Episode 024
μの誕生会(前編)

music:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]


前回までの『L.D.C.』

 ある日、龍助達が花火大会へ遊びに行く。初めて見る花火を由依は楽しみ、出店で金魚すくいなどをして遊んだのだった。
 
 遥と光は、風車のお店を見に行ってから龍助達と再び合流する予定で別行動をとる。そこで、お面をかぶった男に出会う。その男は、アル・レインだった。
 龍助達の所へ戻ろうとした時、アルと遥は何か魔力の様なものを感じる。そして、その正体を突き止めようと動く。遥に同行していた光もアル達に付いていくことになった。
 光達がなかなか現れないので龍助達が彼らを探したが見つからなかった。
 
 そしてその頃、セルが魔界の何者かと音声通話で連絡を取っていた...。

イラスト:hata_hataさん

「あいつには消えてもらうしかないぞ。最近、何やら色々と探っているようだ。」
「まだ時期が早すぎるからな。全く厄介な奴だ。」
 セルが音声通話の機材で話をする。
「そういえば天界の者が魔界の兵士と接触があったと報告が上がってきているとも聞く。」
「奴らはどうせ古文書にしがみついているだけだ。この私があの方の力で覆してやる。」
 高笑いをしたセルが魔族の兵士の持ってきた酒を飲み干す。そして、グラスを握り潰した。砕け散ったガラスが足元に散らばり、キラキラと輝く。
「まぁ、任せておけ。奴の息の根は私が止めてやる。もう直だ。こっちは抜かりは無い。その代り、お前は安心して魔界で例の準備をちゃんと進めておけ。何のために、人間界へ姿をくらませていると思う。ディアブロの目を人間界へ引付けておくためだ。天界の奴が動いてくれれば、それも我らにとっては好都合だ。」
 そう言うと、椅子に座って足を組みセルがにやりとした。周りに待機している魔獣達も不気味に輝いた。
 
 
 龍助が花火大会の出店や通路に光と遥がいないか探して回っていた。

イラスト:hata_hataさん

「どうしたんだろう。光と遥ちゃん…。無事だといいんだけど…。まさか、セルとかいう魔界の反逆者が関係してないよな。一旦、麻宮さん達の所に戻った方が良いか。まぁ、ただはぐれただけだったら、光達だけで家に帰れるし。それに、ひょっとしたらもう合流しているかもしれないから。」
 そう呟くと、龍助は携帯電話で武司に電話して、一旦、朱里達が待っている場所へ向かった。
 
「おそいね。りゅうすけ。ひかるおにいちゃんとはるかおねえちゃんもまいごになっちゃったのかな?」
「そうね。人が沢山いるから。由依ちゃんは迷子にならないように私の手を握っていてね。」
「うん。」
 朱里に甘えて由依がじゃれる。左手で朱里の手をしっかり握って、右腕には金魚すくいで貰った金魚が1匹入った袋をぶら下げながら、綿菓子の袋を持っていた。
「…あ、小島君だ…。」
 恵が武司が戻ってきたのを見つけて小さな声で言う。横で焼き鳥を頬張っていた実が袋から一本取り出して武司に渡す。恵もペットボトルのお茶を手渡す。
「お帰り!その様子じゃ、見つからなかったみたいね。」
「うん。まぁ、小さな子供じゃあるまいし、二人でデートかもしれないから。」
「え!!デート!!光様が。」
 武司の言葉を聞いて、実がそわそわしながらお茶を飲んでむせる。朱里が左手で背中をさすってあげながら話す。
「でも、そういう計画だったらそれで光君って責任感強い人だから連絡するでしょう?」
「そ、そうね。そうだわ。ただ、はぐれちゃっただけね。でも、人ごみで転んで怪我したとかじゃないわよね?」
 実が落ち着きを取り戻して尋ねると武司が答えた。
「あぁ。その心配はなさそうだよ。さっき、この花火大会の救護所も覗いてきたんだけど、今日はまだ誰も怪我や病気の人はいないって。」
「さすが、武司君。頼りになるわ。ねぇ、恵ちゃん。」
「…うん…。」
 朱里が感心して恵に言うと、恵も少し真っ赤になって可愛くうなずく。
 すると、龍助がやってくる。
「やっぱり、完全にはぐれちゃったね。しょうがないなぁ。今日は、僕達で楽しんで帰ろうか。途中でばったり見つかるかもしれないし、また来年一緒にみんなで来れば良いよ。」
「ゆいも?ゆいもいっしょ?」
 龍助の言葉に、由依が尋ねる。それを聞いた龍助が由依の前に来てしゃがんで彼女の目線で言う。
「うん。由依ちゃんも一緒だよ。みんなで観に来ようね。」
「…うん。」
 由依が龍助に抱き付く。
「まぁ、すっかり龍助君はパパみたいね。」
 みんなが見守る。そして、実が買い込んできた食べ物をみんなで食べた。いか焼きを食べながら実がみんなを見渡して言う。
「言っとくけど、後で割り勘ね。でも、あたいの知り合いのお店にサービスしてもらったから、割安よ。ここだけの話。他のお客さんにはナ・イ・ショ・ね。その焼きトウモロコシは千夏の知り合いの屋台から差し入れ。裕二さんと千夏が手伝っていたわ。」
「僕と恵ちゃんと一緒に来る時に見かけたよ。じゃぁ、後で僕が会計係をするよ。食べる量が違うだろうから女子が男子より少し安めに設定して、由依ちゃんは無料で良いね。」
「おまけしてくれて、ありがとう。こじまのおにいちゃん。」
 夜店のお面を買った時に覚えた「おまけ」という言葉をさっそく使ってお礼を言うと、武司がにっこりする。
 花火を見上げながらリラがリコ達を心配そうにしていたのだった。
 
 
 その頃、遥と光はアルについて走っていた。あたりはすっかり暗くなって、花火大会の音がこだましていた。花火大会の出店が並んでいた場所からかなり離れた空き地の森にやってくる。人影はないが、光と遥のピアスが何か微かな魔力を感じて輝きがうっすら増していた。
「ここか?微かに何か感じる。」
 アルが立ち止まって鞄から道具を出して何かを測定している。
「佐伯君、これ持っていてくれる?」

イラスト:hata_hataさん

 出店で買った風車を光に預けると、遥が瞳をつむってデビルモードへモードチェンジする。そして、ロッドを取り出した。
「リコ?もし何かあったら、すぐにre-callするから心の準備をしておいてね。何が起こるかわからないから、re-callすると魔力の浪費が激しいから念のためにぎりぎりまで待つわ。」
「ハイですの。」
 リコが遥の周りをパタパタ飛んで辺りの様子を伺いながら、肩に停まる。光は風車を持ったまま何をしたらよいのか分からず緊張しながら立ち尽くしていた。
「結界はこの近くには張ってなさそうだな。あ~あ、デビルモードにモードチェンジしちゃったの?遥の浴衣姿をもっと見ていたかったのに。」
「冗談言ってないで、先に進むわよ。」
 遥がロッドを構えながらゆっくりと一歩前に出る。
「お前は、魔界では一般人だから、無理はするなよ。」
「あんただって、元『レジェンド』だから、今は魔界の一般人と変わんないでしょう?偉そうにしないで。」
「まぁ、そうかもな。辺りは暗いからこれを持っておけ。」
 遥の言葉に、アルがうなずく。アルが鞄からペンライトを3つ出して、各々が持つ。アルのペンライトだけが明るさが少ない。ペンライトを左右に何度か強く振ると明るさが戻る。
「ちっ。俺のペンライトだけ電池の残量が残り少ないか。何だか、嫌な感じだ。」
 
 しばらく暗い森の中を進んでいくと、崖が現れる。

イラスト:hata_hataさん

「何もないか?トレジャーハントじゃないから、気のせいだった方が良いのだが…。」
 アルがペンライトを掲げて辺りを照らすと、光が小さな声でアルの手を掴んで止める。
「ちょっと、待ってアルさん!この方向の崖の下にうっすら何か見えるよ。」
 自分のペンライトをうっすら何か見えた場所へ光が投げてみると、そこに洞穴の入り口がある事が分かった。光は目が良くてそのお蔭でテニスなどのスポーツも人より上手かった。
「やるじゃん、光!お前、目が良いなぁ。トレジャー・ハンターに向いてるかもよ。」
 ロープを鞄から出すと、アルが崖の近くの木に手際よく括り付けて降りて行く。洞穴の所で中の様子を伺いアルが飛び移り、降りてくるようにサインを手で送る。
 遥が次に続き、最後に光が降りた。
 
「さてと、中はどうなっているのかな?」
「ちょっと、待って。突き当りに結界が張ってあるわ。あれがあるから、魔力がさえぎられて微かにしか感じなかったんだわ。」
 遥が50メートルほど先の結界を指さす。
「どういうことだ?一色。こないだの星の塚公園の遺跡の様に何かの遺跡なのか?」
「分からないわ。どうなのアル?」
 アルが手帳をペラペラめくるが、心当たりが無い様子だった。
「俺も分かんないわ。悪い。俺は、魔界のトレジャー・ハンターだから。」
「頼りにならないわね。トレジャー・ハンターを名乗るのをやめなさいよ。トレジャー・ハンター見習いってところかしら。」
「そんなぁ…。」
 遥が緊張しながら結界を見る。そして、ロッドの中央を持って腕を前に向け、ゆっくりと結界を解く呪文を唱える。そして、くるっと回すと結界が弱まる。
「これで通れるわよ。この結界は、古代の魔法ではなくて、あたし達の時代でも使われている結界魔法だわ。ただ少し違うのは、魔法がかなりきっちりかけてある。」
「神経質な奴って事か…。それとも俺の様に優秀という事か?」
 アルが胸を張って言うが、それを無視して遥が歩いていく。気まずそうに光がその後ろを付いていく。
「何だよ。お前達。俺だって、魔界の研究所で助手をやっていたことだってあるんだぞ!」
 ちょっぴりいじけながらふてくされているアルを後方で感じながら、遥と光が小さく笑った。
 結界を潜り抜けて奥へ進むと、やがて大きな空間へ出る。その先に再び道が続く。
「どうやら、何かが住んでいたみたいだな。魔界の住民か、天界の住民か?」
「このディオール家のピアスが反応するのは魔界の魔力だけのはずよ。」
 遥がアルに耳に着けているピアスを見せて説明する。光は遥から預かっていたピアスを耳から外して手に持って光り具合を確認していた。
「と、いう事は、セルか?奴は最近人間界へ逃げ出したらしいからな。」
 アルがこう言った瞬間、道が崩れ始めて慌てて遥達は大広間に戻る方向へ走り出す。
 
「しまった!」
 
 光が手を滑らせて、ピアスを落としてしまう。ピアスが落ちた辺りも崩れだす。遥が残念そうにそれを見ながら言う。
「信じて預けたのに…。」
「ごめん…。」
 謝りながら光が遥の肩に手をやると、彼女が少し強めに言う。
「触らないで!」
「突然の事で、光の奴もやむを得なかったんだから遥も分かってやれ。ディオール家に伝わる高価なお宝みたいだから残念だけど。形ある物はいつか無くなる。まぁ、俺が言わなくてもお前が一番良く分かっているか。」
 アルが遥の機嫌を見ながら、声をかける。光は少し落ち込んでピアスを落とした方向を振り返る。
 
 大広間も大半がひび割れて今にも崩れだしそうになっていた。アルがしゃがんで出口へ続く道のある場所を眺めながら呟く。
「まずいなぁ。どうやって戻るかな…。」
 すると、光が思い立った様にピアスを落とした道へ走り出す。ピアスは少し砂に埋もれていたが、魔力を感知して光っていたので視認できた。
「後は頼んだ!」
「頼んだ、って?うゎ、何なんだこれは。」
 アルの前の広間の底も崩れ出す。遥が、光の方を向いて叫ぶ。

イラスト:hata_hataさん

「急いで。早く。そんな物放っておいて。」
「駄目だ。とってくる。」
 崩れかかった道を降りて遥から預かったピアスを掴んだ。そして、アル達のいる場所へ走り出す。あと一歩というところで、一気に光の下の地面が崩れ去った。
 その瞬間、アルが武器である鞭を出して、光の腕に絡めて引っ張り上げた。遥が、光に駆け寄って叫ぶ。
「何でそんなことを?」
 肩で息をしながら光がピアスを大切に持って答える。
「だ、だって、これは初めて一色から預かった物だから。」
 光がにっこり笑うと、遥が光の頬を叩く。
「ば、馬鹿ね!あんたは人の命のことは心配するくせに、自分の命を軽視しすぎなのよ!」
 遥が涙目になりながら、光に言うと、光が謝る。
「ごめん。心配かけて。」
「わ、分かれば良いのよ。佐伯君が無事で良かった。」
 溢れそうになる涙を抑えながら遥が光を抱きしめる。しかし、すぐにアルの視線に気が付いて、はっとして光から離れて言う。
「べ、別に、と…友達として普通に心配しただけよ。それ以外に何の意味もないんだからね!」
「へぇ~。まぁ、そういう事にしておくか。おい、光。今、助けたから光には俺の貸し一つな。そうだな。俺の言う事を今度何か聞いてもらおう。」
「分かったよ。俺の出来る事だったら。」
 アルに感謝して光がうなずく。するとアルがにっこりする。
「よっしゃ、約束だぜ!お前の学校の綺麗なお姉さんでも紹介してもらうかな。」
「何セコイ事を言ってるのよ、アル。最低~!それに、まだ脱出できたわけじゃないんだから。」
 遥達が出口へ続く道を眺める。そこへの地面は崩れてかなり足場が悪くなっていた。いつまた崩れるか分からないので、慎重に降りて行く。光も遥から預かった風車をズボンのポケットに刺してアルの進路に続く。リコが遥の周りを飛びながら、辺りを警戒していた。
 
 
 龍助達は花火大会の第二部がそろそろ終盤に入り、片付けに入っていた。花火のこだます中、龍助がゴミを袋に入れてまとめながら言う。
「結局、光と遥ちゃんに合流できなかったね。光は残念がりそう。」
「まぁ、明日にでも話せばいいよ。携帯電話レベルの画質だけど、花火の写真とみんなの様子を撮影しておいたから、彼らにも見せてあげればいいじゃないか?みんなにも良かったらメールに添付して送るよ。あれ?」
 武司が携帯電話の画像を確認しながら言う。途中、朱里,由依,恵の三人を撮影した写真で、朱里が持った焼き鳥に人目を盗んでリラが齧り付いている画像があって首をかしげる。暗闇の中で花火や出店の明かり等で、彼女達を撮影したので、朱里の手元のリラの様子までは、はっきりとは確認できなかった。気のせいと思い、武司が携帯電話を閉じて恵の片付けを手伝う。
「メールだったら、あたいは帰ったらする。今年の金魚すくいは、朱里ちゃんが1位であたいが2位だったし。来年は朱里ちゃんと光様と勝負よ!」
 実が嬉しそうに言うと、由依も手に持った金魚の袋を見せながら飛び跳ねる。
「ゆいもとったよ。はるかおねえちゃんとりこにみせてあげるの。」
「そうね。お家に帰ったら龍助君のママに金魚鉢を貸してもらって入れてあげましょうね。」
「うん。りゅうすけのきんぎょ。じゅりのきんぎょ。ゆいのきんぎょもいれてあげると、きっとかぞくみたいだね。」
 由依が朱里にそう言うと、優しく彼女はうなずいた。
「ゴミ置き場にゴミを持って行くよ。由依ちゃんは迷子にならないようにそこにいてね。」
 ゴミを抱えて龍助が言うと、朱里が何個か龍助のゴミ袋を持って言う。
「あたしもこれを持って行く。悪いけど恵ちゃん。由依ちゃんをお願いしていいかしら?」
「…うん…。おいで。由依ちゃん。」
 リラをそっと抱きしめた恵が、由依を手招きする。武司は朱里と龍助に気を利かせて、実と残ることにした。
 
 ゴミを持ってゴミ捨て場まで歩きながら龍助が朱里に言う。
「悪いね。僕一人でも持って行けるかと思ったけど、やっぱり麻宮さんに付いて来てもらって良かった。僕一人だと、きっと人ごみにぶつかって何個かゴミ袋を落としちゃいそうだね。」
「どういたしまして。」
 朱里が小さくくすくすと笑いながら龍助に寄り添って歩く。
 花火大会は最後のナイヤガラの滝という滝をイメージしたような花火に点火されて、美しい火の流れが演出される。
 ゴミ捨て場について、ゴミを分別して捨て終わると、ナイヤガラの滝の花火を朱里と一緒に見つめる。朱里は、そっと龍助の腕に自分の腕をからませた。
 辺りは花火に感動した歓声や拍手でにぎわっていたが、二人はしばらく黙ったまま一時を一緒に感じていたのだった。
 ナイヤガラの滝の花火が終わった後で、最後のエンディングの花火が盛大に上がりだす。
 
「こんばんは、朱里様,龍助様。大切なお話がございます。いや、朱里様は、魔界名のジュリア・クリスティー様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
 龍助達の後ろから声がする。それを聞いて、振り返る。龍助は遥から預かったディオール家の指輪を慌てて見る。しかし、その魔族の魔力に反応する指輪は反応していなかった。
「あなたは、海でお会いした女性に付き添っていらっしゃった…。」
「クラシス様にお仕えしているミストス.Cと申します。その節は、皆様のおかげでクラシス様が久しぶりに楽しい一時をお過ごしできて本当にありがとうございます。」
 ミストスは紳士的に挨拶をする。
「それで、私達にお話とは?あなた方は龍助君の指輪に反応していないという事は、魔族ではないですね?」
「はい。私達は天界の住民でした。クラシス様は天界に住む女神族のお一人です。私はクラシス様の家に代々お仕えしている天使族の者です。」
 異世界への移動を自由にできないようになっているため、天界には朱里もまだ行ったことも無かった。魔界の学校の授業で、天界には神族が住んでおり、神族の中でも女性は女神族と呼ばれるらしく、神族には天使族が使えているという事だった。
 
「由依様が生まれる前の卵を星の塚公園にて、ジュリア様が拾って下さいましたね。」
「なぜ、それを?」
 朱里と龍助が驚くと、ミストスが淡々と話した。
「あの卵は、訳あって私達があの場所に隠しておいたものですから。」
「え?あなた方が由依ちゃんの親を知っているの?」
 ミストスに駆け寄って朱里が言うと、ミストスは眉間にしわを寄せて少々難しい顔をして答えた。
「ん…。非常に込み入った事で詳しい事は今は話せないのですが…。今日は、由依様の事でお話に伺いました。」
「由依ちゃんの事…。」
 龍助が朱里の横に来て話を聞く。
「どうか由依様を天界へお返し頂けませんでしょうか?突然の事で、何を言ってるんだと困惑されるかもしれません。申し訳ありません。ですが、あの方は天界の子。ジュリア様の家族が魔界の住民であるように、由依様の家族は天界の住民なのです。由依様が、天界へ帰りたいと思えば、私達は帰してあげたいと思います。今まで本当の子のように温かく育ててくださって誠に感謝しております。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。それは、由依ちゃんを天界へ連れて行くという事ですか?僕達は異世界の移動を許可されていないから、一度天界へ行ってしまうともう離れ離れという事ですか!」
 龍助が慌ててミストスに尋ねる。
「申し訳ありません…。何と言って良いものか…。先日、由依様には私がお会いした時に、お話差し上げて、あなた方には心配をかけないために黙っている様お願い致しました。いらぬ混乱を避けるべく。しかし、後でそれをクラシス様にお話ししたところ、あなた方にはちゃんとお話ししておく様におっしゃいまして、私目がご説明に上がった訳で御座います。」
 それを聞いて龍助が少しむきになって言う。
 

イラスト:hata_hataさん

「説明って…。非常に込み入った事で詳しい事が話せないのでしょう?それで、はい、どうぞ、って由依ちゃんを送り出せないですよ。麻宮さんが一生懸命一緒に歩んできたのに!あんまりじゃないですか。」
「龍助君、待って。ミストスさんは、何か深い事情を抱えた上であえて私達にお話し下さっているのよ。黙って由依ちゃんを連れて行くことだってできるのにもかかわらず。」
 朱里が龍助の腕を掴んで気持ちを抑えるように言う。ミストスは頭を下げたまま話を聞いていた。
「分かりました。でも、これは由依ちゃん自身が決めなければならないことだと思います。確かに、あなたのおっしゃるように魔界で生まれた私にとって、魔界の住民が家族です。ただ、私にとっては人間界の龍助君や龍助君のご両親も家族ですし、仲良くしてもらっているクラスメートも家族の様なものです。そして、由依ちゃんも、私にとってはかけがえのない家族なんです。」
「あ、麻宮さん…。」
 龍助の腕を掴む朱里の手が震えて動揺を抑えようとしていることを龍助は感じていた。
「そうですね。由依様にとってジュリア様は母親の様な者。私もお伝えすべきなのか、非常に頭を痛めたのですが、時期が迫ってきているのです。運命の…。今日、金魚すくいの時に由依様に何か異変を感じませんでしたか?」
「え?」
 朱里と龍助が金魚すくいの時を思い出す。元気な赤い金魚を追いかけて水にモナカを由依は入れた時に、一瞬、目の色が変わっていた様に感じたのを思い出して、はっ、とした。
 
「そうです。もう少しずつ『覚醒』が始まっているんです…。」
 朱里達が思い当りがある様子を見て、ミストスが口を開いた。
「か・く・せ・い…?」
「そうです。あなた方も由依様のその兆しを感じられましたね。あまり詳しくは申せませんが、由依様は訳あって卵で生まれてきた事により、今後、更に『覚醒』が起こる恐れがあります。」
 ミストスの話によると従来、神族,女神族,魔族,天使族も卵から生まれることはないという。しかし、ある理由で由依は卵から生まれることとなった。何か出生の秘密がありそうで、この卵はどうやら『覚醒』という症状が起こる可能性が高いという。
「人間界で完全に『覚醒』するまでに天界へ由依様をお連れして、備えておくべきかと…。人間界では何かと対応できかねます。万が一、人間界の人間に何か危害が及ぶことがあれば、由依様だってきっと幼い心を痛めてしまいます。ここは一時の感情に流されず、由依様のためにも…。」
「だったら、僕達が付いて行くよ!」
 ミストスの話に割って入る様に、龍助が提案する。しかし、すぐに朱里が悲しそうに龍助に言う。
「龍助君。それは難しいわ。だって、あなたは人間界の住民。そして、私は魔界の住民。天界へは自分の気持ちだけで行き来出来る場所じゃないの。」
「朱里様のおっしゃる通りです。古の時代から長きに続いた天界と魔界との争いが今は治まっています。異世界の壁を築き互いに干渉しない事で平和な世界を保っているのです。あなた方が敵意が無くとも天界へ行く事で、また何かの火種になってもいけません。世界のバランスを崩しては今までに流した血が報われなくなってしまいます。分かって下さいませ。」
 龍助の肩にそっと手を置いて、ミストスが龍助と朱里を見る。
「私が今日見たところ、由依様はすぐに『覚醒』する訳ではありません。しかし、近いうちにその時は訪れるでしょう。そうなった時に、由依様の中にあるあなた方の記憶が薄れ、そして悲しみに包まれる前にお迎えに参ります。我々には運命には逆らえません。悲しい事ですが…。あなた方も由依様との思い出を作っておいて下さいませ。それでは、失礼致します。」
 ミストスが頭を深々と朱里と龍助に下げる。そして、ゆっくりと振り返って、人ごみの中へ消えていったのだった。
 
「由依ちゃんとの思い出って…。いきなりそんな事、言われても…。」
 龍助が未だにミストスの説明が信じられずに困惑していると、朱里が泣き崩れる。朱里をそっと抱き寄せて、龍助も少しの間悲しみにくれていた。
 気付けば、花火大会は終わりお客が帰り始めている。混雑する人ごみの中で、龍助は朱里の涙を拭いてあげて、こう言った。
「由依ちゃんの誕生会をしようよ。」
「え?たん…じょう…か…い…?」
 朱里が涙を抑えながら尋ねる。
「そうだよ。お誕生会。由依ちゃんの卵が生まれた正確な日は分からないし、そもそも卵から生まれた日から1年だと来年になっちゃう。僕らと一緒にいる間に由依ちゃんの誕生をお祝いして誕生日会を開こうよ。」
「…。ありがとう。龍助君。きっと由依ちゃんにとって人間界での素敵なプレゼントになるわ。」
 朱里が龍助の胸の中に顔をうずめながら感謝する。もし由依が完全に『覚醒』してしまった時に、ミストスが言うように朱里達の記憶が無くなってしまうかもしれないが、一緒にいれる時に精一杯、由依に愛情を注いで幸せで包んであげたいと思った。
「そうね。由依ちゃんには、悲しい顔を見せないで天界へ行くかどうかの話しは知らない振りをしておきましょう。それよりもお誕生日会を素敵にしましょう。」
「元気出さないとね。それに、由依ちゃんに関しては何か別の方法で一緒にいられるかもしれないし。だって、僕と麻宮さんは、ディアブロ様のご理解のおかげでこうして今一緒にいられるだろう?」
 それを聞いて、朱里がうなずく。ミストスの話を聞いて、由依と完全に別れるものだと考えていた朱里だったが、龍助の言葉で少し希望の光を感じた。まだ何をどうしたらよいのかも分からず、運命というものに打ちのめされ叶わぬ願いかもしれないが、由依達と一緒にいたいという願いが叶うことを信じたかった。
「そうと決まったら、みんなも誘って、お誕生日会の準備をしよう。実君や武司君や光にも声をかけて何か演奏でプレゼントしたいなぁ。」
「素敵ね。由依ちゃんも龍助君の真似をして、恵ちゃんから借りた赤いおもちゃのピアノを弾いていたからきっと喜ぶわ。私は、遥ちゃんや恵ちゃんとケーキを作ろうかしら。食いしん坊なリラがいるし、大きくてカラフルなケーキを。お部屋も飾り付けてワクワク楽しい感じにして。」
「いいね。僕も楽しみだ。明日にでも光と遥ちゃんにも連絡してみよう。」
 心の中の不安を拭い去る事はできない。しかし、今は立ち止まらず、二人で元気を取り戻そうと心に言い聞かせるようにして、由依達が待つ場所へ向かって歩き出した。
 
 
to be continued...

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■Episode 018:

♪:[let it go!!]

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■Episode 020:

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■Episode 021:

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■Episode 022:

♪:[Happy Happy Love]

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[interrupt feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

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[departure feat.神威がくぽ] shin


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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

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