]を口ずさむことで、胸元のペンダント型の『L.D.C.』に新たにピンクのクリスタルが点灯した。こうして、朱里は2つ目のEspoirを手に入れることができたのであった。
朱里が歌う1つ目のEspoirである[blue]の効果で勇気を貰った龍助は、何か新しいことをはじめようとする。そんなある日、朱里は龍助との帰り道にある公園へ行くことになるのだが...。
魔界から麻宮朱里(ジュリア)を追ってきた一色遥(ハルカリ ディオール)と仲直りした朱里は、その夜に部屋の窓を開けて、そこから見える夜空を眺めていた。朱里の頭の上でリラがうつぶせに寝そべりながら遠い視線の彼女に尋ねた。
「朱里…。どうしたの?」
「ううん…。遥ちゃんと仲直り出来てよかったなぁ、って思っていたの。」
「大丈夫?ハルカリはディオール家のお嬢様だから、おいらたちが無許可で人間界に来ていることを黙っていてくれるかな…?」
心配そうに、朱里の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。遥ちゃんは。それに、こっちでは、ハルカリ ディオールさんじゃなくて、一色遥ちゃんだよ。リラもそう呼んであげてね。」
リラは小さく三度ほどうなずいた。
星の綺麗な夜だったが、一つ明るい星がきらっと輝いて落ちていった。
「あ、流れ星だ!」
「お祈りした?人間界では、流れ星に願いを込めて祈ると、願いがかなうと言われているのよ。」
「知っているぞ。おいらは、朱里と美味しいものを食べたい、と、お祈りした!人間界にも色々と美味しいものがありそうだから。まぁ、龍助も、一緒でも許す。」
食べ物のことを楽しそうに話しているリラを見ながら、朱里は微笑んだ。
「朱里は?何をお願いしたの?」
「ひ・み・つ。」
「なんだ、ずる~い。」
夜空にキラキラ光る星たちを眺めながら、朱里は龍助の顔を思い描きながら幸せな気持ちで、彼に借りている携帯音楽プレイヤーのイヤフォンを耳にセットして、playボタンを押した。プレイヤーのディスプレイには曲のタイトルが『nu.ku.mo.ri.』と表示された。優しいピアノ曲が流れる。
「真夜中に流れてる星に祈る...
優しいあなただけを見つめている...」
ちょうど同じ頃、隣の部屋で龍助も携帯電話に接続したイヤフォンで同じ曲を聞いていた。窓の外を眺めながら、彼もまた今日一日あったことを思い出し、遥の攻撃の後でしばらく背中に寄り添っていた朱里のことを思い出し、思わず、赤くなった。
「うわっ。勉強に集中しないと。後、残り1問だけだから、もう一踏ん張りだ。さっさと終わらせよう。」
そう言いながら、かすり傷ができた頬に朱里が張ってくれたバンドエードをそっと触って、少しにんまりしてから、宿題を進めた。朱里が防御で疲れてしまい、龍助の頬のかすり傷の回復魔法が使えなかったのだ。
また、流れ星が煌いて振ってきた。
「あなたのnu.ku.mo.ri. 微笑み返す
何気無い仕草にトキメク
離れていても 側にいる時も
二人の気持ちは同じだね」
宿題を終わらせた龍助は背伸びをしてから、部屋を出てキッチンに向かって階段を降りていった。キッチンには朱里がいた。
「麻宮さんも、お茶しに来たの?」
「うん。龍助君も?リラがさっき寝たから、ちょっとハーブティーでも飲もうかな?と思って。龍助君にも後で持って行こうと思っていたんだけど…。ちょうど良かったわ。同じで良い?」
「ありがとう。ご馳走になるよ。」
朱里が龍助にもハーブティーを出す。ハーブの香りが朱里と二人きりの少し緊張している龍助の気持ちをリラックスさせた。
「さっきね。流れ星を見たの。」
「僕も見たよ。」
「龍助君はお祈りしたの?」
「僕は、麻宮さんの願いがかなうと良いなぁ、って。あ、何、言ってるんだ、僕は。」
思わず口にしてしまった龍助は照れながら、慌ててハーブティーを飲もうとして軽い火傷をする。
「あちっ。」
「大丈夫?」
「はは、ちょっと火傷しちゃっただけ。平気、平気。」
「そう?あ、ありがとう。私の願いがかなうようにお祈りしてくれて。」
ちょっと照れくさそうに、朱里も礼を言う。
「私は…、私と龍助君とリラと龍助君のパパとママとみんなで楽しく過ごせると良いなぁ、ってお祈りしたの…。」
「人間になれると良いね。昔したという誰かとの約束がかなうと。」
「うん…。」
少し頬をピンクに染めながら、龍助の顔を見つめて朱里も小さくうなずいた。龍助は、誰と約束したのか知りたい気持ちにもなったが、彼女の幸せそうな顔を見るとそれ以上は聞けなかった。せめて、少しの間でも彼女と一緒にいる時間を大切にしたいと思った。
「そうそう、麻宮さんが降ってきた時のことをもう少し教えてよ。突然落ちてきたから、びっくりしてしまって頭の整理が出来てないんだ。ほんと、びっくりしちゃったよ。」
「あのね…。」
朱里と龍助は色々と出会った時の話をした。二人は色々と楽しく語り合い、あっという間に時間が過ぎていった。朱里も、龍助の好きなものを聞いたりしてお互いの事をまた少しだけ知ることが出来てうれしかった。
「龍助君は、ハンバーグが好きなんだ。そうか。あと、チョココルネとコーヒー牛乳?」
「麻宮さんは、イチゴミルクが好き?今日の昼に買っていたから。」
「うん。なんか綺麗な色だから。でも、今度、龍助君のいつも買っているというコーヒー牛乳も飲んでみようと思う。」
「だったら、明日、僕が買ったものを、ちょっと飲んでみると良いよ。」
「ほんと?ありがとう!優しいのね。龍助君は。」
「そんなことないよ。」
照れながら、龍助が笑うと、つられて朱里も微笑んだ。気がつけば、もう明け方で、キッチンにある窓のカーテンの隙間から眩しい日の出の光が差し込んできた。
「もう朝だね。楽しくて話しすぎちゃった。少し睡眠をとってから学校へ行こうよ。」
「そうだね。麻宮さんと話せてよかった。なんか、さっき聞いていた『nu.ku.mo.ri.』のような感じだね。」
「その曲をさっき聞いていたの。私も。優しい気持ちになるね。」
「うん。」
二人は、それぞれの部屋に戻って、少し睡眠をとった。
目覚まし時計の音で起床して、朝食を済ませると、ちょっぴり眠そうにあくびをしながら龍助と朱里は家を出た。玄関を出ると、そこには遥が両手を腰に当てて二人を待っていた。
「おそ~い!あたしを待たせるなんて十年早いのよ。」
「おはよう!遥ちゃん。」
「一色さんおはよう。」
「何!遥?ハルカリか?約束なんかしてないだろ。なんでここにいるんだ。」
遥の名前を聞いて、朱里の鞄からリラが顔を出す。
「あ、あんたは、たしか…。誰だっけ?」
「リラだ!リ~ラ~!!!忘れたのか?偉大なるドラゴンだぞ。」
「…。で、今日からあたしもあんたたちと一緒に登校してあげるから。ありがたく思いなさいよ。」
名乗ったリラを無視して宣言するように遥が言った。
「おい、おいらは偉大なるドラゴンなんだぞ!」
「知っているわよ。馬鹿じゃない?私を誰だと思ってるのよ?それに小さすぎて偉大かどうかも分からないけどね?」
「う…うっ。朱里~。こいつ、おいらをいじめるよぉ。」
あえなく、遥に撃沈されたリラは、涙を流しながら鞄の中に頭を引っ込めた。
「よしよし。遥ちゃんはちゃんとドラゴンって知っているよ。だって、私たち小さいころから仲良かったんだから。リラも一緒だったから。」
朱里が鞄の上からリラをなぜてやりながら慰める。
苦笑いをしながら、話題を変えようと、龍助が遥に尋ねた?
「一色さんってこの近くに住むことにしたの?何処に住んでいるの?」
「え…、あ、そ、そ、そうよ。あんたの家の迎えのマンションよ!でも、あんたのことが気になってむかえに住むことにしたんじゃないんだからね!!たまたまよ。そう、たまたま!」
突然、龍助から自分のことに話を振られたので、遥は慌てながらまるで言い訳するかのように、強い口調で顔を真っ赤にして答える。その様子を見ながら龍助も朱里も顔を合わせてくすくす笑った。
「な、なんなのよ。二人して。朱里まで。」
「あ、ごめんごめん。分かったよ。あんまり夢中でしゃべるから。」
「私も。そうそう、今、遥ちゃん、私のこと朱里って呼んでくれた?」
「だって、あんたは人間界では麻宮朱里…なん…で…しょう…?」
遥が両手の人差し指をつんつん合わせながら、ちょっとうつむきながら照れくさそうに言う。
「ありがとう。遥ちゃん~!」
朱里がうれしそうに勢いよく遥に抱きつく。間に挟まれた鞄の中のリラが押しつぶされる形になってうめく。慌てて二人の間に挟まった鞄を間から離した。
「ご、ごめんなさい。リラ。あんまりうれしかったものだから、つい思わず。」
リラは黙っている。どうやら怒ってはないようだ。リラは朱里がうれしそうにしているのが自分のことのようにうれしかったのかもしれない。
こうして朱里と龍助と遥の三人とリラの一匹が仲良く(?)登校するようになった。
それから数日が経った。龍助は、かねてから興味のあったバスケット部へ、放課後に数回、見学に行っていた。彼は中学の頃にはスターティングメンバーではなかったが、一応バスケット部に所属していた。
そろそろ決心して入部しようかと、一人、体育館へ向かっている途中に、偶然ピアノの音が耳に入ってきた。龍助はピアノの音に引き寄せられるようにして、音楽室へ立ち寄った。
そこでは、龍助のクラスメートの一人である松本恵がピアノを演奏していた。曲は『nu.ku.mo.ri.』だった。
「へ~。松本さんってピアノ上手なんだね。」
慌てて、恵が演奏をやめて、小さな声で答える。
「…。そ、そんなことない…よ…。」
「うらやましいなぁ。ピアノ弾けるって。僕は、楽器できないから。麻宮さんみたいに歌もあまり上手くないし。」
「…。弾けなくても、コンピュータがあると音楽はできるよ…。武司君もノートパソコンで音楽しているみたい…。」
「そうなんだ。彼はいつもパソコンを持ち歩いているから。パソコンっていろいろなことが出来るんだね?僕も彼に教えてもらってやってみようかな?」
少し、明るい表情になって、恵はまたピアノを弾き始めた。
「そういえば、軽音楽部ってあったよね。恵ちゃんもそこ?」
「ううん…。私は花道部…。でも、実際はフラワーアレンジメントしている…。朱里ちゃんと遥ちゃんは千夏ちゃんのラクロス部に入ったんだよね…。」
「そうみたい。沢崎さんにスカウトされたみたいだよ。彼女、一年なのにキャプテンだから。昔は泣き虫だったんだけど、今は僕の方が助けてもらっちゃったりしてる。」
そう笑うと龍助は音楽室の後ろにあるキーボードに目をやった。
「あれは?」
「…。シンセサイザーっていうの。ピアノやドラムやトランペットなんかのいろんな音がでるよ…。軽音楽部が使っているみたい…。」
龍助は、シンセサイザーのところに行って人差し指で鍵盤に触ってみる。突然、ドラムのフレーズと同時にいろんな楽器の音が流れる。慌てて、指を離した。
「あ~、びっくりした。電源が入っていたのか。それにしても指一つでいろんな音が鳴るんだね。」
「それは、マルチティンバーでプログラムが組まれているんだ。パソコンを使えば、もっとCDのような音楽の演奏まで出来る。D.T.M.(デスクトップミュージック)といって、最近は、dawや専用ソフトなどで歌声までパソコンで演出することが出来るんだ。」
メガネに手をやりながら、音楽室に入ってきたのは龍助のクラスメートの小嶋武司だった。
「すごいね!僕にも音楽できるかな?」
「まぁ、ちょっと勉強すれば。今の時代、パソコンがあればかなりのことができるよ。やる気さえあれば。」
「そうなんだ。小嶋君は、クラブ活動はどうなの?」
「僕は、帰宅部さ。やりたい時に音楽が一人で出来ればよいんだ。」
「D.T.M.って便利そうだね。でも、みんなで音楽が出来ると楽しいかも。麻宮さんの歌や松本さんのピアノ演奏やシンセサイザーの演奏をあわせたりできると面白いだろうね。そういえば、光もお兄さんの形見のギターを弾いていることがあるんだ。文化祭などでD.T.M.のバンドなんかが出来るかも。良かったら、今度、教えてくれるかな?」
「あぁ、時間があるときならいつでも良いよ。まぁ、そういうのはそもそもバンドというよりはユニットに近いかもしれないね。それじゃあ、僕は帰るから。予備校があるんだ。失礼。」
武司が出て行く。武司を追うように小さく龍助に挨拶をして恵も花道部の教室へ向かった。音楽室に一人残った龍助は、再びシンセサイザーに指を触れてみる。
「D.T.M.かぁ。面白そう…。音楽をやってみようかな。」
しばらく、音楽室から音楽のフレーズが鳴ったり、やんだりしていた。
翌日、ラクロス部の練習が休みだったようで、朱里は龍助と一緒に下校することにした。遥は、朱里に負けまいと、個人練習をしていくと言っていた。彼女は負けず嫌いの努力家なのだ。
人気がないのを探ってから、朱里の鞄の中から、そっとリラが顔を出す。
「ぷっふぁ~、窮屈だったぁ~。今日の紙パックのオレンジジュースという奴はちょっと甘酸っぱかったが、なかなか。粒々がプチプチして、おいら、好き。」
「あら、リラはご機嫌ね。今度は、コーヒー牛乳も飲んでみると良いわ。龍助君に少し飲ませてもらったけど、とても美味しかったよ。」
龍助がちょっと照れる。昼休みに龍助が飲んでいたコーヒー牛乳を朱里にあげたのだが、それを見ていたクラスメートのオカマキャラである伊集院実に「それって、いわゆる間接kissじゃない!」とうらやましがられたからだ。思わず、龍助は食べかけのチョココロネを飲み込んでむせてしまったぐらいだ。もちろん、実がうらやましがったのは、「朱里との間接kiss」ではなくて、「龍助との間接kiss」の方なのだが。
「な、何~!?おいらがいないところで、二人、美味しいものを食べているのか?ゆ、ゆるせん!」
「そんなに怒らないでも、今度、リラにも買ってあげるよ。」
「お、本当か。龍助。だったら許す。少しだけ見直したぞ。ふとっぺらだな!」
「それを言うなら、太っ腹でしょう?リラ。」
「そうとも言う。」
二人と一匹は笑った。
「そうだ!龍助君。せっかくだから、今日は少し遠回りして寄り道していこうよ。」
「え、何処に?」
「東の方にちょっと大きめな公園があったでしょう?」
「あ、あそこか。『星の塚公園(ほしのつかこうえん)』っていうんだ。なんでも、昔、隕石が落ちたみたいで、それで遺跡の一部みたいなのがあることが分かったんだって。」
「おいらは興味ないから、鞄の中で寝てる。ご飯になったら起こしてね。それじゃお休み、諸君。」
リラは朱里の鞄の中にもぐって眠りについたようだ。
「この間の夜に、流れ星が降っていた話をしたでしょう?朝方まで二人でお話した日に。」
「うん。」
「あの流れ星、部屋から見て、ちょうどあの公園の方に降っていった気がするの。」
「はは。まさかぁ。でも、せっかくだから行くだけ行ってみようか。今日は天気も良いし、木漏れ日で気持ちよいよ。きっと。」
二人は仲良く肩を並べて歩いていった。鞄からは、すやすやとリラの寝息がかすかに聞こえる。
公園に着いた二人は、優しい木漏れ日の中、ゆっくりと散歩した。時々、朱里の顔を見ては、視線が合うと龍助はうれしそうに思わず上を向いて口笛を吹いたりした。
そのメロディーに合わせるように、朱里が歌を口ずさむ。
「ずっと側にいて 分かり合って
笑顔も分かち合えたら
so, Happy in my love!
Happy Happy in your love!
「神様 お願い 見守って。」」
朱里が龍助の腕にそっと腕を組んだ。二人はお互いにぬくもりを感じながら、少し頬をピンクに染めていた。
「あなたのnu.ku.mo.ri. 腕に抱かれて
優しい気持ちが あふれ出す
言葉じゃなくても 見つめ合えれば
二人の気持ちは同じだね」
公園の木々から鳥たちが朱里の歌声と龍助の口笛のハーモニーに答えるようにさえずる。
「出かけよう 二人 これから
木漏れ日浴びて歩こう
大切なあなたを感じ続けたくて...
包み込んで...」
その時、朱里の『L'aile du coeur(心の翼)』に、白いクリスタルが輝いた。ほんの少しピンクだが、その白いクリスタルは温かく輝いた。二人の奏でるメロディーはそよ風に乗って木々の葉を優しくゆすっているようだった。
「いつまでも... あなたでいて...」
歌い終わって、朱里は『L.D.C.』の三つ目のクリスタルに気がつく。
「龍助君見て!三つ目のクリスタルよ。」
「そうだね。温かい色をしている。朱里の人間になるという願いがかなうと良いね。」
「ありがとう。あれ、あそこにあるものは何かしら?」
朱里が龍助の後ろの木陰にわずかに光るものを見つけた。駆け寄って、朱里が触ったとたん、その輝きが一瞬激しくなって、そしてすぐに輝きが消えた。
「なんだろう?今のは。魔界のもの?リラのようなドラゴンの卵?」
「ううん、あの子とは違う。こんなの見たこともない。」
「あれ、その卵みたいな物の横に何か文字が刻まれているよ。なんて書いてあるか読める?日本語でも英語でもなさそう。」
「異世界の古代文字で、『聖なる者』って書いているみたい。それから微かに残っているのが、人間界の『μ(ミュー)』って文字かな。」
「この世界の文字じゃないのか。ここは『星の塚』というぐらいだし、遺跡もあったみたいだから、ひょっとしたら危ないものかもしれないよ。どうするの?」
「触ってみて。この子、優しい子だよ。」
ゆっくりと朱里は龍助の手をとって卵に触れた。龍助は、卵に触れたとたん、優しい気持ちで満たされていくように感じた。卵の表面は、ほんのり温かい。
「持って帰って、μを拭いてあげようよ。汚れちゃっているし。良いよね?お願い。」
迷ったのだが、朱里にお願いのまなざしで見つめられて、龍助は言った。
「しょうがないなぁ。放っておいても別の人が見つけてしまうだろうし。ひとまず、持ち主が見つかるまで、家で預かろうか?」
「ありがとう。龍助君!」
朱里が、卵を抱えたままそっと龍助の頬にkissをした。突然のことで龍助は慌てた。朱里自身も思わず出た行動だったようで、びっくりしていた。
「ご、ごめんなさい。うれしくて、つい私ったら…。」
照れながら下を向いて朱里がもじもじとする。
「あ、いや。その…。なんていうか…。あ、ありがとう…。そ、そうだ、早く卵を人目につかないように鞄に隠さないと。」
「そ、そうだね。」
「た、卵をこっちに貸して。スポーツタオルに包んで僕の鞄に入れるよ。」
急にぎこちなくなった二人があたふたと卵を渡そうとした時に、手と手が触れて、また二人は赤くなって思わず、卵を落としそうになった。しかし、なんとか、龍助がキャッチした。すぐに、タオルで優しく包んで鞄に入れ、持って返った。
その日の夕方、風呂上りでまだ彼女の長い髪が乾ききっていない朱里の前に、リラがパタパタと翼をパタつかせ飛びながら寄ってきた。
「ねぇ、朱里…。さっきから何を磨いてるの?」
「分からないんだけど。卵かしら。」
「なんだ、それって美味しいのか?」
「食べちゃ、駄目よ!」
「な~んだ、つまんない。つまんないから、おいら、龍助にさっき貰ったビスケットをまた貰ってこよう、っと!」
そう言ってパタパタと隣の部屋へ飛んでいった。
「あらあら、リラはしょうがない子ね。μはどんな子かしら?きっと優しくてよい子だね…。」
微笑みながら朱里は卵を優しく優しく何度もなぜてあげた。温かく見守るようにゆっくりと子守唄を歌いながら…。
「いつまでも... あなたでいて...」
「朱里…。どうしたの?」
「ううん…。遥ちゃんと仲直り出来てよかったなぁ、って思っていたの。」
「大丈夫?ハルカリはディオール家のお嬢様だから、おいらたちが無許可で人間界に来ていることを黙っていてくれるかな…?」
心配そうに、朱里の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。遥ちゃんは。それに、こっちでは、ハルカリ ディオールさんじゃなくて、一色遥ちゃんだよ。リラもそう呼んであげてね。」
リラは小さく三度ほどうなずいた。
星の綺麗な夜だったが、一つ明るい星がきらっと輝いて落ちていった。
「あ、流れ星だ!」
「お祈りした?人間界では、流れ星に願いを込めて祈ると、願いがかなうと言われているのよ。」
「知っているぞ。おいらは、朱里と美味しいものを食べたい、と、お祈りした!人間界にも色々と美味しいものがありそうだから。まぁ、龍助も、一緒でも許す。」
食べ物のことを楽しそうに話しているリラを見ながら、朱里は微笑んだ。
「朱里は?何をお願いしたの?」
「ひ・み・つ。」
「なんだ、ずる~い。」
夜空にキラキラ光る星たちを眺めながら、朱里は龍助の顔を思い描きながら幸せな気持ちで、彼に借りている携帯音楽プレイヤーのイヤフォンを耳にセットして、playボタンを押した。プレイヤーのディスプレイには曲のタイトルが『nu.ku.mo.ri.』と表示された。優しいピアノ曲が流れる。
「真夜中に流れてる星に祈る...
優しいあなただけを見つめている...」
ちょうど同じ頃、隣の部屋で龍助も携帯電話に接続したイヤフォンで同じ曲を聞いていた。窓の外を眺めながら、彼もまた今日一日あったことを思い出し、遥の攻撃の後でしばらく背中に寄り添っていた朱里のことを思い出し、思わず、赤くなった。
「うわっ。勉強に集中しないと。後、残り1問だけだから、もう一踏ん張りだ。さっさと終わらせよう。」
そう言いながら、かすり傷ができた頬に朱里が張ってくれたバンドエードをそっと触って、少しにんまりしてから、宿題を進めた。朱里が防御で疲れてしまい、龍助の頬のかすり傷の回復魔法が使えなかったのだ。
また、流れ星が煌いて振ってきた。
「あなたのnu.ku.mo.ri. 微笑み返す
何気無い仕草にトキメク
離れていても 側にいる時も
二人の気持ちは同じだね」
宿題を終わらせた龍助は背伸びをしてから、部屋を出てキッチンに向かって階段を降りていった。キッチンには朱里がいた。
「麻宮さんも、お茶しに来たの?」
「うん。龍助君も?リラがさっき寝たから、ちょっとハーブティーでも飲もうかな?と思って。龍助君にも後で持って行こうと思っていたんだけど…。ちょうど良かったわ。同じで良い?」
「ありがとう。ご馳走になるよ。」
朱里が龍助にもハーブティーを出す。ハーブの香りが朱里と二人きりの少し緊張している龍助の気持ちをリラックスさせた。
「さっきね。流れ星を見たの。」
「僕も見たよ。」
「龍助君はお祈りしたの?」
「僕は、麻宮さんの願いがかなうと良いなぁ、って。あ、何、言ってるんだ、僕は。」
思わず口にしてしまった龍助は照れながら、慌ててハーブティーを飲もうとして軽い火傷をする。
「あちっ。」
「大丈夫?」
「はは、ちょっと火傷しちゃっただけ。平気、平気。」
「そう?あ、ありがとう。私の願いがかなうようにお祈りしてくれて。」
ちょっと照れくさそうに、朱里も礼を言う。
「私は…、私と龍助君とリラと龍助君のパパとママとみんなで楽しく過ごせると良いなぁ、ってお祈りしたの…。」
「人間になれると良いね。昔したという誰かとの約束がかなうと。」
「うん…。」
少し頬をピンクに染めながら、龍助の顔を見つめて朱里も小さくうなずいた。龍助は、誰と約束したのか知りたい気持ちにもなったが、彼女の幸せそうな顔を見るとそれ以上は聞けなかった。せめて、少しの間でも彼女と一緒にいる時間を大切にしたいと思った。
「そうそう、麻宮さんが降ってきた時のことをもう少し教えてよ。突然落ちてきたから、びっくりしてしまって頭の整理が出来てないんだ。ほんと、びっくりしちゃったよ。」
「あのね…。」
朱里と龍助は色々と出会った時の話をした。二人は色々と楽しく語り合い、あっという間に時間が過ぎていった。朱里も、龍助の好きなものを聞いたりしてお互いの事をまた少しだけ知ることが出来てうれしかった。
「龍助君は、ハンバーグが好きなんだ。そうか。あと、チョココルネとコーヒー牛乳?」
「麻宮さんは、イチゴミルクが好き?今日の昼に買っていたから。」
「うん。なんか綺麗な色だから。でも、今度、龍助君のいつも買っているというコーヒー牛乳も飲んでみようと思う。」
「だったら、明日、僕が買ったものを、ちょっと飲んでみると良いよ。」
「ほんと?ありがとう!優しいのね。龍助君は。」
「そんなことないよ。」
照れながら、龍助が笑うと、つられて朱里も微笑んだ。気がつけば、もう明け方で、キッチンにある窓のカーテンの隙間から眩しい日の出の光が差し込んできた。
「もう朝だね。楽しくて話しすぎちゃった。少し睡眠をとってから学校へ行こうよ。」
「そうだね。麻宮さんと話せてよかった。なんか、さっき聞いていた『nu.ku.mo.ri.』のような感じだね。」
「その曲をさっき聞いていたの。私も。優しい気持ちになるね。」
「うん。」
二人は、それぞれの部屋に戻って、少し睡眠をとった。
目覚まし時計の音で起床して、朝食を済ませると、ちょっぴり眠そうにあくびをしながら龍助と朱里は家を出た。玄関を出ると、そこには遥が両手を腰に当てて二人を待っていた。
「おそ~い!あたしを待たせるなんて十年早いのよ。」
「おはよう!遥ちゃん。」
「一色さんおはよう。」
「何!遥?ハルカリか?約束なんかしてないだろ。なんでここにいるんだ。」
遥の名前を聞いて、朱里の鞄からリラが顔を出す。
「あ、あんたは、たしか…。誰だっけ?」
「リラだ!リ~ラ~!!!忘れたのか?偉大なるドラゴンだぞ。」
「…。で、今日からあたしもあんたたちと一緒に登校してあげるから。ありがたく思いなさいよ。」
名乗ったリラを無視して宣言するように遥が言った。
「おい、おいらは偉大なるドラゴンなんだぞ!」
「知っているわよ。馬鹿じゃない?私を誰だと思ってるのよ?それに小さすぎて偉大かどうかも分からないけどね?」
「う…うっ。朱里~。こいつ、おいらをいじめるよぉ。」
あえなく、遥に撃沈されたリラは、涙を流しながら鞄の中に頭を引っ込めた。
「よしよし。遥ちゃんはちゃんとドラゴンって知っているよ。だって、私たち小さいころから仲良かったんだから。リラも一緒だったから。」
朱里が鞄の上からリラをなぜてやりながら慰める。
苦笑いをしながら、話題を変えようと、龍助が遥に尋ねた?
「一色さんってこの近くに住むことにしたの?何処に住んでいるの?」
「え…、あ、そ、そ、そうよ。あんたの家の迎えのマンションよ!でも、あんたのことが気になってむかえに住むことにしたんじゃないんだからね!!たまたまよ。そう、たまたま!」
突然、龍助から自分のことに話を振られたので、遥は慌てながらまるで言い訳するかのように、強い口調で顔を真っ赤にして答える。その様子を見ながら龍助も朱里も顔を合わせてくすくす笑った。
「な、なんなのよ。二人して。朱里まで。」
「あ、ごめんごめん。分かったよ。あんまり夢中でしゃべるから。」
「私も。そうそう、今、遥ちゃん、私のこと朱里って呼んでくれた?」
「だって、あんたは人間界では麻宮朱里…なん…で…しょう…?」
遥が両手の人差し指をつんつん合わせながら、ちょっとうつむきながら照れくさそうに言う。
「ありがとう。遥ちゃん~!」
朱里がうれしそうに勢いよく遥に抱きつく。間に挟まれた鞄の中のリラが押しつぶされる形になってうめく。慌てて二人の間に挟まった鞄を間から離した。
「ご、ごめんなさい。リラ。あんまりうれしかったものだから、つい思わず。」
リラは黙っている。どうやら怒ってはないようだ。リラは朱里がうれしそうにしているのが自分のことのようにうれしかったのかもしれない。
こうして朱里と龍助と遥の三人とリラの一匹が仲良く(?)登校するようになった。
それから数日が経った。龍助は、かねてから興味のあったバスケット部へ、放課後に数回、見学に行っていた。彼は中学の頃にはスターティングメンバーではなかったが、一応バスケット部に所属していた。
そろそろ決心して入部しようかと、一人、体育館へ向かっている途中に、偶然ピアノの音が耳に入ってきた。龍助はピアノの音に引き寄せられるようにして、音楽室へ立ち寄った。
そこでは、龍助のクラスメートの一人である松本恵がピアノを演奏していた。曲は『nu.ku.mo.ri.』だった。
「へ~。松本さんってピアノ上手なんだね。」
慌てて、恵が演奏をやめて、小さな声で答える。
「…。そ、そんなことない…よ…。」
「うらやましいなぁ。ピアノ弾けるって。僕は、楽器できないから。麻宮さんみたいに歌もあまり上手くないし。」
「…。弾けなくても、コンピュータがあると音楽はできるよ…。武司君もノートパソコンで音楽しているみたい…。」
「そうなんだ。彼はいつもパソコンを持ち歩いているから。パソコンっていろいろなことが出来るんだね?僕も彼に教えてもらってやってみようかな?」
少し、明るい表情になって、恵はまたピアノを弾き始めた。
「そういえば、軽音楽部ってあったよね。恵ちゃんもそこ?」
「ううん…。私は花道部…。でも、実際はフラワーアレンジメントしている…。朱里ちゃんと遥ちゃんは千夏ちゃんのラクロス部に入ったんだよね…。」
「そうみたい。沢崎さんにスカウトされたみたいだよ。彼女、一年なのにキャプテンだから。昔は泣き虫だったんだけど、今は僕の方が助けてもらっちゃったりしてる。」
そう笑うと龍助は音楽室の後ろにあるキーボードに目をやった。
「あれは?」
「…。シンセサイザーっていうの。ピアノやドラムやトランペットなんかのいろんな音がでるよ…。軽音楽部が使っているみたい…。」
龍助は、シンセサイザーのところに行って人差し指で鍵盤に触ってみる。突然、ドラムのフレーズと同時にいろんな楽器の音が流れる。慌てて、指を離した。
「あ~、びっくりした。電源が入っていたのか。それにしても指一つでいろんな音が鳴るんだね。」
「それは、マルチティンバーでプログラムが組まれているんだ。パソコンを使えば、もっとCDのような音楽の演奏まで出来る。D.T.M.(デスクトップミュージック)といって、最近は、dawや専用ソフトなどで歌声までパソコンで演出することが出来るんだ。」
メガネに手をやりながら、音楽室に入ってきたのは龍助のクラスメートの小嶋武司だった。
「すごいね!僕にも音楽できるかな?」
「まぁ、ちょっと勉強すれば。今の時代、パソコンがあればかなりのことができるよ。やる気さえあれば。」
「そうなんだ。小嶋君は、クラブ活動はどうなの?」
「僕は、帰宅部さ。やりたい時に音楽が一人で出来ればよいんだ。」
「D.T.M.って便利そうだね。でも、みんなで音楽が出来ると楽しいかも。麻宮さんの歌や松本さんのピアノ演奏やシンセサイザーの演奏をあわせたりできると面白いだろうね。そういえば、光もお兄さんの形見のギターを弾いていることがあるんだ。文化祭などでD.T.M.のバンドなんかが出来るかも。良かったら、今度、教えてくれるかな?」
「あぁ、時間があるときならいつでも良いよ。まぁ、そういうのはそもそもバンドというよりはユニットに近いかもしれないね。それじゃあ、僕は帰るから。予備校があるんだ。失礼。」
武司が出て行く。武司を追うように小さく龍助に挨拶をして恵も花道部の教室へ向かった。音楽室に一人残った龍助は、再びシンセサイザーに指を触れてみる。
「D.T.M.かぁ。面白そう…。音楽をやってみようかな。」
しばらく、音楽室から音楽のフレーズが鳴ったり、やんだりしていた。
翌日、ラクロス部の練習が休みだったようで、朱里は龍助と一緒に下校することにした。遥は、朱里に負けまいと、個人練習をしていくと言っていた。彼女は負けず嫌いの努力家なのだ。
人気がないのを探ってから、朱里の鞄の中から、そっとリラが顔を出す。
「ぷっふぁ~、窮屈だったぁ~。今日の紙パックのオレンジジュースという奴はちょっと甘酸っぱかったが、なかなか。粒々がプチプチして、おいら、好き。」
「あら、リラはご機嫌ね。今度は、コーヒー牛乳も飲んでみると良いわ。龍助君に少し飲ませてもらったけど、とても美味しかったよ。」
龍助がちょっと照れる。昼休みに龍助が飲んでいたコーヒー牛乳を朱里にあげたのだが、それを見ていたクラスメートのオカマキャラである伊集院実に「それって、いわゆる間接kissじゃない!」とうらやましがられたからだ。思わず、龍助は食べかけのチョココロネを飲み込んでむせてしまったぐらいだ。もちろん、実がうらやましがったのは、「朱里との間接kiss」ではなくて、「龍助との間接kiss」の方なのだが。
「な、何~!?おいらがいないところで、二人、美味しいものを食べているのか?ゆ、ゆるせん!」
「そんなに怒らないでも、今度、リラにも買ってあげるよ。」
「お、本当か。龍助。だったら許す。少しだけ見直したぞ。ふとっぺらだな!」
「それを言うなら、太っ腹でしょう?リラ。」
「そうとも言う。」
二人と一匹は笑った。
「そうだ!龍助君。せっかくだから、今日は少し遠回りして寄り道していこうよ。」
「え、何処に?」
「東の方にちょっと大きめな公園があったでしょう?」
「あ、あそこか。『星の塚公園(ほしのつかこうえん)』っていうんだ。なんでも、昔、隕石が落ちたみたいで、それで遺跡の一部みたいなのがあることが分かったんだって。」
イラスト:hata_hataさん
「おいらは興味ないから、鞄の中で寝てる。ご飯になったら起こしてね。それじゃお休み、諸君。」
リラは朱里の鞄の中にもぐって眠りについたようだ。
「この間の夜に、流れ星が降っていた話をしたでしょう?朝方まで二人でお話した日に。」
「うん。」
「あの流れ星、部屋から見て、ちょうどあの公園の方に降っていった気がするの。」
「はは。まさかぁ。でも、せっかくだから行くだけ行ってみようか。今日は天気も良いし、木漏れ日で気持ちよいよ。きっと。」
二人は仲良く肩を並べて歩いていった。鞄からは、すやすやとリラの寝息がかすかに聞こえる。
公園に着いた二人は、優しい木漏れ日の中、ゆっくりと散歩した。時々、朱里の顔を見ては、視線が合うと龍助はうれしそうに思わず上を向いて口笛を吹いたりした。
そのメロディーに合わせるように、朱里が歌を口ずさむ。
「ずっと側にいて 分かり合って
笑顔も分かち合えたら
so, Happy in my love!
Happy Happy in your love!
「神様 お願い 見守って。」」
イラスト:hata_hataさん
「あなたのnu.ku.mo.ri. 腕に抱かれて
優しい気持ちが あふれ出す
言葉じゃなくても 見つめ合えれば
二人の気持ちは同じだね」
公園の木々から鳥たちが朱里の歌声と龍助の口笛のハーモニーに答えるようにさえずる。
「出かけよう 二人 これから
木漏れ日浴びて歩こう
大切なあなたを感じ続けたくて...
包み込んで...」
その時、朱里の『L'aile du coeur(心の翼)』に、白いクリスタルが輝いた。ほんの少しピンクだが、その白いクリスタルは温かく輝いた。二人の奏でるメロディーはそよ風に乗って木々の葉を優しくゆすっているようだった。
「いつまでも... あなたでいて...」
歌い終わって、朱里は『L.D.C.』の三つ目のクリスタルに気がつく。
「龍助君見て!三つ目のクリスタルよ。」
「そうだね。温かい色をしている。朱里の人間になるという願いがかなうと良いね。」
「ありがとう。あれ、あそこにあるものは何かしら?」
朱里が龍助の後ろの木陰にわずかに光るものを見つけた。駆け寄って、朱里が触ったとたん、その輝きが一瞬激しくなって、そしてすぐに輝きが消えた。
「なんだろう?今のは。魔界のもの?リラのようなドラゴンの卵?」
「ううん、あの子とは違う。こんなの見たこともない。」
「あれ、その卵みたいな物の横に何か文字が刻まれているよ。なんて書いてあるか読める?日本語でも英語でもなさそう。」
「異世界の古代文字で、『聖なる者』って書いているみたい。それから微かに残っているのが、人間界の『μ(ミュー)』って文字かな。」
「この世界の文字じゃないのか。ここは『星の塚』というぐらいだし、遺跡もあったみたいだから、ひょっとしたら危ないものかもしれないよ。どうするの?」
「触ってみて。この子、優しい子だよ。」
ゆっくりと朱里は龍助の手をとって卵に触れた。龍助は、卵に触れたとたん、優しい気持ちで満たされていくように感じた。卵の表面は、ほんのり温かい。
「持って帰って、μを拭いてあげようよ。汚れちゃっているし。良いよね?お願い。」
迷ったのだが、朱里にお願いのまなざしで見つめられて、龍助は言った。
「しょうがないなぁ。放っておいても別の人が見つけてしまうだろうし。ひとまず、持ち主が見つかるまで、家で預かろうか?」
「ありがとう。龍助君!」
朱里が、卵を抱えたままそっと龍助の頬にkissをした。突然のことで龍助は慌てた。朱里自身も思わず出た行動だったようで、びっくりしていた。
「ご、ごめんなさい。うれしくて、つい私ったら…。」
照れながら下を向いて朱里がもじもじとする。
「あ、いや。その…。なんていうか…。あ、ありがとう…。そ、そうだ、早く卵を人目につかないように鞄に隠さないと。」
「そ、そうだね。」
「た、卵をこっちに貸して。スポーツタオルに包んで僕の鞄に入れるよ。」
急にぎこちなくなった二人があたふたと卵を渡そうとした時に、手と手が触れて、また二人は赤くなって思わず、卵を落としそうになった。しかし、なんとか、龍助がキャッチした。すぐに、タオルで優しく包んで鞄に入れ、持って返った。
その日の夕方、風呂上りでまだ彼女の長い髪が乾ききっていない朱里の前に、リラがパタパタと翼をパタつかせ飛びながら寄ってきた。
「ねぇ、朱里…。さっきから何を磨いてるの?」
「分からないんだけど。卵かしら。」
「なんだ、それって美味しいのか?」
「食べちゃ、駄目よ!」
「な~んだ、つまんない。つまんないから、おいら、龍助にさっき貰ったビスケットをまた貰ってこよう、っと!」
そう言ってパタパタと隣の部屋へ飛んでいった。
「あらあら、リラはしょうがない子ね。μはどんな子かしら?きっと優しくてよい子だね…。」
微笑みながら朱里は卵を優しく優しく何度もなぜてあげた。温かく見守るようにゆっくりと子守唄を歌いながら…。
「いつまでも... あなたでいて...」
to be continued...
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
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[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
麻宮朱里(学生服姿)
イラスト:hata_hataさん