Episode 006
ブレイクスルー(前編)
music:[my wings]
前回までの『L.D.C.』
朱里は人間になるという自分の目的で仲間を危険に巻き込んだことと、デビルモードの暴走によって自ら大切な存在である龍助を傷つけようとしてしまったことに苦悩する。
龍助と光は朱里と遥を元気付けようと、ピクニックにクラスメート共に行き、朱里は新たなEspoirによるクリスタルを手に入れることになる。ピクニック先には、R.が現れたが、すぐに姿を消した。その帰りに、龍助とR.はほんの一瞬、朱里がまるで女神のような姿になっているのを目撃する。
龍助は、興味があった音楽をはじめるためにクラスメートの武司にD.T.M.について楽器屋で教えてもらうことになる。そして、その帰り、龍助に危険が迫る...。
戦いで傷ついた朱里と遥の心を癒すために、龍助たちはクラスメートも一緒にピクニックへ行った。そこで、朱里と遥は少し元気を取り戻したのだが、そこにも魔界の刺客,速水涼(R.)が現れた。任務ではなく、朱里へいくつかの質問をして涼は消えたのだった。
龍助たちは、魔界からの刺客に注意しつつも、遥が用意したディオール家特性の封印の呪文効果が施されている宝具を、人間で無防備な龍助と光に持たせることにした。
ちなみに、龍助は指輪を、光はピアス片方を預かっていた。これらの宝具には、魔界からの探知がしにくい結界効果と、攻撃魔法を防いだり、弱めたりする効果があると遥は説明した。他のクラスメートは事情を知らないので、おそらくむやみやたらに魔界は手出ししないだろうと判断し、龍助,朱里,遥,光は、なるべく二人で行動を取れるときは行動を取るように心がけることにした。
これで、幾分かは防衛が出来るので、後は目立たないように、普段通りに生活をすることにしていた。
「武司君。お願いがあるんだけど。」
龍助は休み時間に一人、ポツンとノートパソコンに向かっている小島武司(こじま たけし)の机の前にいって口を開いた。パソコンをいじりながら、龍助の顔を見ずに話した。
「何?」
「あ、あのさぁ。この間、シンセサイザーのことをちょっと教えてもらったでしょう?覚えているかな?」
「あ~、そんなこともあったね。」
「で、D.T.M.(デスクトップミュージック)に少し興味があって教えて欲しいんだけど…。」
武司の手が止まる。メガネに手をやって龍助の方へ顔を向ける。
「やる気はあるの?何でも教えてっていうような甘い考えだったら、多分、君の身にもつかないだろうし、僕にとっても時間のロスなんだ。それが分かっていて知りたいことがあるんだったら、良いよ。僕が知っていることであれば。」
冷たく突き放すように言う。龍助が、最近、楽器屋で集めていたパンフレットやインターネットのD.T.M.関連のwebサイトをプリントアウトして初心者で分からないなりにも勉強していたものを見せる。
「うん。やる気がある!でも、初めてだから、何を使っていいのか、何を買えばよいのか、アドバイスをもらえればうれしいなぁ、と思って。」
「分かったよ。今日は予備校があるから、明日の放課後に、町の楽器屋さんに一緒に行こう。」
「ほ、本当?良かったぁ…。何度か楽器屋にもいってみたんだけど、どれも同じような感じで良く分からなかったんだ。」
「まぁ、最近のものは機能も最低限はそろっているものが多いから、そう感じてもしょうがないよ。予算に応じて、いくつか僕が見繕ってあげるから、そのプランから選ぶと良いよ。」
翌日の放課後、楽器屋に武司と龍助がやってきた。光もギターの弦を買うためについてきたのだが、実が寂しそうに遠くから見つめていたので、光が手で呼ぶと、大喜びして付いてきたのだった。
武司はD.T.M.コーナーにて、龍助と光に説明をしながら色々と教えてあげていた。
実はつまらなさそうに、店内をうろうろしていたが、ギターコーナーの入り口で人とぶつかってしまった。こけそうになった実を、とっさに、腕を掴んで支えた。
「ごめんなさい!楽器が沢山あって、それを見ていたら、気がつかなくて。」
実がびっくりして謝る。
「怪我はないか?」
そう、クールに話したのは、速見涼(R.)だった。先日、修理に出していた光のギターを取りにきた時にギターを弾いていたお気に入りの男性だったことを思い出した。
「あ、あたいは大丈夫。それよりも、楽器は大丈夫ですか?」
涼が持っている楽器に気がついた実は慌てて答える。にわかではあるが、憧れの涼と話していることにドキドキしながら、少々いつも以上にぎこちない動作でそわそわしていた。
「大丈夫だ。じゃぁ、気をつけろよ。」
「お、お名前は?」
「え?なんで名乗らなきゃならないんだ?まぁ…良い。速水涼だ。ギターをやってる。それで良いか?じゃぁな。」
そう言いながら、背中越しに右手を軽く上げてクールに楽器屋を出ていった。
「涼様…。っていうんだ。はっ!あたいの名前を名乗らなかったわ。」
その場に裕二がいれば、おそらく「お前の名前なんか誰も聞きとうないわ…。」と突っ込むところだが、ギター売り場には、キャピキャピした実を遠くから見ている楽器屋の店員が困った顔をして呆然としていた。
しばらく経って、楽器屋から出てきた4人は、やけに機嫌の良い実に悪い予感をさっちして、解散しようとした。
「あたい、音楽やる!」
「ちょ~っと、待て。よく考えろ。龍助が音楽やるんで今日来たんだぞ。何で実がそうなる?」
光が暴走気味の実にストップをかけた。
「あたいも音楽やる。龍助と一緒に軽音楽部に入る。」
輝いた瞳の実を見て、両手の平を軽く投げ出してため息をついた後で、光が龍助に聞く。
「龍助は良いのか?」
「まぁ、僕が決めることじゃないし、実君が音楽やりたければ、一緒にやっても良いんじゃないかな。」
「あたい、ギターをする。涼様と一緒の。」
「!?」
涼という名前を聞いたときに、龍助は一瞬凍りついたような表情になった。朱里から、R.が人間界では速水涼と名乗っていると言っていたと聞いていただからだ。
「涼様?それって…。まさか、そんなことないか…。」
しかし、まさか魔界の刺客が人間界でギターを弾いているとも思えず、勘違いと思い、少し笑顔になった。
「どうした、龍助?」
「いや、なんでもない。ちょっと知っている人かと思っただけ。勘違いだと思う。」
「ねぇ、聞いてるの?」
「君は、ギターよりもドラムをやってみるとよいよ。」
突然、武司が口を開く。
「ドラム?」
「そう。分かりやすくいえば、いわゆる太鼓とシンバルの寄せ集めみたいな感じ。選択科目の音楽が同じだから前から気になっていたんだけど、君は音感がひどい。歌の授業ではいつも一人だけ不協和音だから。」
「何ですって!」
実は血相を変えたが、気にせず淡々と武司は話し続けた。
「でも、リズム感は結構よいと思うんだ。ドラムは、バンドにとってリズム隊の要で、みんなをまとめるポジションだよ。」
武司にリズム感のことを褒められたので、また実は機嫌を取り戻した。龍助と光がほっとする。
「そ、そうなの…。わ、分かったわ。ドラムにする。なんか、デストラックミュージックって難しそうだから。」
「いや、デスクトップミュージックだ…、実。」
光が実に間違いを指摘する。
「何でも良いわ。あたいはドラムにする。そうよ、ドラムが良いわ。明日から練習する。」
「武司君は、普段から色々と見ているんだね。すごいや。」
龍助が感心すると武司がメガネを外して、メガネのレンズを拭いた。
「まぁ、たいしたことないよ。それじゃぁ、僕にまた聞きたいことがあったら、聞いてくれよ。それじゃぁ、僕は予備校の予習があるからお先に失礼するよ。」
「ねぇ、武司君!僕らと音楽をしないか?って言っても、僕らじゃ足手まといかもしれないけど。麻宮さんを誘って、ユニットかバンドをやってみない?」
龍助が立ち去ろうとした武司に慌てて声をかける。
「悪い。僕は、無意味に群れるのは好きじゃないんだ。それじゃぁ。」
そう言って、歩いていった。
「何よ。武司は愛想ないわね。」
「まぁ、いつもどおりだ。気にするな、龍助。」
龍助の肩を光が軽く叩く。
「いや、彼はきっと僕らと一緒に音楽をしてくれるよ。きっと…。」
龍助は、声をかけた時に、ほんの一瞬、武司がしたうれしそうな表情の口元をみのがさなかった。初心者の自分たちは音楽の勉強をして、ゆっくり彼を待とうと心に決めたのだった。
「そういえば、なんでお前はバスケじゃなくて、音楽にしたんだ?」
「あたいも興味がある…。」
二人が龍助の顔を覗き込む。龍助は少しもじもじとしてうつむいてから小さい声で話した。
「内緒だよ…。麻宮さんと光と一緒に音楽を出来ればきっと楽しいだろうなぁ、と思って…。」
「あたいは?」
実が自分を指差して、龍助の顔の前に迫ってくる。
「あ、勿論、実君も。一色さんや仲間たちとも音楽を通して心のキャッチボールが出来ると良いなぁ、って思って。」
「心のキャッチボールか。まぁ、お前は、朱里とキャッチボールずっとしていそうだけどな。」
慌てて光の発言を否定する。
「え、そんなことないよ。」
「分かってるって。冗談だよ。俺たちは幼馴染だろ。それぐらい分かるよ。」
「あたいは、それでも良いよ。光様と心の…。」
「あ、もう分かった。で、実は、家はあっちだろう。俺たちはこっちだから、そろそろ帰るぞ。」
遮るように光が言った。別れを惜しみつつも実は帰っていった。
「お前、口止めしたか?実に。」
「あ、しまった…。」
「明日、学校中に広まってるかもな…。じゃぁな、俺も帰るから。」
「うん、じゃぁ。バイバイ。気をつけてね。実君には今からメールしておこう。」
そう言って、龍助は携帯電話でメールを打っていた。
メールを転送した後で、ほっと一息ついたとき、この季節には珍しい冷たい風が吹いた。
遥に渡された指輪に刻まれた紋章がうっすら浮かび上がる。
「?。確か、この紋章が浮かび上がった時は、異世界の住民が近づいているんだった。」
冷や汗をかきながら振り返ったとき、そこにはギターケースを抱えた涼が立っていた。
「よう!待っていたぞ。どうやら、探索しにくいように魔法をかけられているか、魔法効果のあるものを持っているな。ただ、俺のような上級魔族には探し出すことも可能なんだよ。」
「R.…。いや、涼…さん。」
「今日は任務で来たんだ。悪いな。お前の記憶置換と、ジュリア クリスティーの拘束。ハルカリ嬢は上からの命令で今回は良いらしい。お偉方の事情らしい。」
「あ、あ、あ、麻宮さんには手を出すな!」
「人間ごときが、魔族に抵抗か?やめておけ。俺は、むやみな争いはしたくないんだ。抵抗しなければ、記憶置換はすぐ済む。それで、お前は魔界やジュリアのことを忘れて、普通に以前と同じように生活すればよい。」
そう言うと、涼は右手の平を龍助に向けて記憶置換の呪文を唱えようとした。
「僕は、麻宮さんを…朱里を守る!そう約束したんだ!!」
涼は呪文を唱えるのを途中でやめた。
「だったら、俺を倒してみろ。まぁ、万が一俺を倒せたとしても、次々と刺客が送り込まれるだろうが!」
涼が適応魔法を解除して、モードチェンジをして槍を取り出した。重い空気が龍助に圧力をかけるように感じた。
「いつでも出来るって、思っていたら、いつまでもやらない。逃げていないで、今やってみろよ。守るんだろう?あの魔族の女を。」
涼は手に持った槍を龍助の顔すぐ横に勢いよく突き出した。
龍助の髪に少しかすって、髪が数本切れる。龍助は、ずっと涼の目を睨みつける。
「よけなかったな。どうやら本気のようだ。だったら、しょうがない。抵抗するのであればお前を消滅させる許可は出ている。悪いが、消えてもらう。せめて、苦しまずに一瞬でことを済ませてやる。」
少し寂しげな表情をして、涼は龍助の胸に向けて、槍を突き出した。
龍助はなすすべもなくただ立っているだけだった。確実にやられると龍助が思ったとき、目の前にはデビルモードにモードチェンジした朱里がリラをre-writeした状態で槍を短剣の方で防御していた。
「やっと出てきたか。女。」
「龍助君…。間に合ってよかった。悪い予感がしていたの。下がって。」
「麻宮さん…。」
目の前で防御しているデビルモードの朱里に龍助は心配そうに声をかける。
「大丈夫。龍助君がいてくれるだけで、私は強くなれるの。そばにいてくれるだけで、十分だよ。今は、デビルモードをコントロールできそうな気がするから。本当よ。それに、もしコントロールを出来なくなったら、また龍助君が助けてくれるんでしょう?でも、大丈夫。そうならないから。危ないから、下がって。」
「分かったよ。でも、僕はいつでも麻宮さんのそばにいるから。」
「うん。」
龍助が少し下がると、朱里は長剣と短剣の二つの剣で槍を押し返して、同時に強く地面をけって向かっていった。前回の戦いでデビルモードでないと涼には勝てないことを知っているので、暴走を恐れながらもデビルモードにモードチェンジをしたことを、龍助は感じていた。
朱里の長剣が涼の足を狙ったが、涼は槍によって防御する。
「ジュリア クリスティー悪いことは言わん。大人しく投降しろ。」
「私は、朱里よ。麻宮朱里。」
「今回は、暴走していないらしいなぁ。前回は暴走で魔力が増大して手こずったから、魔力を増大させる前にしとめてやる。」
お互い互角の戦いを繰り広げる。龍助は、朱里の無事を祈りつつ見守る。
「麻宮さん…。僕がそばにいるから…。」
「仕方がない。きりがないから、シーズ博士に改良してもらった、武器にbreak throughさせるか。break through!」
その瞬間、槍が中央から二つに分解した。そして、やり先の方は更に小さく分裂して、空中に浮遊した。残りの部分は薄く広がって、涼の左手に装着された。まるでドラゴンキラーのようだった。
「お前の宝具『L.D.C.』の研究結果の応用の一つらしいぞ。言っておくが、左手に装着してある武器は防御だけでなく硬いドラゴンのうろこも切り裂くほどの切れ味だぜ。まぁ、ドラゴン族自体が、もうほとんど存在しない時代だが。そして、浮遊している槍先のようなものは、遠隔操作で敵に攻撃を行える。つまり、長距離と短距離、防御を行えるわけだ。」
「『L.D.C.』の研究結果で武器を進化させることができるの?魔族の魔力を減らして、人間になれると思っていたのに…。」
「馬鹿め。だから言っただろう、かなわぬ夢なんだ。あきらめて、消滅しろ!」
遠隔操作の数個の槍先が容赦なく、朱里に襲い掛かる。
朱里は、瞳を閉じて、歌を口ずさむ。
「青く輝く景色虹を探しに行こう 君と」
一つ目の槍先をよける。そして、歌いながら二つ目もよける。
「そばで見守って これからも...」
二つ目をやり過ごした後で、瞳を開いた。その瞳は赤くなっていた。しかし、前回のように暴走しているようではなかった。三つ目の槍先が朱里に向かって飛んでいった時、彼女は短剣で槍先をはじいて、涼にめがけて高く飛んだ。
「fly away to the sky
どんな時でも 二人ならこわくはない
with my wings
羽ばたいて 誰より高く
見つけ出そう きっと
get my place with you, for my love」
朱里の胸元にある、『L'aile du coeur(心の翼)』に赤いクリスタルが輝いた。
「赤いクリスタルだ。この曲は、[my wings]…。そうか、これもEspoirだったんだ!」
龍助が叫ぶ。龍助は朱里と一緒にこの曲を聞いたことがあった。
「何?暴走しないどころか、俺の武器のスピードにもついていけるとは。だが、遠隔操作だけではないんだよ。俺の場合、このドラゴンキラーと遠隔操作の槍先のコンビネーションで敵を追い詰めるのさ!」
涼が高く飛んだ朱里に向けて飛びつつ、遠隔操作で槍先を朱里の後ろ側から追い詰めようとした。
「逃げ道はもうないぞ!」
涼がニヤリとして、左手のドラゴンキラーで朱里を切り裂こうとした。
しかし、朱里は次の瞬間、姿を消した。
「?何処へ行った!!」
朱里は瞬間的に下に降りて、地面をすぐにけったとたん再び、涼に向けて跳んでいた。
ドラゴンキラーで朱里の長剣を防いだが、短剣で足に傷を負う。
龍助たちは、魔界からの刺客に注意しつつも、遥が用意したディオール家特性の封印の呪文効果が施されている宝具を、人間で無防備な龍助と光に持たせることにした。
ちなみに、龍助は指輪を、光はピアス片方を預かっていた。これらの宝具には、魔界からの探知がしにくい結界効果と、攻撃魔法を防いだり、弱めたりする効果があると遥は説明した。他のクラスメートは事情を知らないので、おそらくむやみやたらに魔界は手出ししないだろうと判断し、龍助,朱里,遥,光は、なるべく二人で行動を取れるときは行動を取るように心がけることにした。
これで、幾分かは防衛が出来るので、後は目立たないように、普段通りに生活をすることにしていた。
「武司君。お願いがあるんだけど。」
龍助は休み時間に一人、ポツンとノートパソコンに向かっている小島武司(こじま たけし)の机の前にいって口を開いた。パソコンをいじりながら、龍助の顔を見ずに話した。
「何?」
「あ、あのさぁ。この間、シンセサイザーのことをちょっと教えてもらったでしょう?覚えているかな?」
「あ~、そんなこともあったね。」
「で、D.T.M.(デスクトップミュージック)に少し興味があって教えて欲しいんだけど…。」
武司の手が止まる。メガネに手をやって龍助の方へ顔を向ける。
「やる気はあるの?何でも教えてっていうような甘い考えだったら、多分、君の身にもつかないだろうし、僕にとっても時間のロスなんだ。それが分かっていて知りたいことがあるんだったら、良いよ。僕が知っていることであれば。」
冷たく突き放すように言う。龍助が、最近、楽器屋で集めていたパンフレットやインターネットのD.T.M.関連のwebサイトをプリントアウトして初心者で分からないなりにも勉強していたものを見せる。
「うん。やる気がある!でも、初めてだから、何を使っていいのか、何を買えばよいのか、アドバイスをもらえればうれしいなぁ、と思って。」
「分かったよ。今日は予備校があるから、明日の放課後に、町の楽器屋さんに一緒に行こう。」
「ほ、本当?良かったぁ…。何度か楽器屋にもいってみたんだけど、どれも同じような感じで良く分からなかったんだ。」
「まぁ、最近のものは機能も最低限はそろっているものが多いから、そう感じてもしょうがないよ。予算に応じて、いくつか僕が見繕ってあげるから、そのプランから選ぶと良いよ。」
翌日の放課後、楽器屋に武司と龍助がやってきた。光もギターの弦を買うためについてきたのだが、実が寂しそうに遠くから見つめていたので、光が手で呼ぶと、大喜びして付いてきたのだった。
武司はD.T.M.コーナーにて、龍助と光に説明をしながら色々と教えてあげていた。
実はつまらなさそうに、店内をうろうろしていたが、ギターコーナーの入り口で人とぶつかってしまった。こけそうになった実を、とっさに、腕を掴んで支えた。
「ごめんなさい!楽器が沢山あって、それを見ていたら、気がつかなくて。」
実がびっくりして謝る。
イラスト:hata_hataさん
そう、クールに話したのは、速見涼(R.)だった。先日、修理に出していた光のギターを取りにきた時にギターを弾いていたお気に入りの男性だったことを思い出した。
「あ、あたいは大丈夫。それよりも、楽器は大丈夫ですか?」
涼が持っている楽器に気がついた実は慌てて答える。にわかではあるが、憧れの涼と話していることにドキドキしながら、少々いつも以上にぎこちない動作でそわそわしていた。
「大丈夫だ。じゃぁ、気をつけろよ。」
「お、お名前は?」
「え?なんで名乗らなきゃならないんだ?まぁ…良い。速水涼だ。ギターをやってる。それで良いか?じゃぁな。」
そう言いながら、背中越しに右手を軽く上げてクールに楽器屋を出ていった。
「涼様…。っていうんだ。はっ!あたいの名前を名乗らなかったわ。」
その場に裕二がいれば、おそらく「お前の名前なんか誰も聞きとうないわ…。」と突っ込むところだが、ギター売り場には、キャピキャピした実を遠くから見ている楽器屋の店員が困った顔をして呆然としていた。
しばらく経って、楽器屋から出てきた4人は、やけに機嫌の良い実に悪い予感をさっちして、解散しようとした。
「あたい、音楽やる!」
「ちょ~っと、待て。よく考えろ。龍助が音楽やるんで今日来たんだぞ。何で実がそうなる?」
光が暴走気味の実にストップをかけた。
「あたいも音楽やる。龍助と一緒に軽音楽部に入る。」
輝いた瞳の実を見て、両手の平を軽く投げ出してため息をついた後で、光が龍助に聞く。
「龍助は良いのか?」
「まぁ、僕が決めることじゃないし、実君が音楽やりたければ、一緒にやっても良いんじゃないかな。」
「あたい、ギターをする。涼様と一緒の。」
「!?」
涼という名前を聞いたときに、龍助は一瞬凍りついたような表情になった。朱里から、R.が人間界では速水涼と名乗っていると言っていたと聞いていただからだ。
「涼様?それって…。まさか、そんなことないか…。」
しかし、まさか魔界の刺客が人間界でギターを弾いているとも思えず、勘違いと思い、少し笑顔になった。
「どうした、龍助?」
「いや、なんでもない。ちょっと知っている人かと思っただけ。勘違いだと思う。」
「ねぇ、聞いてるの?」
「君は、ギターよりもドラムをやってみるとよいよ。」
突然、武司が口を開く。
「ドラム?」
「そう。分かりやすくいえば、いわゆる太鼓とシンバルの寄せ集めみたいな感じ。選択科目の音楽が同じだから前から気になっていたんだけど、君は音感がひどい。歌の授業ではいつも一人だけ不協和音だから。」
「何ですって!」
実は血相を変えたが、気にせず淡々と武司は話し続けた。
「でも、リズム感は結構よいと思うんだ。ドラムは、バンドにとってリズム隊の要で、みんなをまとめるポジションだよ。」
武司にリズム感のことを褒められたので、また実は機嫌を取り戻した。龍助と光がほっとする。
「そ、そうなの…。わ、分かったわ。ドラムにする。なんか、デストラックミュージックって難しそうだから。」
「いや、デスクトップミュージックだ…、実。」
光が実に間違いを指摘する。
「何でも良いわ。あたいはドラムにする。そうよ、ドラムが良いわ。明日から練習する。」
「武司君は、普段から色々と見ているんだね。すごいや。」
龍助が感心すると武司がメガネを外して、メガネのレンズを拭いた。
「まぁ、たいしたことないよ。それじゃぁ、僕にまた聞きたいことがあったら、聞いてくれよ。それじゃぁ、僕は予備校の予習があるからお先に失礼するよ。」
「ねぇ、武司君!僕らと音楽をしないか?って言っても、僕らじゃ足手まといかもしれないけど。麻宮さんを誘って、ユニットかバンドをやってみない?」
龍助が立ち去ろうとした武司に慌てて声をかける。
「悪い。僕は、無意味に群れるのは好きじゃないんだ。それじゃぁ。」
そう言って、歩いていった。
「何よ。武司は愛想ないわね。」
「まぁ、いつもどおりだ。気にするな、龍助。」
龍助の肩を光が軽く叩く。
「いや、彼はきっと僕らと一緒に音楽をしてくれるよ。きっと…。」
龍助は、声をかけた時に、ほんの一瞬、武司がしたうれしそうな表情の口元をみのがさなかった。初心者の自分たちは音楽の勉強をして、ゆっくり彼を待とうと心に決めたのだった。
「そういえば、なんでお前はバスケじゃなくて、音楽にしたんだ?」
「あたいも興味がある…。」
二人が龍助の顔を覗き込む。龍助は少しもじもじとしてうつむいてから小さい声で話した。
「内緒だよ…。麻宮さんと光と一緒に音楽を出来ればきっと楽しいだろうなぁ、と思って…。」
「あたいは?」
実が自分を指差して、龍助の顔の前に迫ってくる。
「あ、勿論、実君も。一色さんや仲間たちとも音楽を通して心のキャッチボールが出来ると良いなぁ、って思って。」
「心のキャッチボールか。まぁ、お前は、朱里とキャッチボールずっとしていそうだけどな。」
慌てて光の発言を否定する。
「え、そんなことないよ。」
「分かってるって。冗談だよ。俺たちは幼馴染だろ。それぐらい分かるよ。」
「あたいは、それでも良いよ。光様と心の…。」
「あ、もう分かった。で、実は、家はあっちだろう。俺たちはこっちだから、そろそろ帰るぞ。」
遮るように光が言った。別れを惜しみつつも実は帰っていった。
「お前、口止めしたか?実に。」
「あ、しまった…。」
「明日、学校中に広まってるかもな…。じゃぁな、俺も帰るから。」
「うん、じゃぁ。バイバイ。気をつけてね。実君には今からメールしておこう。」
そう言って、龍助は携帯電話でメールを打っていた。
メールを転送した後で、ほっと一息ついたとき、この季節には珍しい冷たい風が吹いた。
遥に渡された指輪に刻まれた紋章がうっすら浮かび上がる。
「?。確か、この紋章が浮かび上がった時は、異世界の住民が近づいているんだった。」
冷や汗をかきながら振り返ったとき、そこにはギターケースを抱えた涼が立っていた。
「よう!待っていたぞ。どうやら、探索しにくいように魔法をかけられているか、魔法効果のあるものを持っているな。ただ、俺のような上級魔族には探し出すことも可能なんだよ。」
「R.…。いや、涼…さん。」
「今日は任務で来たんだ。悪いな。お前の記憶置換と、ジュリア クリスティーの拘束。ハルカリ嬢は上からの命令で今回は良いらしい。お偉方の事情らしい。」
「あ、あ、あ、麻宮さんには手を出すな!」
「人間ごときが、魔族に抵抗か?やめておけ。俺は、むやみな争いはしたくないんだ。抵抗しなければ、記憶置換はすぐ済む。それで、お前は魔界やジュリアのことを忘れて、普通に以前と同じように生活すればよい。」
そう言うと、涼は右手の平を龍助に向けて記憶置換の呪文を唱えようとした。
「僕は、麻宮さんを…朱里を守る!そう約束したんだ!!」
涼は呪文を唱えるのを途中でやめた。
「だったら、俺を倒してみろ。まぁ、万が一俺を倒せたとしても、次々と刺客が送り込まれるだろうが!」
涼が適応魔法を解除して、モードチェンジをして槍を取り出した。重い空気が龍助に圧力をかけるように感じた。
「いつでも出来るって、思っていたら、いつまでもやらない。逃げていないで、今やってみろよ。守るんだろう?あの魔族の女を。」
涼は手に持った槍を龍助の顔すぐ横に勢いよく突き出した。
龍助の髪に少しかすって、髪が数本切れる。龍助は、ずっと涼の目を睨みつける。
「よけなかったな。どうやら本気のようだ。だったら、しょうがない。抵抗するのであればお前を消滅させる許可は出ている。悪いが、消えてもらう。せめて、苦しまずに一瞬でことを済ませてやる。」
少し寂しげな表情をして、涼は龍助の胸に向けて、槍を突き出した。
龍助はなすすべもなくただ立っているだけだった。確実にやられると龍助が思ったとき、目の前にはデビルモードにモードチェンジした朱里がリラをre-writeした状態で槍を短剣の方で防御していた。
「やっと出てきたか。女。」
「龍助君…。間に合ってよかった。悪い予感がしていたの。下がって。」
「麻宮さん…。」
目の前で防御しているデビルモードの朱里に龍助は心配そうに声をかける。
「大丈夫。龍助君がいてくれるだけで、私は強くなれるの。そばにいてくれるだけで、十分だよ。今は、デビルモードをコントロールできそうな気がするから。本当よ。それに、もしコントロールを出来なくなったら、また龍助君が助けてくれるんでしょう?でも、大丈夫。そうならないから。危ないから、下がって。」
「分かったよ。でも、僕はいつでも麻宮さんのそばにいるから。」
「うん。」
龍助が少し下がると、朱里は長剣と短剣の二つの剣で槍を押し返して、同時に強く地面をけって向かっていった。前回の戦いでデビルモードでないと涼には勝てないことを知っているので、暴走を恐れながらもデビルモードにモードチェンジをしたことを、龍助は感じていた。
朱里の長剣が涼の足を狙ったが、涼は槍によって防御する。
「ジュリア クリスティー悪いことは言わん。大人しく投降しろ。」
「私は、朱里よ。麻宮朱里。」
「今回は、暴走していないらしいなぁ。前回は暴走で魔力が増大して手こずったから、魔力を増大させる前にしとめてやる。」
お互い互角の戦いを繰り広げる。龍助は、朱里の無事を祈りつつ見守る。
「麻宮さん…。僕がそばにいるから…。」
「仕方がない。きりがないから、シーズ博士に改良してもらった、武器にbreak throughさせるか。break through!」
その瞬間、槍が中央から二つに分解した。そして、やり先の方は更に小さく分裂して、空中に浮遊した。残りの部分は薄く広がって、涼の左手に装着された。まるでドラゴンキラーのようだった。
「お前の宝具『L.D.C.』の研究結果の応用の一つらしいぞ。言っておくが、左手に装着してある武器は防御だけでなく硬いドラゴンのうろこも切り裂くほどの切れ味だぜ。まぁ、ドラゴン族自体が、もうほとんど存在しない時代だが。そして、浮遊している槍先のようなものは、遠隔操作で敵に攻撃を行える。つまり、長距離と短距離、防御を行えるわけだ。」
「『L.D.C.』の研究結果で武器を進化させることができるの?魔族の魔力を減らして、人間になれると思っていたのに…。」
「馬鹿め。だから言っただろう、かなわぬ夢なんだ。あきらめて、消滅しろ!」
遠隔操作の数個の槍先が容赦なく、朱里に襲い掛かる。
朱里は、瞳を閉じて、歌を口ずさむ。
「青く輝く景色虹を探しに行こう 君と」
一つ目の槍先をよける。そして、歌いながら二つ目もよける。
「そばで見守って これからも...」
イラスト:hata_hataさん
「fly away to the sky
どんな時でも 二人ならこわくはない
with my wings
羽ばたいて 誰より高く
見つけ出そう きっと
get my place with you, for my love」
朱里の胸元にある、『L'aile du coeur(心の翼)』に赤いクリスタルが輝いた。
「赤いクリスタルだ。この曲は、[my wings]…。そうか、これもEspoirだったんだ!」
龍助が叫ぶ。龍助は朱里と一緒にこの曲を聞いたことがあった。
「何?暴走しないどころか、俺の武器のスピードにもついていけるとは。だが、遠隔操作だけではないんだよ。俺の場合、このドラゴンキラーと遠隔操作の槍先のコンビネーションで敵を追い詰めるのさ!」
涼が高く飛んだ朱里に向けて飛びつつ、遠隔操作で槍先を朱里の後ろ側から追い詰めようとした。
「逃げ道はもうないぞ!」
涼がニヤリとして、左手のドラゴンキラーで朱里を切り裂こうとした。
しかし、朱里は次の瞬間、姿を消した。
「?何処へ行った!!」
朱里は瞬間的に下に降りて、地面をすぐにけったとたん再び、涼に向けて跳んでいた。
ドラゴンキラーで朱里の長剣を防いだが、短剣で足に傷を負う。
to be continued...
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
リラ(ドラゴンの姿ver.)
イラスト:hata_hataさん