Episode 014
信じる強さ(後編)
music:[flower's song]
前回までの『L.D.C.』
同じ頃、龍助の仲間であるトレジャーハンターのアルが警備兵を振り切って、魔界研究所の方へ魔界の不穏な動きを暴くべく潜入開始するのだが...。
宮殿への入り口の扉を開けて、中の様子を伺い、警備兵がいないことを確認したら龍助たちは宮殿へ入り、扉を閉じた。アルが調べた警備兵が少ない時間に潜入したとはいえ、予想外のアイテムの不発によって、アルが囮になって宮殿の外へ兵士達をひきつけてくれたお陰もある。
「大きな広間だね。右側の階段を登って更に右側の奥へ行くわよ。」
遥がロッドを取り出し構えて言う。龍助がリラの剣を構えてうなずく。
「よし、行こう。」
なるべく見つかりにくいように、壁沿いを走りながら、階段のそばまで来て、階段を一気に駆け上がる。
外の警備兵がアルを取り逃がしたようで、慌てて連絡を入れ、急遽、兵士が警備へ出てきた。二階の階段上の脇の仏像の物陰に隠れつつ、兵士達が行き過ぎるのを見て、二階奥への通路を用心しながら進んで行った。
その頃、アルは、宮殿の外へ出て城下町の西にある第一研究所の近くにいた。
「アイテムが不発とは、予想外な展開だが、警備兵の注意をひきつけられたから良しとするか。後は、龍助たちを信じるしかない。それに、俺は、魔界の異変を調べなくてはいけないしな。ちょうど良い。これも、運命なのか。それとも、天界にいるという神のお導きか?」
第一研究所へ潜入する。アルの武器である鞭を使って、あっという間に屋根に上り研究所の空いている二階の窓から潜入する。
「ちっ。こうも簡単に潜入できるとは、もっとセキュリティーを万全にしておかないとマズイんじゃないのか?それとも、俺をおびき寄せるための罠だったりしてな。」
小さく苦笑いをして、アルが研究室の一室から出て、廊下を進む。以前、アルがまだ『レジェンド』だった頃、シーズ博士の護衛を兼ねて研究を手伝っていたことがあった。その時に研究員として通っていたので、内部には詳しい。
資料室へ入り様々な研究についての報告書を閲覧し、部屋の端にある端末を使って、気になった研究について更に調べようとする。
「お、パスワードがかかってやがる。ちゃんとパスワード解読用の道具も持ってきているんだよ。」
鞄の中から、端末へアクセスできるようにするパスワード解析用の道具を取り出す。しかし、接続しても動かない。
「なんと、俺としたことが。電池を用意するのを忘れていた。こうなったら、駄目もとで…。」
端末のID入力にシーズ博士の[seeds]と入力する。つまり、シーズ博士のIDで調べようと考えたわけだ。そして迷わず、パスワードを入力する。
「[J][e][a][n][n][e]っと。きっとあの博士のことだから、例えクローンだったとしても愛娘の名前をパスワードにしているに違いない。で、どうだ。」
エンターキーを押すと、パスワードがOKになって、端末の画面がOPENになった。
「な?ほら、ジャンヌ。やっぱり、お前は博士に娘としてちゃんと愛されているんだよ。それにしても博士の親馬鹿め。あの人らしいなぁ。それから、博士ごめんな。勝手にIDで潜入しちゃって。でも、博士のIDが一番アクセスしやすいから。なんたってシーズ博士といえばディアブロ王立研究所最高責任者だから、情報へのアクセス制限が無いから。さてと、始めますか。」
アルは独り言をしゃべりながら腕まくりのポーズをした。
端末から、次々と情報を集める。クローンの研究やbreak throughの研究の進展度、また禁忌とされるその他の研究について。しかし、特に不穏な動きが無い。禁忌の情報の隣にある人事の情報を調べる。すると、1件だけ博士のIDでさえ閲覧できない情報があった。
「これは?なんかきな臭いなぁ。こんなブロックなんて、俺様にかかればちょちょいのちょい、さ。」
プログラムを解析してブロックを解除する。そのファイルを見ると、セルフィーヌ(Selfenu)に関するものだった。アルがトレジャーハンターを始めて古文書で何度か目にした事のある名前だった。
「セルフィーヌって伝説の魔物かなんかじゃないのか?そんなもの存在しないだろう。それよりも、この研究をやっている奴が、何かの企みでどうやらbreak throughを耐性の無い奴にまで無理に備え付けたり、永久凍土にある第二研究所で更に研究を進めているようだな。そいつが黒幕か?今、第二研究所の所長って…?こいつか。セル(sel)。」
「それは、私ですよ。」
アルのすぐ後ろから声がする。
「しまった。うっ。」
セルという研究員が魔法の槍でアルの左胸を貫いた。
「馬鹿め。研究をかぎまわらなければ命を失わずに済んだものを。お前も、クローン研究で生み出された研究体だろうに。何を勘違いしたのか、俺達クローンの世の中を築くためにあの方がお力沿いをして下さるのだから、大人しく待っていれば良かったのにな。生まれで後悔して、ここで消滅させられて更に後悔するがよい。」
「そうなのか。聞~いちゃった、聞いちゃった。先生に言うたろう。」
「何?こ、これは、分身の道具か?」
セルの目の前にいたアルが透明になっていき、消えた。
「そうさ、また、遺跡に独りでトレジャーハントしても人数が必要なトラップをクリアするために昨日買っておいたんだが、思ったよりも早く使うことになっちまった。」
物陰からアルが鞭をチェーンにbreak throughさせて出てくる。
慌てて、セルが研究所の警報装置を鳴らそうとするが、アルが解除済みだった。セルの周りに風の結界が発動して取り囲む。
「ここには結界を張っておいた。お前は、もう逃げられない。諦めて大人しくしていろ。ディアブロ様へ突き出してやる。お前の言うとおり、俺もジャンヌと同じクローン実験で生まれてきたが、列記とした魔族だ。お前のような裏切り者とは違う。それに、今は生まれてきたことに後悔はしていない。大切な仲間もいるし、彼らや俺の育った魔界を守るための優れた力を与えられたんだからな。」
セルの周りを歩き回りながらアルが話す。
「確かにクローンは完璧ではない。魔族と比べると寿命も短いといわれている。でもな?そのクローンより寿命の短い人間が一生懸命生きているんだ。俺達クローンだって、生まれで差別されて、やけっぱちになって甘えていられないんだよ。だって、生きることを許されたんだから。生まれて来れなかった奴らの分まで精一杯生きるんだ。」
「くそっ。アル・レインめ。せっかく我々の時代のために準備をしていたのに。しかし、甘いな。」
携帯型の通信機を使って警報を鳴らす。すると、すぐにJ.が現れる。
「お、お前は。アルじゃないか!」
J.が大鎌を瞬時に取り出し構える。
「勘違いするなよ。ジャンヌ。俺は味方だ。」
「何を言っている。そこにいる奴はシーズ博士のIDで機密情報を盗もうとしていたのだぞ。それに、こいつは南龍助に加担している反逆者だ。すぐに捕まえろ。いや、大変危険な奴だ。構わん、早く消滅させてしまえ。」
「確かに、ここへ潜入して博士のIDを使用したのは悪かったが、これは魔界の不穏な動きを探るためだ。お前の父上を守ることになるんだぞ。ディアブロ様に誓う。俺は魔界への反逆の意志で動いているわけではない。信じてくれ。俺が守りたいもののために出来ることをしているんだ。」
アルがJ.に真剣に訴える。しかし、J.がアルに向かって飛び掛かった。
「所詮、『レジェンド』を辞めた時点で、お前は腑抜けの反逆者だ。消滅しろ!」
大鎌をチェーンで絡めとって受け止めて、アルがJ.の動きを封じようとする。
「馬鹿め。クローン同士で戦うとは。所詮、お前らは戦う道具に過ぎないんだ。」
「何!アルも私と同じクローンなのか?」
「あぁ。男前で、頭脳明晰で若くして上級魔族の作戦部の一級戦術家まで登りつめた『レジェンド』のA.を名乗ることを許される素質。俺は魂の遺伝子操作のようなものをされた強化されたクローンだからな。昔、シーズ博士の下で研究所を手伝ううちに、ある時、自分がクローンと知ったんだ。その時、俺は生きることを止めようかと思った。戦うための道具として生まれてきたのなら、自分がいなくなれば傷つけられる奴も少なくなるんではないかと。」
じりじりとアルが押されていく。魔力ではアルよりもJ.の方が上回っている。
「だがな。そんな俺にシーズ博士は優しく諭してくれたんだ。クローン実験の目的は話してくださらなかったけれど、俺は今生きているんだと。運命に生きることを許されているんだと。そして、敵を倒すために戦うのではなく、自分にとって大切なものを守るために力を与えられているのだと。」
J.が、はっとして、少し後ろに跳んで距離を置く。アルがチェーンを巻き取り構える。
「そして、俺を除隊させてくれたんだ。ちょうど博士と遺跡の発掘で色々と動いていたので、俺は、今ある敵の命を奪うのではなく、誰にも認知されず失われようとしている遺跡を発掘してやることで蘇らせてやろうと。そして魔界のトレジャーハンターを選んだんだ。時々、発掘したお宝をシーズ博士に届けて買い取ってもらったりしていたんだ。」
アルが全てをJ.に明かした時、アルの結界を破ったセルが杖を取り出し、杖を振りかざしてJ.もろとも消滅の魔法で消し去ろうとした。
「アル。クローンの世界にしようというあの方の秘密を知ってしまった以上、お前達は跡形も無く消え去れ!」
「何?魔法が発動しない…。何故だ?」
セルが慌てふためく。
「何故だろうな。俺が、結界を張ったって言っただろう。そして、結界は一つだけとは俺は言っていないぞ。お前を取り押さえていたのは軽い風防御魔法の結界で、それ以外にもこの部屋のあちらこちらにトラップを仕掛けてレベルの高い魔法効果が発動しない様にもしておいたんだ。もうお芝居は、いいぞジャンヌ。」
アルがウィンクする。J.が振り返り鎌をセルへ向けて構える。
「いつから、お前は敵だったんだ?」
「この部屋に来て、アルが信じてくれ、と言った言葉を信じてみようと思った時からだ。しかし、そもそも、魔界にとってセルが反逆者で、私はその反逆者が自白するのを待っていただけだ。もともとお前は味方ではない。」
「私がお前にbreak throughできるように武器を改良してやったじゃないか!その恩を忘れたのか?」
セルがJ.に追い詰められて叫ぶ。
「無理なbreak throughは禁止するようにシーズ博士と俺とで決めたんだ。まぁ、記録にはシーズ博士が決めたことになっているが。それを、お前はむちゃくちゃしやがって。」
アルがセルへ向かって説教をする。J.がセルを取り押さえて、結界で動けないようにした。
「信じてくれて、thank youな。さすがジャンヌ。」
J.へアルが握手の手を差し出すが、彼女は応えない。
「勘違いするな。お前も逮捕する。」
「え?ちょっと待ってよ。俺は反逆者じゃないでしょ?分かっているだろう?」
少し微笑みながらアルに言う。
「例え何があろうとも、ここへ潜入してシーズ博士のIDで機密事項へアクセスした罪は重いのも分かっているだろう?お前を捕らえて、後でシーズ博士やディアブロ様の御判断に委ねる。それが、私の任務だ。今回は、私の勝ちだな。」
「そ、そんなぁ~。」
龍助達は宮殿の二階の通路を東へ向かって進んでいた。敵の兵の気配がしたので、すぐ近くの部屋へ飛び込む。
そこには小さな少女がソファーに独りで座っていた。
「あ、ごめんね。僕達は怪しい者じゃないんだ。大切な仲間に思いを伝えに来ただけなんだ。」
龍助が脅かさないようにと優しく話しかける。
「そ、そうよ。お姉さん達は、ちょっと、部屋を間違っただけなの。」
遥も龍助と同様ににっこり微笑んでみせる。
「そうなの?」
「可愛いね。僕は龍助っていうんだ。彼女は遥ちゃん。」
「私はシャロンだよ。お兄ちゃん達、ひょっとして、ジュリアお姉ちゃんに会いに来たの?」
「え、そ、そうだよ。」
「じゃぁ、こっちにおいでよ。」
シャロンが龍助と遥の手を引っ張って、窓際のテラスへ連れて行く。
「あそこに、ジュリアお姉ちゃんがいるよ。いつも寂しそうに外を眺めていたりするよ。ほら。」
少女が指を指した方向を龍助と遥が見る。そこには、朱里の捕らえられている部屋の窓が見え、そこから朱里が見えたのだった。
「じゅ、じゅ、朱里…。」
「龍助君なの…。本当に?」
二階のテラスと三階の朱里のいる部屋とは距離的には数十メートルだが、厳重な結界が張っており、遥の力では解くことができず、やはり、宮殿内の階段と通路を通っていくしかなかった。
龍助は、朱里の顔を突然見ることが出来て、何を言ったら良いのかも分からず、ただひたすら彼女を見つめていた。そして、朱里も涙を流しつつ同じように見つめていた。
「朱里、待ってなさいよ。今、行くから。」
遥が声をかけ、龍助も無言でうなずく。
「シャロンちゃんありがとうね。リラの好物のキャンディーをアルから貰ったんだけど、これをあげる。美味しいよ。」
龍助が、シャロンに黄緑系のライム色をしたキャンディーを一つあげると、うれしそうに口に入れた。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
「じゃぁ、行くね。」
「またね。お兄ちゃんとお姉ちゃん。バイバイ。」
手を振って龍助と遥が扉の外の様子を伺い、人気が無いことを確認して部屋を出る。
「朱里を見つけたわ。」
「僕は、あんまりしゃべれなかった。」
「それにしても危なかったわね。あんな所に何で小さな女の子がいるのかしら。」
「きっと王族か貴族のお子様なんだよ。」
「キャンディーで大人しくしてくれていると良いんだけど。」
「リラも朱里に会えてよかったね。まぁ、剣のフォームのままだったけど。キャンディーは別のをまた今度あげるから元気出してね。」
リラからは返事が無かった。
「何よ。キャンディーのことでがっかりしているのか、朱里に会えて感慨にふけっているのか、どっちか分からないけど。まだ助けた訳じゃないんだからね。それに、厳重な結界を外す方法も考えなくちゃいけないんだし。」
龍助と遥は、突き当りの二階の大広間へ続く薄暗い通路のような部屋へ入った。
一度、足を止めて、深呼吸をする。すると、暗闇の中から、影が現れ、集まり魔獣となった。
「敵がおいでなすったわ。あたしの魔法ですぐに押さえ込む!」
遥がすぐにロッドを大きく振りかざし、氷の攻撃魔法を放った。しかし、それらは魔獣の吐く炎によってかき消された。氷属性の魔法と火属性の魔法は火属性の方がワンランク上の魔法効果とほぼ同じ攻撃効果になる。
「あたしよりも弱いのに。属性ってこういうメリット,デメリットがあるのよね。」
「落ち着いて遥ちゃん。僕が行ってみる。」
龍助がリラの剣を両手で持って一振りした。すると、オーラが魔獣にあたって魔獣は4つに分裂した。
「あ、あんた、数を増やしてどうするのよ。」
「ご、ごめん。」
魔獣がプニプニと数回伸縮運動をした後、一斉に龍助たちへ向かって飛んで来た。遥がすぐに氷系の防御呪文を唱えて、氷の壁を張るが、魔獣は炎を吐き、結界を溶かして飛び込んできた。
とっさに、龍助が叫ぶ。
「リラ、フォームチェンジして。re-write!」
すると、一本の剣だった姿から、長剣と短剣の二本の剣へとフォームチェンジして、それぞれの剣で二匹を跳ね除ける。遥もリコの盾を大きく振りかざして、残りの二匹とも払いのけた。
「危ないわね。でも、ここを通らないと朱里の元へは辿り着かないし。それにしてもこの場所は狭いから、逃げ場が無いわ。」
「そうだね。」
龍助が二本の剣を構えつつ遥の前に立つ。
「ここは落ち着いて、アルだったらどういう戦術をするのか考えよう。」
「地の利的には互角だけど、この部屋は狭いのよね。あまり長々戦っていると、他の兵士達に見つかってしまうわ。もたもたもしていられない。」
焦る遥の頬に汗が流れる。
「あの魔獣は影が集合していたよね。」
龍助が呟く。
「そして、火属性者。と、いうことは氷属性に強くて水属性に弱いんだよ。」
「そんなこと龍助に言われなくたって分かっているわよ。だったら何よ?」
「だったら、僕に考えがある。アルと出会った時に洞窟の遺跡へ入るためにペンライトみたいなものを貰ったでしょう?持っている?」
「あるわよ。」
遥がアルから渡されていたペンライトを取り出す。
「それから、水筒の水を用意して。」
龍助がペンライトのスイッチを入れて魔獣のそばへ投げると、魔獣は怯えるように離れた。そこへ龍助が水筒の水を振りまく。すると、魔獣はナメクジに塩をまいたように小さくなっていった。
「やっぱり、この水にも水属性の魔法効果があるんだ。そして、この魔獣は影からできているみたいだから、光によっても力を弱めることが出来るんだよ。」
遥がペンライトを魔獣に向けて投げると、魔獣は炎を吐いてペンライトを消滅させようとしたが、弱っていたために、その軽い爆発で吹き飛んで四匹とも分裂して十六匹になった。しかし、同時に魔力も十六分の一になり、遥があっさりと部屋全体に氷属性の結界を張って、押さえ込んだ。
「今回は、龍助の知恵のお陰だね。」
「いや、アルの今までの戦い方を参考にしただけなんだよ。彼は魔法だけでなくて、道具も使って臨機応変に状況判断していたから。でも、ペンライトは一つ駄目にしちゃったね。さぁ、行こう。確か、地図によるとこの先の大広間の階段を登ると朱里が捕らえられている部屋のある棟へ通じているはずだから。」
龍助たちが、先へ進もうとしたその時、隣の部屋に大きな魔力を感じた。龍助が着けているディオール家の宝具である指輪に紋章が浮かびあがる。
「こ、これは、R.よ、龍助。逃げないと。あたし達では敵わないわ。」
「いや、僕は、朱里を助けるんだ。そのためには、前に進む。もう、逃げたりしたくない。」
「何を考えてるの?作戦を練り直さないと。アルだって、きっとそう言うわよ。」
龍助をなだめようと遥が必死で説得する。しかし、龍助は歩き出す。
「行っちゃ駄目~!!」
と、言いつつ、遥が龍助の腕にしがみついて止める。そして遥が龍助の胸に飛び込んだ。龍助の身体が震えているのが分かった。
「ありがとう。かっこ悪いよね。本当は、すごく怖いんだ。ね、ブルブル震えてるし。でも、僕の心が、ここで逃げたらいけないって言っているんだ。」
「龍助…。だって、消滅しちゃったら、もう会えないじゃないの。」
遥が震えている龍助の胸の中で泣き崩れて涙を流す。
「そうだね。でも、僕は行くよ。その間に、遥ちゃんは安全なところへ逃げて。遥ちゃんのお父さんやお母さんに約束したんだ。遥ちゃんを守るって。でも、涼さん相手に僕は君を守れないかもしれない。だから、君だけでも。」
龍助が遥の頭を優しくなぜる。
「嫌よ。あたしは、あんた達を守るって言ったでしょう。リコと一緒に、リラも龍助も。そして、朱里を奪い返して、一緒に帰るって言ったのは、あんたでしょう?龍助?だから、あたしはあんたから離れないから。もう、ディクセンオールの町に入る前の様に龍助を失いそうな気持ちを味わいたくないの。」
「遥ちゃん…。」
リコが心の声で優しく話しかけてくる。
「ご主人様。龍助様を信じましょう。そして、リコとご主人様で、龍助様とリラの戦いをバックアップしてあげましょう。私達は大切なものを守るためであれば強くなれます。」
「リコ…。」
「そ、そうだぞ。おいら、ちょっとビビッているけど、龍助と一緒に修行してきたんだ。遥達を守ってやる。リコも守りたいんだ。なぁ、龍助、みんなで行こう!」
「リコもリラも遥ちゃんも、ありがとう。僕は本当に素敵な仲間に恵まれたよ。」
龍助が心から感謝しながら遥を見つめる。その瞳に映る龍助の決意を改めて感じ、遥も心を決める。
「わ、分かったわ。そのかわり、龍助、絶対、負けては駄目よ。生き残って。アルが言っていたでしょう。生き残った者が…。」
「強いんだ。」
みんなでかみ締めるように口にする。涙を遥が拭き、龍助が遥に手を差出し、遥は手を取って立ち上がる。そして、龍助達は隣の大広間の扉を開いたのだった。
「大きな広間だね。右側の階段を登って更に右側の奥へ行くわよ。」
遥がロッドを取り出し構えて言う。龍助がリラの剣を構えてうなずく。
「よし、行こう。」
なるべく見つかりにくいように、壁沿いを走りながら、階段のそばまで来て、階段を一気に駆け上がる。
外の警備兵がアルを取り逃がしたようで、慌てて連絡を入れ、急遽、兵士が警備へ出てきた。二階の階段上の脇の仏像の物陰に隠れつつ、兵士達が行き過ぎるのを見て、二階奥への通路を用心しながら進んで行った。
その頃、アルは、宮殿の外へ出て城下町の西にある第一研究所の近くにいた。
「アイテムが不発とは、予想外な展開だが、警備兵の注意をひきつけられたから良しとするか。後は、龍助たちを信じるしかない。それに、俺は、魔界の異変を調べなくてはいけないしな。ちょうど良い。これも、運命なのか。それとも、天界にいるという神のお導きか?」
第一研究所へ潜入する。アルの武器である鞭を使って、あっという間に屋根に上り研究所の空いている二階の窓から潜入する。
「ちっ。こうも簡単に潜入できるとは、もっとセキュリティーを万全にしておかないとマズイんじゃないのか?それとも、俺をおびき寄せるための罠だったりしてな。」
小さく苦笑いをして、アルが研究室の一室から出て、廊下を進む。以前、アルがまだ『レジェンド』だった頃、シーズ博士の護衛を兼ねて研究を手伝っていたことがあった。その時に研究員として通っていたので、内部には詳しい。
資料室へ入り様々な研究についての報告書を閲覧し、部屋の端にある端末を使って、気になった研究について更に調べようとする。
「お、パスワードがかかってやがる。ちゃんとパスワード解読用の道具も持ってきているんだよ。」
鞄の中から、端末へアクセスできるようにするパスワード解析用の道具を取り出す。しかし、接続しても動かない。
「なんと、俺としたことが。電池を用意するのを忘れていた。こうなったら、駄目もとで…。」
端末のID入力にシーズ博士の[seeds]と入力する。つまり、シーズ博士のIDで調べようと考えたわけだ。そして迷わず、パスワードを入力する。
「[J][e][a][n][n][e]っと。きっとあの博士のことだから、例えクローンだったとしても愛娘の名前をパスワードにしているに違いない。で、どうだ。」
エンターキーを押すと、パスワードがOKになって、端末の画面がOPENになった。
「な?ほら、ジャンヌ。やっぱり、お前は博士に娘としてちゃんと愛されているんだよ。それにしても博士の親馬鹿め。あの人らしいなぁ。それから、博士ごめんな。勝手にIDで潜入しちゃって。でも、博士のIDが一番アクセスしやすいから。なんたってシーズ博士といえばディアブロ王立研究所最高責任者だから、情報へのアクセス制限が無いから。さてと、始めますか。」
アルは独り言をしゃべりながら腕まくりのポーズをした。
端末から、次々と情報を集める。クローンの研究やbreak throughの研究の進展度、また禁忌とされるその他の研究について。しかし、特に不穏な動きが無い。禁忌の情報の隣にある人事の情報を調べる。すると、1件だけ博士のIDでさえ閲覧できない情報があった。
「これは?なんかきな臭いなぁ。こんなブロックなんて、俺様にかかればちょちょいのちょい、さ。」
プログラムを解析してブロックを解除する。そのファイルを見ると、セルフィーヌ(Selfenu)に関するものだった。アルがトレジャーハンターを始めて古文書で何度か目にした事のある名前だった。
「セルフィーヌって伝説の魔物かなんかじゃないのか?そんなもの存在しないだろう。それよりも、この研究をやっている奴が、何かの企みでどうやらbreak throughを耐性の無い奴にまで無理に備え付けたり、永久凍土にある第二研究所で更に研究を進めているようだな。そいつが黒幕か?今、第二研究所の所長って…?こいつか。セル(sel)。」
「それは、私ですよ。」
アルのすぐ後ろから声がする。
「しまった。うっ。」
セルという研究員が魔法の槍でアルの左胸を貫いた。
「馬鹿め。研究をかぎまわらなければ命を失わずに済んだものを。お前も、クローン研究で生み出された研究体だろうに。何を勘違いしたのか、俺達クローンの世の中を築くためにあの方がお力沿いをして下さるのだから、大人しく待っていれば良かったのにな。生まれで後悔して、ここで消滅させられて更に後悔するがよい。」
「そうなのか。聞~いちゃった、聞いちゃった。先生に言うたろう。」
「何?こ、これは、分身の道具か?」
セルの目の前にいたアルが透明になっていき、消えた。
「そうさ、また、遺跡に独りでトレジャーハントしても人数が必要なトラップをクリアするために昨日買っておいたんだが、思ったよりも早く使うことになっちまった。」
物陰からアルが鞭をチェーンにbreak throughさせて出てくる。
慌てて、セルが研究所の警報装置を鳴らそうとするが、アルが解除済みだった。セルの周りに風の結界が発動して取り囲む。
「ここには結界を張っておいた。お前は、もう逃げられない。諦めて大人しくしていろ。ディアブロ様へ突き出してやる。お前の言うとおり、俺もジャンヌと同じクローン実験で生まれてきたが、列記とした魔族だ。お前のような裏切り者とは違う。それに、今は生まれてきたことに後悔はしていない。大切な仲間もいるし、彼らや俺の育った魔界を守るための優れた力を与えられたんだからな。」
セルの周りを歩き回りながらアルが話す。
「確かにクローンは完璧ではない。魔族と比べると寿命も短いといわれている。でもな?そのクローンより寿命の短い人間が一生懸命生きているんだ。俺達クローンだって、生まれで差別されて、やけっぱちになって甘えていられないんだよ。だって、生きることを許されたんだから。生まれて来れなかった奴らの分まで精一杯生きるんだ。」
「くそっ。アル・レインめ。せっかく我々の時代のために準備をしていたのに。しかし、甘いな。」
携帯型の通信機を使って警報を鳴らす。すると、すぐにJ.が現れる。
「お、お前は。アルじゃないか!」
J.が大鎌を瞬時に取り出し構える。
「勘違いするなよ。ジャンヌ。俺は味方だ。」
「何を言っている。そこにいる奴はシーズ博士のIDで機密情報を盗もうとしていたのだぞ。それに、こいつは南龍助に加担している反逆者だ。すぐに捕まえろ。いや、大変危険な奴だ。構わん、早く消滅させてしまえ。」
「確かに、ここへ潜入して博士のIDを使用したのは悪かったが、これは魔界の不穏な動きを探るためだ。お前の父上を守ることになるんだぞ。ディアブロ様に誓う。俺は魔界への反逆の意志で動いているわけではない。信じてくれ。俺が守りたいもののために出来ることをしているんだ。」
アルがJ.に真剣に訴える。しかし、J.がアルに向かって飛び掛かった。
「所詮、『レジェンド』を辞めた時点で、お前は腑抜けの反逆者だ。消滅しろ!」
大鎌をチェーンで絡めとって受け止めて、アルがJ.の動きを封じようとする。
「馬鹿め。クローン同士で戦うとは。所詮、お前らは戦う道具に過ぎないんだ。」
「何!アルも私と同じクローンなのか?」
「あぁ。男前で、頭脳明晰で若くして上級魔族の作戦部の一級戦術家まで登りつめた『レジェンド』のA.を名乗ることを許される素質。俺は魂の遺伝子操作のようなものをされた強化されたクローンだからな。昔、シーズ博士の下で研究所を手伝ううちに、ある時、自分がクローンと知ったんだ。その時、俺は生きることを止めようかと思った。戦うための道具として生まれてきたのなら、自分がいなくなれば傷つけられる奴も少なくなるんではないかと。」
じりじりとアルが押されていく。魔力ではアルよりもJ.の方が上回っている。
「だがな。そんな俺にシーズ博士は優しく諭してくれたんだ。クローン実験の目的は話してくださらなかったけれど、俺は今生きているんだと。運命に生きることを許されているんだと。そして、敵を倒すために戦うのではなく、自分にとって大切なものを守るために力を与えられているのだと。」
J.が、はっとして、少し後ろに跳んで距離を置く。アルがチェーンを巻き取り構える。
「そして、俺を除隊させてくれたんだ。ちょうど博士と遺跡の発掘で色々と動いていたので、俺は、今ある敵の命を奪うのではなく、誰にも認知されず失われようとしている遺跡を発掘してやることで蘇らせてやろうと。そして魔界のトレジャーハンターを選んだんだ。時々、発掘したお宝をシーズ博士に届けて買い取ってもらったりしていたんだ。」
アルが全てをJ.に明かした時、アルの結界を破ったセルが杖を取り出し、杖を振りかざしてJ.もろとも消滅の魔法で消し去ろうとした。
「アル。クローンの世界にしようというあの方の秘密を知ってしまった以上、お前達は跡形も無く消え去れ!」
「何?魔法が発動しない…。何故だ?」
セルが慌てふためく。
「何故だろうな。俺が、結界を張ったって言っただろう。そして、結界は一つだけとは俺は言っていないぞ。お前を取り押さえていたのは軽い風防御魔法の結界で、それ以外にもこの部屋のあちらこちらにトラップを仕掛けてレベルの高い魔法効果が発動しない様にもしておいたんだ。もうお芝居は、いいぞジャンヌ。」
アルがウィンクする。J.が振り返り鎌をセルへ向けて構える。
「いつから、お前は敵だったんだ?」
「この部屋に来て、アルが信じてくれ、と言った言葉を信じてみようと思った時からだ。しかし、そもそも、魔界にとってセルが反逆者で、私はその反逆者が自白するのを待っていただけだ。もともとお前は味方ではない。」
「私がお前にbreak throughできるように武器を改良してやったじゃないか!その恩を忘れたのか?」
セルがJ.に追い詰められて叫ぶ。
「無理なbreak throughは禁止するようにシーズ博士と俺とで決めたんだ。まぁ、記録にはシーズ博士が決めたことになっているが。それを、お前はむちゃくちゃしやがって。」
アルがセルへ向かって説教をする。J.がセルを取り押さえて、結界で動けないようにした。
「信じてくれて、thank youな。さすがジャンヌ。」
J.へアルが握手の手を差し出すが、彼女は応えない。
「勘違いするな。お前も逮捕する。」
「え?ちょっと待ってよ。俺は反逆者じゃないでしょ?分かっているだろう?」
少し微笑みながらアルに言う。
「例え何があろうとも、ここへ潜入してシーズ博士のIDで機密事項へアクセスした罪は重いのも分かっているだろう?お前を捕らえて、後でシーズ博士やディアブロ様の御判断に委ねる。それが、私の任務だ。今回は、私の勝ちだな。」
「そ、そんなぁ~。」
龍助達は宮殿の二階の通路を東へ向かって進んでいた。敵の兵の気配がしたので、すぐ近くの部屋へ飛び込む。
そこには小さな少女がソファーに独りで座っていた。
イラスト:hata_hataさん
龍助が脅かさないようにと優しく話しかける。
「そ、そうよ。お姉さん達は、ちょっと、部屋を間違っただけなの。」
遥も龍助と同様ににっこり微笑んでみせる。
「そうなの?」
「可愛いね。僕は龍助っていうんだ。彼女は遥ちゃん。」
「私はシャロンだよ。お兄ちゃん達、ひょっとして、ジュリアお姉ちゃんに会いに来たの?」
「え、そ、そうだよ。」
「じゃぁ、こっちにおいでよ。」
シャロンが龍助と遥の手を引っ張って、窓際のテラスへ連れて行く。
「あそこに、ジュリアお姉ちゃんがいるよ。いつも寂しそうに外を眺めていたりするよ。ほら。」
少女が指を指した方向を龍助と遥が見る。そこには、朱里の捕らえられている部屋の窓が見え、そこから朱里が見えたのだった。
「じゅ、じゅ、朱里…。」
「龍助君なの…。本当に?」
二階のテラスと三階の朱里のいる部屋とは距離的には数十メートルだが、厳重な結界が張っており、遥の力では解くことができず、やはり、宮殿内の階段と通路を通っていくしかなかった。
龍助は、朱里の顔を突然見ることが出来て、何を言ったら良いのかも分からず、ただひたすら彼女を見つめていた。そして、朱里も涙を流しつつ同じように見つめていた。
「朱里、待ってなさいよ。今、行くから。」
遥が声をかけ、龍助も無言でうなずく。
「シャロンちゃんありがとうね。リラの好物のキャンディーをアルから貰ったんだけど、これをあげる。美味しいよ。」
龍助が、シャロンに黄緑系のライム色をしたキャンディーを一つあげると、うれしそうに口に入れた。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
「じゃぁ、行くね。」
「またね。お兄ちゃんとお姉ちゃん。バイバイ。」
手を振って龍助と遥が扉の外の様子を伺い、人気が無いことを確認して部屋を出る。
「朱里を見つけたわ。」
「僕は、あんまりしゃべれなかった。」
「それにしても危なかったわね。あんな所に何で小さな女の子がいるのかしら。」
「きっと王族か貴族のお子様なんだよ。」
「キャンディーで大人しくしてくれていると良いんだけど。」
「リラも朱里に会えてよかったね。まぁ、剣のフォームのままだったけど。キャンディーは別のをまた今度あげるから元気出してね。」
リラからは返事が無かった。
「何よ。キャンディーのことでがっかりしているのか、朱里に会えて感慨にふけっているのか、どっちか分からないけど。まだ助けた訳じゃないんだからね。それに、厳重な結界を外す方法も考えなくちゃいけないんだし。」
龍助と遥は、突き当りの二階の大広間へ続く薄暗い通路のような部屋へ入った。
一度、足を止めて、深呼吸をする。すると、暗闇の中から、影が現れ、集まり魔獣となった。
イラスト:hata_hataさん
遥がすぐにロッドを大きく振りかざし、氷の攻撃魔法を放った。しかし、それらは魔獣の吐く炎によってかき消された。氷属性の魔法と火属性の魔法は火属性の方がワンランク上の魔法効果とほぼ同じ攻撃効果になる。
「あたしよりも弱いのに。属性ってこういうメリット,デメリットがあるのよね。」
「落ち着いて遥ちゃん。僕が行ってみる。」
龍助がリラの剣を両手で持って一振りした。すると、オーラが魔獣にあたって魔獣は4つに分裂した。
「あ、あんた、数を増やしてどうするのよ。」
「ご、ごめん。」
魔獣がプニプニと数回伸縮運動をした後、一斉に龍助たちへ向かって飛んで来た。遥がすぐに氷系の防御呪文を唱えて、氷の壁を張るが、魔獣は炎を吐き、結界を溶かして飛び込んできた。
とっさに、龍助が叫ぶ。
「リラ、フォームチェンジして。re-write!」
すると、一本の剣だった姿から、長剣と短剣の二本の剣へとフォームチェンジして、それぞれの剣で二匹を跳ね除ける。遥もリコの盾を大きく振りかざして、残りの二匹とも払いのけた。
「危ないわね。でも、ここを通らないと朱里の元へは辿り着かないし。それにしてもこの場所は狭いから、逃げ場が無いわ。」
「そうだね。」
龍助が二本の剣を構えつつ遥の前に立つ。
「ここは落ち着いて、アルだったらどういう戦術をするのか考えよう。」
「地の利的には互角だけど、この部屋は狭いのよね。あまり長々戦っていると、他の兵士達に見つかってしまうわ。もたもたもしていられない。」
焦る遥の頬に汗が流れる。
「あの魔獣は影が集合していたよね。」
龍助が呟く。
「そして、火属性者。と、いうことは氷属性に強くて水属性に弱いんだよ。」
「そんなこと龍助に言われなくたって分かっているわよ。だったら何よ?」
「だったら、僕に考えがある。アルと出会った時に洞窟の遺跡へ入るためにペンライトみたいなものを貰ったでしょう?持っている?」
「あるわよ。」
遥がアルから渡されていたペンライトを取り出す。
「それから、水筒の水を用意して。」
龍助がペンライトのスイッチを入れて魔獣のそばへ投げると、魔獣は怯えるように離れた。そこへ龍助が水筒の水を振りまく。すると、魔獣はナメクジに塩をまいたように小さくなっていった。
「やっぱり、この水にも水属性の魔法効果があるんだ。そして、この魔獣は影からできているみたいだから、光によっても力を弱めることが出来るんだよ。」
遥がペンライトを魔獣に向けて投げると、魔獣は炎を吐いてペンライトを消滅させようとしたが、弱っていたために、その軽い爆発で吹き飛んで四匹とも分裂して十六匹になった。しかし、同時に魔力も十六分の一になり、遥があっさりと部屋全体に氷属性の結界を張って、押さえ込んだ。
「今回は、龍助の知恵のお陰だね。」
「いや、アルの今までの戦い方を参考にしただけなんだよ。彼は魔法だけでなくて、道具も使って臨機応変に状況判断していたから。でも、ペンライトは一つ駄目にしちゃったね。さぁ、行こう。確か、地図によるとこの先の大広間の階段を登ると朱里が捕らえられている部屋のある棟へ通じているはずだから。」
龍助たちが、先へ進もうとしたその時、隣の部屋に大きな魔力を感じた。龍助が着けているディオール家の宝具である指輪に紋章が浮かびあがる。
「こ、これは、R.よ、龍助。逃げないと。あたし達では敵わないわ。」
「いや、僕は、朱里を助けるんだ。そのためには、前に進む。もう、逃げたりしたくない。」
「何を考えてるの?作戦を練り直さないと。アルだって、きっとそう言うわよ。」
龍助をなだめようと遥が必死で説得する。しかし、龍助は歩き出す。
「行っちゃ駄目~!!」
と、言いつつ、遥が龍助の腕にしがみついて止める。そして遥が龍助の胸に飛び込んだ。龍助の身体が震えているのが分かった。
「ありがとう。かっこ悪いよね。本当は、すごく怖いんだ。ね、ブルブル震えてるし。でも、僕の心が、ここで逃げたらいけないって言っているんだ。」
「龍助…。だって、消滅しちゃったら、もう会えないじゃないの。」
遥が震えている龍助の胸の中で泣き崩れて涙を流す。
「そうだね。でも、僕は行くよ。その間に、遥ちゃんは安全なところへ逃げて。遥ちゃんのお父さんやお母さんに約束したんだ。遥ちゃんを守るって。でも、涼さん相手に僕は君を守れないかもしれない。だから、君だけでも。」
龍助が遥の頭を優しくなぜる。
「嫌よ。あたしは、あんた達を守るって言ったでしょう。リコと一緒に、リラも龍助も。そして、朱里を奪い返して、一緒に帰るって言ったのは、あんたでしょう?龍助?だから、あたしはあんたから離れないから。もう、ディクセンオールの町に入る前の様に龍助を失いそうな気持ちを味わいたくないの。」
「遥ちゃん…。」
リコが心の声で優しく話しかけてくる。
「ご主人様。龍助様を信じましょう。そして、リコとご主人様で、龍助様とリラの戦いをバックアップしてあげましょう。私達は大切なものを守るためであれば強くなれます。」
「リコ…。」
「そ、そうだぞ。おいら、ちょっとビビッているけど、龍助と一緒に修行してきたんだ。遥達を守ってやる。リコも守りたいんだ。なぁ、龍助、みんなで行こう!」
「リコもリラも遥ちゃんも、ありがとう。僕は本当に素敵な仲間に恵まれたよ。」
龍助が心から感謝しながら遥を見つめる。その瞳に映る龍助の決意を改めて感じ、遥も心を決める。
「わ、分かったわ。そのかわり、龍助、絶対、負けては駄目よ。生き残って。アルが言っていたでしょう。生き残った者が…。」
「強いんだ。」
みんなでかみ締めるように口にする。涙を遥が拭き、龍助が遥に手を差出し、遥は手を取って立ち上がる。そして、龍助達は隣の大広間の扉を開いたのだった。
to be continued...
- 世界
- 属性
- 魔方陣
- 情報
- 宝具[L.D.C.]
- Espoir01
- Espoir02
- Espoir03
- Espoir04
- Espoir05
- Espoir06
イラスト:hata_hataさん
■Episode 001:
♪:[blue]
■Episode 002:
♪:[light pink -I love you.-]
■Episode 003:
♪:[nu.ku.mo.ri.]
■Episode 004:
♪:[real]
■Episode 005:
♪:[color]
■Episode 006:
♪:[my wings]
■Episode 007:
♪:[I'll be there soon.(すぐ行くよ)]
■Episode 008:
♪:[promise]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 009:
♪:[Dancing in the night!]
■Episode 010:
♪:[月影の唄]
■Episode 011:
♪:[Burning Love]
■Episode 012:
♪:[ETERNITY]
■Episode 013:
♪:[ときめき]
■Episode 014:
♪:[flower's song]
■Episode 015:
♪:[baby baby]
■Episode 016:
♪:[your breath]
イラスト:hata_hataさん
■Episode 017:
♪:[ドキ×2]
■Episode 018:
♪:[let it go!!]
■Episode 019:
♪:[N]
■Episode 020:
♪:[tears in love]
♪:[destiny]
■Episode 021:
♪:[Touch to your heart!]
♪:[you and me]
■Episode 022:
♪:[Happy Happy Love]
■Episode 023:
♪:[INFINITY]
■Episode 024:
♪:[さぁ、行くよ! \(@^▽^@)/♪]
■Episode 025:
♪:[pain]
イラスト:hata_hataさん
"CD作品のtopページLink"
”CD作品のご予約ページLink”
"音楽配信Link-11"
[interrupt feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
[above feat.神威がくぽ] shin
[HEAVENLY feat.神威がくぽ] shin
[initiative feat.神威がくぽ] shin
[Breaker feat.神威がくぽ] shin
[Come on! feat.神威がくぽ] shin
[departure feat.神威がくぽ] shin
[Lock on feat.神威がくぽ] shin
[monologue feat.神威がくぽ] shin
[reduction feat.神威がくぽ] shin
[voice feat.神威がくぽ] shin
音楽配信:VOCALOTRACKS
VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)
リコ(ドラゴンの姿ver.)
イラスト:hata_hataさん