Episode 017
いつもの君といつもの僕

music:[どき×2]


前回までの『L.D.C.』

 人間界で生活をしていた南龍助は、魔界から来た少女、麻宮朱里と出会う。しかし、魔界の使者により彼女は魔界へ連れ戻されてしまった。
 
 彼女を取り戻すために、龍助は、魔族の一色遥、ドラゴンの姿をしたリラと共に魔界へ突入した。南龍助は、立ちはだかる魔界の軍勢に仲間と共に立ち向かい、遂に朱里を奪還する。更に、魔界を治めるディアブロ王を心を込めて説得して、再び人間界で「"Espoir(人間界でいう歌)"のクリスタルを宝具『L.D.C.』へ集めて、人間になりたい」という朱里の夢を追うことを許される。
 
 龍助達は、人間界で龍助達を信じて一人で待っていた佐伯光の元へ帰ることが出来たのだった。
 
 そして、龍助達は再び人間界にていつもの日々を送り始めたのだった...。

 Boy meets girl.
 少年は少女に出会うことになる。そして希望の光は闇と共に彼らを誘った。
 
 月が雲に隠れ辺りが闇に包まれる。空間が歪み、紫色に光りながら亀裂が数メートルに渡り走った。
 その亀裂を切り開くようにこじ開けながら、人間界へ進入しようとするものがいた。それは魔界に住む魔獣だった。大きな雄たけびを上げながら少しずつ亀裂を押し広げて、押し入る。
 
 その瞬間、少しきつい風が吹き抜け、木々を揺らし、木の葉が舞う。
 

イラスト:hata_hataさん

 魔獣は暗闇の中で目を赤く光らせながら、その風が吹いてきた方へ威嚇してうなり声を上げる。そして、風上へ攻撃を行おうとしたその時、魔獣は暗闇から伸びてきた黒き槍にて押し返され大木へ吹き飛んだ。すぐに黒き槍は光包まれフォームチェンジし、ドラゴンキラーといくつかの槍先に姿を変え、それを身に付けている男は魔獣へ三度の瞬間移動を繰り返しながら接近し、魔獣は男に目掛けて口から火属性の魔法である炎を吹き出す。男はドラゴンキラーで炎を弾き飛ばしながら右側面へ移動し、強く踏み込んで方向を変えドラゴンキラーで魔獣へ切りかかった。
 
 魔獣が大きな悲鳴を上げた後で、後ろの大木ごと倒れ、ドスンと地響きがする。魔獣は弱ってはいるが致命傷ははなく、男の圧倒的な力の前で怯えていた。
 男が魔獣の側へ寄って魔法を唱えると魔界へ続く魔方陣のゲートが開き、魔獣は慌ててその中へ飛び込んだ。
 魔獣が魔界へ向けて自分の意志で戻ったことを確認して、男はゲートを閉じ、更に魔法を唱えて、魔獣のこじ開けた空間の亀裂を修復する。亀裂が白い靄の様なもので覆われた後、ゆっくりと風で薄れると亀裂は無くなり、元に戻っていた。
「何か、嫌な予感がしてここへ来てみたが、魔獣が人間界へ迷い込むとは…。魔力の低い魔獣は人間界と魔界をさえぎっている壁を越えることは出来ないはずだが、世界に何か起こっているのか?これも『L.D.C.』の効果なのか…?急がなければ。」
 男は、そう呟くと、その場を立ち去った。その男は、人間界へ潜伏中の魔界の精鋭『レジェンド』のR.を名乗ることを許された速水涼だった。
 
 Boy meets girl.
 少年は少女に出会い、再び緩やかな時の流れの中で羽を休め、互いの存在を見つめなおす。
 
 
 南龍助の部屋の窓の外から、朱里の歌声が聞こえる。
 
「おはよう! 今日も優しい日差しで目覚め
窓を開けると 青空 広がる
顔を洗い 髪を整えたら
鏡に笑顔を作ってみよう!
 
服を着替えて ご飯食べて
歯磨きしたら 準備は良いよね? Yes!
 
素敵なことが何か起こるかも
街の景色も輝いて見える
あなたと待ち合わせで
今、ずっとドキ×2している...」
 
 龍助は眠りからゆっくりと覚め、心地よい明るい歌声を聞きながら優しい気持ちに包まれていた。そして、また、彼女と共にいつもの日々が過ごせることに感謝したのだった。
 
 起き上がって、窓の外を覗くと、庭で暖かい日差しを浴びながら歌っていた。魔界から来た少女、麻宮朱里の膝元には無邪気に笑うまだ幼い女の子、白鳥由依がちょこんと座って、時折、朱里に合わせて歌っていた。由依はμと記された不思議な卵から産まれた女の子である。
 
「髪を揺らす風が心地よくて
自然に口ずさみながら歩く
 
海岸沿いの道に沿って行こう
そこを抜けると待ち合わせの場所
 
少し時間が早すぎたら
待っているから あなたのことだけ! Yeah!
 
駆け出しそうになるこの気持ちを
受け止めて欲しい 優しくぎゅっと
あなたを想うだけで
今、ずっとドキ×2している...」
 

イラスト:hata_hataさん

 龍助は歌を聞きながら朱里という女の子が訪れてからの出来事を色々と思い出していた。
 彼女とそのお供の小さなドラゴンの姿をしたリラが学校の屋上で降ってきた。それまで、龍助は何気ない毎日を過ごしてきた龍助だったが、その彼女との出会いにより何か心がワクワクする様な楽しい毎日が始まった。彼女は、“Espoir(人間界でいう歌)”のクリスタルをペンダント型の宝具『L.D.C.』へ集めることで、魔族から人間になるという夢を追いかけていた。龍助も彼女の夢を応援したいと心から思ったのだった。
 
 しかし、朱里が許可無く人間界へ訪れていたため、世界のバランスを崩す恐れがあるという理由で魔界からの追っ手が彼女の前へ現れる。龍助達に危害が及ぶことを避けるべく、朱里は夢を追うことを諦め自ら投降し、連れ戻されたのだった。
 

イラスト:hata_hataさん

 それを知った龍助は朱里を奪還するべく、彼女の親友である魔族の一色遥とリラと共に魔界へ乗り込んだ。
 魔界ではトレジャーハンターのアル・レインやリラと同じ様にドラゴンの姿をしたリコを仲間に迎えて、過酷で難関な古代遺跡のダンジョンを乗り越え、立ちはだかる魔界の軍勢とのバトルに立ち向かったのだった。その度に、龍助達は少しずつ心身ともに成長し、仲間との絆も深くなっていった。
 
 そして、遂に朱里を取り戻し、魔界の王、シャロン・ディアブロ王を説得し、人間界へ戻って来たのだった。
 人間界で拾ったμと記された卵は、魔界で孵化し、白鳥由依と名付けられ、朱里と共に人間界へ滞在することを許された。
 
「素敵なことが何か起こるかも
昨日より今日は楽しくなって...
あなたの姿を見つけて
さぁ 腕に飛び込もう!」
 
 彼女達の周りを小さい翼をパタパタさせながらくるくるとリラがうれしそうに飛んでいた。
 

イラスト:hata_hataさん

「輝いているよ見るもの全て
今日より明日が楽しみになる
あなたの笑顔を見つめて
もっとドキ×2している...
 
ねぇ 優しく包み込んでいて
ドキ×2している?」
 
[どき×2]という龍助の携帯音楽プレイヤーに入っていた歌を歌い終わると、朱里の胸元にある宝具『L'aile du coeur(心の翼)』に、skyblueのクリスタルが輝いた。由依が朱里の『L.D.C.』の輝きを見てうれしそうに見つめている。朱里も優しく由依の頭をなぜてあげながら、まるで彼女の母親の様に微笑んでいた。
 しばらく、その温かい光景を見つめてから、おもむろに龍助は朱里に声をかけた。
 
「おはよう!」
「あ、龍助君おはようございます!」
 龍助に気付き、朱里が二階の部屋の窓から眺めている彼の方へ笑顔で応える。由依とリラも続く。
「おはよう!りゅうすけ。おねぼうさんだね。」
「そうだぞ、おいらもさっき起きたんで、ビリは免れたぜ。」
 みんなが笑う。
「龍助君のママもそろそろ朝御飯の支度を始める時間だから、私も手伝おう。」
「ゆいも、ゆいも!おてつだいする!」
「本当?じゃぁ、まずは一緒に手と顔を洗って、おいらとキッチンへGo!」
「きっちんへ、ごー!」
 朝御飯と聞いて、ますますご機嫌なリラに由依が付いていく。
「龍助君も、学校へ行く支度をしたら、キッチンでね。」
 朱里も龍助に手を振ってから、由依達の方へ向かった。
 空を見上げると、先ほどの『L.D.C.』に輝いたクリスタルの様に透き通った青さで眩しく、またそれが更に彼をすがすがしい気分にしてくれたのだった。
 
 

イラスト:hata_hataさん

 朝御飯を食べて朱里と龍助が家を出ると、遥がすまして待っていた。
「遅いぞ!」
「おはよう。」
「おはよう、遥ちゃん。リコちゃんも。」
 明るく微笑みながら、朱里が遥の肩に停まっているリコを撫ぜてやる。
「な、何、リコもいるのか!お、おっす。リコと遥。」
 リラがリコの名を耳にして、朱里の鞄から飛び出す。
「皆様、おはようございますですの。おはよう、リラ。」
 リコがリラにもちょっとすましてにっこり挨拶した。
「お、おう。」
 リラが照れくさそうに、朱里の鞄の中から顔を半分だけ出している。リコも龍助達にちょこんと可愛く頭を下げて、遥のかばんの中へ入った。
「さぁ、学校へ行こう!」
 
 
 通学路の途中で、龍助の幼馴染である親友の佐伯光と合流した。
「よっ、おはよう!」
「光君、おはよう。」
 龍助達と挨拶を交わして、再び歩き出す。
「そーいえば、あの小さい女の子は?由依ちゃんだっけ?」
 光には、朱里と遥達が魔界から来た魔族という秘密を打ち明けている。朱里を奪還して魔界から戻る時に、龍助がディアブロ王へ特例として正式に許可をとったのだった。
「由依ちゃんも一緒に学校へ行くと駄々をこねていたんだけど、朱里が優しく諭したらお留守番して待っている、って。おいら、困っていたから、ほっとしたぞ。」
 リラが由依を諭しても聞き入れなかったのだが、朱里の言うことは聞くようだ。
「優しい龍助君のママが一緒だから安心だよね。」
 適応魔法の応用によって、魔界から来た朱里達は、以前から龍助の家族だったように記憶を少し摩り替えている。また、普通の人間には、魔界の住民の姿が見えないので、適応魔法をかけることで魔力を抑え、人間界で姿が見える様にし、その姿も魔界のデビルモードから人間界に適した服装へモードチェンジをしている。朱里は魔族では珍しく魔力を抑えることで髪の色が変わる。デビルモードでは魔力を開放している澄んだ水色の髪から、少し魔力を抑えた明るいピンク色の髪。人間界に適した適応魔法をかけて更に魔力を抑えたモードでは、明るく優しい茶系の髪色である。
 
「リコという仲間も増えて、またみんなで学校へ行けるようになって本当に良かった。本当に…。」
 龍助達が朱里を奪還しに魔界へ向かった時に、彼らの足手まといにならないように人間界へ一人残って待っていた光は、魔界から帰ってきた龍助達と再会した時のことを思い出して、こらえながらも少し涙目になる。
「泣くなよ、光。」
 龍助が彼の優しさを感じ、にこっとして、光を少しからかう。
「泣いてない!!からかうなよ。」
 慌てて光が否定するが、みんな彼の優しさを感じており、遥がさりげなくフォローする。
「佐伯君って、優しいから。」
「そうだね。私が色々と勝手な行動をとって迷惑をかけてしまって、光君にまで心配させてごめんね。本当に、またみんなと一緒に学校へ行けるようになってうれしい。ありがとう。」
 朱里が再びお礼を言い、遥も微笑む。光も少し照れくさそうに鼻の下をこするような仕草をしながらうなずく。
 
 
 学校へ着くと、朱里と遥はラクロス部の部室へ用事があるということで校舎の入り口で龍助達と別れた。
「ねぇ、光。ギターはまだ弾いている?」
 校舎へ歩きながら龍助は光へ尋ねる。
「あぁ。亡くなった兄貴の形見のギターをたまに弾いているけど…。なんで?」
「ううん?僕、魔界へ旅立つ前に思っていたことを始めようかと思って。」
「音楽か?」
「そうだよ。でも、まだ楽器を買ったままなんだ。これから、練習と勉強しなくちゃ。」
「そういえば、お前達が魔界へ行った後でも、実の奴はドラムを練習してたみたいだぜ。お前に影響されてドラムをやる、って言い出した時はどうなることかと思ったけど。愛用のドラムスティックをよく持ち歩いているぜ。あいつ、少しは上手くなっているのかな?」
「え、実君が?それは楽しみだね。」
 同級生のオカマキャラの伊集院実は、龍助達に楽器屋へ付いていったことをきっかけに、ドラムを練習を始めた。しかし、朱里達と関わりのあったクラスメート達にも、朱里奪還の際に魔界へ滞在している間、広域適応魔法で龍助,朱里,遥の存在の記憶を差し替えて消していたのだが、彼は龍助の存在を忘れていながらもドラムの練習だけは続けていたのだったのだ。
 

イラスト:hata_hataさん

「光も一緒にしない?音楽を。」
 肩に背負ったテニスラケットの入ったケースに目をやってから龍助に答える。
「俺は、テニス部があるからなぁ…。でも、たまにはお前達の様子を見に、顔を出してみたい気もする。考えておくよ。まぁ、軽音部には入れないけど、学園祭ぐらいだったらみんなでバンド組んでステージへ出ても良いかもな。勿論、お前のことだから朱里も誘うのか?」
「うん。麻宮さん以外にも誘いたい人がいるんだ。」
「誰だよ?」
 光が頭をかしげながら尋ねると龍助が答える。
「武司君。」
「小島武司?前にも言ったかもしれないけど、あの『歩く電脳』を誘うのは、厳しいかも。そりゃ、この間は、珍しく楽器屋へ付き添って初心者のお前にシンセとパソコンなどで音楽するD.T.M.の楽器選びなんかでアドバイスくれたけどさぁ。あいつ、いつもノートパソコンを片手に一人で勉強しているから、あんまり、みんなと一緒につるんで音楽をするってタイプじゃない気がするぞ。」
「大丈夫だよ。なんだかそんな気がするんだ。仲間は多い方が楽しい、って、アルも言っていたし。」
「アル?」
 にっこりと龍助が微笑んだ。
 
 予鈴が鳴り響く。龍助達の上に広がる空には青空が広がり、光り輝く太陽が眩しく煌いていた。しかし、その空の片隅が一瞬、揺らめいたことに誰も気が付かなかった。まるで、これから起きる世界の変動を予告する様に。
 
 
 Boy meets girl.
 少年は少女に出会い、その仲間と共に夢を描きながら心の絆を深めていくことになる。
 
 
to be continued...

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■Episode 002:

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♪:[my wings]

■Episode 007:

♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]

■Episode 008:

♪:[promise]

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■Episode 017:

♪:[ドキ×2]

■Episode 018:

♪:[let it go!!]

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♪:[N]

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♪:[tears in love]
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♪:[Touch to your heart!]
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♪:[Happy Happy Love]

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[interrupt feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

麻宮朱里(学生服姿)

イラスト:hata_hataさん