Episode 016
奪還…そして、「お帰り。」(続後編)

music:[your breath]


前回までの『L.D.C.』

 魔界から来た麻宮朱里を取り戻すために魔界へ突入した龍助は、朱里を奪還後に手助けしてくれたM.を助けるべく再び城へ潜入した。
 
 途中、アルを救出し、M.を救出。涼も龍助達を無事脱出させるために駆けつけたのだった。
 
 しかし、脱出のために兵士達との戦いになり、『L.D.C.』の研究結果から開発された道具によって結界に閉じ込められる。
 
 そして、龍助達はディアブロ王の勅命で脱出することを断念したのだった...。

 龍助達は、王宮の王の間へ連れて行かれた。
 王の間には魔法の御簾の様な物がしかれており、その向こうは見えない様になっていた。龍助,朱里,遥が前列に並び、アル,涼,M.が後ろに並ぶ。由依は朱里の前で彼女に甘えてくっついている。J.が兵士を統率して厳重な警備体制で龍助達を囲んでいた。彼らは皆、魔法の拘束具を付けられている。

イラスト:hata_hataさん

 シーズ博士が遥の父であるディオール家の頭首を連れてくる。
「パパ!!」
「動くな!!」
 遥が駆け寄ろうとするが、兵士が制止する。シーズ博士が、M.の横へ並ぶ様に指示し、遥の父も龍助達と同じ様に並ぶ。
 
 
「ディアブロ様。まずは、彼らの拘束具を外しても宜しいでしょうか?この者達は掟に背いておりますが、セルとは違い、決して魔界に対して反乱を起そうとしたのでは無い様です。このシーズの説得に応じて大人しく投降してまいりました。念のために、彼らの武器は没収しております。リラとリコなる物は、この鳥籠に入れておりまきました。『L.D.C.』に関しても武器になる恐れがあるので同じくここに没収しております。」
 シーズ博士が御簾の方へ向かって話しかける。すると、ボコーダーの様な物で変調された声がする。
「うむ。良かろう。まぁ、ここで、この者達が暴れたとしても、すぐに全てよが治めてやる。シーズよ。心配せずとも良いぞ。」
「ははっ。ディアブロ様の許可が下りた。外してやれ。」
 兵士達が龍助達の拘束具を外してやる。リラとリコは魔法力で結界が張られている鳥籠の中に二匹寄り添っていた。
 
 
「さて、困ったことになったよのう。そもそも、ジュリア・クリスティーが人間界へ無許可で行った事が発端だったのう。現在の魔界の掟では、人間界と魔界と天界を自由に行き来出来ない様にすることで、無用な争いを防ぎ、バランスを保っておる。にも拘らず、そのバランスをジュリアは乱した。そうじゃな?」
「申し訳ございませんでした。おっしゃる通りです。ディアブロ様。」
 朱里が頭を下げる。
 
「また、ジュリアを魔界へ投降させた後、南龍助を記憶置換完了していないのが分かっていたにも拘らず、R.は放置したな。『レジェンド』として魔界の平和維持に努めるべき者が、結果的に魔界を混乱に陥れることになった。」
「そうです。」
 涼が答える。
 
「ディオール家の頭首並びに娘は、魔界でも有力な由緒ある大貴族でありながら、その権力を行使してジュリア奪還の手助けをしたな?これは、代々続いてきたディオール家の取り潰しだけでは済まされない様な大罪だぞ。」
「申し訳ございません。深くお詫び申し上げます。」
 遥の父と遥が謝罪する。
 
「アル・レイン。お前は元『レジェンド』にも拘らず、龍助の手助けをして、魔界の兵士達と戦闘を繰り返した。まぁ、負傷者は出たものの、致命傷を負ったものが無かったのはお前らしい戦い方だが、許されることではない。」
「はぁ。まぁ、少々、お痛が過ぎました。すいませんでした。」
 アルが頭をかきながら謝る。シーズ博士が少し強い口調で注意する。
「もっと、ちゃんと反省せよ。王の御前で失礼だぞ、アル!」
「ははっ。大変申し訳ございませんでした。」
 深く頭を下げてお辞儀をする。
 
「それから、M.よ。お前も『レジェンド』の身で、南龍助と戦ったにも拘らず、今度はこの者たちの手引きをするとは。」
「はい。『レジェンド』失格の行為です。ミーに思うところがあったとはいえ、申し訳ありません。」
 M.もディアブロ王のいる御簾へ向かって謝罪をする。
 
 

イラスト:hata_hataさん

「そして、南龍助。お前は、人間界で普通に暮らしておれば良かったものを、ジュリアの存在を知ってしまい、ある意味、被害者でもあるが、人間界でもR.に刃向かい記憶置換を拒否した上に、魔界まで来て、数々の者を巻き込んで、魔界を混乱させた。反逆と言われてもしょうがない事だぞ。それに、元『レジェンド』も含めて、魔界の精鋭を三人も引き入れて先ほども多大な被害を与えた。」
「そうですね。確かにディアブロ様のおっしゃる通りです。」
 龍助が答える。
「しかし、僕達は決して戦いたかった訳ではないです。」
「これ、南龍助!ディアブロ様に失礼じゃぞ。」
 シーズが慌てて龍助に注意する。しかし、ディアブロ王が許可する。
「良い良い。お前が思うところを話してみろ。」
 
「許可、ありがとうございます。確かに、僕達は、今の魔界の掟に背き、麻宮さんを取り戻しに来ました。その際に、魔界への混乱を招いたことは否定しません。でも、麻宮、いや、ジュリア・クリスティーの夢を僕は共に叶えたいと心から思い、共に仲間と歩みたいと思いました。その彼女の夢でもあり、僕達の夢でもあるものを、誰も奪い去る権利は無いと考えます。例え、魔界で一番偉いディアブロ様でも。それは、魔界の民の幸せを押さえつけて奪い去ることでもあるから。それを、ディアブロ様が望んでいらっしゃるとも思えません。」
「むむ…。」
 龍助の意見にディアブロ王が少し重い口調になる。しかし、龍助は続ける。
「無許可で彼女が訪れた事は早まっていたかもしれませんが、おそらく、彼女には許可が下りないと感じたから、人間界へ飛び出したんだと思います。僕の様なちっぱけな人間には魔界の事情や掟は良く分かりませんが、『L.D.C.』に関わる事で何か問題があったかもしれませんし、異世界とのバランスを崩す様な何か恐れがあるのかもしれません。でも、恐れがあるかもしれないというだけで、確たる証拠が無い状態で、全て奪い去って良いものでしょうか?もし、可能性があるなら、希望があるなら、みんなで協力して仲間の夢や未来を叶える為に模索しても良いんじゃないでしょうか?」
「龍助君…。」
 朱里が横に立っている龍助の手を握る。龍助もその手を握り返す。
 
 ディアブロ王がゆっくりと考えた後、答える。
「それで、もし世界を崩壊に導いたらどうするんだ?それこそ、多くの民を苦しめることになるかもしれん。お前の考え方だけが世の中の考え方じゃないんだ。人それぞれなんだぞ。残念ながらお前が思っている様に皆が考えている訳じゃない。」
「そんな事は分かっています。だけど、それって、逆に言えば、僕の考え方だって沢山ある考え方の一つでしょう?」
「そうだ。」
「だったら、僕の考え方の様にやってみるのも一つじゃないですか?恐れて留まっているんじゃなくて、一歩踏み出して、もっと世界の希望の光を信じてみませんか?」
 龍助が一歩前に出て言う。しかし、兵士が制止する。
「うーん。判断が難しいのう。よも完璧じゃないから。何が正しくて、何が間違っているのか…。yes, noで答えが出るものばかりじゃない…。魔界を治める者として魔界の平和を守る責務もある。」
 
 
 しばらく沈黙が続く。そして、ゆっくりと話し出した。
「ふう~。文句や批判を言うだけなら楽なんだ。その状況をどうしたいか、どう出来るかが大切で、批判する前に代替案を考えることが必要じゃな?しかし、よには、今、的確な答えが出せぬ。ひょっとしたら、ずっと答えが見つからないのかもしれない…。」
「ディアブロ様…。」
 シーズ博士が心配そうに呟く。
 
「南龍助よ。お前の言う世界の希望の光というものを信じてみようかの?確かに、世界のバランスを保つのも大切じゃ。しかし、『L.D.C.』がそのバランスを崩す恐れがあるかもしれないが、逆に、世界のバランスをより良い方向へ導く為に役に立つかもしれん。何事も恐れて留まっておっては、真に正しき事を見失ってしまう。あの伝説の勇者の様に勇気を出して希望を信じてみるか。」
「ディアブロ様!」
 龍助達が微笑む。シーズ博士がディアブロ王の御簾の方へ駆け寄る。
「では、ディアブロ様は、あの伝説を?」
「うむ。まだ確信は何も無い。じゃが、この者達を信じてみようかと思った。信じる力、そう、アルも言っておったハートをな。」
 
 それを聞きながらアルがにっこりしながら、呟く。
「伝説の勇者のあの物語か…。そして、古文書に記されている世界の始まりと終わりをつかさどると云われている伝説の王か…。セルフィーヌ。分からない事ばかりだが…。」
 
 
「シーズよ。これを解除しろ。よは、直接、龍助達と話そう。」
 ディアブロが、魔法の御簾の様なものを外して、直接、龍助と対面したいと指示する。
「いけません。ディアブロ様。あなた様のお姿を皆に知られますと、御身に危険が増えます。何処に、ディアブロ様のお命を狙っておる者がいるかも分かりません。」
「うむ…。では、この者達だけを残して、兵士はこの王の間の外で待たせよ。心配なのであれば、そうじゃ。シーズと娘のJ.も残れば良い。それで、安心じゃろう。悪いが、もしお前達がかかってきても、よは負けぬ。それに、この部屋にはお前が設計した複雑な結界も張っておるじゃろう?それよりも、よは、ちゃんと南龍助とジュリア・クリスティー、そしてその仲間達をこの目で再び見たいのじゃ。」
「はっ!わ、分かりました。ディアブロ様の命じゃ、兵士のそなた達は、部屋の前にて待機せよ。リラとリコは、鳥籠から出してやれ。」
 すぐに、兵士達が王の間を出る。リラとリコが小さい翼でパタパタと飛んでくる。遥の肩にリコが停まり、龍助の肩にリラが停まった。
 
 
「良いぞ。入れ。」
「はっ。失礼の無い様にな。」
 龍助達がシーズ博士の案内で魔法の御簾の中へ入った。
「頭を上げて良いぞ。お前達の顔が見えんじゃろう。」
 恐る恐る龍助達が、顔を上げる。

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「え、あ、あなたは!!!!」
 龍助と朱里と遥が叫んだ。そこにいたのは、龍助が王宮へ潜入した時に朱里の部屋が見えるテラスへ導いてくれた小さな女の子だったからだ。
「驚いた?お兄ちゃん達?まさか、魔界のディアブロ王がこんな小さな女の子とは思わなかったであろう。我が名はシャロン・ディアブロ(Sharon Diablo)じゃ。世の中、見た目で判断しちゃいけないぞ。ふふふ。」
 ディアブロ王はいたずら子っぽく、うれしそうに話す。声は魔法効果の道具を解除したのか、先ほどまでの変調された声では無く、可愛い女の子の声であった。
 
「驚きました。シャロンちゃんが、ディアブロ様だったとは。」
「あたしも、びっくりしました。あの時にお会いしていたとは…。」
 龍助と遥がびっくりしながら答える。アル,M.,涼も沈黙している。そして、朱里も笑顔で答える。
「私も、時々、捕らわれていた部屋の窓から、お姿を見かけた事があったのですが、まさかディアブロ様だったとは。」
 よほど身分の高い側近で無いと、直接ディアブロ王と面会出来る機会が無いため、ディアブロ王はその姿を知られておらず、ディアブロ王の存在は謎とされていた。これも、ディアブロ王を氾濫分子から守るために採られた策であった。
 
 

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「リラとリコはよの正体を知っておったのじゃぞ。だって、よがその方達の動きを知るために遣わした者だったからな。リラは、途中で、任務を続行出来ずに魔界追放処分だったのう。」
「申し訳ありません。おいら…。朱里と龍助達を信じたくなって。朱里と龍助とみんなで一緒にいたくて。」
 リラがシャロンの前でペコリと頭を下げて謝る。まだ魔界追放処分の身でありながら、龍助達と朱里を奪還すべく魔界へ乗り込んで来ていたので、その処分を考えて震えていた。それに、龍助達には魔界へ来る前に知られる結果となったが、朱里に彼女の監視任務をしていたことを隠していた事にも苦しんでいた。
「リラだけではありません。リコも同じでありますわ。ディアブロ様、どうか、リラをお許しくださいませ。」
「リコ…。」
 リコがリラを許すようにディアブロ王にお願いする。
「もう良い。龍助達をテラスへ連れ出した時にお前達を見て黙っておったじゃろう。リラの事は怒っていないから。」
 ディアブロ王がそう言うと、リコがリラを見て優しく声をかける。
「良かったですわね。リラ。」
 朱里もその様子を見守りながら話しかけた。
「良かったね。私は気にしていないから。だって、私にとってリラは大切なお友達だもんね。」
「ディアブロ様、ありがとうございました。それから、リコもみんなもありがとう。」
 がくがく震えているリラをリコが優しくなぜてあげる。朱里も見守る。
 シーズ博士とJ.は冷静に待機している。
 
 
「ジュリア。お前と南龍助とは育った世界も違えば、種族も違う。それでも、人間になりたいという叶わぬかもしれぬ夢を追いかけて、共に彼や仲間と歩みたいのか?それに、宝具『L.D.C.』に関しても、まだ解明されていないことが多く、何が起こるか分からんぞ。」
 朱里にディアブロ王が尋ねる。朱里がしゃがんで、ディアブロ王の視線に合わせて、応えた。
「はい。もし許されるなら、私は龍助君と共に夢を追いかけたいです。勿論、住む世界や種族が違ったり、属性が違ったりもしますが、共に今を生きている者として、仲間と共に支えあって喜びを分かち合い、時には悲しみをみんなで笑顔に変えながら、お互いの夢を応援していきたいです。」
 龍助達もうなずく。そして、朱里が視線をシーズ博士の手の中にある『L.D.C.』に目をやる。
「それから、おっしゃる通り宝具『L.D.C.』には、まだ分からない事ばかりです。でも、魔界へ来て失意の中にいた私に勇気をくれました。きっと、『L.D.C.』は、世界のバランスを揺るがす物ではなく、世界のバランスを保つ力にもなるのではないかと思いました。『L.D.C.』をどう扱うかで、良き物にも悪しき物にもなりえる可能性があるのではないかと。」
 
 横にいた龍助が朱里の横に膝を付いてディアブロ王へ言う。
「僕達は、決して『L.D.C.』を悪しき物にしたくありません。今を生きる者達にとって、幸せになるようにしたいです。『L.D.C.』に集めるクリスタルの歌が“Espoir”と呼ばれるのは、きっと歌に込められた希望の光なんです。希望の光を集める過程で色々と感じ、共感し合い、絆を深めて、分かち合い、分かり合えれば、世界に少しずつ笑顔が増えるんじゃないかと。」
 シーズ博士が『L.D.C.』を見つめながら言う。
「そうかもしれんな。共に希望の光を集めて行く事で、結果的にお前達の様な他の種族との共存を可能にし、支えあう事で争いも減るのかもしれないな。勿論、互いの努力は必要じゃが。」
 
 ディアブロ王がシーズ博士の話にうなずきながら『L.D.C.』を手に取る。
「シーズの話では、古文書によると、伝説の宝具の一つで、世界にはまだ『L.D.C.』は他にもあるようじゃ。」
「他にも?」
 龍助達が驚く。
「うむ。まだ解析中で、一部は機密事項じゃが、この世にはまだ分からないことが沢山あるようじゃ。この『L.D.C.』はジュリアの物じゃ。そちに返そう。」
「ありがとうございます。ディアブロ様。」
 朱里がディアブロ王から『L.D.C.』を受け取る。
 
 
「さて、龍助よ。本当にお前の言う通りじゃ。よは、この歳で先代の王から魔界を任され、一生懸命、魔界の民の幸せを祈って勤めてきたつもりだが、いつしか、平和を守る事に目が行き過ぎて、民の幸せを考えているつもりになっておった。先ほど、お前に言われて、気が付いたのじゃ。南龍助、お前も、すばらしい仲間を持ったな。そして、ジュリア、いや、麻宮朱里。お前の夢をよも応援しよう。今回の件は世の落ち度でもある。『L.D.C.』の研究も兼ねて、人間界への滞在も許そう。」
「ディアブロ様。ありがとうございます。」
 朱里と龍助が礼を言う。
 
 
「それから、先ほど話した様にディオール家は本来なら取り潰しのところだが…。今回、掟を考慮しながらも魔界の事を考え動いてくれた事に感謝する。長いものには巻かれろという様な、自分の事ばかり考える者が多い中、信頼に値すると感じた。大臣級の職を与えるので、今後はシーズと共に更に魔界のために尽くしてくれ。」
「ありがたきお言葉。謹んでお受けいたします。」
「良かったね?遥ちゃん。」
「朱里…。ありがとう。」
 朱里が声をかけると遥が耐えられずに泣き出した。自分の行いで大切な父や母、そしてディオール家を信じて仕えてくれている者達に迷惑をかけてしまっていた事で、責任感の強かった遥はずっと苦しんでいたのだった。
 
「それから、アル,R.,M.。御主達は後で少し話がある。良いな?」
「はっ!!!」
 三人が敬礼する。
「まぁ、そんな感じじゃ。そうじゃ。先ほどここへ来る時にシーズからの報告にあったのじゃが、由依という女の子が不思議な卵から生まれたようじゃな?ほう、その方か?人間名は白鳥由依と朱里が名付けたようだから、魔界名をよが授けよう。そうじゃなぁ…。卵にμと記されていたようだから、ユイラ ミュー(Yuira μ)が良い。どうやら、朱里に懐いているみたいじゃな。人間界へ連れて行くが良い。シーズに調べさせることがあるかもしれんが、指示に従ってくれ。大丈夫。悪いようにはせん。まだ解明されていない不思議な事も多いからのう。」

イラスト:hata_hataさん

「ゆい、ふしぎ?」
 由依が朱里の前で大人しくしている。
「そうじゃ、由依よ。シャロンと友達になってくれるか?」
「うん。ゆい、しゃろんすき。」
「そうか。ありがとう。よは、この歳で王になったので、友達がなかなかいなくてのう。そうじゃ。もし良かったら、龍助,朱里,遥、そなた達も友達になってくれないか?」
「ええ。勿論。」
 龍助がうなずき、朱里も遥も笑顔でうなずく。
「友達の時は、シャロンで。」
「分かりました。シャロンちゃん。」
 龍助が答える。うれしそうにディアブロ王が微笑む。その姿は、魔界の王ではなく、普通の女の子そのものだった。
 
 
 こうして、ディアブロ王のおかげで、龍助,朱里,遥,由依,リラ,リコは人間界への滞在を許される事になったのだった。
 
 また、アルは、ディアブロ王やシーズ博士の命により、トレジャーハンターを続けながら、必要に応じて魔界の特殊任務を受ける事になった。
 
 M.も『レジェンド』として、王宮を守る様に命じられたが、「ミーは転属『レジェンド』が向いているから、遺跡やオアシスや色々と転属しながら魔界の平和を守るわ。」と願い出て、今まで通りの任務を行う事になった。
 
 龍助達やアル,M.,J.を王の間から退出させた後、ディアブロ王とシーズ博士が涼に話しをした。
「聞いておきたいことがある。お前にとって忠誠とはなんだ?」
「主が間違ったことをしていれば、自分の身を持って正しいと信じる道をお伝えする事です。」
 涼が膝を突いて答える。
「例え、それが掟に背いていたとしても、お前が消滅させられたとしてもか?」
「はい。それが魔界に住む民の事を一番に考える王に仕える事と考えます。先代から続く魔界を治める王としてのすべき道を守ることが俺のすべき事と思います。」
「ははは。気に入ったぞ。」
 ディアブロ王が大笑いをする。シーズ博士が涼の処分を心配そうに伺う。
「生きて、その目でこの世の行く末を見守れ…。」
 
 そして、シーズ博士によって、朱里が涼の妹と明かされたのであった。彼の記憶の抜け落ちている欠片が少しだけまた蘇った。
 シーズ博士は、涼が先代の王『D.(ディー)』の息子で、朱里が娘であると話した。遥昔、ある理由で先代の王『D.』とその妻が魔界追放処分になった。その理由は機密事項で、まだ話せないという事だった。その後、シーズ博士が涼を引き取り、まだ赤子だった朱里は王宮に仕えていた老婆に実の孫として育てるように命じ、預けられたのであった。
 幼かった涼には魔界追放処分の先代の王の息子としての危険を恐れて、シーズ博士が記憶置換を施し、彼はそれまでの記憶を失っていたのだった。
 それを聞いて、涼は好意を持っていた朱里が自分の妹だったという事に少し動揺していたが、朱里には自分が兄という事を知らせない様に願い、ディアブロ王とシーズ博士は了承した。
 更に、ディアブロ王に願い出て、しばらく魔界追放処分になった。龍助の記憶置換を完了しなかった事を隠して掟を破った事に対しての、彼なりの責任の取り方であったのであろう。
 
 『レジェンド』R.である涼が不在になったために、後任としてJ.が彼の代わりのポジションに昇進して就く事になったのだった。
 
 シーズ博士は、セルの企てに気が付かずにいた責任を取って、研究所最高責任者を降りる事にしたのだが、ディアブロ王や大臣達が代わりに役目を果たせる者がいないという事で継続させる事にした。代わりに、ディアブロ王が組織したディオール家の頭首を中心にした監査委員会がチェックすることになった。
 
 
 龍助,朱里,遥,由依,リラ,リコは、ディクセンオールの遥のお屋敷に泊まった。龍助達は遥の家族と久々の楽しい一時を過ごす。
 
 

イラスト:hata_hataさん

 そして、翌日の朝になった。ディクセンオールの遥の家で、龍助達が遥の家で飼われる事になったキメラのメイラス,メイヨウに再び別れを告げた後、遥の家の庭に集まった。
「遥ちゃんは、もっとゆっくりしていけば良かったのに。」
「朱里様のおっしゃる通りですわ。お父上の大臣就任の祝賀パーティーが終わってからでも。」
 リコも朱里に賛同する。それを聞いて、遥がぷいっとふくれっ面になって言う。
「朱里も、リコも、うるさいわね!あたしは、まだ約束を果たしてないの。」
「うん、そうだね。」
 龍助が微笑む。リラもうなずく。
「光が待っているもんな。おいら達を。」
「そうよ、あたし達が朱里を取り戻しに魔界へ行ったままだから、きっと佐伯君は心配しているわよ。」
 遥の耳には、光に渡していたピアスの片方が小さく揺れる。
「それに、ちゃんと龍助を人間界へ送り届けるのが、ディオール家の私の役目なの!ディアブロ様からも命を受けているんだから。」
「今は、シャロンで良いよ。遥ちゃん。」
 ディアブロ王もディクセンオールへお忍びで龍助達を見送りに来ていたのだった。護衛にはJ.が付き添う。
 
「南龍助…。」
「何?ジャンヌさん?」
「何でもない…。いや、悪かったな。」
 龍助がにっこりしながら首を横に振る。それを見てJ.が微笑む。その髪には、彼から貰った小さな花の飾りが付いた髪飾りがあった。
「M.は、ディクセンオールの西にある町の警備を担当している。それから、アルは特務を命じたから今日は来れないみたいだ。元気でがんばるように、とのことだ。」
 シャロンが龍助達に言う。
「アルは、来れないのか…。」
 少し残念そうに遥がするが、はっと我に返る。周りの視線を気にして、照れくさそうに、遥が言う。
「あ、あんな奴、一生、遺跡探索していれば良いのよ。特務で良かったわ。」
「アルが言っていた通り、おいら達、離れていても仲間だもんな?」
「まぁ、そういうことにしておいてあげるわよ。」
 
「涼さんは…。」
 朱里が少し心配そうに言う。
「あいつも、関心ない振りをしながらも心では来たかっただろうな。しばらく魔界追放処分を自分から申し出たから、天界か人間界に行ったのであろう。もし、人間界で出会う事があれば仲良くしてやってくれ。あいつも寂しがりやだからな。よと同じで、孤独な奴さ。まぁ、よにはお前達の様な良き友人や、アル達の様な信頼できる部下が出来たけど。あいつは、また独りぼっちだ。あいつの気が済んだらいつでも帰って来いと、伝えてくれ。」
 ディアブロ王が朱里と握手しながら伝えた。朱里が優しくうなずく。
「うん分かったよ。シャロンちゃん。」
 朱里の横で彼女のスカートを掴んでくっついている由依に目をやってディアブロ王が由依の頭をなでながら話しかける。
「それでは、由依、またな。また遊びに来いよ。」
「しゃろんちゃん、またね。」
 由依がディアブロ王に可愛く手を振る。
 
 遥も、両親とハグをした。
「行ってくるね。パパ。ママ。」
 その様子をうらやましそうに由依が見つめる。
「ぱぱ、まま…。じゅりはゆいのままみたい。りゅうすけはぱぱ?」
「ははは、そんなものかもしれないな。」
 ディアブロ王が笑いながら言うと、朱里と龍助が少し赤くなってもじもじとする。
 
「それでは、帰ろう!」
 リラが元気良く言う。パタパタと小さい翼で飛んで龍助の肩に停まった。遥がゲートを開く。
 ディアブロ王,J.,ディオール家の者達が見送る中、遥が手を振ってからリコを肩に乗せて『世界の穴』の『perte mondiale』に飛び込んだ。
 続いて、朱里と由依が手を繋いで飛び込む。
 そして、最後に龍助が深々と頭を下げて、飛び込んだ。ゲートが閉まる時に中から声が聞こえる。
「あ~れ~、やっぱり、おいら駄目だ!!!魔界に残れば良かったかも~!!!」
 
 
 ゲートが閉じてしばらくして、研究所にてモニタ画面で様子を見ていたシーズ博士が口を開く。
「祈りを捧げよう。そして、あの者達に伝説の勇者のご加護がありますように。」
 ディアブロ王も空を見上げながら言う。
「D.様、これで良かったのでしょうか?伝説は繰り返されるのかもしれません。私は、希望の光である彼らをもう少し信じてみようと思います。」
 空には満月が明るく魔界を照らしていた。
 
 
 夕方、部活の練習が終わって、光が第一校舎の屋上へやって来た。辺りは少し暗くなってきている。龍助達が魔界へ旅立って以来、光は毎日の様にここへ訪れていた。
 今朝は、雲がかかっていたが、今は雲ひとつ無かった。空に一番星が輝きだした。
「龍助達、無事でいろよ。朱里を必ず取り戻して、帰ってきてくれ。」
 そう呟いて、光が屋上から出ようとした時、光の耳に付けていた片方だけのピアスが光る。そよ風が吹き抜け、光が振り返る。
 

イラスト:hata_hataさん

 突然、何度か光が点滅して、ゲートが開く。
 遥が華麗に着地する。続いて朱里が由依と一緒に着地。そして、龍助がゲートから飛び出してきて、少しバランスを崩し、膝を突く。その反動でリラが転げ落ちた。
「おい、龍助!ちゃんと着地しろよ!」
「ごめんごめん。リラ、大丈夫?」
 リラを拾い上げて、謝りながら肩に乗せる。遥がリコをなぜてやりながら言う。
「あんた、少しは成長したかと思ったけど、まだまだね。」
「しょうがないじゃないの、龍助君はまだ慣れていないんだから。」
「りゅうすけ、がんばれ。」
「リコも龍助様を応援しますわ。ぽっ。」
 朱里と由依とリコに励まされて、相変わらず頼りない自分に龍助が苦笑いをする。
 

イラスト:hata_hataさん

「龍助!!!一色!!!朱里!!!リラ!!!」
 光が叫ぶ。龍助達が声のした屋上の出口の方を見た。そこには、涙をこらえて、ぎゅっと拳を握った光が立っていた。
「光!!!」
 龍助とリラが笑顔で応える。
「光君!!!」
 朱里もにっこり微笑む。由依が少し人見知り気味に朱里の後ろに隠れながら顔だけ出す。
 そして、遥がリコを肩に乗せて、指きりの時の仕草をしながら小指を見せる。
「約束守ったわよ!信じて待っていてくれてありがとう。」
 
 龍助達が光のところへ駆け寄る。
「お帰り。」
 泣きそうになりながら、光が一言言う。
「ただいま。」
 龍助達が光をみんなで抱きしめながら感謝の気持ちと再会の喜びを込めて口々に言う。
 そして、光が龍助達を見渡した後で、優しい表情になってうれしそうにゆっくりと口を開く。
「本当にお帰り。」
 
 
 Boy meets girl.
 少年は少女に出会って、仲間と共に絆を深め、再び未来に向けて夢を描くことになった。
 
 
to be continued...
第二部 完
 
第三部(人間編)もお楽しみ下さいませ♪
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■Episode 017:

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■Episode 018:

♪:[let it go!!]

■Episode 019:

♪:[N]

■Episode 020:

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♪:[destiny]

■Episode 021:

♪:[Touch to your heart!]
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■Episode 022:

♪:[Happy Happy Love]

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音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

[above feat.神威がくぽ] shin


[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin 


[initiative feat.神威がくぽ] shin 


[Breaker feat.神威がくぽ] shin


[Come on! feat.神威がくぽ] shin


[departure feat.神威がくぽ] shin


[Lock on feat.神威がくぽ] shin


[monologue feat.神威がくぽ] shin


[reduction feat.神威がくぽ] shin


[voice feat.神威がくぽ] shin


音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

CIRCLE[shin entertainment]

一色遥(普段着姿)

イラスト:hata_hataさん