Episode 011
女戦士の敵襲(後編)

music:[Burning Love]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から来た麻宮朱里を取り戻すために魔界へ突入した龍助,遥,リラは、新たに仲間になった魔界のトレジャーハンターであるアルと共に、洞窟の遺跡を抜け、遥の家をまずは目指していた。
 
 アルが偵察後に不在の中、龍助達は魔界の女戦士、J.と彼女の率いる兵士やキメラと戦うことになる。
 
 遥はJ.に対し善戦するが、J.は朱里と同じように増大する魔力をコントロールできず暴走していく。龍助は、兵士達と中距離戦闘を繰り返すが、少しずつ追い込まれていくのだった...。

 遥がJ.を縛りの呪文で押さえ込みつつ、氷の攻撃魔法を繰り出して弱らせて更に完全に押さえ込もうとした。
「これで、最後よ!さっさと、あきらめなさい!命まではとらないから。」
「こんなことで、俺は負けられない!俺は、こんなやられ方をするために生み出されたんじゃない!うぉおおおーーー!!!」
 J.が力んで、魔力をためる。そして、強引に縛りの呪文を振り切った。
「な、なんて、力なの!普通の魔族ではこれは解けないはず。」
 
 肩で大きな息をしながら、血相を変えてJ.は大きな鎌を持ち上げた。その表情は更にきつくなっていた。ちょうど、朱里が、魔力を抑えたデビルモードのピンクの髪色の時から魔力を開放してブルーの髪色になった時のような魔力の上昇と、暴走時のような表情だった。
「は、は、はははは。もう、何でも良い!ぎりぎりの感覚ってこの感じなんだよね。なんだか、みんなぶっ飛ばしたい気分だ。」
 そう言うと、J.の異変に気づいて近くに寄ってきた魔獣をあっさりと大鎌で切り裂いて吹き飛ばした。
「なんてことを!あんた、仲間でしょう?」
 
 龍助も気がついて、遥のそばによってくる。
「遥ちゃん。大丈夫?」
「なんか、変よ。まるで、朱里が暴走した時と同じような魔力の上昇と、敵仲間関係なく攻撃するような行動。」
「まさか、ジャンヌさんも、以前の朱里と同じように魔力をコントロールできないの?」
「そうかも。朱里の場合は、あんたの存在が安心感につながって克服できたみたいだけど、J.っていうやつは魔力を持て余してコントロールできないのよ。」
 J.は大鎌を振り回している。J.をコントロールしようと兵士が数人よって来るが、風圧ですべて吹き飛ばした。周りの木々もところどころきり刻まれて、何本かは切り倒された。
 
 
「ジャンヌさん!!!しっかりして!!!自分をしっかり持つんだ。」
 龍助が叫んだ。すると、大鎌を振り回すのを一瞬止めて、振り返って龍助と遥の方を見た。まるで蛇が獲物を狙っているように。
「龍助、あんた、何を言っているの!J.は敵なのよ。」

イラスト:hata_hataさん

「分かってるよ。でも、あの子も、以前の朱里と同じようにきっと苦しんでいるんだ。救ってあげないと…。なんだかほっとけないんだ。」
「そんなこと言ったって、あたしの縛りの結界を破っちゃうくらいだから、あんたになんか何も出来ないわよ。」
 遥が龍助に言う。
「ごちゃごちゃとうるさいなぁ!お前らも消えてしまえ!!!!」
 J.が龍助の方を見ている遥へ、一瞬の隙を突いて勢いよく大鎌を振りかぶって切りかかった。
 遥が振り返りながら、呪文を唱えようとするが、ロッドを弾き飛ばされ、更に大鎌の刃が彼女に向かって迫る。
 
「龍助ー!!!!!」
 遥が心の中で叫んだ時、彼女の目の前には龍助の背中が見えた。
「!?」
 瞬間的に、龍助は右手の剣を投げ捨てて遥の腕を引っ張って自分の後ろに引き入れて、代わりに自分が左手の短剣で防御姿勢をとりながら大鎌の刃の前に躍り出ていた。
 
 暴走状態でパワーアップしたJ.の大鎌の力に左手の短剣では防ぎきれず、龍助が頬と服の一部を切られながら大きく吹き飛ばされ、切り株に叩きつけられた。
「龍助ー!!!」
 遥がJ.に氷の攻撃魔法で牽制してから、氷の防御魔法で氷の壁をいくつか立てて龍助の元へ駆け寄る。
 龍助は、頬に血を流しながら、叩きつけられた痛みで動けなかった。よく見ると、服が切り裂かれた箇所も血がにじんでいた。頬は、傷が浅いが、わき腹の傷が深いようだ。
「遥、龍助を連れて撤退だ。おいらたちではこいつには歯が立たないぞ。早く治療してやらなくては龍助が死んでしまう。もう、気を失ってしまった。」
 リラが遥の心に訴える。遥は、自分をかばうために龍助が身代わりになって傷ついて瀕死の状態になっている様を見て、凍りついたように立ち尽くしていた。
「おい、しっかりしろ!遥!ハルカリ!!!お前、魔界で由緒あるディオール家の令嬢だろ!」
 遥が、リラの言葉に、はっとして、龍助の脈を見つつ、J.の方へ顔を向けた。J.は龍助を倒したことで、更に興奮状態になって、周りの木や遥が張った氷の壁へ大鎌を振り回しながら切り崩していた。遥はすぐに癒しの魔法で応急処置として止血をしたが、龍助は瀕死のままだった。
 
「このままでは、やられる。リラ、あたしが囮になってここからあいつらを引き離すから、なんとかして龍助を助けて。お願い。あたしにとっても大切な人なの。」

イラスト:hata_hataさん

 遥が涙でリラの剣に訴える。リラがre-writeから開放されて、ドラゴンの姿に戻った。
「おいらじゃ、龍助を運ぶことが出来ないんだ。それに、龍助は遥も一緒に人間界へ帰ると、言っていたじゃないか。なんとか、この状況を打開する方法を考えよう。泣いていても始まらないし、アルもやられてしまった以上、おいら達が協力して最善の方法を考えるんだ。お前が突っ込んでいったところで、敵の数は沢山いるから、すぐに龍助は見つかってしまう。それこそ、犬死だ。おいらは遥にも生きていて欲しい。」
「リラ…。」
 
 
「で、俺はやられてしまったことになってるのか?消滅しちゃったのか?」
 遥とリラが驚いて振り返ると、そこにはアルが立っていた。その姿はどうやら傷つきぼろぼろだったが、命に別状はなさそうだった。
「お、お前、アルはやられたんだと思ってたんだぞ!心配したんだぞ!!」
「あ、その話は後で。まずは、敵を片付ける。その後で、お叱りは受けますから。遥からも。」
 すぐに龍助への応急処置を確認して、自分の傷にも手当てをしながら、アルが遥たちへ指示する。
「俺は、奴らの罠にうっかりかかってしまって、やられた振りをするために魔力を限界まで抑えていたんだ。魔力が低くなった分、抜け出すまでに時間がかかってしまったが、そのおかげで、奴らは俺がまだ生きていることを知らない。この地の利だと、木が茂っているから戦うには少人数でもいける。」
 リラと遥が真剣に聞いている。
「遥は、あの暴走している大鎌のおっかない姉ちゃんに遠距離で魔法攻撃を加えろ。特に、足元を。雨が降ってきているせいで、地面がぬかるんでいるから、更に動きを鈍くさせてくれ。その間に、俺が残りの奴らにトラップを仕掛けて一気にやる。リラは、龍助にこれを注入してやってくれ。癒し効果のある魔法が詰まっている。」
 アルが小さな注射器のようなものをリラに投げ、小さな両手でリラが受け取る。
 
「J.はどうするんだ?あいつは、すんげぇ強いぞ。」
 リラの頭を人差し指で軽くつつきながら、アルがしゃべる。
「ここを使うんだよ。頭をな。ただ攻撃力がある奴が強いってわけじゃないんだぜ。戦いに勝って生き残った奴が強いんだ。そのためには、地の利や敵味方の戦力やメンバーの性格など全てを考慮して、戦略を練る必要がある。ありがたいことに、あいつは暴走でまともな状態じゃないから、まずは、雑魚の方から片付けて、その後で、しとめてやる。これが、魔界のトレジャーハンター、アル様の戦い方だ。」
「分かったわ。」
 涙を拭いて、遥がロッドを拾った。
 
「いいな?俺がまず雷魔法の玉を投げて目をくらませるから、続けて攻撃しろ!」
 アルがポケットから直径3cmぐらいの小さなスーパーボールのような雷属性魔法が詰まった玉をJ.の頭上高く投げた。
 落下してJ.の顔の近くに来た時を狙って、もう1つの雷魔法の玉を投げてぶつける。すると、小さな爆発が起こって、眩しい光が放たれる。
「な、なんだぁー!!!め、目が。くそっ。」
 J.の目がくらんでよろめいた時に、遥がつかさず氷攻撃魔法で、J.の足元へ何発も攻撃する。J.がぬかるみに足を取られて、転んで大鎌を落とした。
「その調子だ。さて、ちょっと雑魚を始末してくる。」
 すぐにアルが姿を消す。遥は連続でJ.の足元を狙いながら指示されたように攻撃を繰り返した。
 
「何をやっているんだ。お前ら、早く、押し戻せ!」
 J.が防御体制をとりつつ、周りの兵士達に向けて大声で叫ぶ。
 すると、木の上からアルが見下ろすようにして出てきた。
「雑魚は俺が片付けた。それに勝負はもう付いた。まだやるのか?」
 アルがJ.に告げる。その時、アルのトラップにかかった魔獣や兵士はすでに全て魔力の反応が無かった。
「な、何!!!!」
 その瞬間、アルが、癒し魔法の詰まった注射をJ.に投げつけた。龍助があげた小さな花の付いた髪飾りに少しかすって、首に刺さる。
「くそっ!」
「少しは、落ち着いたか?まぁ、癒し効果があるから、鎮静剤代わりになるだろう?」
 アルが、木から鞭を使って飛び降りて、J.の後ろに立ち、首元に短剣を押し当てる。
「もう一度言う。勝負は付いた。一旦、引いて作戦を練り直すのが出来る戦士のやることじゃないかな?それとも、あんた、馬鹿なだけか?命をもっと大切にしろ。」
「お前は…。」
 暴走から正気に戻ったJ.が両手を挙げて、戦意が無いことを確認したら、アルがゆっくりとナイフを放した。J.は少し離れたところに落ちていた大鎌を拾い上げたら、ゲートを開いて姿を消した。
 
 
「大丈夫か?遥?」
「遅いよ!何してたのよ!龍助が、龍助が。」
 アルの胸を叩くようにして遥が涙を流す。アルが、遥の頭をなぜてやるようにしながら話す。
「悪い…。思いのほか、奴らの罠から抜け出すのに手間取ってしまって。ここでは応急処置しか出来ないから、龍助を早く町へ連れて行って治療しよう。戦闘中にも関わらず、的確なお前の処置のおかげで、龍助はまだ大丈夫だ。それに龍助はまだ死ねない。お前や朱里という女の子やリラのような仲間達を置いて死んでしまえるような奴じゃないだろう?それにしても、遥、お前はホントよくやったよ。すまなかったなぁ。こんな小さいgirlなのによく戦ったよ。次からは、俺がお前達を守ってやる。約束する。」
 遥が涙を流しながらアルに落ち着かせてもらっている様子を見ながら、リラが龍助のそばで頬の血の跡をティッシュで拭いてやっていた。
 
 
 アルが傷ついて気を失っている龍助を背負い、龍助の鞄を遥が持った。リラは心配そうに龍助の周りをパタパタと飛んでいたが、不安そうな遥の顔色を見て、遥のそばにそっとよって、彼女の肩に停まった。
「大丈夫だぞ。アルも言っていただろう。アルの冒険道具の救急セットの中にあった癒し効果のある水の属性魔力を龍助に注入したから、後は、ディオール家で治してもらおう。おいら達は、遥のおかげで助かったんだから、気にするなよ。いつものように生意気で元気な遥でいてくれよ…。」
「…。」
 遥の髪をリラが肉球のついた小さな手でなぜながら言うが、遥はうつむいたまま無言だった。途中、J.が連れてきたと思われる気絶したキメラを発見し、それをアルが慣らして、龍助と遥を乗せて森を抜けて、ディオール家のある大きな町の入り口へ出た。
 
 
 遥たちとのバトルで追い返された後、シーズ博士への報告後にJ.が涼と通路ですれ違う。
「がっかりするな。敵は俺がとってやる。」
 傷ついたJ.に涼が淡々と言う。それを聞いて、J.が彼に掴みかかる。
「何ー!!生意気言ってるんじゃネェよ!!」
 しかし、胸元を掴まれた状態で涼は抵抗せずに寂しげに言った。
「もっと自分を大切にしろ。俺は俺で、お前はお前だ。お前の代わりはいない。」
「俺は…。あ、あたしは戦うために生まれてきたんだ。そのためのクローンなんだ。」
 胸元を掴んでいる手にぎゅっと力が入る。
 
「お前がそう思いたいんだったらそれでしょうがないが、俺はお前がクローンだとしてもクローンじゃなくても、お前はお前でよいと思うがな。『本物』か、『偽物』かは、お前自身が決めればよいことだ。まぁ、自分の一生なんだから好きにすれば良い。」
 その言葉を聞いて、J.は腕をゆっくりと放す。
「あたしの一生…。あたしはあたし…。それで、良いの…?」
 J.は突然の涼の言動に動揺を隠し切れなかった。この時、J.は涼に対して、少し好意のような物を胸の奥に感じたのだった。
 涼は服の乱れを直したら、何事も無かったようにクールに立ち去りながらこう言った。
「それでは、俺は俺の戦いに行く。」
 
 
 シーズ博士の部屋に音声の連絡が来る。ボコーダーのようなもので音声が変えられているが、その発信者先がモニタ画面に文字だけ映し出されていた。
「J.が任務に失敗した模様です。申し訳ありません。」
「そうか。まだ、あやつには重荷だったのかもな。無事に帰って来てよかったではないか。ジャンヌ Fi. シーズ(Jeanne Fi . Seeds)は、お前の大切な愛娘の一人だからな。」
「しかし、他の部下は全て消滅したようで…。」
「それは、問題ない。後で、匿名希望の何者かから王宮へ連絡が来た。」
「?」
 驚いたシーズ博士の様子を感じ取ったのか、少し笑いながら話し出した。
 
「トラップに封じ込められているから、救出するようにと。ご丁寧に、『シーズ博士を怒らないでね』と、メッセージまで添えてな。J.が傷つけた兵士にまで応急処置が施されていたそうだ。相変わらずなんともお茶目な奴よのぉ。」
「なんですと。それは…。」
「あいつだな…。アル レイン。若くして上級魔族の作戦部の一級戦術家まで登りつめた奴だったが、お前の護衛のために遺跡発掘任務に従事させたことがあったな。その後、退役してトレジャーハンターになったと風の噂では聞いたことはあった。何処に行ったかと思いきや、南龍助のそばにいたとは。これも何かの運命なのか?」
 アルの過去が語られ、シーズ博士は緊張しながら、声の主に尋ねる。
「まさか!アル レインが?それでは古文書の伝説を…?」
「分からん。それに、R.の動きも気になる。あいつも、南龍助の記憶置換が失敗に終わっていたことに気がついておったようだ。むしろ、記憶置換しないようにしたのかもしれん。よが感づくことぐらい分かっておろうに。」
 
 慌てて、シーズが声を大きくして許しを請う。
「も、申し訳ありません!R.にも、きつくしかっておきます。何卒、お許しを。あやつも身の上が少々複雑なので、色々と問題を起こすことがありますが、任務に対してまっすぐな誇り高き戦士であります。決して、魔界へ謀反を企てるような者ではないです。」
「疑い始めたらきりが無い。好きにやらせるさ。南龍助の動向も気になる。しばらく様子を見ろ。」
「ははっ!」
 モニタ画面に向かって頭を下げる。そして通信が切れた。モニタ画面の通信終了の文字の横には先ほどの通信先の名前が表示されている。その名は、『ディアブロ王』だった。
 
 
to be continued...

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

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(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

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麻宮朱里(デビルモード:魔力開放ver.)

イラスト:hata_hataさん