Episode 025
守りたい気持ち…そして決意(前編)
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前回までの『L.D.C.』
一方、龍助と朱里は、アルの事件の悲しみだけでなく、由依を天界へ返さなければならないかもしれないという不安もあった。由依との思い出や絆を深めるのと、遥や朱里達を元気にするきっかけにもなればと、龍助は由依の誕生会を企画したのだった。
そして、誕生会の当日、準備が整い由依の待っているはずの近くの公園へ向かへに行くが由依の姿は無かった...。
「おかしいなぁ。誰もいないよ?」
「そんなことないわ。由依ちゃんは滑り台かブランコか砂場で遊んでいるのかも。」
滑り台の影やブランコを見て回って、物陰に由依が隠れていないか探すが、由依の痕跡も感じられなかった。
「入れ違いで帰ったんじゃないかな?」
「だって、迎えに行くって約束したじゃない!」
由依が自分達に黙って天界へ行ってしまったのではないかと不安がよぎり、朱里が珍しく龍助に強い口調で言う。それを見た龍助が少しびっくりして、なだめる。
「お、落ち着いてよ。麻宮さん。」
「ご、ごめんなさい。つい、不安になっちゃって…。」
思わず動揺して龍助に強く当たってしまった事を反省して朱里が謝った。
「僕も由依ちゃんの誕生会の準備で少し気が抜けていたんだよ。確かに、由依ちゃんを一人で散歩させるのは危険だと判断しないといけなかったのに。」
「ううん。龍助君だけのせいじゃないの。私もごめんなさい。アルさんの事件以来、みんな疲れているんだわ…。」
公園に向かうまでの元気だった朱里は、肩を落として暗い表情でうつむいている。それを心配しながら、龍助が携帯電話をポケットから取り出す。
「ひょっとしたら、入れ違いで由依ちゃんがもう帰っているかもしれないよ。僕達の迎えを待っていられなくて。ちょっと、家に電話をかけて確認してみよう?」
自宅に電話をかけて、由依が帰っているか母に尋ねる。しかし、まだ帰っていないという事だった。龍助の母が電話を受けている話を横で聞いていた遥が、何かを感じ、リラとリコを連れて二階にある朱里の部屋へ向かってみる。
イラスト:hata_hataさん
「これは、先日、由依ちゃんがお絵描きしていた絵ですわ。遥様や皆様が手を繋いで輪になっている。」
リコが小さな翼で飛びながら、画用紙の絵を見て言った。そして、遥が画用紙を手に取って中央にクレヨンで描かれている文字を読む。
「あら、輪の中には『ありがとう』って書いてあるけど。これは由依ちゃんの字ね。」
『ありがとう』という言葉を耳にして、リラがドキッとする。リラにとって、由依のこの言葉が感謝だけでなく由依の『さようなら』というメッセージに感じたからだった。
「お、おい!遥。なんで、『ありがとう』なんだ!これから誕生会をしてもらうのは由依ちゃんなのに。」
遥の前に飛んで行って、突っかかる様にリラが言う。その様子にリコが何かおかしいと感じる。
「そんな事言われたって知らないわよ。!?…。あら?あんた何かあたし達に黙っている事があるわね?白状しなさい!!」
遥もリラと口喧嘩になりそうだったが、リラのいつもと違う様子に気が付いた。そして、リラを両手で捕まえ顔を近づけて言う。
「い…いや…。そ、それは…。」
「リラ?仲間でしょう?私も遥様も。違う?教えて。お願い。」
渋るリラにリコが優しく諭す。
「…うん。遥達がアルの事件で元気無かったから、朱里と龍助は心配かけまいとして黙っていたんだ。決して、仲間じゃないから黙っていた訳じゃないんだぞ。」
「そんな前置きはいいから、早く教えなさいよ!!」
遥がリラに迫ると、リラが渋々、ミストスが花火大会の日に朱里と龍助に話した事を説明した。卵から生まれた由依が天界の者だという事や、由依に『覚醒』が起き始めている事、そして、由依を家族のいる天界へ返すべきだという事を聞いて、遥とリコが驚く。
「なんで、それを早く言わないのよ!!このちびドラゴン!!」
「ご、ごめん…。遥…。おいらどうしよう。由依ちゃんが天界へ帰っちゃったら…。」
リラが涙目になって言うと、リコが朱里達の魔力を感じて家に帰ってきた事を察知する。
「朱里様と龍助様がお帰りですから、まずは、この絵を見せてお話を聞いてみましょう。そして、すぐにでも由依ちゃんを探さなくては…。」
「そ、そうね。リラが教えてくれたことが本当だったら、早く対策を打たないと天界へ旅立ってしまったら大変よ。」
遥達が帰宅した龍助と朱里を捕まえて、朱里の部屋で詳しい事情を聞く。
「ゆ…い…ちゃん…。」
由依が置いて行った絵を胸に抱いたまま朱里は立ち尽くしていた。
「あたしも色々心配かけちゃっていたから、あんた達に言える立場でないのは十分分かっているつもりだけど、なんで、あんた達は由依ちゃんを一人にしたの!ちゃんと天界の事を聞いて相談してあげなかったの?」
龍助に掴みかかって、遥が尋ねる。
「怖かったんだ。僕も麻宮さんも。天界の事を由依ちゃんに聞いたら、今ままでの幸せな関係が崩れてしまいそうで。」
「だ、だって、あんた達と違って、あの子は幼いのにもかかわらず、一人ぼっちで悩みを胸の中に抱えて苦しんでいたのよ!!あんた達は二人と一匹で悩んでいたみたいだけどあの子は一人ぼっちで…きっと、きっとすごく心細かったんだよ。あんた達が親の代わりなんだから、一番の家族なんだから守ってあげないでどうするのよ!!!」
遥がむきになって大きな声で叫ぶと、龍助と朱里がうつむく。
「あんまり、龍助達だけを責めるなよ。一色。」
部屋のドアの外で話をこっそり聞いていた光がドアを開けて入ってくる。すると、遥が龍助の胸元を掴んでいた手を放す。
「唯の人間の俺には、まだよく分からないけど、何か異世界が絡んできているんだろう?さっき、お前達の話の中で『天界』って言ってたから。悪いがこっそり聞かせてもらっちゃった。ごめんな。でも、俺もお前達の仲間のつもりだから教えて欲しいんだ。」
光が来て間を置いた事で、少し遥は冷静になって頭を整理する。
「だったら、由依ちゃんの行きそうな心当たりを探しましょう。」
イラスト:hata_hataさん
リラが尋ねると、すぐに遥が答える。
「主役がいないんじゃ、残念だけどできないでしょう?あたしのママやオーランドさんにお願いして、実君達の中の由依ちゃんの誕生会開催の記憶を、魔法で差し替えてもらいましょう。」
由依がいなくなった事実を受け止められず、ぼーっとしたままの朱里に遥が言う。
「M.さんにも説明しなくちゃ。朱里、聞いているの!しっかりして。あんたは、あの子にとってのママでしょう!!例え血が繋がっていなくても朱里は誰が見ても由依ちゃんの良いママだったわ。」
「ママ…。」
「そうだぜ。だったら、由依ちゃんのパパ役のお前もしっかりしろよ。ママ役だけに背負わせないで。」
光が朱里と龍助の肩をポンポンと軽く叩く。すると龍助が応える。
「あ、あぁ。」
リコが気を利かせて、M.を呼びに行ってくれた。
「話はミーもリコに今、聞いたわ。由依ちゃんがいなくなったって?」
「最近、天界にも動きがあったみたいで、J.が天界の天使を捕えようとしたんだけど、逃げられちゃったみたいなの。確か…。ミ、ミス…ミスドル?いや、ちがった。」
「ミストスさん?」
龍助がそう言うと、M.が手の平を拳で叩きながら驚く。
「それそれ!ミストス.C。何で知ってるの?まぁ、ミスドスは今のところ犯罪者では無いみたいなんだけど、人間界で動きを何度か確認したから行方を追っている最中よ。J.を倒して逃げてるから、公務執行妨害みたいなので強制的に捕まえて事情を聞きたいところなんだけどね…。」
デバイスをいじって魔界にある情報を引き出しながらつぶやいたM.に朱里が言う。
「私達もミストスさんに会いたいの。『覚醒』の始まっている由依ちゃんが今、頼れる人はミストスさんだと思うの。」
「それと、天界の天使族のミストスさんが仕えている天界の女神族のクラシスさんだね。」
龍助も朱里に続く。しかし、M.が苦い顔をして事情を説明する。
「でもね。その二名は居場所を転々としているみたいで、残念ながら行方は分からないのよ。何やら、天界の方でも彼らに関して何やら事情があるみたいで、彼らの情報があまり分からないの。謎に包まれているのよ。」
朱里が暗い表情になる。光が朱里を心配しながら、遥とM.に言う。
「とにかく、由依ちゃんが行きそうなところをみんなで探そうよ。実達には悪いけど、記憶置換という奴で遥の言う様に由依ちゃんの誕生会の事は今度に変更してもらって、ついでに迷子になったという事にして一緒に探させよう。M.さんは由依ちゃんの事をひとまず俺達に任せてセルの奴を追ってくれ。」
M.がデバイスをしまって、うなずく。
「分かったわ。無茶だけはしないでよ。天使族で魔力は小さいにもかかわらず『レジェンド』のJ.ですらコテンパンにやられたんだから、ミスドラは侮れないわ。」
「分かった。ミストスさんっていう天使族には注意するよ。」
M.の名前の間違いを諦めて光がそう言うと、遥も朱里の肩を抱いて励ましながらうなずいた。
「でも…ミストスさんは、そんなに悪い人じゃない気がするんだ。とても丁寧で紳士な人だったから。」
龍助がミストスと出会った時の事を思い出しながら言うと、光が龍助の肩に置いた手に力を少し込めて言う。
「だったら、話して平和的に解決方法が見出せるかもしれないじゃないか?その方が良いよ。何よりも、由依ちゃんにとって幸せな方法を見つける事が、俺達みんなの希望だろう?」
そして、龍助達は由依の捜索を始める事にしたのだった。
イラスト:hata_hataさん
最近、由依自身も何か自分の体に異変が起きている事に気づいてはいた。少しずつ楽しかった朱里達との過去の記憶が薄れている。それに、卵から孵化して一度も行った事の無い筈の天界への帰省本能的な物も何故か感じるのだった。
ミストスから天界の話を聞いて以来、由依は揺れる気持ちで不安になるが、朱里達に相談するか迷っていると、偶然、由依の誕生会を企画している話を耳にしてしまった。アルがいなくなって傷ついた遥や光の事で朱里も龍助も一杯一杯な時に、自分の事で心配をかけまいと幼いながらぐっと我慢してきたのだった。
天界にいるかもしれないという家族に会いたいと由依は思う。更に、自分の為に誕生会を開いてくれるという朱里達との別れを考えると、とても苦しくなった。そして、決心をして誕生会を開く前の日に朱里と龍助に甘えて手を繋いで散歩に行ったのだった。
部屋を出る前に感謝の気持ちを込めて、「ありがとう」と添え書きをして絵を朱里の机に置いた。そして、公園へ遊びに行って来ると伝えて玄関を飛び出したのだった。
「忘れないよ。」
由依がそう言うと、ミストスと出会った道へ行ってみるがミストスの姿は無かった。そして、クラシスとミストスに初めて会った海の岬の場所へ行って見る事にしたのだった。
「ごめんね…。由依は幸せだったよ。」
龍助や朱里や遥やリラやリコとの思い出を走馬灯の様に思い出すが、所々薄れていて思い出せずに涙を流す。海岸線に沿って、浜辺を歩いて向こうに見える岬を目指す。そして、クラシスと出会った海の岬へ出た。
少し強い波音がして、風が由依の髪を揺らす。そして、由依は海に向かって呼びかけてみたのだった。
「みすとすさーん!!くらしすさーん!!ゆいをテンカイヘ、ツレテッテ。」
海の波しぶきを受けながら大声で呼びかけているうちに少しずつ由依はふわっとした気持ちになっていく。そして気持ちの高まりと共に何かオーラの様な物で包まれていっていた。髪も少し白くなっていき、胸の辺りに熱い者が込み上げてきたのだった。
ふと、人の気配を感じて、由依はクラシスが現れたのかと思い振り返る。しかし、そこにはミストスが立っていたのだった。
「お迎えに上がりました。由依様…。」
ミストスも由依の姿を見て、『覚醒』が以前よりも進んでいる事を感じた。朱里達の元へ置いておくには何が起こるか分からないので、やはり自分達が天界にて由依の面倒を見てあげるのが良いと判断した。
両膝をついて、不安げな由依を抱きしめる。
「分かりました。大丈夫ですよ。ミストスにお任せくださいませ。由依様を天界へお連れいたしましょうね。」
「ミストスさん…。ありがとう…。」
由依が涙を流しながら、ミストスに抱き付く。ずっと不安だった由依は藁にもすがる様に小さな手にぎゅっと力が入った。
「今は由依様にとって辛い別れの時かもしれませんが、未来に向かって参りましょう。時が流れれば胸の痛みは薄れます。きっと、伝説の様に希望の光があなたにも舞い降りるはずです。」
そう言うと、ミストスは由依を抱き上げて、右手でゲートを開いた。魔法陣が海に向かって現れ、海の波が少し弱まる。
「宜しいですか?色々とお疲れでしょうから、天界への移動中、由依様はどうぞ安心してお休みくださいませ。目覚めた時には新たな世界がお迎えしますよ。それでは、参ります。」
すると由依は泣き疲れて眠りにつく。瞼が閉じる前に人間界の海が映り、そして微かに朱里や龍助達の顔が浮かび上がる。
「ジュ…リ…。」
そして、由依が眠りについたのを確認して、ゆっくりとミストスは由依を抱いたまま魔法陣へと入っていき、その後魔法陣が閉じる。
辺りは、元の様に波しぶきが飛び、風が寂しく吹き抜けて行った。
シェリルが適応魔法の応用魔法で、龍助の両親,実,恵,武司の記憶を差し替えて、予定していた由依の誕生会を延期してから、みんなで由依を探していた。
家の北の方面を龍助と実,南方面を朱里と遥と恵,東方面の海の周辺を光と武司が捜索する。
龍助の両親が警察へ迷子の届を出した。遥の母のシェリルや執事のオーランドも地図を借りて公園を中心に捜索した。医師のエドワードはいつ由依が戻って来ても良い様に、遥の家で待機していた。
しかし、何処にも由依は見当たらなかった。
その日は、夜まで探し回ったのだが、一度相談をするために、再度、シェリルが魔法で由依の記憶を一時的に消す形で差し替えて、実,恵,武司,龍助の両親をそれぞれの家へ帰した。そして、龍助,朱里,遥,光,シェリル,オーランド,エドワード,リラ,リコは遥の家に集まる。
「朱里ちゃん元気出して。さぁ、お紅茶を飲んで少し気を休めなくちゃ。」
シェリルが真っ青になっている朱里を優しく抱きしめる。
「さぁ、どうぞ。皆様も。」
オーランドがダージリンティーが入ったカップを配る。
「まずは、我々が落ち着いて元気を出さないと、良いアイデアも出てこないから。皆さん、頂ましょう。」
エドワードが気を利かせて龍助と光に紅茶のカップを渡して飲む。龍助は、由依がいなくなった時が付いて捜索を開始した時からずっと飲み物を取っていなかった事に気が付いた。名前を呼んで探していたので、喉の疲れが少し和らいだのだった。
「これだけ探して、見つからないという事は、異世界へ行った可能性が一番高いです。」
イラスト:hata_hataさん
リコの話に、遥がうなずきながら龍助の町の地図をチェックする。
「由依ちゃん…。セルに捕まっちゃったとか?」
朱里が心配で一杯で言う。
「いや、アルの事件で魔界の目が人間界へ向けられている時に、続けて由依ちゃんをさらうには少しリスクが高すぎる気がするよ。君達の話を聞いて推測すると、やはり天界へ向かったというのが、一番可能性が高い気がする。」
エドワードが考えを話した。
「そうなると、残念ながらもう我々の力ではどうしようもない。ここにいる者は皆天界へ行った事もない者ばかりですし。まったくの未知の世界です。」
オーランドもエドワードの話を聞きながら、シェリルの後ろに控えて立つ。リコが遥の肩から飛び降りて膝の上で話す。
「それに、天界と魔界とは今でこそ異世界の壁で棲み分けをする事で争いが減りましたが、今も敵対関係は治まった訳ではありませんし。今まで、お互いが干渉しない事で平和を築いてきたので、魔界の者が自由に天界へ行く事も難しいですの。」
「天界か…。」
光が部屋の天井を見ながら途方に暮れてつぶやく。
落ち込む朱里に龍助が決心した様にこう言った。
「僕と麻宮さんで探しに行こう!」
「何言っているのよ?あんた、そもそも、天界に行ったかどうかも分からないのよ!!」
遥が驚いて龍助に言う。
「僕は由依ちゃんを探したいんだ。お別れの挨拶も誕生会も無しで、このままではいけないと思う。それに、もし由依ちゃんが人間界にいて家に帰ってきたら、僕の母や父が迎えてくれる。麻宮さんはどうしたいの?」
「わ、私は…。天界へは魔界の掟で移動できないから…。これ以上、また龍助君を危険に巻き込みたくないし…。」
力なく言う朱里の側に行って、龍助はこう言った。
「僕は人間なんだ。君もジュリア・クリスティーは魔界名かもしれないが、今、人間界では麻宮朱里だ。魔界の掟に縛られていないで麻宮さんの心に聞いてみてよ。僕達の大切な家族の白鳥由依を取り戻すのは本当に許されない事なのかい?もし、例え別れが運命であったとしてもせめて誕生会だけしてからでも良いじゃないか?そこまで天界の神様や魔界の王のシャロンちゃんは冷たいはずないよ。麻宮さんはどうしたいの?僕は独りでも天界へ探しに行きたい。」
すると、朱里が涙を流しながら言う。
「私も由依ちゃんと一緒にいたい…。」
「分かった。一緒に行こう。天界へ。」
龍助は朱里の手を握り締めた。彼の後押しで朱里も天界へ行く事を決心したのだった。シェリルが笑顔で二人を見つめながら言う。
「若いって、素敵ね。私達大人も何か朱里ちゃん達に力になれる事を探しましょう。エドワード先生、オーランド。」
「そうですね。天界について我々で調べてみましょう。」
オーランドとエドワードがうなずくと、遥が慌ててシェリルに言う。
「ちょ、ちょっと待ってよ、ママ!龍助が危険な天界へ行くのを見逃すの?朱里もせっかくディアブロ様から人間界への滞在のお許しが出たばかりなのに、また掟を破って天界へ行くなんて、天界どころか魔界の兵士に捕まっちゃうかもしれないでしょう?」
「ハルカリだって、朱里ちゃん奪還の時は掟に反して魔界の兵士に立ち向かって来たでしょう?あなたにとってかけがえのない大切な者を守るために。それに、母にとって子は更にかけがえのない者よ。私ももし、朱里ちゃんの立場で、由依ちゃんの代わりにハルカリが天界に行ったと考えると、やっぱり天界へ向かうわ。母親ってそういう者なのよ。大切なわが子のためには誰よりも強くなれるの。ハルカリにはまだ分からないかもしれないけどね。」
遥の頭を優しくなでながらシェリルがにっこりする。
「まぁ、みんな行った事が無いんだったら、天界が危険な場所とは限らないかもしれないですしね。龍助達が言うには、ミストスさんはとても紳士的な人だったみたいだし。」
光がシェリルに言う。
イラスト:hata_hataさん
朱里がシェリルに頭を下げると、元気をなくしてずっと沈んでいたリラが名乗り出る。
「ちょっと待った!おいらも行くぞ。由依ちゃんに言いたい事があるんだ!それに、龍助はおいらがいないと何もできないだろう?」
「そうだね。僕はリラがいないとre-writeできないから。」
龍助がリラを肩に載せる。遥がリラを見て、うずうずして言った。
「あ、あたしも行くわ。あんた達だけじゃ心配だもの。あたしにとっても由依ちゃんは大切な妹みたいな者なの。それに、あたしが辛い時にこの『星屑のかけら』を貸してもらった。これを由依ちゃんに返さなくっちゃいけないの。だから、あたしも一緒に探しに行くわ。」
「遥様、リコも参ります。」
それを聞いて、光が口を開いて自分も名乗り出ようとして、黙りこむ。その姿をリコだけが気が付いていたのだった。
「天界って、魔界と同じ様な場所なの?それとも、人間界の様な感じ?」
龍助が遥達に尋ねると、エドワードが説明する。
「先ほども言った様に、ここにいる者は誰も天界へ行った事が無いんだ。だから、魔界での一般的な天界についての情報だと思って聞いて欲しい。過去の情報で現在は違っているかもしれないし、何らかの理由で我々一般の魔界の民には情報操作されているかもしれない。だから、実際に行ってみたら違うかもしれない。」
エドワードの説明によると、天界には神族や天使族が住む。天界の1年が人間界の7年分位。いくつか神殿があり、その城下町は海に囲まれている。城下町には水路が張り巡らされて発達しているという。城下町の外の砂浜はとても美しく、人魚達が歌っているらしい。天界にはその奥に更に別世界があるとも言われているが、真相は分からない。
「え?おいら泳げないぞ…。」
話を聞いていたリラが、不安そうに言うと、遥がリラの鼻先を人差し指でつんと軽く押す。
「だったら、リラはお留守番ね、って言いたいところだけど、どうやら雲の様な素材で出来た船みたいな乗り物に乗って天界の神族は移動すると、魔法学校で習ったから多分大丈夫じゃない?でも、敵襲で乗り物が沈んだ時様に、息を止めて水に顔をつけれる様になる位は練習しなさい。本当に、由依ちゃんに会いたいんだったらね。偉大なドラゴンだったら出来るわよ。」
「そ、そうだな。遥の言う通りだ。おいら、偉大なドラゴンだから頑張るぞ。」
遥の励ましでリラが胸を張って言う。
「それよりも、いつ出発するの?準備も必要だけど、なるべく早く由依ちゃんに会わないと…。」
朱里がミストスの話を思い出して龍助達に尋ねると、龍助も腕組みをしたまま由依の『覚醒』について説明した。
「完全に『覚醒』してしまうと、最悪、僕達の記憶も無くなってしまうかもしれないんって、ミストスさんが言っていたんだ。本当に記憶が失われてしまうのかも、分からないという事だけど。」
「何よそれ?からかってるの、ミストスっていう天使族は?」
説明を聞いていた遥が、慌てて尋ねる。側でメモを取っていたエドワードが推察しながら提案したのだった。
「う~ん…。どうやら、天界のミストスという天使族にも、由依ちゃんの事はあまり分かっていないという事だね。おそらく、卵で生まれた由依ちゃんの様なケースは、天界にも無いか、ほとんど知られていないか、という事を意味していそうだ。私自身も聞いた事はないから。医師としてはそんな気がするよ。ただ、気になるのは『覚醒』という言葉だ。ひょっとしたら、過去に何例かの例があって、記憶を失ってしまうケースがあったのかも。だとしたら、少しでも早く再開できるにこした事無いな…。」
エドワードやシェリルの顔を見ながら、遥が考え込む。
「来週まで準備をしたいと思っていたところだけど、そうもいかないわね。かといって、何も準備せずすぐに出発して天界で迷子になってしまうのも意味がないわ。」
イラスト:hata_hataさん
「2日後に出発しよう。今の状況では、天界の情報を入手しても、現在の天界と違う可能性もあるし。天界で情報を入手しながら進む方が無難な気がするよ。」
「危険ですが、今はその案で行く方が良さそうですわ。由依ちゃんをなるべく早く見つけ出しましょう。」
リコも賛同する。シェリルが執事のオーランドに指示をする。
「出発までに、主人とオーランドに天界の情報を調べてもらいましょう。お願いね、オーランド。」
「かしこまりました。奥様。すぐに我々は魔界へ戻って、出来るだけ手を尽くしてみましょう。」
了承して頭を下げると、早速、オーランドは遥の家のデバイスを使って、魔界の遥の父であるダリル・ディオールへ連絡を取る手はずにかかった。短期間で効率よく天界についての少ない情報を収集するために、シェリル達が魔界へ戻る前にダリルに情報を収集開始した。
「あたしも、一旦、魔界へ帰って、天界へ乗り込む準備をして2日後に戻ってくるわ。」
遥は、龍助にそう言うと、エドワードは朱里に話しかける。
「私はここに残って、サバイバルでの医療に役立ちそうな情報をジュリアさんにお教えしましょう。あなたはモードチェンジの時に属性が変化するみたいで、水属性の属性もお持ちの様なので、回復系にも向いているかもしれませんし。2日だとあまり時間がありませんが…。」
「エドワード先生、お願いします。」
龍助は、リラとしばらくの間の食料を調達する話を始める。
「リラと僕はしばらくの間の食料等を用意しよう。乾パンなんかも。」
「おう。でも、できればなるべく美味しいのがいいなぁ。」
リラが食べ物を想像してつぶやくと、龍助が苦笑いをしながらリラに言う。
「ハイキングへ行くのと違うから、どうしても保存食的な物がメインになるよ。それに持って行ける量も限られるから、向こうで何か調達できると良いんだけど…。海があるんだったら、魚とか釣れるのかな?天界の住民は何を食べているのかな?」
龍助の問いに朱里が頭をかしげながら答える。
「行ってみないと分からないけど、天界の町で食料を入手できるように何か交換する物を用意しないといけないかも。魔界や人間界のお金は持って行っても使えなさそうだしね。」
すると、それを聞いてたシェリルが朱里にウィンクをしながら言う。
「金銭面は、私に任してね。クリスタル等をハルカリに持たせるから安心して。」
遥がシェリルに感謝して抱き付く。
「さすが、ママ。ありがとう!」
「遥ちゃんのママ。本当にありがとうございます。良かったね。龍助君、リラ?」
朱里が頭を下げてお礼を言って龍助達に言うと、龍助も頭を下げる。リラもぺこりとシェリルに頭を下げると、シェリルは小さくうなずいた。
龍助達が天界へ由依を探しに行く事が決まり、各自が着々と役割分担して忙しく準備を始めている姿を光はただ見つめているしか出来なかった。
「俺、邪魔しても悪いからとりあえず家に帰るわ。もし何か俺に出来る事があったら電話かメールしてくれよ。」
「うん、ありがとう。」
光は忙しくしている龍助達に一言言って部屋を出た。龍助達も自分の事で手一杯だったのもあるが、朱里達の様に魔力を持たない光が天界へ一緒行って彼を危険に巻き込む訳にもいかないので、光に遠慮気味に手を振った。
夕方を過ぎて夜になっており、辺りはすっかり暗くなっていた。空に星は輝いていたが、月は見えなかった。
光が遥のマンションのエントランスを出ようとした時、リコが小さい翼で飛んで来る。リコは光の様子が気になって、追いかけて来たのだった。
「ちょっと待ってください、光様…。」
リコの声に気づき、光が振り返ると少し悔しそうなのを隠す様にため息をつく。
「お、俺は、足手まといになってしまうから、龍助達が朱里を魔界へ取り戻しに行った時みたいに大人しくお留守番かな。ちぇっつ。やっぱり役立たずは良い子に待っているに限るよな。由依ちゃんが見つかるのを祈って人間界で待ってるよ。一色や龍助達を頼むよ、リコ…。」
光はそう言い残すと、リコの前から去ってエントランスのドアが静かに閉じた。
「……。あの方の力になってあげたいのに…。こんな姿の私には黙って見送る事しかできないのでしょうか…。」
寂しそうに光が去って行った方向を見つめながら、リコが額を小さな手で触る。
「ふぅ…。これも運命なのでしょうか…?ディアブロ様…。私はどうしたら良いのでしょうか?由依ちゃんの『覚醒』の事,天界の動き,そしてセルの企て…。どうか運命に立ち向かう遥様達にご加護を……。」
魔界にいるディアブロ王を思い描きながら、リコは小さくつぶやいたのだった。
イラスト:hata_hataさん
ちょうど涼がそれを見つめながら、バイクで海岸線を走っていた。
「只今、偵察から戻りました。何か、人間界で動きが慌ただしくなっている様です。」
バイクの側に黒い影が飛んで来る。それは、涼の持つ第二の『L.D.C.』のクリスタルに宿る召喚獣のデニーだった。
デニーは普段、エンファントモードで子供の黒表の姿にフォームチェンジしているが、別のフォームにフォームチェンジするとその姿に翼が生えて飛行することが出来る。そして、勿論、成獣フォームにフォームチェンジして戦う事も出来る。
偵察を行う際には、翼の生えた姿で辺りの様子を上空からチェックしていたのだった。
ウィンカーを出して涼がバイクを路肩に停める。そして、ヘルメットを取った。
「御苦労だったな。セルの気配が最近感じられなくなっているが、朱里の連れていた由依の魔力も感じなくなったな。それに、天界のミストスもか…。」
「セルは異世界へ移動した様には考え難いです。まだ傷が癒えていないと思われますし、人間界へ潜伏しているのが、あの者にとって一番安全でしょうから。そういえば、アル・レインの魔力も微かに感じる時があるのですが、まるで人間界でいう幽霊の様ですね。セルの罠にかかって抹消されたという噂ですが、あまりに大きな爆発でほとんど跡形もなく粉々で、アルの右腕の一部と思われる物が発見されたようですが、実際のところどうなのかは分からないそうです。いずれにしても、魔法陣の跡等からも、あの事故はセルの企てに間違いなさそうです。」
空の星々を眺めている涼に頭をかしげながらデニーが言うと、涼もうなずく。
イラスト:hata_hataさん
「信じる…ですか。」
デニーが光包まれてフォームチェンジして、エンファントモードにフォームチェンジして涼の足に体をすり寄せる。
「それから、セルの一味と思われる者がどうやらこの街をうろちょろしている。強化された魔獣やキメラではなく、魔族だ。」
「涼様がおっしゃっていた方ですね。魔界の兵士をしていた事のあるフィーですね。」
涼を見上げながらデニーが言うと、涼はうなずいた。
「あぁ。あいつに間違いない。俺の昔の同僚だった。何か思う事があってかなり前に退役したはずだが…。まさか、姿をくらまして人間界へ来ているとはな。それも、セルの一味として…。何故なんだ…。フィー…。」
空の星に向かって涼がつぶやいたのだった。
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- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
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■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
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■Episode 005:
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■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
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■Episode 015:
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■Episode 016:
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■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
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♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
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[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
白鳥由依(ローブ姿)
イラスト:hata_hataさん