Episode 001
boy meets girl

music:[blue]


 Boy meets girl.
 少年は少女に出会うことになる。そして少年は彼女に恋をし、彼女も彼に恋をする…。
 
「それじゃ、行くよ。誰にも気づかれていないよね?」
「ねぇ、ジュリア…。やっぱり、人間界に行くのはよそうよ。ディアブロ様にも怒られるよ。きっと。」
 ジュリアと呼ばれた少女はクスッと微笑みながら優しくささやいた。
「私一人でも大丈夫よ。あら、リラはもう怖くなっちゃったかしら?」
「お、そんなこと無いぞ。誰に言っているんだ。おいらは偉大なるドラゴンだぞ。」
「はいはい。小さくて可愛いけどね。しっかり肩につかまっていてよ。今から『世界の穴』の『perte mondiale』に飛び込むよ。」
「う、わぁ、ちょ、ちょっと心の準備が!あれ~~~。」
 ドラゴンを肩に乗せた少女は勢いよくperte mondialeに飛び込んだ。リラの悲鳴がこだます。明るく笑顔の似合う彼女は、今、夢に向かって新たな冒険へ旅立った。
 
 Boy meets girl.
 少年は少女に出会って、新たな世界の扉を開くことになる。
 
 
 春の日差しが心地よい校舎の屋上で、少年は仰向けになって広がる青い空に流れる雲を眺めていた。その耳にある携帯音楽プレイヤーのイヤフォンから明るく爽やかな音楽が流れている。
 彼の名前は、南 龍助(みなみ りゅうすけ)。高校に通いながら、ただ過ぎていく毎日に身を任せていた。特にとりえがあるわけでもないのだが「何か変えたい。でも、何を変えたらよいのかも分からない。」という気持ちで、何か心の奥に引っかかるものがあった。 
 いつも、昼休みにはこうやって空を眺めて「何か面白いことでも起こらないか」と、昼食のパンを片手にぼーっとしていた。
「お、やっぱりここにいたか。龍助、いつもと変わらずチョココロネとコーヒー牛乳か。俺は奮発してカレーパンとメロンパンとアイスコーヒーだぜ。もう一個カレーパンがあるから食うか?」
「いいよ。光が食べなよ。好物だろう?」
 そう言いながら、食べかけのチョココロネを口に入れて、龍助は起き上がった。
 光と呼ばれた少年は、佐伯 光(さいき ひかる)。大人しい感じの龍助とは違って、光は少し金髪で髪を逆立てた感じの髪型でクールな感じだが、クラスは違うものの幼馴染なので、こうやっていつも龍助のことを気にかけていた。
「お前なぁ。何かを待っていても一歩進まないと何も始まらないぞ。受身でなくて、龍助が何をしたいか。部活でも入れよ。お前、バスケ好きだっただろう?」
「あぁ、考えておくよ。光はテニス部だよね?楽しい?」
「まぁな。一年はなかなか活躍できないけど。レギュラー目指して今出来ることはやっておかないと。おう、そうだった。昼の間に部室に用事があったんだ。あ、わりぃ。ちょっくら行ってくる。」
 光はカレーパンの袋を一つ置き忘れたまま慌てて屋上を後にした。
 
 後に残った龍助は、光が置き忘れていったカレーパンに気が付いた。後で届けてあげようと、手に取ったその瞬間、何かの胸騒ぎがした。
「何だろう。この胸の高鳴りは。」
 一瞬、周りが青い光で輝いたかと思うと、何かがどさっと、彼の上に落ちてきた。
「きゃぁ。」
 気が付くと龍助の上に少女が覆いかぶさっていた。何が起こったのか分からず龍助は動揺していたが、目の前にあるピンクの髪の彼女の可愛い顔をしばらく見つめてしまい、その柔らかい感触に、はっと、我に返った。
「君、大丈夫?怪我していない?」

イラスト:hata_hataさん


「久々だったから着地に失敗しちゃったみたい。え、私の姿が見えるの?」
「ああ、見えるよ。おかしなことを言う子だな。というか、まずは起き上がれるかな?」
 少し照れながら、龍助は少女をゆっくりと抱き起こした。
「ごめんなさい。おかしいなぁ。人間には見えないはずなんだけど。」
「ここの学園の子じゃないよね。転校生なのかな?ちょっと変わった服装だね。」
「助けてくれてありがとう。私、ジュリ…、麻宮 朱里(あさみや じゅり)っていうの。」
「麻宮さんか。よろしく。僕は南龍助。」
 龍助の名前を耳にして、朱里と名乗る少女はドキッとした表情になった。
「龍助君なの?本当に?」
「?」
 朱里は龍助に顔を近づけてまじまじと見つめると、すごく無邪気な笑顔で龍助に飛びついた。
「やっぱり龍助君だ!逢いたかった。」
 龍助は突然の朱里の行動にびっくりして、抱きしめられたままなすすべもなく、慌てながら言った。
「ちょっと、待ってよ。僕は麻宮さんとは初対面だよ。誰かと勘違いしていない?」
「あ、そうね。そうだった。うれしくって思わず。私ったら。初対面だったよね。でも、逢いたかったよ。」
 可愛く微笑みながら彼女は、頭を傾げる龍助から離れて服を調えた。彼女からは龍助にとってなんだか懐かしい香りがした。なぜそう思ったのかは分からなかったが、とても甘い優しく癒される感じの気分になった。
 
「そうだ!リラは何処だろう?リラ~?リラ~?何処にいるの?」
 少し離れた物陰から声がした。
「ジュリア…。痛いよ。ちゃんと着地してくれないと。」
「ごめんね。リラ。途中で、何か感じたから、避けたんだけど、それでバランス崩しちゃったみたい。何だったのかしら。それにしても、リラも無事でよかった。」
 そう言いながら、朱里は物陰に近寄って、ぬいぐるみのようなものを抱きしめて、その後、肩に乗せて龍助のところへ戻ってきた。
「何かのおもちゃ?最近のおもちゃってすごいなぁ、リアルなぬいぐるみだね。」
 朱里の肩に乗っているリラの頭をなでようとしたとたん、龍助の手をリラはパクっと軽く噛んだ。
「馬鹿にするなよ。おもちゃでもないし、おいらはドラゴンだ!どうだ、びっくりしたか?」
「面白いぬいぐるみだね。しゃべるぬいぐるみなのか。僕、こんなの初めて。すごいなぁ。」
「ジュリア…。こいつ嫌い…。」
 
 小さい翼をパタパタさせながらリラが朱里に泣きついた。朱里はリラの頭をなぜてあげながら、龍助にウインクして話した。

イラスト:hata_hataさん


「よしよし。この子はドラゴンなの。小さくて可愛いけど。」
「え、ドラゴン?その小さいぬいぐるみが?えー。嘘。」
 龍助が驚く。ドラゴンといわれても小さくてぬいぐるみのように丸く太った感じで、よくイラストなどで描かれるような、いわゆる偉大なドラゴンとはかなり姿も違う。
「嘘じゃない!よく覚えておけ、そこの人間。おいらはドラゴンだ。それから、ジュリアが言うのは許すが、お前が小さい小さい言うな。」
「まぁまぁ。リラも、ジュリアじゃなくて、ここでは麻宮朱里。そう教えておいたでしょう?」
「お、いけねぇ。そうだった。ジュリア…じゃなくて朱里。どうする?こいつ、おいら達が見えるぞ。何でだ。まだ適応魔法を使ってないのに。」
「よく分からないけど龍助君は特別なんだよ。人間でも稀に適応魔法を使わなくても私たちの姿を見ることが出来ることがあるって、前に言ったでしょう?でも、どうしよう。このままだと掟によって秘密を知ったものは記憶を消されるか、存在を消されてしまうんだよね。」
「何を言っているの?というか、ドラゴンや魔法や掟って。記憶を消されるとか、存在を消されるとか、なんなの君たちは?」
「う、うん。説明するのが難しいんだけど。私たち、魔界から来たの。よろしくね。龍助君。」
 
 boy meets girl。
 少年は少女に出会って、今、二人の物語は始まった。
 
 
 龍助は朱里とリラに、魔界から何かの目的で人間界へやってきたことを説明された。どうやら、この世界には、龍助の住む人間界以外にも、異世界が存在するらしい。魔界や天界などが存在して、『perte mondiale』という世界の穴同士を『passage』という通路でつないで行き来できる。
 魔界に住む住民を魔族と呼び、天界にいる住民を神族や天使族と呼び、人間界の住民を人間と呼んで、区別している。朱里は魔族らしいが、彼女は天界へ行ったことが無いので、まだ神族を直接見たことは無いらしい。魔界はディアブロ王という絶大なる魔力を持つ王様が治めている。朱里のような一般の魔族はあうことも許されないとのことだ。
 通常、朱里のように異世界に住む住民は人間には見えないので、異世界の住民が人間界へ来た時には適応魔法を使って、魔力を少し封じて人間にも見えるようにする。龍助のように適応魔法無しでも稀に異世界の住民を見ることが出来る人間もいるようだが、原則として、人間界の混乱を避けるために異世界のことを知った人間は異世界の使者によって知識を消されるか、存在を消される。
 
 ひとまず、朱里は適応魔法を使って人間界で活動できるようになった。適応魔法をかけることで、朱里はモードチェンジをして服も人間界の物になっていた。髪の色がピンクから明るい茶色に変化していたが、これは彼女特有の性質らしく、魔力を抑えることで髪の色が変化するらしい。なぜか分からないのだが、稀に朱里のような魔界の住民もいるそうだ。
 リラは人間に気づかれないように朱里のお気に入りのぬいぐるみという役回りを演じることになった。リラは嫌がったが、朱里がリラの喉の辺りを優しくなでてあげながらお願いしたら、しぶしぶ納得した。
 また、龍助の両親に魔法をかけて、朱里を龍助の親戚ということにして、龍助の家から龍助の高校へ通うことで、カモフラージュすることにした。カモフラージュしているのは、魔界の許可が無い状態で朱里とリラが人間界へやってきたからだそうだ。そして、龍助が彼らのことを知っていることも口止めされた。朱里たちを匿うことで、「龍助は記憶を消されることもなく、姿が消えることも無いだろう。多分…。」とリラが頼りなく説明した。
 一度にいろんなことがおきて、龍助はかなり困惑していたが、朱里の笑顔を見つめると、不思議なことに安らいでいた。
 
 
 翌朝、ふと、素敵な歌声で龍助は目覚めた。その声は朱里のものだった。その綺麗で明るい歌声は、窓の外から聞こえてくる。曲は、昨日、龍助が聞いていた[blue]という楽曲だった。
 
「今出来ること 探そうよ あきらめずに
これから 僕らは夢を追いかけよう」
 

イラスト:hata_hataさん

 龍助はベッドから起き上がって2階の部屋の窓から外を眺めると、テラスに朱里の姿があった。朝日を浴びて歌う彼女の姿はまるで女神のように美しく、その歌声にしばし聞き入っていた。
 
「心の翼を広げて 強く羽ばたけ
体中に もっと光感じたい
青く輝いた広がる空の下
僕ら 生きているから」
 
 
 朱里の姿を見つめながら、龍助は彼女の胸元にぶら下がっている、羽がついたペンダントの中央の部分にある宝石に目をやった。朱里にとって、とても大切なものらしく、『L'aile du coeur(心の翼)』と昨日、龍助がたずねたら教えてくれた。略して『L.D.C.』と呼ぶらしい。あの時には、中央の宝石は一つも光っていなかった気がしたが、アナログ時計でいうと12時のところの宝石が今は青く光っていた。まるで、歌の[blue]の歌詞にある青い色のように。
 
 龍助の視線に朱里が気づいた。
「あら、龍助君。おはようございます。」
「あ、おはよう。麻宮さん。歌がとても上手なんだね。」
「ありがとう。歌って素敵だよね。人を元気にしたり、癒したり、励ましたり、素直に気持ちを表現したりできるから、私は歌が好きなの。」
「そうだね。なんか、麻宮さんの歌を聴いていて、僕も元気になったよ。今まで、毎日、もやもやした気分だったのが晴れて、何か始めてみようかな、って思ったよ。麻宮さんのおかげかな。」
「それは、うれしいなぁ。」
 二人は微笑んだ。のどかな朝の空気に、何処からか鳥のさえずりが聞こえる。
 
「そうそう、昨日貸してもらった携帯音楽プレイヤーを返すね。」
「いや、いいよ。僕は、携帯電話の音楽プレイヤー機能で同じ曲が聞けるから、良かったら貸しておいて上げるよ。」
「本当?この曲好きだったんだ。ありがとう。龍助君って優しいんだね。」
「いや、そんなことはないよ…。」
 龍助が少しうつむいて照れていると、後ろから、プニっとした感触が頭を叩いた。

イラスト:hata_hataさん


「何が、そんなことないよ…、だ。人間!ジュリア…、いや、朱里になれなれしくするな。そんな赤い顔しているやつは、おいらがおしおきをしてやる。」
 そう言うと、リラは龍助の頭の上に乗って、その小さな手で叩いた。しかし、リラの手には肉球が付いていて、ただプニプニするだけで叩いても痛くも無かった。
「リラ、やめなさい。龍助君は何も悪いことをしていないでしょう?」
「分かったよ。今日のところはこれぐらいにしておいてやる。」
 リラは朱里の元へ小さい翼をパタパタしながら飛んでいって、彼女の肩にとまった。
 
「龍助君ごめんね。いけない子ね。リラは。何、焼もち焼いているのよ。」
「え?」
「焼もちなんかじゃないもん。」
 リラは罰が悪そうに朱里の明るい茶色の長い髪に顔を押し当てた。朱里はしょうがないなぁ、という感じでリラを見つめて、視線を龍助に戻して少し大きめな声で話した。
「違うんだって。さぁ、学校へ行こうよ!早く服を着替えて、朝ごはん食べないと。」
「そうだ人間。昨日、食べたカレーなんたら。あれが食べたい。」
「あれは、光のパンだったんだけど…。まぁ、今日、別のを買って返せばよいか。カレーパンはないけど、レトルトでカレーがあるから、母さんに頼んでカレーライスを作ってもらおう。」
「カレー…ライス。お、龍助。頼む。おいら、それが食べてみたい。美味しいか?」
「きっとリラも好きだと思うよ。麻宮さんはどうする?」
「私は、龍助君と同じものでよいわ。」
「じゃぁ、支度をしたらキッチンで。」
「えぇ。後でね。」
 龍助は学校へ行く準備を始めた。いつもは退屈な時間だったが、今日は昨日と違ってとてもワクワクする素敵な一日の始まりだった。
「カレー、カレー、カレー!おっつ。おいらはぬいぐるみを演じなければいけなかったんだ。」
 外からは、リラの独り言と、朱里の明るく優しい笑い声が聞こえてきた。
 
 少し離れたマンションの屋上から彼らを見つめている人影のようなものがあった。
「ここにいたのね。あたしの攻撃魔法を上手くかわして人間界へ着いたみたいだけど、甘いわね。すぐに見つけちゃった。逃がさないわよ…。ジュリア。」
 そう言うと、次の瞬間そこにはもう怪しい人影は無かった。
 
 
to be continued...

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲1曲iTunesほか各配信サイトへ2018年11月21日配信開始!!『がくっぽいど(神威がくぽ) 10th Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

 

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VOCALOTRACKS様にてがくっぽいど曲をiTunesやAmazonほかを含む全 配信サイトにて一般配信中!!『がくっぽいど(神威がくぽ) Anniversary オリジナル楽曲』
(楽曲:shin イラスト:hata_hata様)

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イラスト:hata_hataさん